はがき通信ホームページへもどる No.165 2017.6.25.
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 生きていく 

C3-4、65歳

受傷して8年が過ぎた。辛かったことも多々あったが、今なら笑い話で済ませることができる。ここ1年熱発も感染症もなく、どちらかと言うと堕落した生活の中で、ひとつ行動を起こすことによって、今、生きている証を見つけることができた。
徳島で仕事帰りに自転車事故で受傷して、急性期、回復期と転院するも、看護師にわめき散らすことも暴れることも(動くのは首だけだが)なく、O型性格のなんとかなるさと仕方ないかで納得し、また、妻を亡くして間もないこともあり人生を投げてしまっていたのだろうが、それでもまったく葛藤がなかった、ということはなく、生と死がせめぎあっていた。
横浜で家庭を持つ娘の勧めでKリハに転院して、あまりにも不味い食事と過酷なリハビリで一気に体重を落とし、膀胱ろう手術の当日は低血糖で麻酔する前に意識朦朧(もうろう)になり、あえなく手術延期になる。手術の傷も癒えないうちに、受傷後1年2カ月で在宅生活にはいる。
在宅に移行して体調が良くなるかなと思っていたが、本当の苦闘はこれからだった。
 在宅1年目を過ぎた頃からイレウス、結石と入院生活が始まる。イレウス治療は絶食のため、薬を切られることになる。神経系の薬を切られたときの痛みが半端なく、全身を火で焼かれるような痛みが続く。最初のうちは痛み止めが効くが、3日目になると効かなくなり、4日目には医者に泣きつく。鼻から入れて胃の内容物を抜くために留置しているチューブの途中から常用薬を入れてもらうまで、目を瞑(つむ)ると悪夢に眠れず、幻覚、幻聴で精神錯乱状態にいたる。このときの痛みは看護師には理解してもらえず、彼女の背中には黒い羽根が生えていた。
2011年3.11その時間、徳島の友人と電話しているときに揺れ出した。小学生の孫2人は下校しており、母親は仕事に出ていた。経験したことのない長い揺れに怯える子供たちに何もしてやれず、声をかけることしかできない無力感に苛まれる。そして、報道で流れた痛ましい悲劇に神を呪った。幼い命を奪って、自分のような人生を捨ててしまった人間を生かしておくのか、と。
震災後、何故生かされているのか知りたくて頻繁に外出するようになる。レンタルショップ、本屋、スーパー、孫のサッカーの試合など、そして、無理をするたび感染症で熱発を起こす。夏には、初めての神奈川頸損会バーベキュー大会と、「はがき通信」横浜懇親会に出席する。そして、2回目のイレウスであえなく撃沈する。秋には、尿管結石で長期入院。
年が変われば良くなるかと思えば、3回目のイレウスに続いて、執刀医に危なかったと言わしめた腸捻転でまた新しい穴が開く。大腸を15cm切って人工肛門造設。これ以上穴を開けたくない。年明けから始めていた徳島生活の手続きは、このまま横浜で死ぬわけにいかない、徳島での死に場所を探す思考へと変わる。体重57kg、満身創痍(そうい)で横浜生活を終える。
受傷後4年半で帰って来た徳島での独居生活は、兄弟、友人、知人に温かく迎えられ、看護師の献身的な看護と介護スタッフの過剰なケアにより、1年で体重70kgまで回復。おかげで全介助トランスファーをしてくれなくなり、リフト使用になる。腎臓結石、胃潰瘍手術など入院生活もあるがさして体力が落ちることなく、今度はお腹が太り出してパウチの取り付けが困難になり、ダイエッターに変身。
障害者年金と労災年金で少し余裕のあるなか、週3回の訪問看護、2回の通所リハビリ、4回の医療マッサージと、1日4回の訪問介護で生活している。週1回買い出ししてもらった食材をホワイトボードに書いておき、クックパッドで献立を考える。これがなかなか楽しい。
昨夏、思い立って近くの看護学校に営業に行く。単身で乗り込んで行ったため最初は訝(いぶか)しがっていた先生も、話せば快く受け入れてくれ、1時間半の授業を3回受け持たせてもらえた。自己紹介の後、ベッドに移してもらって、バイタル、ケアの仕方を教えるかたわら電動車椅子に試乗してもらう。これが大変好評で無免許でも走り回っている。若い人たちとのふれあいは、パワーの源である。
ストーマにする前は前日の下剤から始まり、訪看が来る前に側臥位してレシカルボンを入れて30分待機。それから1時間半かけて摘便。音沙汰がないときは、グリセリン浣腸を3本使っても反応なし。おいでになったときは看護師さんも達成感で晴ればれ帰って行くが、いらっしゃらないときはドップリ落ち込んでしまう。当然本人は、それ以上に疲れ果てる。痔に悩まされる。
しかし、ストーマにしてからは、パウチを汚さない日がない。所構わずガスが叫ぶのだけは難儀するが(笑)、おかげで看護師さんはバイタル、膀胱洗浄、陰部洗浄の後、タップリマッサージをしてくれる。たぶん、ストーマにしていなかったら、独居生活は難儀していただろう。
死に場所を求めて帰って来た徳島も、今では生き甲斐を見つけようとしている。気遣いの足らない介護スッタフに少しはイラついても、笑顔で接すればすべて丸くいく。

