はがき通信ホームページへもどる No.86 2004.3.25.
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 「お互いさま!」に生活できる社会に 


過日、NHKの教育テレビで“きらっといきる”という福祉番組に、私の友人が出演した。石川大輔さんとミカさんの夫婦。
 私とミカさんは、5年前に広島県で開催された「はがき通信」の全国懇親会で知り合った。その懇親会で、ミカさんと衝撃的な出会いをしたのだ。ホテルから平和公園へ移動中、交差点で信号待ちをしていた私の横で突然車イスから転げ落ちている女性がいた。ビックリしながら、「大丈夫ですか?」と声をかけたその女性がミカさんだったのである。すぐに皆に抱えられ車イスに戻ったが、その時の彼女の話に驚いた。それは交差点が坂なため、すぐに車イスを止めることができないので、わざと転んだと言ったのだ。いつも危険なときはそうしていると聞き、愕然(がくぜん)とした。その話しを聞いたときは信じられなかったが、彼女の手足の傷跡を見てわかった。
 その彼女が大輔さんと3年前に知り合い、結婚をした。ふたりは、バリフアリーを広げるために執筆や講演活動をしている。昨年の12月も、横浜市南区役所の依頼でふたりが横浜に来て、南公会堂で講演をしている。ふたりは、写真を見せながら交通機関やトイレなど車イス者にとってバリアがあることを詳しく話していた。ふたりの掛け合いが面白かった。
 テレビでは、ふたりが協力しながら生活している様子や専門学校で非常勤講師をしている姿が紹介されていた。講義の内容は、ボランティア論。学生は皆、将来は福祉の仕事につくことを目標にしているだけあって真剣な眼差しで取り組んでいた。生徒たちに写真を見せながら詳しく説明して、課題を出していた。その課題は、“電動車イス利用者が地元山口県に旅行に行くためのその旅のプラン”を学生に企画させようとしていた。学生たちが調べた内容をグループごとにプラン作りをする。ふたりは、各グループを回り質問にも答えていた。
 講義の終わりに、ふたりがとてもいい提案を出していた。休日を利用して、学生たちに実際車イスを使って観光地めぐりを体験させようというもの。20名以上の学生が集まり、話し合ってコースを決め、交代で車イスに乗りながら山口市内の温泉地に向かう。実際、車イスに乗ってみるとデコボコ道や坂、段差などを経験し、真っ直ぐ走ることの大変さを実感していた。どんなサポートをすればいいのかもわかる。また、目の不自由な人、車イスの人、障害によって求めることがそれぞれ違うことを学生たちは学んでいた。車イスで列車に乗り込むにもホームと電車の隙間や段差があり、スロープをかけないと乗れないことも体験していた。
 旅の後半になって、学生たちの行動に変化がでていた。寄り道をしてでも他の場所まで車イスで利用できるかを確かめるようになっていた。車イスの体験を通して多くのことを学んだ学生が、旅のプランの発表で「段差があって移動しづらい所もまだ沢山あるのですが、そのことより周りの人がどんな気持ちで手助けするかが問題だと感じました。楽しい旅をするにはいい施設も大切ですが、旅人を迎え入れる人の温かみのほうが大切だと、今回痛感させられました」と発表した言葉が印象深かった。ふたりの活躍に大きな刺激を受けた。



 その石川夫婦が、昨年「『お互いさま!』宣言」という本(№84でも紹介)を出している。その本に、私のエッセイの一部も載っている。「困っているときはお互いさま」という気持ちがあれば、少しずつ社会は豊かになるのでは? 苦労している眼の不自由な人や車イスの人などに、気軽に一声かけられるようになるためのヒントが詰まった、バリアフリーの手引書である。
 そう言えば、横浜に来たふたりに会おうと思い、講演の申し込みを南区役所の担当者へメールを出した。返事の内容を見てビックリ! 電動車イスから普通の車イスに乗り換えてほしいと言うのである。さっそく電話で連絡を取り、車イスに乗り換えられる人と乗り換えられない人がいることを説明した。担当者は、そのことさえ知らなかったのだ。南公会堂はバリアフリーではなく、車イス用トイレもなかった。福祉関係者は、ぜひこの本を読んでもらいたいと思う。障害者と接する機会がまだまだ少ないから、皆さんにも読んでいただければ理解してもらえ、「お互いさま!」に生活ができると思う。
神奈川県:伊藤 道和 E-mail: gorilla@kk.catv-yokohama.ne.jp


 希望をわすれずに(2) 


