○「国連・障害者権利条約特別委員会」傍聴団報告書/U.傍聴団メンバーからの感想

「国連・障害者権利条約特別委員会」傍聴に参加して

日本障害者協議会代表 河端 静子/翻訳者 奈良 英子

 2002年7月29日から1週間、私たちは傍聴団のメンバーとして二ューヨークに参りました。国連本部に着いたのは7月30日午前9時半ごろ。国連会議場に入るためには、まず写真付きの認証カードを取得する必要がありました。2つのビルを巡りカード発行手続きを済ませ、初めて会議室入りしたときには11時半を回っていました。

 3日間国連本部に通う中で、全体会を4回、NGOミーティングを3回傍聴することができました。全体会は各国政府代表とNGO代表の声明、残りの時間でフロアからの発言という構成でした。1日2回開かれる全体会の前後には必ず、議長とNGOの会合が持たれ、当事者団体の意思を反映させようという議長側の姿勢が感じられました。

 各国代表の中には、メキシコによる条約案を理念的には是としながらも「時期尚早」を唱え、具体的審議の先送りを図る向きもありました。この傾向はとくに7月31日の全体会で顕著に見られ、翌日NGOの二ュースレター上で厳しく糾弾されました。メンバーの方々のお話から、この展開には複雑な事情が絡んでいることを知りました。

 まず条約というものの重み。これまでに採択された「障害者の権利宣言」や「標準規則」とは異なり「条約」は厳しい法的強制力を有するもので、守れない場合には罰則規定や制裁処置が適用される可能性があります。国の代表者としては慎重にならざるを得ません。発展途上国、とりわけ戦乱や貧困のため障害者率が高く、障害の同定さえ困難な国では条約の履行はほとんど不可能です。一方、先進国側にしても国内の整備に加え「発展途上国への援助義務」まで引き受けられるのか、といった問題があります。

 既存の権利条約・規約との兼ね合いも論点となりました。「他の条約で取り扱い済みの事項に関しては極力重複を避けるべきだ」「いやむしろ既存の規約や決議をきちんと実施させるべく、法的拘束力をもつ文書を別途につくるべきだ」などさまざまな意見が交わされました。障害者の権利問題を扱う分野が、社会福祉・医療・教育・労働など広範に及ぶことも、議論のプロセスを複雑化させる一要素であることを教えられました。また条約施行に伴い加盟国に課せられる監視のメカニズムをどう構築すべきかという点も、とくにNGOミーティングにおいて活発に論じられました。

 参加期間中もっとも大きな出来事は、8月1日にNGOの参加度を大幅に引き上ける決定が採択されたことです。一応「この決議は本特別委員会に限られ、前例とはならない」との但し書き付きでしたが、この会期が終わる頃にはNGOの存在はますます大きくなり、もう後戻りできない状況になっているのではないか。そんな予感がするほど、各NGOの活躍ぶりは目覚ましいものでした。とくにIDAおよび世界盲人連合会長キキ・ノードストロームさんの情熱と、したたかなまでの交渉力には驚嘆し、心密かにエールを送っていたところ、8月1日に開催された他NGOとの懇親会では同じテーブルでお話する機会に恵まれ、気さくで魅力的なお人柄に触れることができました。かつては政治の道で理想を実現しようと試みたが「残された時間とエネルギーを最大限有意義に活かすために」NGO活動に身を投じる決断をされた経緯など、さまざまなお話を伺えて嬉しく思いました。

 最後に、このように貴重な機会を与えてくださった最終年記念フォーラム組織委員会の皆様に深く感謝し、ご報告の結びといたします。


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