日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.183

コミュニケーション評価と指導

 特別支援学校(肢体不自由)では、コミュニケーションは指導の基本であり、主要な課題です。本特集では、特に大切なコミュニケーションの評価について解説し、指導へのてがかりを得られるように企画しました。
 論説では、大伴先生に肢体不自由児に焦点をあてて、コミュニケーション発達と評価及び指導の考え方について論じていただきました。その上で、坂口先生に肢体不自由児のコミュニケーション指導における大きな課題である「障害の重い子供のコミュニケーション指導」について、評価の観点を踏まえて論じていただきました。また、もう一つの重要な課題である「拡大・代替コミュニケーション指導」について評価を踏まえて吉川が論じました。
 そして、これらの課題に取り組んだ実践と、外部機関と連携して指導を展開している実践を紹介しました。
 第175号(授業で伸ばす表現する力)、第170号(ことばを育てる)も併せて参照していただき、日々の実践がより充実するよう、本特集号を生かしていただければ幸いです。

(吉 川 知 夫)
 

・特集
コミュニケーション評価と指導

障害の重い子供のコミュニケーション評価の考え方を踏まえ、さまざまなアプローチによる実践を通して指導の在り方を問い直します。
・巻頭言
コミュニケーションを育てる
三室 秀雄
東京都中部学校経営支援センター支所 学校経営支援担当副参事
・論説
言語・コミュニケーション発達の評価と支援
大伴  潔
東京学芸大学教育実践研究支援センター教授

障害の重い子供のコミュニケーション評価と支援の考え方
坂口しおり
東京都立府中養護学校教諭

拡大・代替コミュニケーションにおける評価と指導の考え方
吉川 知夫
東京都立城南養護学校教諭
・実践報告
障害の重い子供のコミュニケーション指導
―評価表の作成を通して―
菊野 由紀
大阪府立東大阪養護学校教諭

拡大・代替コミュニケーション手段を用いた指導
―発語意欲を高める指導の在り方―
武田 裕一
山形県立ゆきわり養護学校教諭

コミュニケーションを広げるための手段について
―AACコミュニケーション指導プログラムに基づいた取組―
矢挽  泉
千葉県立銚子特別支援学校教諭
・連載講座
肢体不自由教育におけるICFの活用(1)
徳永 亜希雄
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所 企画部 主任研究員
・講座Q&A
手術による入院と教育
・施設紹介
社会福祉法人 三篠会 重症心身障害児施設 ソレイユ川崎
−響きあえる存在をめざして−
江川 文誠
社会福祉法人 三篠会 重症心身障害児施設 ソレイユ川崎 施設長
・上肢操作の基礎知識4
目と手の協調を促す援助
関内 美奈子
彰栄リハビリテーション専門学校専任講師
・ちょっといい話 私の工夫
スイッチで動く車いす
藤田 五郎
香川県立高松養護学校教諭
・医療的ケアの最前線
卒業後の医療的ケアの課題を考える
―地域生活のQOLの向上を目指して―
飯野 順子
元東京都立村山養護学校長
・特別支援教育の動向
沖縄県の特別支援教育の展開と肢体不自由教育
真謝  孝
沖縄県教育庁県立学校教育課 主任指導主事
・キーワード
「発達障害」の定義
 
・図書紹介
『肢体不自由教育シリーズ1 肢体不自由教育の基本とその展開』


『特別支援教育ハンドブック―特殊教育の継承・発展と新たな特別支援教育の創造―』
 
・読者の声
「食べる」ということ
永長 妙子
北海道函館養護学校教諭


 肢体不自由教育に携わり、六年が経ちました。それまで肢体不自由児とかかわる経験のなかった私にとって、常に考えさせられてきたのが「摂食指導」です。初めの二年間は小学部の重度重複障害学級。上唇や下顎の介助の仕方、ミキサーでの二次調理、スープと具を分ける、とろみをつけるなど、覚えることで頭がいっぱいでした。粒がほとんど残らない状態でもむせてしまう子供たちに、おっかなびっくり食べさせる毎日でした。
数年を経て、ある程度の基礎知識は身に付いたものの、摂食指導が生徒たちの将来にどう結びつき、なんのために行うのかイメージができないまま、その重要性を見過ごしていた時期もありました。時には「お母さんとその子の間で、食べられるならいいか。嫌がる介助を無理矢理してまで、食べさせなくてもいいか。」と思ったこともありました。
 しかし、中学部、高等部と年齢が上がるにつれ、加齢に伴い食べる機能が衰えていく子供を目の当たりにし、摂食指導に対する考え方が変わってきました。子供たちが将来にわたって毎日継続して得られる楽しみや喜びの一つである「食べる」ということを学習する場が摂食指導なのだと。
 将来、子供たちが色々なサービスを利用する中で、家族や友だち、支援者の方々と共に、できるだけ長い期間、安全に楽しく食事をとり、より豊かな生活を送ることができるよう、摂食指導が役立って欲しいと願っています。


訪問教育を担当して
高島 敦子
富山県立富山養護学校教諭


 在宅訪問に行った時、小さな手と私の手がタッチして、心のキャッチボールをすることから、就学猶予三年を経たその子の訪問教育が始まりました。子供もお母さんも「先生が来てくれてうれしい」という思いをもってもらいたいと願い、一回一回の訪問教育を積み重ねていきました。一時は、学校との連絡もストレスであると言われたこともありました。それから二年間、子供の笑顔が安心感となり、月一回の訪問が週一回になり、次の担当者に替わることができました。
 一人一人の子供や保護者の求めるもの…それを一つ一つ感じ取り実践していく訪問教育は、学校内・学校外の色々な人とのネットワーク作りがとても大切であると思っていました。
 そんな私にとって、本誌第一七四号の実践報告「家庭から学校へ、そして社会へ」は、訪問教育の果たす役割と卒業後につなげる実践について、とてもわかりやすく書かれていてたいへん参考になりました。
 また、私は平成十九年度より、特別支援教育コーディネーターとなりましたが、コーディネーターとしてどのような支援と連携を具体的に考えて実行していくかについても、深い示唆を与えられました。卒業後の生活を考えるために、地域のケースワーカーと学校が連携し、カンファレンスが行われ、保護者が自宅以外での福祉サービスの活用を考えていくようになっていく過程は、これから私たちも実際に取り組んでいくべきことだと思いました。
 子供と保護者にとって、安心で楽しい生活を実感できるように、他職種の人との連携を進めていきたいと思っています。
 
・トピックス
第32回日本肢体不自由教育研究大会案内   他
 
 
■次号予告
■編集後記