障害をもつアメリカ人法と障害者の人権
The Americans with Disabilities Act and the Civil Rights of Persons with Disabilities 
       社会福祉法人 東京コロニー        事務局次長 久保 耕造
       Kozo Kubo,
       Vice Secretary General,
       Tokyo Colony
・はじめに
 1990年にアメリカで制定された「障害をもつアメリカ人法(The Americans with Disabilities Act of 1990、略称ADA)」は、わが国の関係者の間において”ADAフィーバー”とも呼ぶべき大きな注目と関心を集めた。その理由には様々なものが考えられるが、その最も大きなものは、同法が障害者に対する「保護」を目的としているのではなく、障害者に対する「差別禁止」を目的としていることにある。
 差別禁止というのは機会均等の保障あるいは人権保障ということの別の表現である。言いかえると、ADAによりアメリカにおける障害者に対する人権保障の体系が確立したともいえるのであり、そのことがADAに対する大きな注目を生み出した原因であったといえるのである。
 本稿ではADAの制定の経緯およびその概要について紹介し、同法の人権保障としての側面について確認するとともに、アメリカにおけるADA以外の障害者の人権保障に関連する法制度についても紹介したい。
(1)ADAとは
 ADAは1990年7月26日にブッシュ大統領が署名したことによりアメリカで成立した法律であり、正式な名称は「障害に基づく差別の明確かつ包括的な禁止について定める法律(An Act to Establish a Clear and Comprehensive Prohibition of Discrimination on the Basis of Disability)」(公法101−336)である。正確にいうと、障害をもつアメリカ人法(ADA)というのは、同法文中における同法の名称の引用符である。
 もちろんADA制定以前においても、アメリカには障害者に対する先進的な制度はいくつも存在していた。それどころか、州のレベルではADAの内容よりもすすんだ制度をもっているところすらあったほどである。しかしながら、連邦政府のレベルの制度でみると不十分な点も多く、今回のADAはそれを補完するものとして制定されたといえる。
 一部のマスコミによってセンセーショナルな報道をされたために、ADAはそれだけでアメリカにおける障害者に対する権利保障やサービスについてすべて包括的に定めた法律であるかのような誤解をもたれていることがあるが、そのようなことは決してない。ADAは、これまでに定められていなかった制度についてのみ定めている法律であって、逆にいうと、既に法律が整備されていることについてまでは重複しては定めていないのである。そのため、たとえばADAには障害者の生活と福祉に大きく関連する教育、医療、住宅、所得保障などについては何も述べられていない。
 しかし、このことは、ADAが障害者に対する差別禁止を法律によって定めたということに対する評価をいささかも減じるものではない。とりわけ、民間企業における雇用や交通機関・公共的施設における差別禁止を明確化したことの意義ははかり知れず、米国社会のみならず世界の障害者関係制度や関係者に大きな衝撃を与えるものとなった。
(2)制度的な背景
 ADA制定以前のアメリカにおける差別禁止の基本的な法律としては1964年公民権法(The Civil Rights Act of 1964)と1973年リハビリテーション法(The Rehabilitation Act of 1973)という二つの法律が存在していた。
 @公民権法
 公民権法は、公共的施設・雇用・住宅・教育など社会生活上の重要な要素における、人種、性別、出身国、宗教に基づく差別を禁止したものである。しかしながら、同法は黒人を中心とした民族的マイノリティや女性を中心的な対象者としており、障害者はその対象に含まれていなかった。
 そこで、公民権法と同じ水準の差別禁止と権利保障を障害者にもたらすものとして提案れたのがADAであった。そのため、ADAの中には、考え方の枠組みが公民権法の内容そのままの部分もあるほどである。つまり、ADAは公民権法の対象者を障害者にまで拡大したものであるということもできるのである。
 Aリハビリテーション法
 公民権法の適用がないもとで、不十分ながら障害者にとっての公民権法しての役割を果たしてきたのがリハビリテーション法であった。同法は障害者に対する差別禁止をうたっているが、その適用範囲が限定されている。つまり、@連邦政府(同法第501条)、A連邦政府から補助を受けている事業(同法第504条)における差別禁止、B連邦政府機関に年間2,500ドル以上の契約高をもつ企業(同法第503条)に対する採用や昇進にあたっての差別是正措置(affirmative action)の義務づけというように、以上の三者に対してのみ差別禁止がうたわれていたのである。逆にいえば、州政府の事業で連邦政府の補助金を受けていない単独事業であるとか、連邦政府との間に年間2,500ドルに達する契約高をもたない企業における障害者に対する差別禁止は法律によっては禁止されていなかったのである。
