<スライド1> 2022.3.5 シンポジウム「放送の未来とアクセシビリティ」 韓国における放送のアクセシビリティ DPI日本会議 崔 栄繁 <スライド2> 紹介 ◆DPIは1981年に設立、本部はカナダ。国連経済社会理事会の特別諮問NGOの一つ。 ◆日本のDPIは1986年。障害種別をこえて障害当事者が中心になって活動している団体。全国93団体の連合体。完全参加と平等、地域で障害のない人と共に平等に生きることができる社会の実現が目的。 DPI日本会議も国連経済社会理事会で特別諮問NGOとして登録している団体。 ◆8つの部会(地域生活、バリアフリー、インクルーシブ教育、権利擁護、雇用・労働、障害女性、国際協力、尊厳生)に分けて、活動。 ◆生まれ育ちともに神奈川県。早稲田大学法学部卒業後、韓国のソウル大学大学院に留学(国際法専攻)。1999年にDPI権利擁護センターのスタッフとなり、現在はDPI日本会議議長補佐。 ◆担当は障害者権利条約関係、差別禁止法・条例関係、教育制度など。2002年から2006年までの障害者権利条約交渉のため国連特別委員会に日本障害フォーラム(JDF)の事務局として7回参加。 ◆その他、2008年度より現在まで独立行政法人JETROアジア経済研究所外部研究員として、韓国の障害者関連法制度を研究中。明治学院大学非常勤講師(2018〜)、関西大学客員教授(2019〜)、明治大学法学部比較法研究所客員研究員(2021〜) ◆障害者の介助者歴7年 <スライド3> 今日の内容 ○大きく分けて2つのことをお話しします。 ・放送アクセスに関連する諸法制度 ・放送アクセスに関する障害者差別禁止法の規定と運用 <スライド4> 韓国の障害者の概要 <スライド5> ○障害は15種別。日本に類似した制度として障害者登録制度があり,障害者として登録をすることで 各種福祉サービスの受給することができるようになる。 ○2019年、障害を重度と軽度の2区分にする等級性に改編。障害の程度により重い障害から1級として6級までに区分。重度はそれまでの1級から3級、軽度は4級から6級。 ○保健福祉省「2020年度障害者登録状況」 ・登録障害者は2633,000人(総人口の5.1%) ・種別ごとの数「肢体障害」45.8%、「聴覚15%」、「視覚9.6%」、「脳病変9.5%」。「顔面0.1%」、「心臓0.2%」、「脳塞栓症0.3%」 ・重度障害者として登録された障害者は985,000人(37.4%)、非重度 障害者として登録された障害者は164.8万人(62.6%)。 ・2010年以降は総人口に比べて約5%の同様の水準を維持 <スライド6> 放送アクセスに関連する諸法制度 <スライド7> 放送アクセシビリティに関する法律・制度 ・施策の推進を図る法律として、「障害者福祉法」、「放送法」、「国家情報化基本法」、「障害者等の移動便宜増進法」 ・合理的配慮の提供等、障害差別を禁止し、権利を救済する法律として「障害者差別禁止及び権利救済に関する法律(障害者差別禁止法)」と救済機関の国家人権委員会 ・関連する法律として「韓国手話言語法」 ・これらの法律や制度が相互に作用しながら放送アクセシビリティを確保・促進 ・放送法とその関連規定、大統領府直属の放送通信委員会が重要な役割 <スライド8> 放送法と関連規定 ・放送法第69条:放送事業者に対して,障害者の視聴を可能にするため韓国手語,クローズドキャプション,画面解説等を利用した放送をしなければならない,と義務付づけ。 ・上記の放送(制度の用語では障害者放送というので、以下、障害者放送)を行う場合,大統領府直属の組織である「放送通信委員会」が必要な経費の全部または一部を支援することができると規定。財政支援を放送通信委員会が行うことを定めている重要な条項。 ・これに関連して放送通信委員会は2011年に「障害者放送の編成及び提供等,障害者の放送アクセシビリティの保障に関する公示」(以下,「放送アクセシビリティ公示」)を策定し、全放送における障害者放送の割合を義務化。 <スライド9> 放送アクセシビリティ公示 ・韓国手語,クローズドキャプション,画面解説や字幕解説をまとめて「障害者放送」と定義し(第2条),放送法第69条や障害者差別禁止法第21条3項、両法の関連施行令に従い,障害者放送の対象事業者や編成比率,提供基準などを定めている。 ・障害者放送の提供義務について事業者を「必須指定事業者」と「告示義務事業者」の2つの類型に分けて目標値を策定し義務化(「義務編成比率」)(同公示第6条並びにならびに第7条)。 ・「必須指定事業者」は地上波放送事業者や放送チャンネルを使用する衛星放送事業者。「告示義務事業者」は地域のチャンネルを運用する有線放送の事業者であり,インターネット・マルチメディア・コンテンツ放送の事業者が含まれる(同第5条)。 <スライド10> 放送アクセシビリティ公示における障害者放送の義務編成 ・必須指定事業者:地上波放送事業者の字幕放送の義務編成比率は認定された放送の100%(衛星放送事業者は70%),画面解説放送は10%(同7%),韓国手語通訳放送は5%(同4%) ・公示義務事業者:字幕放送の目標値が70%,画面解説放送が5%,韓国手語通訳放送が4% ・達成度については放送通信委員会が「障害者放送提供義務評価結果」を公表。最新のものは2020年度。 <スライド11> 放送アクセシビリティ公示における障害者放送の義務編成 ・2020年の 障害者放送の達成度:対象となる132 社のうち、義務を達成したのは107社、 未達成は25社 ・未達成企業名は公表。たとえば、2020年度の義務評価結果では、KBS昌原、KBS大邱、KBS大田、KBS 忠州,KBS済州,KBS蔚山,KBS忠州,KBS金州、 (途中省略)、 釜山文化放送株式会社, 木浦文化放送, 、株式会社アンドン文化放送 (途中省略)、チャンネル・ザ・モビー株式会社など。 ・韓国における障害者放送の実施については、放送法の義務編成規定と、障害者差別禁止法上の正当な便宜の供与も含めて,財政的措置やその基準の設定などを行う放送通信委員会が重要な役割を果たしている。 <スライド12> 障害者差別禁止法と放送アクセシビリティ <スライド13> 障害者差別禁止法の概要 ○正式な名称は「障害者差別禁止及び救済等に関する法律」。2007年に制定され、その後の改正を経て、現在へ。 ○障害を理由とする直接差別や間接差別、正当な便宜(合理的配慮)不提供、広告による差別という4つの類型の差別を禁止。 ○雇用(10〜12条)、 教育(13〜14条)、財と用益(15〜25条)動産や不動産取引、建物や交通機関へのアクセス、情報アクセス、文化芸術活動や体育活動における差別を禁止している同節は11の条項からなり、司法・行政、サービス及び参政権(26〜27条)母・父性権・性等(28〜29条)、家庭・家族・福祉施設・健康権等(30〜32条) ○紛争解決・被害者救済について規定。救済機関は国家人権委員会。差別と思われる事案に関して、相談や差別の申し立ては無料であり、電話やメール等、どんな形式でも構わない。外国語にも対応。申し立て事案が差別の疑いがあれば調査を行い、差別であると認定した場合は是正勧告を行う。 <スライド14> 韓国の人権委員会のおもな仕事 ・人権に関する法令(法令案を含む)・制度・政策・慣行の調査・研究と改善が必要な事項に関する勧告や意見表明をすること ・人権侵害行為に対する調査と救済 ・差別行為に対する調査と救済 ・人権状況の実態調査 ・国際人権条約に参加し、その条約の履行に関する研究と勧告や意見の表明 <スライド15> 放送アクセシビリティに関する主な規定@ ・第4条(差別行為) @ この法で禁止する差別とは、次の各号の一つに該当する場合をいう。 1. 障害者を、障害を事由に、正当な事由なく制限・排除・分離・拒否等により不利に遇する場合。 2. 