ADAのつぎはCASA
          エンパワメント研究所 主任研究員 久保 耕造
・はじめに
 世界的な注目と話題を集めた障害をもつアメリカ人法(ADA)が1990年に制定されてから約6年が経過した。この間、ADAに関する連邦規則の制定や判例がいくつか出されたことなどを通じてADAは本格に動き始めてきた。こうした中で、ADA制定当時からポストADAの最大の課題として注目されていた、全米レベルでの介助者制度制定の動きが大きく浮上しはじめてきた。
・経過
 わが国における障害者もしくは高齢者介助というと、いわゆるボランティアと称される無償のサービスが思い浮かべられがちである。これに対して、米国における介助者制度は、一般的には、有給のサービスとして行われている。そして、介助される者と介助者との間には雇用関係が存在すると考えられている。
 わが国でも、こうした米国流の介助者制度に学び、各地の自立生活センターなどを中心に、有給の介助者派遣サービスを提供し始めているが、実は米国には連邦レベルでのつまり全国的な介助者制度は存在していない。米国における介助者制度に関するいくつかの先進的な事例はもあくまでも州や郡などの限られた地域レベルでのものでしかないのである。
 こうした問題点を最初に公式に指摘したのは、世界障害研究所(World Institute on Disability,WID)であった。故エド・ロバーツと現教育省特殊教育およびリハビリテーション・サービス担当次官ジュディ・ヒューマンのリーダーシップのもとで、同研究所は設立当初から介助者(Personal Assistance Services, PAS)問題に大きな関心を寄せていたが、1991年の「Personal Assistance Services: A Guide to Policy and Action」の刊行の頃から、その制度化の動きは本格化し始めてきた。また、全国自立生活協議会(National Council on Independent Living)も1994年に、介助者制度についての提言をまとめるなどの作業を行い、この問題に積極的に取り組んできた。
 そのような中で、全国的な介助者制度の制定を推進しようとする障害者団体の多くが支持する民主党、つまりクリントン政権が誕生した。そして、このクリントン政権が最初に着手したのが国民健康保険制度であった。こうした動きのなかで、介助者制度は独立した法案としてではなく、その一部としてとりこまれる形となってしまった。そして、ご承知のように国民健康保険制度が頓挫する中で介助者制度も自動的に立ち消えとなりかけてしまったのである。
 これに対して、ADA制定の中心的な推進役でもあった、障害者が利用できる公共交通機関を要求する障害者会議(American Disabled for Accessible Public Transportation, ADAPT)(リーダーは故ウェイド・ブランク)はその略称を変えないままに、名称を介助者制度即時制定要求会議(American Disabled for Attendant Programs Today)へと変え、介助者制度の制定にむけて取り組みを開始した。そして、その法案の草稿を提起するにいたったのである。
・背景
 ADAPTおよびWIDによれば、770万人のアメリカ人が日常生活動作を行ううえで何らかの介助を必要としている。このうち、300万人は必要とする介助を得られていない。さらにこの300万人のうち200万人が在宅であり、100万人が施設(ナーシングホーム)入所者である。しかし、この100万人は地域での介助者が得られれば施設を退所し地域で生活できるとされている。かつて行われたハリス社の調査によれば、地域で生活する障害者のうち、なんらかの行動上の制約を受けている者の56%は介助者が得られないことに起因しているとされている。
 こうした実態からだけでなく、財政的にも地域における介助者制度は施設入所よりもはるかに経済的であるとされている。現在提案されている介助者制度は新たな予算を要求しているのではなく、現在ナーシングホームに費やされている予算の25%を介助者制度に転用することを求めている。さらに、施設入所にはひとりあたり年間3万ドルを要するのにたいして、地域で介助者を提供する制度では年間ひとりあたり8千ドルしかかからないという。
 保健財務局によれば、たとえば、1991年にナーシングホームに費やされた金額は約599億ドルである。そのうち、284億ドルはメディケイドから支出され、258億ドルは本人および家族によって支払われ、39億ドルはそのメディケイド以外の公的資金から支出され、18億ドルはその他の私的資金から支出されているという。ている。メディケイドからははこの年に総額で345億ドルが支出されているが、なんとそのうちの82%がナーシングホームのために費やされているのである。メディケイドのうち、在宅や地域でのサービスに費やされたのはわずか13%であり、4%が知的障害者の施設のために支出されている。こうした予算を在宅障害児のために転用することも認められてはいるが、全米脳性まひ者協会(UCP)によれば、そうした事業を行っているのは半数以下の22州にとどまっている。
 こうした中で、地域で介助者を必要としている者の79%(ハリス社の調査では93%)はきちんとした制度として介助を得ているのではなく、あくまでもボランティアの形でしか介助を得られていないという。
・概要
 ADAPTによれば、この法案はCommunity Attendant Services Actと呼ばれ、略称は頭文字をとってCASAと称されている。CASAというのはスペイン語で家または家庭という意味もあり、地域で提供される介助者制度ということにひっかけた表現となっている。
 CASAは次の9章から成っている。
 第1章 法律の名称
 第2章 ニーズの現状、原則および目的
 第3章 用語の定義
 第4章 事業の概要
 第5章 対象者
 第6章 選択肢と要件
 第7章 サービスの質と保証
 第8章 州の計画
 第9章 財源
 その詳しい内容は紙数の都合でご紹介できないが、その柱となる部分は第2章Bの原則の部分に述べられている。そこではCASAの原則として次の12点があげられている。
 1.介助を受ける本人の主体性が確保される
 2.介助は施設ではなく地域で提供される
 3.介助は医学的診断、障害の種別や年齢によるのではなく必要に応じて提供   される
 4.介助は住居だけでなく、学校、職場、レクリエーションの場、教会など様   々な生活場面で提供される
 5.介助は1日24時間、週に7日提供される
 6.介助には緊急時への対応がとられる
 7.所得に応じて費用負担がある。また、労働意欲を阻害しないようにする
 8.介助提供の形態は現金給付、介助者の派遣、利用券など様々なものがある
 9.希望者には介助者への対応、指示などについての任意の訓練が行われる
 10.介助者へは生活できる給与が支払われる
 11.介助は介助者と介助を受ける者との間の合意に基づいて行われる
 12.医療関連業務が非医療従事者によって提供される
 
本稿は「米国におけるポストADA最大の課題 CASAとは何か」(「福祉労働」第72号掲載)に加筆訂正したものです。

  ADAについて書かれたものの目次のページへ戻る