 ADAのもとでは、これらの制約が基本的にとり払われた。つまり、ADAはリハビリテーション法の適用範囲を州や地方自治体あるいは民間企業にまで広げたものであるということができるのである。
(3)制定の経緯
 以上のような、ADA制定以前において障害者の差別禁止法として機能していた二つの法律のもつ問題点を指摘し、ADAが制定される直接のきっかけをもたらしたのは、米国障害者協議会(当時はNational Council on the Handicapped、現在はNational Council on Disability)と呼ばれる機関が発表した「自立へむかって(Toward Independence)」と題された一冊の答申書であった。
 この機関はリハビリテーション法によってその設置が定められているのであるが、アメリカの障害者に関する制度や法律が障害者本位のものになっているかどうかをチェックするオンブズマン的な機能を備えた、全米各地の15人の委員から成る独立した連邦政府機関である。
 この機関が前述の答申書で障害者差別禁止のための包括的な法律の必要性を指摘したのが1986年のことであった。その後、この指摘に基づいた法律が1988年に議会に上程されながらも審議未了で成立しなかったが、その困難を乗り越え、1990年になって成立に至った。これを支えたのは、障害の種別や支持政党の違いをこえた障害者団体の団結と、ブッシュ大統領自身を含めた、超党派の数多くの議員の支持であった。
(4)ADAの内容
 ADAは5章から成っており、具体的には第1章は雇用、第2章は公的サービス、第3章は民間事業体の運営する公共的施設およびサービス、第4章は電気通信、第5章は雑則となっている。
 @雇用について
 ADAで障害者雇用について定められている内容を一言でいうと、従業員15人以上の民間企業における「有資格障害者(qualified individual with a disability)」に対する「必要な配慮(reasonable accommodation)」の義務づけということになる。ただし、ADAの雇用に関する部分は1992年7月26日から発効し、その後2年間は従業員25人以上の企業しか対象とならないため、最終的に従業員15人以上の企業が対象となるのは1994年7月26日以降ということになっている。
 「有資格障害者」(適格障害者などと訳されることもある)というのは、ある仕事の中心的な業務内容を遂行する能力をもっている者という意味であり、有資格といっても、何かの試験に合格した者という意味ではない。求人広告に記載されている条件をみたしている人という程度に理解していただく方が適切かもしれない。
 また、「必要な配慮」というのは、ある障害者を職場に受け入れるために必要とされる対応策のことであり、たとえば、車いすを使用する者を受け入れるためにスロープを設けたりすることなどをさしている。さらに、このようなハード面での対応だけでなく、採用試験において配慮を行なったり、仕事を変則勤務とすることなどというソフト面での対応もそこには含まれる。
 ただし、このような対応を企業が行なうことがその企業にとって「重大な支障(undue hardship)」となることが証明された場合は、このような義務づけからは免除されることになっている。「重大な支障」とは「必要な配慮」を行なうことにより、企業が倒産してしまう場合や、企業の業務内容の変更がせまられる場合であるとされている。
 A公的サービス
 前述したように、ADA制定以前にも、リハビリテーション法に基づき、アメリカの連邦政府内や連邦政府から補助金を受けている事業などにおける障害者差別の禁止は定められていたが、州政府や地方自治体、あるいはこれらが行なう事業で連邦政府の補助金を受けていない事業における障害者差別までは禁じられていなかった。ADAでは、州政府や地方自治体においても連邦政府と同様に障害者差別を禁ずることを命じている。
 B交通機関について
 公共事業体や民間企業が運営する交通機関(長距離鉄道、地下鉄、路線バス)について、ADAは原則としてすべて障害者の利用が可能であるようにすることを命じている。
 ただし、このことは既存の車両やバスあるいは歴史的骨董価値を有するものに対してまでは求められていない。ADA制定後に新たにバスや車両を購入・リースあるいは改造する際に限って障害者の利用が可能となる配慮が求められている。また、路線バスが運行されていないような地域では、障害者のニーズに対応して随時運行される送迎サービスを設けることがADAでは義務づけられている。 その実施については、経過措置として電車、バス、駅舎などのケースによって様々な年限の実施猶予期間が定められており、最長では30年というものまである。また、雇用の場合と同様に、そのことを実施することが、それを行なう事業体や企業にとって「重大な支障」となる場合はこのような義務づけが免除されることになっている。
 C公共的施設について