 「はがき通信」No.83に「希望をわすれずに」を掲載していただいた「うらら」の妹、L1を損傷した本人です。どうもありがとうございました。前回は昨年7月時点、ケガをして3ヶ月ごろのリハと身体の状況を家族に伝えてもらいました。それから7ヶ月、ケガから10ヶ月が過ぎました。そこで、この7ヶ月間のリハビリと回復の状況を報告します。
 リハは1月1日以外、1日も欠かさずに続けています。この間、リハのスケジュールを2回ほど大きく組み換えました。くわしい内容はスペースの関係で紹介できませんが、家族に手伝ってもらいながら、毎日平均4〜5時間ほどをリハに費やしています。その結果、いろいろな点で回復を感じることができました。なによりも、あくまで自己流ですが、便意・尿意をつかめるようになりました。前回の投稿内容と時期的に重なる部分もありますが、その経過を少しくわしく述べてみます。
 まず尿意ですが、ケガをした当初はまったくありませんでした。病院では導尿をするように言われたので、3時間おきに導尿していました。しかし、退院して小樽で右近先生に指導していただいてからは、すべて自力排尿に切り替えました。最初は導尿をしていた時とおなじく時間を決めて排尿していましたが、自力排尿に切り替えてから水分をたくさん取るようにしたため、不規則に尿がたまるようになりました。決められた時間前に尿が漏れるようになりましたが、その漏れる時に「あっ漏れている」という感覚がそのうちに出てきました。それが徐々に、漏れる直前にもわかるようになり、さらには尿がたまったような感覚が出てきました。現在は時間をとくに決めず、尿意があればすぐに排尿しています。簡単に言うと、「まったくなし」→「いつ漏れていたの?」→「あっ漏れた」→「今漏れている」→「漏れそう」→「そろそろ漏れるかも」→「溜まってきたかも、そろそろ漏れるかも」→「溜まってきた、しておこう」という経過をたどりました。
 次に排便ですが、ケガ前のような便意は今でもありません。わたしの場合、「ふつう」の便と下痢っぽい便の便意は、それぞれまったく違う感覚です。最初は、前日の夜に下剤を飲み、その翌日に摘便をしていました。しかし、排尿とおなじくそれはやめ、夜の9時から2時間ほど便座に座っていました(座薬を使用)。便秘気味だったせいもあり、下剤をやめてからは、かならずしも毎日便があるわけではありませんでした。昼に出たりしていました。しかし、「尿意」の感覚なのに、尿ではなく便が出ることが出てきはじめました。よくわかりませんが、便が膀胱付近を圧迫して「尿意」のような感覚を感じたのかなと、わたしなりに考えています。これがいまの「ふつう」の便意です。下痢っぽい時は、まず胃が痛くなり、その痛みがだんだん下にさがってきて、便が動いているのがわかります。そして、腰が「重た痛く」なって下腹部が痛くなり、便が出てきます。こうして排尿・排便とも、下腹部の内部の感覚が出てきたため、なんとか事前に感覚をつかめるようになりました。
 運動については、去年の秋には松葉杖で立位静止できるようになっていました。これは誰かに支えてもらわなくても独力で何分間でもできます。現在は腰を軽く支えてもらいながら、「ロフストランドクラッチステッキ」で部屋の中を何歩か歩けるようになりました。前回投稿時は歩行器でなんとか進める程度だったので、だいぶ進歩できたかなと思っています。部屋が狭いので確かめたことはありませんが、歩行器であればかなりの距離を継続して歩くことができると思います。
 これらのリハビリは、小樽で右近先生に指導していただいたことを正確に再現するようにしています。スケジュールは兄が「たたき台」を組み立ててくれて、それを家族全員で相談して決めました。リハ項目はたくさんありますが、それを1日ですべて一通りこなしています。「歩行訓練」(楽しい訓練です)や、「四つん這い」による部屋内の周回(「筋トレ系リハ」の1つで正直、しんどい訓練です)、「支えなしの立位静止」への訓練(すごく難しいです)もその一部です。現在の目標は、「立位での静止」と「ロフスト歩行」の2つを、介助なしでできるようになることです。
 「痛み」ですが、かなりあります。足が引きちぎられるような痛みです。思わず、「痛いっ!」と声に出るくらい痛いです。立位バランスをとっている時に痛くなると、バランスがくずれることもあります。しかし、あくまでわたしの場合ですが、激しい運動などほかの何かにすごく集中していると、痛みをあまり感じないようにも思います。