              
 連綿とゆく時間の中で 僕は確かにここで呼吸(いき)をする
 柔らかい陽の光を浴びれば また目を覚まして また歩き出せる
 僕が生きた「証」を残そう それをいつの日か「夢」と名付けよう
 つつましくも意味の在る「証」を 意味在る「夢」だと 確かな「夢」だと
 僕は「今」を信じて歩こう たとえそこに祈り叶わずとも
 生まれゆく全ての言葉たちを この手に抱えて この手に抱えて
♪いきものがかり:『ハジマリノウタ』♪
 

徳島県:M.R.



 ロホクッションの体圧分散能力にカバーが悪影響 

男、65歳、C4、頸損歴31年

 〈はじめに〉
 電動車いすの購入と一緒にロホクッションを新調した。最も体圧分散効果が高く、褥瘡ができにくいハイタイプにした。しかし、付属のカバーは、ミドル・ハイタイプ共用のユニバーサルカバーであり、がっかりした。このカバーは、褥瘡ができやすいことを過去経験しているからだ。(そのことを「はがき通信」の誌面で述べたこともある)
 仕方がないので、再度、このミドル・ハイタイプ共用のユニバーサルカバーを使ってみた。やはり、すぐ褥瘡ができた。また、たまたま福祉機器展で体圧分布測定の機会があり、測定してもらった。すると、ロホクッションでは起こらないはずの強い体圧集中が起こっていた。それで、このカバーは、ロホクッションの性能を台無しにしていると再確認した。私以外にも、ロホクッションの本来の性能を必要としている人がたくさんいるはずなので、そんな人にこのことをよく知って欲しいと思い、前回よりも詳しく書くことにした。

 今回は、(1)「空気クッション」の性質、(2)ロホクッションの抜群の体圧分散性能の仕組み、(3)カバーがその性能を阻害すること、(4)カバーの変遷、そして、(5)カバーによる性能劣化状況の調査のお願いについて述べる。

 〈(1)「空気クッション」の性質〉

 ロホクッションは、いわゆる「空気クッション」の1つである。「空気クッション」とは、ゴムなどで薄い膜をつくり、その膜で袋を作り、その袋の中に空気を詰めたタイプのクッションである。
 このクッションは、袋内の空気と袋の薄い膜の2つからできている。従って、このクッションに座ったときにお尻が受ける圧力(体圧)は、空気による圧力と袋の膜による圧力の2つの圧力の和で表される。
 前者の空気による圧力は、空気がクッション内を自由に移動できるために、お尻の凹凸に関係なく何処も同じ圧力である。
 後者の袋の膜による圧力とは、袋の膜に張りがある(表面張力が働いている)ときに、膜を凹凸のある面で押した場合に発生する圧力である。例えば、膜に張りがない暖簾(のれん)の場合は「暖簾に腕押し」と言うように、押してもこの圧力はない。ところが、張りつめた太鼓の膜、あるいはトランポリンの膜を押すと押し返す圧力が現れる。この圧力のことである。この圧力は、膜の張り具合(表面張力)と面の突出具合によって決まる圧力である。この圧力は、面の突出部のみに集中して現れ、平坦部では0になる。坐骨の凸出部にできる褥瘡の原因はこの圧力である。この圧力を無くすには、お尻の突出部を削って平坦にすることはできないから、袋(膜)の表面張力をできるだけ小さくする必要がある。
 小さくする工夫がなされていない空気クッション、例えば「円座」などでは、突出部に体圧集中が起こる。しかし、ロホクッションでは、この表面張力をほぼ0にしているために体圧集中は起こらない。

