<スライド1> JDF全国フォーラム 障害者権利条約の実施に向けて 条約批准から4年−私たちはこう取り組む <キリン福祉財団、住友財団、損保ジャパン日本興亜福祉財団、ヤマト福祉財団助成事業> 特別講演2 中華民国(台湾)における、障害者権利条約の審査について −2020年日本初回審査への教訓という観点から 長瀬修(立命館大学生存学研究センター教授) 2018年1月20日(土)10:30〜16:30 TFTビル東館9階904-905研修室 <スライド2> 概要 ・障害者権利条約の国際的批准・審査状況 ・中華民国(台湾)の独自審査の経緯 ・2020年日本審査への教訓 ・パラレルレポート作成とロビーイング <スライド3> 障害者権利委員会の審査経過と審査予定 ・障害者権利委員会は2011年4月に審査開始 ・昨年9月に終了の第18会期までに61本の審査(配布資料参照) ・日本は現在35番:2020年の審査見込み(配布資料参照) <スライド4> 条約批准数 175 ・国連加盟国で未批准国数21 ・署名国12:ブータン、カメルーン、チャド、アイルランド、キルギス、レバノン、リビア、ソロモン諸島、セントルシア、トンガ、米国、ウズベキスタン ・非署名国9:ボツワナ、赤道ギニア、エリトリア、リヒテンシュタイン、セントクリストファー・ネーヴィス、ソマリア、南スーダン、タジキスタン、東チモール ・193(国連加盟国数)−175(批准数)+3(EU、クック諸島、パレスチナ)=21 <スライド5> 世界人権宣言(1948年国連総会、パリ) ・第二条 ・1 すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。 ・2 さらに、個人の属する国又は地域が独立国であると、信託統治地域であると、非自治地域であると、又は他のなんらかの主権制限の下にあるとを問わず、その国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基づくいかなる差別もしてはならない。 <スライド6> 世界人権宣言 起草委員 ・エレノア・ルーズベルト(米国、委員長) ・ジョン・ハンフリー(カナダ) ・ルネ・カシン(フランス) ・チャールズ・マリク(レバノン) ・張彭春(中華民国) <スライド7> 中華民国(台湾)の政治的位置 ・1895年 日清戦争により、台湾は清から日本へ割譲 ・1912年 建国:臨時総統孫文 ・1931年 満州事変 ・1937年 盧溝橋事件 ・1945年 対日勝利、台湾接収・国連創設メンバー安保理常任国 ・1949年 台湾移転(中国共産党勝利:中華人民共和国成立) ・1950年 朝鮮戦争 ・1952年 日華平和条約 ・1971年 ニクソンショック(訪中予告)、国連脱退 ・1972年 日中国交正常化=中華民国との断交=「中華民国」の不可視化(メディア) ・1979年 米国・台湾関係法成立 ・現在の承認国数は20 <スライド8> 中華民国(台湾)と国際人権条約 ・1948年 世界人権宣言採択 ・1949年 戒厳令布告 ・1987年 戒厳令解除 ・1996年 初の総統民選:李登輝総統 ・2000年 国民党から民進党への政権交代(2000-2008年) ・2007年 女性差別撤廃条約「署名」 ・2009年 女性差別撤廃条約初回報告・審査 <スライド9> 中華民国(台湾)と国際人権条約 ・2009年 自由権規約・社会権規約「批准」国内施行法施行 ・2013年 自由権規約・社会権規約初回審査 ・2014年 障害者権利条約、子どもの権利条約「批准」国内施行法施行      女性差別撤廃条約第2回審査 ・2017年 社会権規約・自由権規約第2回審査      障害者権利条約・子どもの権利条約初回審査 <スライド10> 中華民国政府が独自に招聘した 国際審査委員会メンバー ・アドルフ・ラツカ(スウェーデン) ・マイケル・スタイン(米国) ・ダイアン・リッチラー(カナダ) ・ダイアン・キングストン(英国)(障害者権利委員会元委員(2013−2016)副委員長(2015−2016)) ・長瀬修(日本:委員長) ☆市民社会の推薦を受けた、副総統による委嘱 ☆政治的懸念(中華人民共和国との関係) <スライド11> 台湾審査とパラレルレポートの役割 ・2014年8月 「批准」・障害者権利条約施行法成立 ・2014年12月 同施行法施行(条約が台湾で発効) ・2015年10月 政府内での報告執筆ワークショップ開始 ・2016年2月  ワークショップ終了   ・大規模研修ワークショップ2回   ・小規模部局別ワークショップ56回 ・2016年7月・8月 