【表紙】 障害者差別解消法ってなに? 障害のある人もない人も チャンス・待遇は平等! 一緒に勉強する、働く、文化活動に参加する 【裏表紙】 日本障害フォーラム(JDF) 日本障害フォーラム(JDF) 全国13の障害者団体・関係団体からなる民間団体です。 2004年の設立以来、障害者権利条約の推進にとりくみ、障害者の差別を禁止する国内法の実現を目指してきました。 日本身体障害者団体連合会  日本盲人会連合   全日本ろうあ連盟  日本障害者協議会  DPI 日本会議  全日本手をつなぐ育成会   全国脊髄損傷者連合会  全国精神保健福祉会連合会   全日本難聴者・中途失聴者団体連合会  全国社会福祉協議会   日本障害者リハビリテーション協会  全国「精神病」者集団   全国盲ろう者協会 2013年発行 日本障害フォーラム  162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 TEL: 03-5292-7628 FAX: 03-5292-7630 www.normanet.ne.jp/~jdf/ イラスト Fumi Naritomi 印刷 株式会社 興栄社 キリン福祉財団、損保ジャパン記念財団、ヤマト福祉財団助成事業 【2ページ】 この冊子をご覧のみなさんへ 日本でも、障害のない人と一緒に勉強したり、働いたり、文化活動に参加するといった社会参加がだいぶ進んできました。しかし、まだ障害者の社会参加をさまたげるたくさんの障壁・バリアがあり、障害者や家族、関係者があきらめてしまう場合も多いことも国などの調査でわかりました。障害のある人もない人も、ともに住みやすい社会が求められます。その社会づくりには、障害に基づく差別を禁止して、平等な機会・チャンス・扱い(待遇)を保障する法律が必要です。  そして、紆余曲折をへて、2013(平成25)年6月19日、ついにみんなの努力と願いが実り、障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が成立しました。  障害者差別解消法は、ガイドラインの作成や広報・啓発などの準備をして、2016年(平成28)年から施行されます。  そこで、私たちJDFでは、この法律を広く知っていただくため、この冊子をつくりました。 【3ページ】 差別を禁止する法律をめぐる世界の動き 2006(平成18)年12月、障害者権利条約が国連でつくられました。障害者のために新しい権利をつくった条約ではなく、障害者が社会の一員として尊厳をもって生活することを目的にしています。そして、条約の原則の一つが、障害に基づく差別をなくすことです。 条約の原則とは: (a) 固有の尊厳、個人の自律(自ら選択する自由を含む。)及び人の自立に対する尊重 (b) 非差別 (c) 社会への完全かつ効果的な参加及びインクルージョン…(e) 機会の平等〔均等〕…(第3条より) 諸外国では 欧米諸国やオーストラリア、韓国など、多くの国ではすでに障害者の日常生活・社会生活を送る上での機会の平等を保障する法律=差別を禁止する法律ができています。 【4ページ】 日本では 〇 障害者権利条約の批准(※)のために、障害者基本法改正、障害者総合支援法の成立など、制度改革が行われてきました。障害者虐待防止法もでき、虐待防止のとりくみも進んでいます。 〇 障害以外の分野では、すでに、男女の雇用分野における機会の平等を確 保する(=差別を禁止する)ために「男女雇用機会均等法」があります。 〇 千葉県をはじめとして、北海道、岩手県、熊本県、さいたま市、八王子 市、長崎県などではすでに障害者の権利に関する条例ができており、障害を理由にした差別を禁止しています。 〇障害者権利条約批准のために差別を禁止する法律が必要です。 〇 2012(平成24)年9月、内閣府の障害者政策委員会のもとに差別禁止部会意見(「部会意見」)がまとまりました。それをもとに、2013(平成25)年6月、国会で障害者差別解消法が成立しました! ※批准とは? 国同士の約束事である条約に入り、守るための手続きのことで、 日本では国会で認めてもらうことが必要となります。 【5ページ】 障害ってなに? 障害者ってどんな人? いま世界は「障害の社会モデル」 これまで「障害」とは、目が見えない、歩けないなど、その人が持っている性質だけから生じると、多くの場合考えられてきました。