 〈(2)ロホクッションの体圧分散性能の仕組み〉

 ロホクッションでは、膜に働く表面張力への十分な対策がとられている。まず、クッションの袋をたくさんの小さな袋(セル)の集まりとすることで、表面張力を何もしない場合の、約一桁小さく(1/10)している。そのために、お尻はクッション内に深く沈み込むことができる。すると、お尻の下のセルは押し縮められた状態になって、そのセルの膜の表面張力はほぼ0になる。さらに良いことは、このクッションに空気を追加した場合、その空気は押し縮められたセルを膨らませるのに使われる。そのためにセルが全部膨らんでしまうまでは、空気圧は一定のまま、また、表面張力は0のままで、クッションの容積が増えてお尻が上に押し上げられていく。
 表面張力が0のままだから、たとえ坐骨部が突出していようとも体圧の集中は起きない。ロホクッションは、完璧な体圧分散が期待できるクッションである。

 〈(3)カバーがその性能を阻害する〉

 ロホクッションの上に物を置くと、その物の表面張力のために、ロホクッションの性能に影響があることが下記のHPに載っている。
 https://permobilus.com/support/roho/faq/ 
 それがたとえ、ロホ社製のクッションカバーであっても、影響がある。

 〈(4)クッションカバーの変遷〉

 ◇初期のカバー
 ロホクッションが日本に初めて紹介されたときのクッションカバーは、高さ10cmのハイタイプのクッションに、高さ12cmのカバーであった。つまり、カバーの高さが2cm高くなっていた。クッションに座ったときでさえも、座面のカバーは弛んでおり、表面張力は0であった。そのために、ロホクッションの完璧な体圧分散効果が損なわれることなく発揮できていた。
 私は、長年にわたって苦しめられていた褥瘡が、初期のカバーが付いたロホクッションに替えたとたん、みるみるうちに治りはじめ、2、3週間で治ってしまったという経験をした。

 ◇次期のカバー
 その後、12cm高さのカバーは、ぶかぶかで体裁が悪いということで、クッションと同じ高さ10cmのカバーになった。この変更のときは、カバーの座面の素材をよく伸びる素材を使用して表面張力が小さくなるようにし、また入念なテストも行い、さらにユーザーからのクレームは特にないことを確認したそうである。

 ◇その次の現在のカバー
 ところが、またその後、今度は何の説明もなく、ハイタイプのロホクッションには、ミドル・ハイタイプ兼用のユニバーサルカバーを使用するようになった。このカバーの大きさは、自然の状態でクッションより小さくできており、使用時にはこの小さなカバーに大きなクッションを押し込めて使用するのだ。おそらく、使用時には、このカバーに強い表面張力が働いており、ロホクッションの体圧分散効果はかなり損なわれていると考えられる。さらに、クッションに空気を追加したときは、クッションの大きさはカバーで制限されているために空気圧が高くなり、また、カバーの表面張力とクッションの表面張力がさらに高くなる。したがって、全体的な体圧と突出部に集中した体圧のどちらも大きくなる。このことは、私の経験「このミドル・ハイタイプ共用のユニバーサルカバーを使用したら、すぐに坐骨部に褥瘡ができ、福祉機器展での体圧分布測定でも坐骨部に体圧集中が起こっていた」とよく符合する。

 〈(5)ミドル・ハイタイプ共用のカバーによるロホクッションの体圧分散能力の阻害状況の調査のお願い〉

 ミドル・ハイタイプ共用のユニバーサルカバーが、ロホクッションの体圧分散能力を阻害しているのは確かだが、それがどのくらいなのかを測定して数値で表したい。
 クッションカバーの影響を調べるには、「圧力分布測定ツール」があれば簡単だ。クッションカバーを付けない場合と、クッションカバーを付けた場合の両方で体圧分布測定を行い、両者を比較するだけである。
 測定条件は、実際の使用条件と同じにしたい。ハイタイプのロホクッションと、ミドル・ハイタイプ共用のユニバーサルカバーを用いる。被験者は、体圧集中が起こりやすい骨ばったお尻を持つ人とする。クッションの空気は、坐骨の突出部が底面から1.5cm離れるように設定する。
 個人では「圧力分布測定ツール」は高価なために入手困難なので、病院のリハ科などの褥瘡に興味がある部署で調べてもらえたらありがたい。どうぞよろしくお願いいたします。

 福岡県:Y.I.