障害者に対し、形式的には制限・排除・分離・拒否等により不利に遇してなくとも、正当な事由なく障害を考慮しない基準を適用することにより、障害者に不利な結果を招く場合。 3. 正当な事由なしに、障害者に対し、正当な便宜(※合理的配慮のこと)供与を拒否する場合。 4〜6は省略 A 第1項第3号の“正当な便宜”とは、障害者が障害のない人と同等に、同じ活動に参与することができるように、障害者の性別、障害の種別及び程度、特性等を考慮した便宜施設・設備・道具・サービス等、人的・物的な諸般の手段と措置をいう <スライド16> 放送アクセシビリティに関する主な規定A ・第 20 条(情報アクセスにおける差別禁止) @ 個人・法人・公共機関(以下、この条では“個人等”という)は、障害者が電子情報と非電子情報を利用し、それにアクセスすることにおいて、障害を理由に第4条第1項第1号及び第2号で禁止した差別行為をしてはならない。 A 障害者関連者として手話通訳、点訳、点字校正、朗読、代筆、案内等のために障害者を代理・同行する等、障害者の意思疎通を支援する者に対しては、何人も正当な事由なしに、これらの活動を強制・妨害し、又は不当な処遇をしてはならない。 <スライド17> 放送アクセシビリティに関する主な規定A ・第21条(情報通信・意思疎通での正当な便宜供与義務) @ 第3条第4号及び第6号、第7号、第8号カ目後段及びナ目、第11号、第18号、第19号に規定された行為者、及び、第12号、第14号から第16号までの規定に関連した行為者、第10条第1項の使用者及び同条第2項の労働組合関係者(行為者が属する機関を含む。以下、この条で“行為者等”という)は、当該行為者等が生産・配布する電子情報及び非電子情報について、障害者が障害者ではない人と同等にアクセス・利用することができるよう、手話、文字等の必要な手段を提供しなければならない。この場合、第3条第1項第8号カ目後段及びナ目でいう自然人は、行為者等に含まれない。 A 公共機関等は、自らが主催又は主管する行事において、障害者の参加及び意思疎通のために必要な手話通訳士・文字通訳士・音声通訳士・補聴機器等、必要な支援をしなければならない。 B 「放送法」によって放送物を送出する放送事業者と「インターネットマルチメディア放送事業法」第2条第5項によるインターネットマルチメディア放送事業者は、障害者が障害者ではない人と同等に、制作物又はサービスにアクセスしそれを利用することができるよう、字幕、クローズドキャプション、手話通訳、画面解説等、障害者の視聴の便宜サービスを提供しなければならない。 C〜Eは省略 <スライド18> 国家人権委員会に申し立てがされました! ・人権委員会に地上放送三社(KBS MBS SBS)の看板ニュース番組に手語通訳がつかないのは差別であり、権利侵害であると申し立て ・2020年4月20日、人権委員会でろう者への差別であると決定。地上放送三社に是正勧告 @ 午後9時のニュースは他のニュース番組に比べて一日の国内外の総括的なニュースを流すため、重要であること A 韓国語の字幕の理解が難しいろう者へ言語である手話言語を提供しないことは差別であること ・放送通信委員会に対しても「放送通信委が手語放送義務比率を5%から上げずにいるのがろう者の放送接近権を過度に制限する」と指摘 <スライド19> そして ・地上放送三社が人権委員会の勧告を受容し、2020年9月1日からメインの夜九時のニュースで手語通訳を提供すると立場表明 ・9月1日、人権委員会より勧告受容に対して歓迎の声明を発表。 ・これに続いて様々な障害者団体からも歓迎の声明 <スライド20> ・KBS9時のニュースはこんな感じになりました。 〔ニュース動画 https://youtu.be/szhz8-OClRA  韓国大統領選に関するニュース。手話(ワイプ)、字幕(クローズドキャプション)が表示〕 <スライド21> ありがとうございました! 手話で I LOVE YOU! 〔写真 日韓ろう団体のみなさんと〕