雇用者数も増えたが施設利用者数も増えた
米国の動向
 
エンパワメント研究所
久保耕造
 
 米国の職業リハビリテーションの動向のなかで、ここ十数年来、わが国の関係者の最大の注目を集めているのは援助付き雇用(Supported Employment)である。1986年の制度化以降、その対象者数は増加の一途をたどっており、現在では約30万人にも達する障害者がそのサービスを利用しているといわれている。また、わが国のみならず諸外国においても同様の制度化が試みられつつある。
 こうした状況の背景にはノーマライゼーション、インテグレーションあるいは施設から地域生活への移行などという考え方が存在していた。そのため、援助付き雇用の広がりとともにワークアクティビティセンター、シェルタードワークショップあるいはデイセンターなど施設型の就労および非就労サービスの利用者数の減少が同時に進行しつつあるのではないかと一般的には考えられていた。しかし、事実は必ずしもそうはなっていないことが明らかにされた。
 コミュニティ・インクルージョン研究所(Institute for Community Inclusion, ICI )は1988年以来、厚生省(HHS)のもとにある発達障害庁(Administration on Developmental Disabilities, ADD)の委託を受けて、同庁所管のもとにあるサービスの実施状況に関する全国調査を継続して実施している。ICIはボストン小児病院(Boston Children's Hospital)におかれた調査研究機関である。また発達障害庁は発達障害法(Developmental Disabilities Assistance and Bill of Rights Act)に定められた諸サービスを所管している。援助付き雇用の初期の期間は教育省(DoE)のもとにあるリハビリテーション庁(RSA)が主たる財源となっているのに対して、援助付き雇用のフォローアップと呼ばれる期間の主たる財源となっているのがADDである。この調査の対象となっているのは16歳から64歳の障害者であり、定員16人以上の入所型生活施設の利用者は除かれている。
 それによれば、ADDの提供するサービスの利用者数は全体で1988年の274,274人から1996年の385,140人、1999年の469,842人へと増加している。
 このなかで、一般雇用や援助付き雇用など障害のない者との統合型の雇用サービス(Integrated Employment Services)の利用者数は、1988年の32,391人から1996年の86,252人、1999年の107,820人へと増加している。その絶対数では増加しているものの、ADDのサービス利用者全体に占める割合は1996年の22%から1999年の23%へとほぼ横這い状態である。しかし、この数字は州によっては11%から61%と大きなバラツキがある。
 これに対して、ワークアクティビティセンター、シェルタードワークショップなどの施設型の就労サービス(Facility-Based Work Services)およびデイセンターなどの施設型の非就労サービス(Facility-Based Nonwork Services)の利用者数も1988年の241,883人から1996年の298,888人、1999年の362,022人へと増加している。しかし、ADDのサービス利用者全体に占める割合は1996年の78%から1999年の77%へと微減傾向にある。
 統合型か施設型かにかかわらず、ADDのもとにあるサービスの利用者総数は1996年以来、大幅に増加している。これは、行政機関がサービス利用待機者の減少につとめたこと、脱施設化により主にナーシングホームを退所した障害者が増加したこと、障害児の親が高齢化して子どもの受け入れ先を探し始めたなどの背景を反映したものである。
 統合型の雇用サービスの利用者数の増加は1996年から1999年の間には22,000人にすぎなかったが、施設型の就労・非就労サービスの利用者数の増加は63,000人にも達していた。このことは多くの州が施設型の就労・非就労サービスの提供に依然として力を注いでいることを示している。
 また、投じられた費用という点からみると、統合型の雇用サービスへの支出額がADDの予算全体に占める割合は1988年の12%から1996年の22%、1999年の26%と伸びを示しているものの、施設型の就労・非就労サービスに対してはおよそその3倍もの費用がつぎこまれている。
 ここでひとつ注目しておかなくてはならないのは、統合型の雇用サービスでもなく、施設型の就労・非就労サービスでもない地域型の非就労サービス(Community-Based Nonwork Services)という新しいサービス概念が登場したことである。このサービスが調査に対する回答のひとつという形で登場したのは1993年のことであり、調査項目のひとつとして正式に位置づけられたのは1996年からのことである。現在までのところ、このサービスに対する明確な定義や共通理解は確立されていないが、レクリエーション、技術訓練、ボランテイア活動などが行われる場であり、参加者の大半は障害のない人々である場のことを指すとされている(Community Integration、Community Participation Servicesなどと称されている)。1996年には40,000人以上が、1999年には50,000人がこのサービス提供を受けており、多くの州がこのサービスに対して熱心に取り組みはじめている。このサービスに投じられている金額が大きい州においては統合型の雇用サービスもすすんでいるという傾向がみられるというが、このサービスの充実が障害者の求職活動を疎外するという関係者の意見もある。最終的に、このサービスが統合型の雇用サービスを促進材となるのか、あるいはサービスのひとつの選択肢として確立されていくのかは今のところ明確ではない。
 いずれにしろ、米国の発達障害分野では統合型の雇用サービスの利用者数だけでなく施設型の就労・非就労サービスの利用者数もともに増大させていることがわかる。この事実は、「ノーマライゼーションなどの考え方にもとづき障害者の社会参加がすすんだ結果、施設から雇用へという動きがすすんできている」という単純な背景説明だけでは理解できないものである。どうやら、「援助付き雇用に代表される統合型の雇用サービスは従来の施設型の就労・非就労サービスにとって代わった」というこれまでしばしばなされてきた説明よりも、「援助付き雇用に代表される統合型の雇用サービスは従来の施設型の就労・非就労サービスに対して付加的、追加的に登場したものである」という説明のほうがより正確なようである。そのことは、援助付き雇用のサービス提供機関の多くは援助付き雇用の開始によって新たに始められたものではなく、シェルタードワークショップなど従来のサービス提供機関のサービスメニューのひとつに加えられた形で行われていることなどとあわせて考えるとうなづけるところである。
(参考 http://web1.tch.harvard.edu/ici/publications/pdf/rp28.pdf)


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