 『臥龍窟日乗』 -47- 国際外交と北朝鮮 


 近ごろ、なにやら不穏な空気を感ずる。一触即発というのか、キューバ危機前夜のようなぶっそうな予感だ。
 原因は北朝鮮の金正恩という人だ。私は金正恩氏について正確な情報をもっていないが、中国やアメリカのような大国を相手に渡り合う手練手管を見ていて、「ケンカ上手やなあ」と溜め息が出てしまうのだ。
 ケンカというのは腕力にまさっているだけではダメで、敵将の士気、性格、子分衆の結束、資金源、弱点などを見抜く慧眼(けいがん)が必要だ。ケンカに負けたことがないと豪語する兄サンに、昔、無敗の秘訣を訊いたのだが、「相手が強いと思ったら、避けてとおる」と、しれっと答えた。
 しかし金正恩氏は天下の大国・アメリカを相手に啖呵(たんか)をきる。よほどの度胸があるかアホのどちらかだ。写真で見る限りアホには思えない。幼い時からスイスに留学し、帝王学を学んでいるだろうから、それなりの切れ者なのだろう。アメリカ人の本質を見抜いている。「ケンカ上手」と記した由縁である。
 アメリカ人には、じつに不遜(ふそん)な共通認識がある。相手が弱いと見るやとことんつけあがるが、強いと分かると手のひらを反して下手(したて)に出たりする。
 そもそも彼らは東洋になんぞ関心はなく、日本、北朝鮮、韓国、中国、台湾が陸続きだと思っている。ま、世界地図を開いて、ど真ん中に米粒ほどの日本が、しかも赤色に塗りつぶされて居座っているのは、日本だけのこと。アメリカの世界地図は、もちろんアメリカが中央に構えていて、ひょっとしたら日本なんて枠に入っていないのかもしれぬ。

 5月13日、ぶっ魂消るニュースが入った。
 北朝鮮の崔米州局長が、アメリカの元国連大使らとノルウェーで密談をしたというのだ。北朝鮮を目の敵にしていたトランプ米大統領の態度がコロッと変わった。「正恩氏はなかなかの切れ者に違いない」と歯の浮くようなコメントをした。 
 あいだを取り持っているのが、キッシンジャーだという噂(うわさ)もちらほら聞こえてくる。といっても、馴染みのない世代が多いのかもしれない。ニクソン、フォード両大統領の国務大臣を務めた男だ。
 思い出すのは1972年。密かに北京に乗り込み、毛沢東主席とニクソン大統領の会見をお膳立てした。世にいう「ニクソンショック」の立役者。世界が震撼(しんかん)した。
 そのキッシンジャーが徘徊(はいかい)している。亡霊ではない。93歳の老躯(ろうく)にムチ打ちながら、バランス・オブ・パワーの持論を説いて回る。コンサルティング会社「キッシンジャー・アソシエーツ」の代表として、国際紛争の処理に係っている。とくに強いのが、太いパイプを持つ中国だ。45年の人脈はいまだに活きている。
 じつはアメリカがいま、もっとも怖れているのは中国だ。世界の工場といわれた中国には、米ドルやユーロが掃いて捨てるほどある。米ドルをいっきに放出されるとドル安が進み、基軸通貨としての信頼を失いかねない。つまりアメリカは中国にキンタマを握られたかたちだ。
 中国人はカネを信用しない。度重なる王朝の盛衰のなかで、王朝が変われば紙幣(カネ)は紙屑(かみくず)同然になることを知り抜いている。いま金、金地金が暴騰しているのはそのためだ。その中国にも弱みはある。カネはあっても海軍力に劣る。アメリカの原子力空母には太刀打ちできない。
 もう一つの伏兵はロシアだ。トランプ政権成立前後には、アメリカ一辺倒だったロシアだが、トランプ氏は大統領就任後、中国に愛想を振りまくようになった。中ソ両国は半世紀以上に亘(わた)って断交状態が続いている。プーチンさんの面子は丸潰れだ。
 キッシンジャー氏と金正恩氏のあいだに、なんらかのパイプがあるかどうかは定かではない。しかし、あっても不思議ではない。キッシンジャーはフィクサー。正恩氏は手口は荒っぽいが、最終目標はいっしょだ。アプローチが逆なだけ。
 世界の三超大国のバランス・オブ・パワーにぶら下がり、なおかつ泣きどころに付け込もうとする抜け目なさ。三国を互いに牽制せしめ、自国の存在感を世界にアビールするしたたかさ。海千山千の老獪(ろうかい)な寝業師たちを、手玉に取るクソ度胸も並ではない。金正恩、あなどるべからず。
 2017年5月20日(本稿は予測記事のため、執筆の日付を入れておきます)
 

千葉県:出口 臥龍

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