しかし、それだけでなく、そうした個人の性質のために、働けなかったり、さまざまな活動に参加できなかったりするような社会のしくみ(人々の偏見、建物や制度など)にも問題があり、そのような社会と人とのかかわりから「障害」が生じると考えられています。 また、社会でさまざまな活動をする時に、障害のある人が、障害のない人より不利になることが多くみうけられます。今までは、そうした不利の原因をその人のもつ機能障害のせい、と考えてきました(「障害の医学モデル」の考え方)。しかし、障害者権利条約は、機能障害のことを考えないでつくられた社会のしくみ(社会的障壁)に原因がある、としました。この考え方が「障害の社会モデル」です。この考え方が生まれてから約40年。ついに国際的なルールとなりました。 【6ページ】 社会モデルの考え方は、すでに日本でも障害者基本法の定義に取り入れられています。 障害者基本法 第2条(定義) 1 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 2 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。 【7ページ】 Q 障害者差別解消法って、どんな法律? A この法律は、26の本則の条文と附則からできており、@障害を理由に差別的取扱いや権利侵害をしてはいけない。A社会的障壁をとりのぞくための合理的な配慮をすること。B国は差別や権利侵害を防止するための啓発や知識を広めるためのとりくみを行わなければならないこと、を定めています。 第1章 総則(1条〜5条) ・位置づけ・目的・定義(社会的障壁など)・責務 ほか 第2章 基本方針(6条) ・施策の基本的方向などを政府が策定 第3章 差別解消措置(7条〜13条) ・「不当な差別的取扱い」の禁止「合理的配慮提供」を義務化 (合理的配慮は行政機関には義務、民間事業者には努力義務) 第4章差別解消支援措置(14条〜20条) ・民間事業者にも行政措置(勧告も) ・自治体は、国の機関やエヌピーオー、学識経験者などで構成する差別解消支援のための「協議会」をつくることができる。 第5章 雑則(21条〜24条) 第6章 罰則(25条〜26条) 【8ページ】 Q 差別解消法は基本法4条を具体化する法律? A 障害者基本法第4条では、@差別する行為を禁止し、A社会的バリアをとりのぞくための合理的な配慮をしないと差別になる、と定めています。これを具体的に実現するための法律が差別解消法です。 障害者基本法 第4条(差別の禁止) 1 なんびとも、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。 2 社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現にそんし、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。 3 国は、第一項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集、整理及び提供を行うものとする。 【9ページ】 Q なぜこの法律が必要なの? A だれもが、「差別はいけないこと」と思っていますが、残念ながら差別と思われることがたくさん起きています。そして多くの場合、きちんと解決されずに、結果的に障害のない人との平等な機会などを奪われているのが現状です。だからこそ、障害のない人との平等な機会などの保障(=差別の禁止)のためにも、「何が差別か」をきちんと判断できる「ものさし」として差別からまもるための法律が必要なのです。 Q 障害者を特別扱いする法律なの? A いいえ。障害者権利条約も、各国の差別を禁止する法律も、障害者を優遇したり、新しい権利をつくったりするものではありません。この法律は、憲法や人権条約で保障されている権利を、障害者にも同じように保障するためのものです。 【10ページ】 Q この法律の目的は? A 障害があってもなくても、だれもが分けへだてられず、お互いを尊重して、暮らし、勉強し、働いたりできるように差別を解消して、だれもが安心して暮らせる豊かな共生社会の実現を目的としています。(第1条より) Q この法律で対象となる障害者は? A 障害者基本法第2条と同じく、障害のある人すべての人が対象になります。障害者手帳を持っていなくても対象になります。 