 公共的施設というと学校や公民館のようなものを思い浮かべるかもしれないが、ADAでいう公共的施設というのは不特定多数の集まる場所という意味である。もちろん、学校や公民館あるいは公演や図書館なども含まれれるが、その他、映画館、デパート、銀行、ガソリンスタンド、コインランドリーといった場所をさしている。ADAでは、これらの場所を原則として障害者の利用可能となるように命じている。
 障害者が利用が可能にするというと、建物の構造上のことを思い浮かべがちであるかもしれないが、それだけではなく、たとえばレストランにおけるメニューを点字で用意するなどということも含まれている。しかし、たとえば必ずしも盲人のために点字のメニューを用意しなくてもレストランの従業員がメニューを朗読することで代えることもできるというような柔軟性も同時に認められてる。  交通機関の場合と同様に公共的施設の場合も、改造の手間も費用もかからないものを除けば、既存のものまですぐに改造することは求めれてはいない。原則として、ADA制定後に改築や新築される際にのみ障害者に対する配慮を行なうことが義務づけられている。また、その実施が企業にとって「重大な支障」であることが証明された場合の義務免除規定も同様である。
 民間企業の運営する交通機関や建物の場合は、初回の違反に対しては5万ドル以下、2回目以降の違反に対しては10万ドル以下の罰金が科せられる。
 DTDDについて
 アメリカの聴覚障害者のコミュニケーション手段として一般的に用いられているのがTDD(Telecommunications Device for the Deaf)と略称される機器である。これは、日本の聴覚障害者の間ではまったく用いられていないシステムであるが、電話とワープロがあわさったようなもので、聴覚障害者はこれを用いて対話式に意志疎通を行なうことができる。アメリカでは、日本のようにファックスが普及しておらず、そのため高額なこともありTDDの果たす役割には大きいものがある(TDDの購入などに対しては補助があるが、ファックス購入に対しては補助がない)。 しかし、TDDの問題は、この機器を所有している者同士の間においてしか機能しないということである。つまり、一般にはこのような機器を所有していない健常者と、TDDをもっている聴覚障害者の間ではTDDは役に立たないシステムとなっている。これを解決するために、ADAは、電話会社がこの両者の間にたっていわば「通訳」としての役割を果たす<、つまりリレー・サービスを行なうことを命じている。それも24時間体制で、通常の電話料金と同等の料金でサービスを行なうことを求めている。
(5)ADAにおける差別禁止と人権保障
 ADAの制定の背景、経緯、概要について述べてきたが、次にADAの人権保障としての側面について確認しておきたい。
 @具体的な差別禁止
 これまで述べてきたように、ADAは雇用、公的サービス、交通機関、公共的施設、コミュニケーションなどという社会生活の重要な場面における、障害者に対する障害ゆえの差別を包括的に禁止した法律であるが、まず、この「差別」という言葉の意味について確認しておく必要がある。というのも、この差別という言葉は日本語におけるそれとは若干ニュアンスを異にしているからである。
 日本では差別という言葉は、ある意味で心理的・情緒的・感情的な響きをともなって用いられることが多いが、ADAにおける差別という意味にはそのようなことは含まれておらず、非常に具体的である。たとえば、ADAでは、障害がなければ誰でも受けられる「バスに乗る」という具体的なサービスを障害ゆえに受けることができないということをさして差別としているのである。そもそも、ADAの文脈でいう差別という言葉はdiscriminationの訳であるが、この言葉のもともとの意味は識別あるいは区別するというものであり、そこには情緒的な響きや価値観は含まれていないのである。
 A機会均等保障としての差別禁止
 別の言い方をすると、ADAでは機会均等(equal opportunity)が保障されないことをさして差別としているともいえる。たとえば、障害がなければ問題なく雇用されるのに、等しい能力をもちながらも障害があるゆえにその機会を奪われることが差別であると理解されるのである。
 ご存じのように、多民族国家アメリカにおいてはこの機会均等という概念が社会を支える重要な柱のひとつとなっている。そして、均等な機会が提供あるいは保障されれば、その後は自由な競争を行なうというのがアメリカ社会なのである。つまり、アメリカでは、機会均等と自由競争という対の概念は何よりも重要なものであり、誰でもが認める数少ない共通の原理であるともいえる。さらに、この誰でもが認める権利を保障しようとしたからこそADAは成立しえたともいえるのである。
 B「必要な配慮」と差別禁止
 ADAにおける差別いう意味と日本におけるそれとの意味にはもうひとつの大きな違いがある。日本では何らかの発言や行為の結果の内容が差別か否か問われる。このことが、時として行政にみられる「ことなかれ主義」と称されるような態度を生み出す原因ともなっている。