公開フォーラム開催 <スライド12> 台湾審査とパラレルレポートの役割 ・2016年12月 初回報告(中国語繁体字) ・2017年3月 初回報告(英語) ・2017年4月 パラレルレポート *事前質問事項作成開始(総括所見を念頭に) *国家報告とパラレルレポートがベース *政府報告とパラレポを補足する視点 <スライド13> 台湾審査とパラレルレポートの役割 ・2017年6月 ワークショップ(事前質問事項作成の作業部会に相当) ・2017年7月 事前質問事項策定・送付  *総括所見第1次案作成開始・完成 ・2017年9月 事前質問事項への回答(政府・市民社会)  *総括所見第2次案作成 ・2017年10月30日−11月3日建設的対話実施・総括所見公表  *最終調整→総括所見完成 <スライド14> 障害者権利委員会総括所見作成過程例 (ダイアン・キングストン) 総括所見案イメージ →事前質問事項 総括所見案 →政府・市民社会の回答を受けて修正 →プライベートブリーフィングを受けて修正 →建設的対話を受けて修正・完成 <スライド15> パラレルレポート・ロビーイングイメージ <同じメッセージを丁寧に繰り返す> 総括所見・事前質問事項案(パラレルレポート1) →事前質問事項採択の作業部会でのブリーフィング →事前質問事項への回答(パラレルレポート2) →審査会期でのプライベートブリーフィング →建設的対話中のロビーイング <スライド16> パラレルレポート作成の工程(逆算方式) 障害者政策の課題条約とのリンク →総括所見案(懸念・勧告) →事前質問事項案 <スライド17> 独自審査のデメリット〔通常審査のメリット〕 ・審査を受ける政府自身による専門家の委嘱(選考には障害者組織などの市民社会からの意見が反映された) ・審査事務局が衛生福利部(日本の厚労省)であり、批判を浴びる省庁が事務局を務めている(国内人権機関の欠如) ・委員の数が少ない。障害の多様性の欠如。 ・5名の委員のうち、障害者権利委員会現役委員はゼロで、経験者が1名(英国のダイアン・キングストン)のみ(現役委員には、委員を務めるなというお達し) <スライド18> 独自審査のメリット〔通常審査のデメリット〕 ・建設的対話が3日間 ・台湾審査のみに集中 ・台北での開催により、障害者を含む市民社会の広範な参加可能 ・国家報告作成から迅速な審査 ・4年毎の定期的審査可能 <スライド19> 総括所見 ・障害者権利委員会の総括所見スタイルに従ったもの。 ・全部で85段落、27ページ ・総括所見の和訳は立命館大学生存学創成拠点(Ars.com)、障害福祉保健情報システムや『福祉労働』誌に掲載予定 <スライド20> 肯定的側面 ・7  国際審査委員会は、以下の点を評価する。 ・a)障害者権利条約及びその他の人権条約の国際的審査プロセス自発的に関与する決定。 ・b)障害者の権利に関するキャンペーンを実施し、障害者権利条約に違反する分野を特定し始めて、意識を高めるための初期段階を踏み出していること。 ・c)台北市のMRTのような都市部に物理的なアクセス可能性を提供するための初期の取り組みをおこなっていること。 ・d)障害者の権利に関する条約を実施するための法律、規則及び行政措置の見直しのための標準的な運用手続の確立。 <スライド21> 個人をそのままの状態で保護すること(第17条) ・48. 国際審査委員会は、優生保健法と精神保健法により、障害者の強制的な中絶と不妊・断種手術が認められている点を懸念し、女児・女性障害者、特に知的障害や精神障害の女児・女性への影響に留意する。 ・49. 国際審査委員会は、国家が優生保健法と精神保健法を改正することにより、障害者に対する強制的医療処置を防止し、自由に受け入れられた意思決定と法的代表を含む法的、手続的、社会的保護が設けられるよう勧告する <スライド22> 第17条事前質問事項 ・37 第17条違反を防止するため、優生保健法を改正するために国が策定しようとしている措置を委員会に通知してください。 ・38. 第17条の違反を防止するために、精神保健法の改正のために国が策定しようとする措置について、委員会に通知してください。 <スライド23> 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会(第21条) ・56  国際審査委員会は以下について懸念する。 ・(a)台湾手話とろう文化の促進を通じてろう者の文化的、言語的アイデンティティに対する認識と支援の欠如 ・(b)すべての政府文書および情報、公的および私的なウェブサイト、ニュース放送、緊急事態に関する情報および情報を含む、情報通信技術(ICT)、点字、台湾手話、読みやすいフォーマット、デジタル通信災害情報へのアクセスの欠如 ・(c)障害者権利条約が読みやすい形態と台湾手話に翻訳されていないこと ・(d)特定の生活の様式にいる人が、特定の生活様式の外にいる人と自由にコミュニケーションできていないこと。 ・(e)台湾の手話が早期にろう児に導入されていないこと。 <スライド24> 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会(第21条) ・57  国際審査委員会は国が以下を行うことを勧告する。 ・(a)台湾手話を公用語として認識し、公共サービス分野での台湾手話通訳の専門的な訓練と雇用に十分な資金を配分し、十分な数の台湾手話通訳者を訓練するように設定し、台湾手話を選択言語としてろう学生と聴学生の両方が学ぶことを可能にする学校カリキュラムを提供すること。 ・(b)すべての種類の障害に適したあらゆる形式と技術でのアクセスを促進するために、すべての公的および私的情報および通信へのアクセスに関する法律を施行するために 必要な措置を採択し、講じる。 ・(c)知的障害者と協力して障害者権利条約を読みやすい形式に翻訳し、ろう者社会と協力して台湾手話に翻訳する。 ・(d)特定の生活様式の中にいる障害者は、自分が選択したときに、その特定の生活様式の外の人と自由にコミュニケーションをとることができるようにする。 ・(e)ろう児およびその両親に十分早く台湾手話を導入する。 <スライド25> 第21条事前質問事項 ・45. 障害者が公共、民間のメディア、インターネット、電子情報の情報に完全にアクセスできるようにする政府の計画について説明してください <スライド26> 第1−4条 フォローアップ事項(1年以内に報告) ・22 国際審査委員会は以下を懸念する。 ・(b)国が、合理的配慮を明示的に定義していないことと、合理的配慮の拒否が差別を構成していると法的に定義されていないと事前質問事項への回答で確認している点を懸念する。 ・23 国際審査委員会は、国が以下を行うことを勧告する。 ・(b)平等と無差別に関する第5条について、合理的配慮の欠如を差別と定義する法整備を求め、官民分野での実施を求めた。(第23段落b) ☆日本の障害者差別解消法が合理的配慮の提供を義務付けているのは行政機関のみである <スライド27> 第4条事前質問事項(合理的配慮関連) ・3 合理的配慮の概念と合理的配慮の拒否が差別の一形態であるという認識を含めるために、国の法律や規制を改正するために既に行われた具体的な措置とともに、実際に公的および私的な分野でその適用を確実にするために既に行われた措置を説明してください。 <スライド28> 国内における実施及び監視(第33条) フォローアップ事項 ・国際審査委員会は以下を懸念する。 ・80(c) ・パリ原則に定められたすべての要件に準拠する、国内人権機関または類似機関の独立した監視メカニズムがないこと。 ・国際審査委員会は、以下を勧告する。 ・81(c)パリ原則に規定されたすべての要件に適合する国内人権機関または同様の機関の形で、独立した監視メカニズムを直ちに確立すること、そしてその独立した監視メカニズムは完全に独立し、総統府、監察院、その他の政府機構のいずれの内部にも置かれないこと。 <スライド29> 第33条事前質問事項 ・70. パリ原則に則った国内人権委員会の設立計画について委員会に最新情報を提供してください。 <スライド30> 審査後の動き ・12月2日総括所見の早期実施を要求して障害者組織は総統府前で徹夜 ・12月3日国際障害者デー ・12月27日 政府内での総括所見実施に向けての会議開催 ・2018年1月中 障害者組織との総括所見実施に向けての協議 ・「私たちの審査は国連の正規の枠組みの外で行われたにもかかわらず、正規の枠組みで行われた多くの報告審査よりも影響力を持ちつつあることをうれしく思う」(ある委員の言葉) <スライド31> 中華民国(台湾)審査の特徴 ・唯一の本格的な国連システム外の独自の人権条約審査 ・国際的な枠組みから疎外されている環境の中での積極的な人権に関する取り組み ・報告策定過程の政府の積極的な取り組み(研修、ワークショップ、公開フォーラム) ・民主的空間の下、活発な市民社会と障害者組織の存在と総括所見実施への意欲 ・「その国又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基づくいかなる差別もしてはならない」(世界人権宣言第2条) ・障害者権利条約の実施の一つの形