日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.229

実態把握に基づいた授業づくり

 「子供の実態」は、いつ把握しているのでしょうか。始業式の日に出会った時からすぐに関わりが始まり、指導が始まります。つまり、実態把握とは、先にチェックするものではなく、日々の関わりの中で行っているものなのです。一木先生の言葉を借りれば、「常に軌道修正」しながら「連続性のある実態把握」を行っています。徳永先生からも、実態把握を授業につなげていく時に大切なことを述べていただきました。
 実践報告の4名の先生方には、それぞれ実態把握を生かした授業づくりにおいての工夫を紹介していただきました。それぞれ、特徴のある、でもとても大切な視点が含まれた実践報告だと思います。
 巻頭言で、高橋先生が書いてくださった「子供たちから学ぶ」姿勢をいつまでももちながら、子供にとっても教師にとっても心に残る授業づくりを行っていきたいと改めて思いました。

(尾﨑 美惠子)

 

・巻頭言
障害の重い子供たちの授業をつくるために
高橋 和明
北海道拓北養護学校長

・論説
授業の中で行う実態把握
一木  薫
福岡教育大学特別支援教育講座准教授

実態に関する情報を生かした授業づくり
徳永亜希雄
横浜国立大学教育人間科学部准教授

・実践報告
外部専門家と連携した実態把握と授業づくり
河西  完
山梨県立甲府支援学校教諭

複式グループにおける児童の実態に応じた音楽科の指導と評価の工夫
黒野 裕子
埼玉県立蓮田特別支援学校教諭

児童生徒の認知・コミュニケーションの力を育てる授業づくり
―重度・重複障害児のアセスメントチェックリストを生かして─
柞磨  歩
広島県立福山特別支援学校

重度・重複障害のある子供の国語及び算数の指導実践
―「学習到達度チェックリスト」を活用して─
立岡 里香
長崎県立長崎特別支援学校教諭


・連載講座
障害の重い人の水泳指導(2)
みんなで楽しむ水泳
─いしかわHall'sクラブの〈生涯スポーツへの挑戦〉─
彦坂 明法
石川県立明和特別支援学校教諭
(前石川県立いしかわ特別支援学校教諭)
・講座Q&A
自己研修

・感覚・運動を育てるための基礎知識 5
感覚・運動面の発達が果たす役割とつまずきの理解
川上 康則
東京都立青山特別支援学校主任教諭
・ちょっといい話 私の工夫
医療的ケアを必要とする生徒の学級担任になって
後藤 宏和
大分県立臼杵支援学校教諭
・特別支援教育の動向
「第62回全国肢体不自由教育研究協議会京都大会」の報告
山田 定宏
第62回全国肢体不自由教育研究協議会京都大会実行委員長
京都府立向日が丘支援学校長

 
・読者の声
 
生徒たちの「well-being」をめざして
橋 美由紀
石川県立いしかわ特別支援学校教諭


 本校は知肢併置の学校です。私は肢体不自由教育部門高等部に所属し、昨年度から重度・重複障害のある生徒を担当しています。声をかけても視線が合わない生徒にどうやって関わればよいのか、どのように成長していくのか、初めは分からず不安を抱えていました。しかし、本誌や研修で学んだ、発達段階を意識して丁寧に関わることで、こちらの意図的な働きかけに、明らかに声や笑顔で応じてくれるようになりました。「関係が築けた!」と感じることができた時、「もっと関わりたい!」と思うようになりました。そこで、校内や職場実習先で、生徒は「このような関わりを好みます」「このように意志を表出します」と周囲に伝えたところ、生徒の見方が変わり、関わろうとする人が増えました。このように周知することは、この子たちに必要な支援だと考え、高等部では学校研究を通して、重度・重複障害のある生徒の「分かる」「伝える」「楽しむ」方法をまとめた実態把握表を作成し、生徒の姿を共通認識しました。
 「人との関わりの中で生きること」、これは卒業後も変わらない大事な要素です。自分の意志を表し、正しく受け取ってもらうことが、家族以外のコミュニティでもできれば、生徒たちの「well-being」にも繋がります。学校生活から社会へつなぐ学部の担い手として、「いつでも・どこでも・誰とでも」を意識して、意志の表出方法の確立とその周知に励んでいきたいです。


友だちは大事やで

辻 紗矢香
京都府立向日が丘支援学校教諭


 いつも、肢体不自由教育の連載や実践例をクラスの担任間で読み合うなどして、活用させていただいています。
 本校は、京都府立で一番初めにできた特別支援学校(肢体不自由)です。養護学校義務制を期に、知的障害のある子供たちの受け入れを始めて、来年度で50周年を迎えます。現在は、知的障害や自閉性障害のある子供たちが、全体の多くの割合を占めています。
 本校の体育祭では、高等部の生徒と小学部の児童が、ペアで一緒に取り組む「玉入れ」の競技があります。初対面の日は、お互いに緊張している様子が伺え、どう接したらよいのかわからない様子でした。しかし、一緒に練習をする中で、高等部の生徒は自然に小学部の児童の目線の高さに合わせるために座って関わる、玉の渡し方を工夫するなど、自ら接し方を考えて関わってくれるようになってきました。
 また、肢体不自由のある子供たちも、ペアの友達を学校内で見かけると、目で追ったり手を挙げて挨拶をしたりするなど、意識している様子が見られました。競技終了後も、お礼の手紙を書き、渡しに行くなどの関係を続けています。
 この取組を通して、他学部の児童生徒同士が、活動に一緒に取り組むことの大切さを感じました。上級生の子供たちは、下級生の子供たちの見本となり、頑張った経験を通して自信をつけ、下級生は上級生の姿を見て、「高等部になったらやってみたい」と憧れの気持をもっている様子も見られます。
 このことを踏まえ、本校で取り組んでいる小学部・中学部・高等部の縦割りでの研究会を有効活用し、他学部同士がつながりをもてるようにしていけたらと思います。


・図書紹介
・平成28年度総目次
 
■次号予告
■編集後記