 これに対して、ADAでは機会均等保障のための積極的な措置、つまり「必要な配慮」をとらないことが差別とみなされるのである。つまり、日本と違ってADAの考え方の枠組みのもとでは何もしないことが差別を生むことにもつながるのである。この点では、ADAにいう差別の意味の方が日本におけるそれよりも数倍厳しい意味をもっており、さらにはそれを法律で禁じたことの意味はなお重みをもっていることがお分りいただけるのではないだろうか。
 C「保護」法ではないADA
 また、冒頭でもふれたように、ADAは障害者に対して何かを与えるという意味での「保護」をもたらすものでは決してない。その本質は、繰り返し述べてきたように「差別禁止」にある。言い換えると、ADAは障害者が何かを行なうことを求めた法律ではなく、障害者を取り巻く社会や環境などといった周囲の側に様々なことを求めているものである。しかし、そのことは、障害者の側は座して待っていればよいということを意味しているわけではない。むしろ、障害者の側もADAに基づく制度を積極的に活用するのでなければ意味をもたない法律であるとさえいえるのである。その意味では、ADAは優れて障害者の「権利擁護」のための法律であるということができる。
 たとえば、雇用のことに関していえば、わが国の制度のもとでは雇用率という形で障害者に対して優先的に雇用の場の確保がはかられるようとするのに対して、ADAでは雇用主が能力のある障害者を拒否してはならないと定めている。このことは言い換えると、障害者の側もまずもって仕事をこなす能力を求められているということでもある。因みに、雇用に限らず障害者に対して優先的な枠組みを確保する制度を総称して割り当て制度(quarter system)と呼ぶが、アメリカではこのような考え方は機会均等の考え方に反するとして何よりも敬遠されている。交通機関に関する定めも、わが国においてはまず何よりも重視されるのが障害者の料金割引であったりするのとは大きな隔たりをみせている。
 D人権保障法としてのADA
 国連連合広報センターのパンフレット「人権」によれば、人権とは「すべての人に固有の権利であって、それなくしては人間として生きることが出来ないもの」とされている。また、世界人権宣言によれば、そうした人権は「人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的もしくは社会的出身、財産、門地その他の地位またはこれに類する以下なる事由による差別をも受けることなく」すべての人に享有されるべきものであるとされている。
 こうした定義に基づけば、雇用・公的サービス・交通機関・公共的施設・コミュニケーションなどという、文字どおり「それなくしては人間として生きることが出来ないもの」に関する障害という「地位またはこれに類する」事由による差別禁止を定めたADAが人権保障法そのものであることは自明である。
(6)アメリカにおけるADA以外の人権保   障法
 ADAが成立する以前の1970年代および1980年代を通じて、アメリカにおいては障害者に対する差別や不当な取扱などを禁じたいくつかの法律が成立した。それらは次の6つほどのタイプにわけて考えることができる。
 @連邦政府によって運営もしくは補助された事業における差別禁止
 前述したようにリハビリテーション法(Rehabilitation Act of 1973)のもとでは連邦政府によって運営もしくは補助された事業における障害者差別を禁止し、連邦政府に対して年間2,500ドル以上の契約高をもつ企業が障害者の採用や昇進に際して差別是正措置をとることを命じている。
 また、同法第Z章では各州が障害者の人権擁護のための機関を設置することに対して補助金を出せることになっているが、残念ながらこの条項に対して予算措置がなされたことはない。
 A連邦政府によって運営もしくは補助され た施設や事業に対するアクセス保障
 1968年に制定された建築物障壁撤去法(Architectural Barriers Act)は、1969年以降に設計、建設もしくは改築される建物で連邦政府からの補助金を交付されているものに対して、身体障害者に対するアクセシビリティを確保することを義務づけた法律である。それ以降この法律は改正を重ね、ワシントンD.C.の地下鉄関連施設やリースされた建物などにまで適用範囲を広げていった。また、この法律の施行を強化するために建築物および交通機関における障壁改善命令委員会(Architectural and Transportation Compliance Board)がリハビリテーション法に基づいて設置された。
 B適正な教育を無料で受ける権利
 1975年に制定された障害者教育法(現在の名称はIndividuals with Disabilities Education Act、制定当時の名称は全障害児教育法)第3条は、すべての障害児が適正な公教育を無料で受けられる権利を保障している。
 同法では適正教育をめぐる学校側と親の間の争いを解決するための行政的手続きについて明記しており、同法もしくはその他の差別禁止法に基づいた訴訟において親が勝訴した場合の法定費用の補償についても明記している。
 C施設内における公民権の保障