【11ページ】 Q この法律が禁止する差別は? A 障害者差別解消法では2種類の差別を禁止しています。2016(平成28)年の施行(実際に法律が有効になること)に向けて、何が差別で何が合理的配慮なのか、それぞれの分野に関係する省庁でガイドラインがつくられます。JDFでは「部会意見」などを参考に、以下の(1)、(2)のように2種類の差別に整理してみました。 (1)不当な差別的取扱い @「見えない」「聞こえない」「歩けない」といった機能障害を理由にして、区別(分けること)や排除、制限をすること (例1)それまで利用していたインターネットカフェが、その人に精神障害があるとわかった途端、店の利用を拒否した。 (例2)聴覚障害のある人が、一人で病院を受診したところ、「筆談のための時間がとれない」との理由で、手話通訳の派遣の依頼もせずに受診を断られた。 A車いすや補装具、補助犬や介助者など、障害に関連することを理由にして、区別や排除、制限をすること (例)補助犬を連れた人が「動物は店に入れることができません」とレストランの入店を拒否された。 ただし、上の@、Aの行為が、だれがみても目的が正当で、かつ、その扱いがやむを得ないときは、差別になりません。 【12ページ】 (2)合理的配慮を行わないこと(合理的配慮の不提供) 障害のある人とない人の平等な機会を確保するために、障害の状態や性別、年齢などを考慮した変更や調整、サービスを提供することを「合理的配慮」と言い、それをしないと差別になります。 ただし、その事業者などにとって大きすぎるお金がかかる場合などは合理的配慮を行わなくても差別になりません。「変更や調整」とは何でしょうか。以下のように整理してみました。 時間や順番、ルールなどを変えること (例1)精神障害がある職員の勤務時間を変更し、ラッシュ時に満員電車を利用せずに通勤できるように対応する。 (例2)知的障害がある人に対して、るびをふったりわかりやすい言葉で書いた資料を提供する。 設備や施設などの形を変えること (例)建物の入口の段差を解消するために、スロープを設置するなど、車いす利用者が容易に建物に入ることができるように対応する。 【13ページ】 補助器具やサービスを提供すること (例1)視覚障害がある職員が仕事で使うパソコンに音声読み上げソフトを導入し、パソコンを使って仕事ができるようにする。 (例2)発達障害者のために、他人の視線などをさえぎる空間を用意する。 Q この法律で差別が禁止されている分野は? A 障害者基本法の第2章に定められているすべての分野です。障害者の日常生活、社会生活をカバーする幅広い分野(防災、情報バリアフリー、司法手続、医療、教育・療育、交通や建物のバリアフリー化、その他)になります。 【14ページ】 Q では、困ったときの問題解決のしくみは? A ○ この法律に基づいて、国と自治体には、差別解消のとりくみが義務づけられました。   ○ 問題を解決するための新しい紛争解決機関はつくらず、今すでにある行政などの相談機関などが使われます。   ○ 国と自治体は、そうしたさまざまな機関の連携のためにあらたに差別の解消を支援するための「障害者差別解消支援地域協議会」を設置することができます。   ○ 「協議会」には、国の機関やエヌピーオーで活動する人、学識経験者などの人たちも入ることができます。また、「協議会」は、相談事例の検討や、その他の機関に協力を依頼することができます。   ○ これらのしくみでどうしても解決しない場合は、裁判所の判断が必要となることもあります。 【15ページ】 これからの課題 障害者差別解消法が施行されるまでの間、また、施行された後も、この法律が国民に理解されて受け入れられるためには、重要な課題があります。そのため、以下のような課題を、みんなで語り合い・検討して、とりくんでいく必要があります。 @ 内閣府がつくる基本方針や各省庁でつくられる差別や合理的配慮のガイドライン は、当事者の声を反映させたものにすること。 A 施行3年目の見直しで合理的配慮義務を事業者に広げること。 B 間接差別などのあらゆる差別が解釈できる差別の定義を置くこと。そして、そのための事例収集をすること。 C 個別分野の規定(各則)を、事例を集め実現させること。 D 紛争解決のしくみを充実させること。部会意見などを参考に、差別解消法独自の機関をつくること。 E 差別をなくすとりくみとして、各自治体で相談や斡旋のしくみなどを持つ、条例づくりを進めること。