 感覚は、太ももからひざにかけて、まだらに出てきています(前、内側、外側)。お尻の外側にも、まだらに出てきています。たまに足の裏に「かゆみ」を感じます。足の裏にはよく汗をかきます。つねったり、たたいたり、電子鍼や氷・温水などで、常に刺激を加えることを心がけています。
 もちろんリハビリでは、足に痛みが走ったり、腕・手首・腰に筋肉痛が出たり、日によってどうしても調子の悪い日があったりと、かならずしもいいことばかりではありません。しかし、やはり、一番大事なのは「あきらめないこと」だと思います。結果はすぐには出ないけれど、続けていれば少しずつ成果が出ていることは、リハをこなすにつれてなんとなくわかってきます。そのためにも普段は、テレビを見たり、本を読んだり、音楽を聴いたり、犬と遊んだりしてリラックスするようにしています。また、マッサージをしてもらうことがすごく楽しみです。
 あきらめなければきっと助かる。そう信じています。この「はがき通信」を通じて、右近清先生や森照子さんをはじめ、素晴らしい方々と出会えたことは、一生の幸運だと思っています。先生に教えていただいたリハビリ項目の1つ1つがすべて歩くことにつながるすばらしい内容だということは、数多くのリハ項目をこなしつつ、リハの段階が進んでいくにつれて、何度も実感しています。最終的には、歩いて買い物に行ったり、犬の散歩に行ったり、ケガをする前の普段の日常生活を取り戻したいです。「はがき通信」の皆さまには、わたしがどん底にいる時に助けていただきました。支えていただいているすべての皆さまに、この場をお借りして心からお礼申し上げます。
うらら妹


 脊髄再生医療:ヒトへの臨床応用開始(1) 

脊髄C6・7・8・T1・2・3、非外傷性損傷(腫瘍)不全、激痛持ち

 脊髄再生医療が、わが国においてもいよいよ現実味を帯びてきました。最近の動きを整理し、問題提起としたいと思い、ペンをとりました。
 2004年は、日本における脊髄再生医療のヒトへの適用の元年となるかもしれません。すでに2つの治療計画や実際の治療が進行中です。第1は、昨年暮れに共同通信などによって報道された、関西医大による骨髄間質細胞を用いての再生治療計画です。同大学の倫理委員会の承認を得て、本年早々にも実施予定でした。目下、実施のための準備が進められています(注:文末の報道記事参照)。これが実現すれば、本邦初の脊髄再生治療の臨床での応用試験となります。
 第2は、中国の黄紅雲という医師が、中絶胎児の鼻腔粘膜(びこうねんまく)の神経鞘細胞(しょうさいぼう)を用いての、ヒトの脊髄再生治療を実際に開始したことです。すでに何人かの成功事例が報告されており、この治療を受けた日本人患者第1号も出ております。その上、日本人専用窓口まで設置しています。うっかりすると北京詣でが始まるかもしれません。
 これまでの研究では、脊髄再生治療は、細胞の移植によって行われるのが主流のようです。この移植する細胞の素材としては、さまざまなものが試されてきましたが、今では、いくつかのものが有望と考えられています。たとえば上記の鼻腔粘膜細胞(成人の体の中で、日々新たに分化・再生し続けている数少ないタイプの細胞で、鼻の粘膜にある細胞)、成人の神経幹(かん)細胞(主に脳に存在し、中枢神経を構成するニューロンやグリア細胞などどのタイプにも分化できる細胞)、中絶胎児の神経細胞(胎児に存在する、これからどのタイプの神経にも成長し得る細胞)、胚性幹(はいせいかん)細胞(受精後の分裂を始める胚の段階の細胞で、どのような組織にも分化・成長できる細胞)、骨髄間質細胞(以下で説明)などが挙げられます。
 これらの治療法は、動物レベルではわが国も含め多くの国で実験されており、損傷した脊髄を修復できる可能性があると指摘されてきました。このような、医学の進歩の急激な展開に、社会もついていくのはなかなか大変になってきています。患者も、さまざまな治療法の可能性と安全性についてしっかりした情報を把握していく努力が求められる時代になったといえるでしょう。
 今回は、第1の関西医大のケースについて、いろいろな意味で重要性を持っていると思われるので、要点をまとめておきたいと思います。本邦初の臨床応用なので、当事者としてしっかり事態を把握し、考えておきたいと思うからです。いつ何時、自分自身や家族がこの治療法の被験者となるかも知れない機会が身近になっているからです。
