スライド1 障害者差別解消法 これまでの取組と今後の課題 2015年12月8日 日弁連・障害者差別禁止法特別部会・事務局長 弁護士 黒岩 海映(くろいわ みはえ) スライド2 障害者差別解消法制定までの取組 2001年 第44回日弁連人権擁護大会(奈良) 「障害者差別禁止法の制定を目指して」 2002年 差別禁止法についての特別部会設置。 2007年3月 日弁連「法案概要」の公表 2009年12月 障がい者制度改革推進会議始まる。 日弁連としてバックアップ。 2013年6月 差別解消法成立。 2014年1月 障害者権利条約の批准。 2015年7月 日弁連・差別解消法ガイドライン意見書。 2016年4月 差別解消法施行予定。 スライド3 障害者差別解消法 今後の課題 @民間事業者の合理的配慮の法的義務化 A意思の表明の解釈 B司法における合理的配慮 C紛争解決機能の充実 D差別解消法の広報・周知 スライド4 今後の課題@ 合理的配慮の法的義務化 国の行政機関・地方公共団体等 不当な差別的取扱い 禁止 不当な差別的取扱いが禁止されます。 障害者への合理的配慮 法的義務 障害者に対し、合理的配慮を行わなければなりません。 民間事業者 不当な差別的取扱い 禁止 不当な差別的取扱いが禁止されます。 障害者への合理的配慮 努力義務(※) 障害者に対し、合理的配慮を行うよう努めなければなりません。 ※民間事業者の合理的配慮の法的義務化は,施行後3年の見直しの対象(附則)。 スライド5 今後の課題A 「意思の表明」の解釈 ・「障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の 意思の表明があった場合において」 →合理的配慮を受けるためには,まず,障がいのある人の側が, 「意思の表明」をしなければならない。 ・雇用促進法では,@募集採用段階では,「申出」が必要だが, A採用後の段階では,こうした要件は不要。 ・権利条約にも基本法にもない要件。 ・意思の表明などできない障がいのある人は多数存在するのに, なぜこのような要件が課せられたのか。 スライド6 意思の表明とは ・意思の表明に当たっては、具体的場面において、 社会的障壁の除去に関する配慮(=合理的配慮)を必要としている状況にあることを ・言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、 実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、 ・障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段 (通訳を介するものを含む。)により伝えられる。 スライド7 意思の表明とは ・障がいのある人からの意思表明のみでなく、知的障がいや精神障がい (発達障がいを含む。)等により本人の意思表明が困難な場合には、 障がいのある人の家族、介助者等、 コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含む。 ・本人が意思表明できるのに,そばにいる付添者に話しかけたり 意向確認することにならないか?要注意。 スライド8 意思の表明とは ・「意思の表明が困難な障がいのある人が、家族、介助者等を伴っていない場合など、 意思の表明がない場合であっても、 当該障がいのある人が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、 法の趣旨に鑑みれば、当該障がいのある人に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望ましい。」(基本方針) ・今後,裁判例の中で,意思の表明の柔軟な解釈(黙示の意思表明でよい等)が 行われるように持って行きたい。 スライド9 今後の課題B 司法における合理的配慮 ・検察庁,警察署,保護観察所,刑務所などは差別解消法の対象。 ・司法府は対象外。 ・しかし,裁判所は「人権保障の最後の砦」 ・最終的に訴えた先で手続き上の合理的配慮を受けられなければ, どんな権利も絵に描いた餅。 ・合理的配慮に要する費用は,裁判所が持つべき。 スライド10 今後の課題B 司法における合理的配慮 ・最高裁は「職員対応要領」を作ると言っている。 ・しかし立法により司法府の合理的配慮義務をきちんと定めてほしい。 〈参考〉日弁連 「民事訴訟手続における障がいのある当事者に対する合理的配慮についての意見書」 2013年(平成25年)2月15日 スライド11 今後の課題C 紛争解決機能 ・差別を受けたら,合理的配慮をしてもらえなかったら,どこに相談に行けばいいの? ・→既存の相談窓口に行きなさい,ということになっている。 ・「相談や紛争解決に関しては、例えば行政相談委員による行政相談やあっせん、 法務局・地方法務局・人権擁護委員による人権相談や 人権侵犯事件としての調査救済といった、既存の制度を活用。」 ・法律上,相談・救済の仕組みがない=この法律の最大の欠点 スライド12 障害者差別解消支援地域協議会 ・障がいを理由とする差別に関する相談や紛争の防止、 解決の取組を進めるため、国や地方公共団体の機関が、 それぞれの地域で障害者差別解消支援地域協議会を組織できる。 ・法は,協議会の業務として,相談を直に受けることを定めていないが, 行政機関が協議会に相談対応の機能を付すことは可能であるとされている。 スライド13 障害者差別解消支援地域協議会 ・関係機関から提供された相談事例等について、 適切な相談窓口を有する機関の紹介 ・具体的事案の対応例の共有・協議 ・協議会の構成機関等における調停、斡旋等の様々な取組による紛争解決 ・複数の機関で紛争解決等に対応することへの後押し等 ・都道府県の協議会は、市町村の協議会を補完・支援する役割が期待される。 ・また、様々な事例の共有・分析を通じて、業務改善、発生防止策、 周知・啓発活動に係る協議等を行うことが期待される。 スライド14 障害者差別解消支援地域協議会 ・協議会は要するに,単なるネットワークであって,相談や紛争解決の機関ではない。 ・相談や紛争解決にあたるのは個々の構成機関。 ・「たらい回しにしない」という趣旨はOK。 ・差別を受けた障がいのある人はどこに相談に行けばよいのか? 自治体ごとに明確にする必要。 ・また協議会は,必置ではなく,「組織することができる」機関。 おくかどうかは自由。 ・自治体が設置するよう働きかける必要。 スライド15 各地でできている差別禁止条例に期待 ・2006年の千葉県以来,北海道,岩手,さいたま市,熊本県,八王子市,別府市, 長崎市,京都府,鹿児島県,沖縄県,茨城県,富山県,奈良県,新潟市などで制定済み。・条例の名称は「共に生きる」「暮らしやすい街づくり」等,でも中身は差別禁止条例。・相談員による調整活動,助言あっせんの申立,勧告,公表といった仕組みを持つ。 ・こうした既存の条例と差別解消法や地域支援協議会との関係が問題になる。 スライド16 千葉県条例の紹介 ・障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例 ・2006年10月に成立、2007年7月施行 ・「不利益取扱い」と「合理的な配慮の欠如」を差別として規定 ・広い生活分野をカバー 福祉サービス、医療、商品・サービス、労働者の雇用、教育、建物・交通機関、 不動産の取引、情報の提供等 スライド17 施行後の活動状況 ・県内16人の広域専門指導員と、600人以上の地域相談員が相談にあたる ・差別に関する相談は年間150件程度 ・活動回数1件あたり平均12回 ・あらゆる生活分野であらゆる障がい種別の事案があがっている ・相談活動事例の紹介→ スライド18 @発達に遅れがあり時間外保育を受けられなくなった子ども ・市立保育園で元々時間外保育を受けていたところ、 発達に遅れがあることを指摘され、時間外保育を利用できないと言われた。 ・障がいを理由に保育時間が短くなることは納得できないと相談。 ・障がいのある子に保育士を加配しているが、 それは日中だけで時間外保育にはないという説明。 ・市と保護者で話し合い、可能な範囲で時間外保育を受けられることとなった。 スライド19 A知的障がいある人が職場で軽作業しか与えられず、嫌がらせではないか? ・職場の配置転換で軽作業に回された。嫌がらせではないか?という母親からの相談。 ・職場から事情を聞いたところ、 スピードと正確さを要求される仕事に本人がついていけなかったことがわかった。 ・会社と本人の間で本人が長く働き続けられるようにすることを前提に話し合い、 就労支援機関が本人と会社の支援に関わることになった。 スライド20 B電動車いすの人がバスの乗車を拒否された ・バス運転手に「危ないので1人で乗車しないで」と言われたとの相談。 ・会社に事情を確認した結果、会社が運転手に注意するとともに、 営業所長がバス利用に関する要望を聴き、 全運転手に対して障がい者対応の研修を行うことになった。 スライド21 「差別解消支援センター」の創設を ・虐待防止法上,「虐待防止センター」が定められているように, 差別解消法にも,「差別解消支援センター」が必要! ・虐待を見つけたら,まず虐待防止センターに通報 ・差別かな?と思ったら,まず差別解消支援センターに相談 ・センターが紛争解決の中心を担いつつ, 「地域支援協議会」というネットワークを使って, 他機関との連携・情報共有・役割分担をしていく。 スライド22 今後の課題D 差別解消法の広報・周知 ・差別解消法の認知度を上げていくことが絶対に必要。 ・全国の障がいのある人たちが,差別解消法を活用して, 事例を自治体などに挙げていく。 ・条例などに基づく柔軟な解決手法では解決されない事案は, 訴訟提起により,裁判例を作っていく。