 1980年に施設入所者公民権法(Civil Rights of Institutionalized Persons Act)が制定された。この法律は、施設入所者の憲法上保障されている権利が侵害された場合に、司法省が州や地方自治体を相手どって訴えることができることを認めたものであり、この場合の施設には刑務所、精神病院、精神薄弱者施設が含まれている。
 D発達障害者および精神障害者に対する権 利擁護保障
 発達障害の法律的な定義は、22歳以前に生じた身体的もしくは知的な障害による重度の慢性的障害であって、日常生活の複数の部分に重度の機能的制約をもたらし、生涯にわたってサービスを必要とするものとされている。実態的には精神薄弱、てんかん、自閉症、脳性まひなどを指している。
 1975年に成立した発達障害援助よおよび権利章典(Developmental Disabilities Assistance and Bill of Rights Act)第110条は、次の2点を定めている。ひとつは、発達障害者が、最も制約が少なく、能力を最大限に引き出せる条件のもとでの適切な処遇、サービス、ハビリテーションを受ける権利。もうひとつは、適切な処遇を行なわない生活施設に対する連邦政府や州の補助金交付の禁止である。また、生活施設か否かを問わず、発達障害者のためのすべての施設の最低基準に、精神薄弱者のための中間施設に適用されているメディケイドに定められた基準を用いることを定めた。
 また、同法の第113条では、州が発達障害者の権利擁護機関を設置するための補助金を交付することを定めている。この機関は発達障害者が適切なケアや処遇が受けられることを保障し、それが行なわれなかった場合に適切な行政的救済措置をとることが目的とされている。同機関は、単一で他の機関から独立して設置することとされており、その結果、各州には発達障害審議会(Developmental Disabilities Council)が設置された。
 精神障害者のための保護および権利擁護法(Protection and Advocacy for Mentally Ill Individuals Act of 1986)は精神保健のための全州的な権利擁護の事業を行なうことに対しての補助金について定めており、この事業には精神障害者の権利擁護や権利侵害に対する調査権限が認められている。この事業は発達障害者のための権利擁護機関によって直接もしくは契約に基づいて運営されることになっている。
 E先天性障害児に対する医療保障
 児童虐待防止および処遇および養子に関する修正法(Child Abuse Prevention and Treatment and Adoption Reform Act of 1978)により、先天性の知的もしくは身体的障害をもつ児童に対して、必要とされる医学的治療を差し控えることを防止する施策がもりこまれた。
 Fその他
 その他、公民権委員会修正法(Civil Rights Commission Act Amendments of 1978)により、公民権委員会が障害に基づく差別の問題を対象に含むことになった。同委員会は事実解明、情報提供などはできるが、強制権限は有していない。
 法律サービス協会修正法(Legal Services Corporation Act Amendments of 1977)は、そのサービス対象者に障害者を含めた。法律サービス協会は、地域で必要とする人々に対して法律的なカウンセリングや紹介サービスを行なっている団体であるが、この協会に対して、同法では高齢者や障害者に対して優先的に対応することを求めている。 公的サービス修正法(Civil Servoce Reform Act of 1978)は連邦政府内の雇用の徹底した改革を要求し、必要な場合は盲人には朗読者サービスを、ろう者には手話通訳を配置することを各政府機関の長に求めている。
・おわりに
 冒頭にも述べたとおり、ADAはそれ以外の人権保障関連法とあわさって、アメリカにおける障害者の人権保障法の体系を完成させたといえる。その内容は、背景の異なるわが国にそのまま直輸入できるものではないが、その実現をもたらした、障害者を中心とした当事者パワーには学ぶべきところが多い。また、保護を求めるのではなく、ひとりの人間としての権利を保障するという観点からの制度作りという点も、今後のわが国の制度作りの方向に大きな示唆を与えてくれるものとなっている。
 ADAの公共的施設におけるアクセスの保障を求めた部分が本年1月に発効した直後にADAをめぐる最初の訴訟がおこされた。また、4月にはADAの修正法も上程された。このような、様々な動きの中でADAの詳細部分に関する肉付けが行なわれていくことになると思われる。今後とも、その行方に注目していきたい。
(参考)
1.Summary of Existing Legislation Affecting Persons with Disabilities(U.S.Department of Education、1988年8月)
2.米国障害者法の制定と展開(定藤丈弘、「福祉労働」第49号、9頁−24頁、1990年12月)
 
                           (1992年7月28日)

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