 骨髄間質細胞とは、文字通り骨髄に含まれる細胞です。骨髄は、白血病治療のための骨髄移植で知られるように、胸の骨や鎖骨(さこつ)、腰骨などに存在し、持続的な造血機能を持っています。この造血機能を支えているのが骨髄間質細胞であることが明らかになっています。間質細胞が出す何らかの液性因子やその他何らかの要因によって、新しい血液が作られ、増殖していくと考えられています。近年の研究で、この骨髄間質細胞が、造血を誘導しているだけでなく、骨や脂肪細胞、心筋細胞、血管細胞、神経細胞など、他の臓器にも分化することが明らかになってきました。そこで、培養器で骨髄間質細胞を目的の臓器に分化するよう誘導培養して、それを移植することで疾患を治療する、という治療法が研究されるようになりました。一方、骨髄間質細胞が神経細胞に分化する頻度は低いとみられています。そこで、それが産生する液性因子が神経細胞に刺激を与えて分化誘導と増殖を促すらしい点に注目する研究も進められてきました。関西医大の研究グループは、これらの点に注目して、損傷した脊髄の修復と再生ができないかどうかを研究してきました。その結果、ラットを用いた実験で、骨髄間質細胞が損傷した脊髄の修復を促進するらしいことを突き止めた、と報告されています。
 【研究のおおよそのプロセス】
 まず、ラットのT8〜9あたりに錘(おもり)を落として、人為的に脊髄損傷ラットを作ります。一方で、同系統の別のラットから骨髄を採取し、それから分離した間質細胞を培養しておきます。この培養した骨髄間質細胞を、脊髄を損傷させたラットの第4脳室(延髄の上あたりにある)から注入し、脳脊髄液の流れにのせて脊髄に付着させます。
 その結果、後ろ足の運動機能が改善していると判定され、そのラットの運動能力の回復が認められた、と報告されています。その理由として、脳脊髄液の流れに乗って移動した骨髄間質細胞が脊髄に付着し、一部は損傷部位に侵入して、損傷した脊髄神経の修復を促進したものと分析されています。このラットでの実験が何度か繰り返されて、有効であると判断され、最終的にヒトへの臨床応用となりました。脊髄再生への取り組み方には、上記のようにいくつかの方法がありますが、自家骨髄を用いるのが倫理的問題もなく、他人の細胞を使うのに比べ、免疫上の問題も少ないと考えられるため、リスクの少ないこの方法が選択されたのだと思われます。
 【ヒトへの応用のおおよその治療計画】
 通常の脊損治療の急性期治療の一環として行われます。ICUに運び込まれた脊損患者の損傷した脊椎を固定するために、本人の腸骨(骨盤部分の骨)を利用することはよく行われております。この試験治療では、その骨片を採取する際、ついでに骨髄も採取し、その骨髄から分離した間質細胞を約2週間かけて培養し、培養して増殖させた間質細胞を腰あたりのクモ膜下に注入して脳脊髄液の流れに乗せる、という過程が組み込まれます。ラットでの実験では第4脳室からの注入でしたが、ヒトでの臨床試験では、腰部のクモ膜下注入という方法をとることになっています。これは、通常の麻酔薬のクモ膜下注射と同じ方法であり、特別な医療技術ではありません。この治療法を行うことについてのインフォームド・コンセント(患者への説明とその承諾を得ること)は、2段階に分けて行われます。
 最初の段階の腸骨採取手術の際に骨髄も採取することについて、本人もしくは家族から承諾をとり、第2段階の培養骨髄間質細胞をクモ膜下に注入することについては、本人からの受諾を得る、ということになっています。その後の治療は、特別のことがない限り通常の脊損治療と同様であり、半年後ぐらいには他のリハビリ病院への転院となります。できる限り系列病院でフォローする、ということになっています。
 この治療法の動物実験レベルでの有効性も、ヒトへの応用の有効性や安全性も十分に明らかになっていたとはいえません。
 【当事者団体との話し合いがもたれた】
 この報道があった後、「日本せきずい基金」の求めに応じて、治験を担当する中心的な研究者で医師である方々が、脊損当事者の団体(「日本せきずい基金」、「全国脊損連合会」、「頸損連絡会」)の役員に説明を行い、質疑応答に応じる懇談会が開催されました。そして、患者側が率直に質問をぶつけ、研究に携わった諸先生も可能な限りていねいな説明を行うという機会が持たれたのです。そして、これを公開することについても承諾が得られました。その上、治験計画に一定の変更を加え、治験実施前に公開セミナーを開催することが合意されました(その経緯については「日本せきずい基金」ホームページ参照)。
 私は、論議が十分に尽くされたと言い切れないにせよ、わが国の脊髄再生治療がこのようなスタートを切ったことは、以下の点で、たいへん重要な意味があると考えております。
