日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.204

授業が生きる肢体不自由教育のコツ

 平成23年度ももうすぐ終わろうとしています。大人になってからの1年はあっという間に過ぎていきます。歳を重ねると、ますますその感は強くなっています。子供のころの1年は時間がゆっくり過ぎていき、夏休みやクリスマスが待ち遠しくて仕方ありませんでした。

 教員として経験を重ねると、授業も以前行ったものに手を加えたり、題材を変えたりして行うことも増えてきます。少しずつ良い授業ができるようになってきます。しかし、このことを子供の側からみたらどうでしょうか。最初のころの不慣れで下手な授業を受けた子供は不運としか言いようがありません。

 子供たちは一度しかその授業を経験することができません。ですから、最初から良い授業がしたい、子供たちがわくわくして待ち遠しく思ってくれるような授業ができたらいいと考えながら、今回の特集を組みました。授業の準備から事後の改善に至るまでを、いくつかの「コツ」として示しました。

 そして、特別支援学校の大きな特徴はチームで授業を行うことがとても多いことだと思います。1人で頑張っても良い授業はできないのだということを改めて感じながら、原稿をまとめました。授業を組んでいる教員同士で色々な話をしてください。子供たちの目がキラキラするような授業づくりの達人を目指していきましょう。

(武井 純子)

 

・巻頭言
肢体不自由教育のコツを再考する
林  友三
元東京都立北養護学校長

・論説
肢体不自由教育における授業観の転回と授業の構想
安藤 隆男
筑波大学大学院教授・特別支援教育研究センター長

・解説
授業をより良くするために
編集委員会
・授業のコツ
【授業の前に】
実態把握
武井 純子
東京都新宿区立新宿養護学校主幹教諭

打ち合わせ
保坂美智子
山梨県立わかば支援学校教諭

【授業に際して】
教材・教具の活用
植竹 安彦
東京都立城南特別支援学校教諭

集中力の向上
矢野 祐子
東京都杉並区立済美養護学校主任教諭

授業の流れと子供のテンポ
引地 隆一
東京都立あきる野学園主幹教諭

【授業の後で】
継続できる記録の取り方
渡部 千尋
東京都立府中特別支援学校教諭


次の授業に向けて
大塚  恵
筑波大学附属桐が丘特別支援学校教諭

・連載講座
障害の重い子供たちの指導(3)
目と手を使う学習の意味
川上 康則
東京都立港特別支援学校主任教諭
・講座Q&A
卒業後の生活を見通した医療的ケア


・施設紹介
地域の中で〈Well ─ Being〉の実現を目指して
森下 浩明
社会福祉法人みなと舎・ゆう施設長
・基礎知識 《重度・重複障害児の健康管理5》
医療的ケアを前向きにとらえる
舟橋満寿子
東京小児療育病院小児科医師
・ちょっといい話 私の工夫
自己表現力を育むために
― 一人一人が楽器を楽しむための工夫―
野上智寿子
千葉県立仁戸名特別支援学校教諭
・学校保健と医療的ケアの今
「特別支援学校における看護師の職務内容等に関する状況調査」から見えてきたこと(2)
飯野 順子
特定非営利活動法人 地域ケアさぽーと研究所 代表理事
・特別支援教育の動向
全国小・中学校肢体不自由特別支援学級の指導に関する調査
長沼 俊夫
国立特別支援教育総合研究所 総括研究員
・読者の声
 
「性教育」を考える
星  裕貴
群馬県立あさひ養護学校教諭

 特別支援学校(肢体不自由)の高等部に赴任して、7年目になりました。その中で、最近必要性を感じている「性教育」について、書きたいと思います。

 性教育といえば、前任の特別支援学校(知的障害)のときには、性器いじりや男女間のトラブルなど、色々な問題に対処する形で行ってきました。特別支援学校(肢体不自由)では、表だった問題はほとんど見られないというのが、第一印象でした。肢体不自由によって身体がうまく動かなかったり、一人での行動が少なかったりすることから、前述のような問題が起こりにくく、表面的には分かりにくかったのです。

 しかし、実際には異性のことで頭がいっぱいになっていたり、身体の変化に戸惑いを感じていたりして、そのことで悩みを抱えている生徒もいると、強く感じるようになりました。

 「思春期」と呼ばれるこの年代の課題には、「第二次性徴」「母子分離」「仲間体験」があると、服部祥子は指摘しています。肢体不自由の生徒は、障害の程度にもよりますが、日常的に介助を必要とするため、母子分離が難しかったり、行動範囲や、ときには行動そのものが限られてしまうため、「仲間体験」だけでなく、色々な体験が不足したりすることもあります。

 身体の成長をしっかりと捉え、心の成長を感じ、仲間と心が通じ合えるような学習ができるよう、教師間だけでなく保護者とも協力して「性教育」を考え、生徒を取り巻く環境を変えていけたらと思っています。



教科指導の大切さ
酒本 伸也
鳥取県立鳥取養護学校教諭

 本校は、病弱部門・肢体不自由部門を併設した特別支援学校で、私は赴任して5年目になります。

 現在、私は病弱部門の中学部単一障がい学級で数学を担当していますが、着任前に勤務していた通常の学校での教科指導とは違った難しさを感じています。

 なぜなら、成功体験よりも失敗体験が多いために自信がもてず、すぐに学習を投げ出してしまう生徒、長期欠席や不登校で学習に空白があり、学年相応の授業を行うことが難しい生徒など、様々な学習上の困難を抱えているケースが少なくないからです。

 しかし、教科指導こそ、生徒に自信を与え、勇気づけ、生きる力を育む重要な教育実践だと思うのです。物事の真理を追究しようとする真摯な姿勢は、一つには数学を学ぶことを通して養われていくと思います。また、計算問題一つであっても、できなかったことができるようになるという経験は、新たな活動に取り組もうとする意欲を引き出してくれます。

 本誌には、障がい種別は違っても具体的な指導の参考になる実践報告があり、授業のイメージを膨らませる上で大変に役立ちます。第195号の星ひろ子先生の「認知の特性を大切にした授業づくり」では、的確な実態把握に基づいて、生徒の能力を最大限に生かした授業づくりが示されており、自分の授業を見直す上で、大変参考になりました。

 学習に空白がある生徒も、学年相応に学習を積み上げてきた生徒も、与えられる学校生活の時間は同じです。
  これからも、生徒が今もっている力を活かして、柔軟に学習を組み立てていく工夫と、質の高い授業を実践していきたいと思います。

・図書紹介
『重症児のきょうだい ねえ、聞いて…私たちの声』
『障害の重い子どもの授業づくりPart3
―子どもが活動する「子ども主体」の授業を目指して―』
 
・トピックス
美術展入賞者決定
「第5回肢体不自由教育研究セミナー」開催


・平成23年度総目次
 
■次号予告
■編集後記