投稿 援助付き雇用に関する10大ニュース
 1993年の米国における援助付き雇用(Supported Employment)および障害者雇用に関連した10大ニュースが発表された。本稿がお手元に届く頃にはいささか旧聞に属しているかもしれないが、最近の米国における職業リハビリテーションおよびその周辺での傾向を知るうえで役に立つのではと思い、その要点をご紹介したい。
1.リハビリテーション法第6章C節の存続決まる
 リハビリテーション法による援助付き雇用のための財源を定めた部分としては第1章、第3章および第6章C節の3種類がある。第1章は援助付き雇用を含めた職業リハビリテーションのサービス全般のための、第3章は州全体のサービス体系の変更のための、そして第6章C節は援助付き雇用サービスのためだけの財源である。政府は第6章C節を廃し、第1章に統合する形での予算案を提出したが廃案とされた。これにより、援助付き雇用の重要性と独自性が再確認された。(本紙第91号参照)
2.シェルタードワークショップを雇用の成果(employment outcome)として認めず
 1988年に制定され、雇用関連手続きについてのone-stop service(一度の手続きで、必要とする関連作業をすべて完了させられるように設計された行政サービス)を定めたThe Workforce Investment Act(WIA)がThe Workforce Reinvestment and Adult Education Actとして改正された。この法律の中ではリハビリテーション法のあり方についても言及されており、その改正論議のなかで、職業リハビリテーションの結果としてシェルタードワークショップにおける就労に結びついたことをもって雇用されたとみなすという提案がなされた。しかし、これは2001年のリハビリテーション法改正の際に既に確認されていた、職リハの結果シェルタードワークショップへの就労に結びついたとしても雇用されたという成果としては認めないという内容を再度覆そうとする提案であったため、関係者の働きかけによってその提案内容は撤回された。(本紙第85号参照)
3.自営業(self-employment)に対する注目の高まり
 職業リハビリテーションの目標として自営業もしくは企業設立をすることに注目が高まった。1996年には職業リハビリテーションの結果として自営業を開始した者もしくは企業設立にいたった者はわずかに2.6%であったのが、現在では18%にも達している。しかし、こうした傾向に対して数多くの問題も残されている。自営業や起業に対して支援策もほとんどなく、リハビリテーション関係者が自営業や企業をあまりすすめないことに加えて企画や財源上の問題なども残されている。また、およそすべての州において、自営業などについて定めた施策はあるものの具体的な支援策はほとんどなく、関係者の関心も低いうえに障害者を自営業などに結びつける技術を備えていないことも問題として指摘されている。
4.自己決定(self-determination)の重視
 自己決定の要素を職業リハビリテーションの過程にとりこもうとする動きが以前にもまして大きくなりつつある。サービス機関の多くは、障害者自身にインフォームド・チョイスに関する知識を身につけることを支援したり、自分自身でどのようなサービスと選択肢があるかを判断して選べるように仕向けようとしつつある。
5.職場における障害者差別に対する補償増加 
 米国最高裁判所が障害をもつアメリカ人法(ADA)の影響の及ぶ範囲を狭めようとする判決をだしているにもかかわらず、雇用上の差別に対する不服申し立てに基づき多くの和解がなされ、金銭的な補償がもたらされている。シアーズ社、ハニウェル社などの大企業でもこうしたことが生じている。
6.雇用枠の拡大めざした連邦補助金充実
 政府はインディアナ州をはじめ5つの州に対して、障害者手当の受給権を失わないまま障害者を雇用に結びつけるもしくは職場復帰させることを支援するために50万ドルを交付すると発表した。これを含め、政府は既に40州およびワシントン特別区に対して、働く障害者に対するメディケイドによる障害者手当枠を広げさせるために5千9百万ドル以上を交付しており、これにより政府発表では3万人近くが障害者手当を受給したまま職場復帰したという。また障害者雇用政策局(Office of Disability Employment Policy、旧障害者雇用大統領委員会)はシェルタードワークショップなどの福祉的就労の場から雇用の場への移行を可能にするために三百万ドル、one-stop serviceをつうじての障害者のキャリアアップのために二百五十万ドルを交付した。
7 障害者雇用促進のためのインセンティブ策利用されず
 障害者の雇用促進、定着、職場改造などをねらった障害者雇用促進のためのインセンティブ策には下記のものをはじめさまざまなものがある。しかし、連邦会計検査院(GAO)の長期にわたる調査結果によるとこれらを活用しているのはほんの少数の企業だけであることが判明した。
Work Opportunities Tax Credit (新規の障害者雇用に対して最初の1年の給与のうち、120時間から400時間までは12%、400時間以上の場合は40%の賃金補助。上限6千ドル)
Disabled Access Credit(中小企業を対象として、障害者受け入れのためにの改造等に費やした費用のうち、250ドルをこえて1万250ドルまでのうちの50%。つまり最大5000ドルまでの税額控除)
Architectural and Transportation Barriers Removal Deduction(全企業を対象として、障害者受け入れのための改造等に費やした費用のうち、年間1万5千ドルまでを税額控除)
8.障害者雇用がすすむ13州の秘訣
 ある調査によると全米の中でも13州で障害者の雇用がすすんでいるとのことであるが、その秘訣は次のとおりである。
 ・明確な目標と情報収集
 ・職リハ機関による中心的なリーダーシップ
 ・異なる機関の連携と協力
 ・職場における訓練と職場開拓
 ・人間関係におけるコミュニケーションの円滑化
 ・地域の主体性
 ・柔軟性と変化に対する関心
(出典:Research to Practice)
9.援助付き雇用で顕著な賃金上昇
 この10年間にわたる分析により、援助付き雇用のもとで働く障害者の賃金はシェルタードワークショップで働く障害者のそれを大きく上回っていることが明らかになった。ところが、この両者のもとで働く障害者の障害の種別や程度には大差がないことがわかった。つまり、援助付き雇用のもとで働くことになるのか、あるいはシェルタードワークショップのもとで働くことになるのかは、障害者の障害特性などによってではなく制度や財源によって決定されていることが明らかになったのである。
(出典はSheltered vs. Supported Employment: A Direct Comparison of Long-Term Earnings Ourcomes for Individuals with Cognitive Disabilities)
10.全米障害者評議会が大統領に提言
  全米障害者評議会(National Council on Disability)は、Ticket to Workシステム(Ticketとは障害手当を受給しながら雇用されることを可能にするために社会保険庁(SSA)が発行する証明書のこと)をよりわかりやすくなじみやすい制度とすること、職業リハビリテーションにおける仕事の質の向上やキャリアアップ、より多くの障害者の雇用に結びつくための努力などを求めた報告書を大統領に提出した。
 
出典:The Top 10 Stories in the Employment of People with Disabilities for 2003、「InfoLines」(Training Resource Network発行)Vol.14, No.10号より。なお同紙は米国の援助付き雇用の最新の動きを伝える、年10回刊行のニュースレター。最近は安価なウェッブ版も刊行されるようになったので便利。なお、ウェッブサイトhttp://www.trninc.comから購読申し込みができる。
                          エンパワメント研究所 久保耕造

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