 第1に、当然のことながら、従来不可能と思われてきた中枢神経の再生・修復という治療法の、わが国における初のケースである点です。おそらく成功・失敗の如何にかかわらず、今後の中枢神経疾患の治療のありかたに大きく影響を残すのは必至と思われます。成功した場合、脊髄損傷に関する多くの未解決の問題が不問に付される懸念もあります。失敗した場合、再生医療へ健全な発展にブレーキがかかる懸念もあります。十分に慎重に、手段を尽くして進められていくことが望まれます。
 第2に、重大な治験実施の前に、研究者・医師グループとの間で、懇談会がもたれ、直接対面の情報交換が行われたことです。このようなことは、近来稀であり、画期的なことであると、私は考えます。従来、医師サイドにおいては、「難しいこと」の説明は、患者には無用といった対応が主流であり、医師サイドが一方的に優位であったと思われます。そして、「医療過誤問題」などでこじれるなど、不毛な結果を生んできました。一方、患者サイドも、「難しいこと」をきちんと勉強する機会を与えられないままに、いたずらに「医療不信」と「過剰医療依存症」の間を揺れ動く傾向にあったと思われます。
 今回の試みは、研究者・医師と患者の関係のあり方について新たな模索の機会となるかもしれない、という期待を持っております。その意味で、治験前に開催されるという「公開市民セミナー」がたいへん注目されます。新しい取り組み、特に革命的な取り組みには、賛成するにも反対するにも、大きな勇気と冷静な判断が要求されます。みずからその当事者(患者の場合、被験者)になる場合は覚悟も必要となるでしょう。今後に予定されている「市民セミナー」が、実りあるものとなることを期待したいと思います。
<後半につづく>


注:[共同通信 配信記事 2003年12月11日]
 『細胞移植で脊髄損傷を治療 関西医大、国内初実施へ』
 関西医大(大阪府守口市)の医学倫理委員会は10日までに、救急医学科の中谷壽男教授が申請していた、脊髄(せきずい)損傷の患者に本人の骨髄細胞を移植し、神経の再生を促す国内初の臨床研究計画を承認した。京都大形成外科の鈴木義久・助教授との共同研究。設備を整え、来年2月にも実施する。
 この方法は京大がラットの実験で効果を確かめた。骨髄中の間質細胞が損傷部に付着して特殊な物質を放出し、神経再生を促すとみられる。新たな外科手術が不要で患者の負担が軽く、本人の細胞を使うため拒絶反応がないのも利点という。
 交通事故などによる脊髄損傷患者は毎年全国で5千人以上と推計されているが、リハビリを続ける以外に根本的な治療法がないのが現状。中谷教授は「損傷の程度によって効果に差はあるだろうが、わずかな回復でも患者にとっては大きな意味がある」と話している。
 計画では、患者が病院に搬送された直後に、骨折や脱臼を治療する際に骨髄を採取し、含まれる間質細胞を約二週間かけて培養。腰から髄液を通じて脊髄内に注入する。
 こうした臨床研究は例がなく未知な点も多いが、倫理委は関西医大で間質細胞を心筋梗塞(こうそく)患者の心臓などに移植した研究で大きな副作用がなかったことや、京大の実験結果を検討し、安全性に問題はないと判断した。
  [ASAHI・COM 関西 2003年12月11日]
 『脊髄損傷患者に再生治療を計画 関西医大、来月にも』
 事故で首を強打して半身不随になる脊髄(せきずい)損傷の患者に対し、関西医科大(大阪府守口市)が再生治療を計画している。倫理委員会がこのほど承認し、早ければ来年1月にも治療を始める。国内では毎年5千人ほどが脊髄損傷を起こしているが、有効な治療法はなく、新治療は関心を集めそうだ。
 治療チームは関西医大の中谷寿男教授(救急医学)、京都大の鈴木義久・助教授(形成外科)、井出千束教授(機能微細形態学)ら。関係者によると、患者の骨髄組織から取り出した骨髄間質細胞を培養し、それを患者の腰から脳脊髄液中に注射する。
 鈴木さんらは脊髄損傷を起こしたネズミで実験をくり返した。まひのためネズミは後ろ脚を引きずる状態だが、培養細胞を注射すると後ろ脚が動き始め、体重を支えることができるようになった。脊髄組織に生じた空洞も半減したという。
 関西医大病院の救命救急センターには、毎月2人ほど脊髄損傷患者が運び込まれる。手足とも動かず、命にかかわる重症患者が多い。中谷さんは「動物では効果があったが、実際の患者はずっと重症で過度の期待は禁物だ。しかし、少しでも患者のQOL(生活の質)が上がれば、治療の意義はある」と話す。 
東京都:A・Y
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