日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.203

児童生徒の安全な学校生活のために

 本誌は本号で第203号を数えますが、今回初めて学校安全や危機管理について特集をしました。これらは、ある特定の部署の方が取り組むといったイメージをもちがちですが、教員、学校組織、教育委員会とそれぞれのレベルでの対応があり、教員個人として並びに教員全員で取り組むべき重要な課題であることを再認識しました。

 また、学校安全は学校だけではなく、地域と連携する視点が重要であること、さらに、一人一人の児童生徒が地域で安全な生活を送るための学校の役割という視点も、重要であることが示されました。

 論説では、学校安全の定義から特別支援学校(肢体不自由)における学校安全や危機管理の考え方について解説していただき、実践報告では、その具体的な取組について報告いただきました。

 「安全と指導」、この二つの言葉に真摯(し)に向き合い、児童生徒の安全で安心な学校生活を目指していければと思います。

(立花 裕治)

 

・写真
スポーツフェスティバル!


・巻頭言
子供が安全で、安心した学校生活を送れるために
西川 公司
放送大学客員教授

・論説
特別支援学校における学校安全
三室 秀雄
東京都立光明特別支援学校長

特別支援学校(肢体不自由)における学校安全の現状と課題
分藤 賢之
長崎県教育庁特別支援教育室指導主事
・実践報告
食事指導のリスク管理
阿部 晴美
東京都立北特別支援学校主幹教諭

安全で確実な医療的ケアをめざして
―ヒヤリハット事例の活用―
小倉 京子
千葉県教育庁教育振興部特別支援教育課指導主事


阪神淡路大震災から学んだことと学校安全
野坂 静枝
神戸市立垂水養護学校長

・調査等

震災に直面して気づく特別支援学校(肢体不自由)の役割と課題
―東日本大震災等に遭遇した教員へのインタビューから―
日本肢体不自由教育研究会 編集委員会

学校安全のためのヒント
―事故の事例等から学ぶ―
日本肢体不自由教育研究会 編集委員会

・連載講座
障害の重い子供たちの指導(2)
認知の土台となる初期感覚の発達を促す指導
川上 康則
東京都立港特別支援学校主任教諭
・講座Q&A
「個別の指導計画」の作成とその説明責任


・活動紹介
医療と教育の連携
―障害のある小児を支える地域リハビリテーション―
大森 保徳
茨城における小児の発達を支える地域リハビリテーションを考える会事務局
茨城県立つくば養護学校教諭
・基礎知識 《重度・重複障害児の健康管理4》
健康面でのリスク管理
舟橋満寿子
東京小児療育病院小児科医師
・ちょっといい話 私の工夫
作るって楽しいね!
―身体の動きに難しさのある子供へのかかわりや教材の工夫―
宮川  明
長崎県立長崎特別支援学校教諭
・学校保健と医療的ケアの今
「特別支援学校における看護師の職務内容等に関する状況調査」から見えてきたこと(1)
飯野 順子
特定非営利活動法人 地域ケアさぽーと研究所 代表理事
・特別支援教育の動向
「障害者基本法の一部を改正する法律」の公布
長沼 俊夫
国立特別支援教育総合研究所 総括研究員
・読者の声
 
「子供たちが先生」を実感!
笠原 由美子
埼玉県立宮代特別支援学校教諭

 私は、本校に初任者として赴任し、現在、小学部重複学級の担任7年目となります。最初の年に担任したのは小学部2・3年生で、筋緊張の強い子、低緊張の子、吸引が頻繁に必要な子、骨折しやすい子等、日々の健康・安全に配慮を要する子供が多いクラスでした。私自身が緊張の連続でしたが、肢体不自由教育の初歩を子供たちや先生方からじっくり学ぶことができた1年でした。自分の気持を表現することが苦手な子供に寄り添って気持を汲み取ったり共感したりすること、子供の表現をじっくり待ち、その表現を言葉にして返すことの大切さを学びました。

 Aさんは、人とのかかわりは好きですが、周囲の物に対して見て楽しむだけで、自分から手を出すことがあまりありませんでした。ある日、Aさんとの触れ合い遊びの中で私がオーバーに倒れると、自分の動きで変化が起こるという楽しさがわかったようで声を出して笑ってくれました。そこで「お相撲あそび」という授業を考えました。最初はうまくいきませんでしたが、その子の動きをじっくり待ち、繰り返し取り組んでいくと、少しずつ自分から手や足を出すようになってきました。教員が倒れた後の「やった〜!」という笑顔が印象的でした。

 私は、日々子供たちから学び、考える機会をもらっています。ある先生の「子供たちが先生」という言葉がよくわかります。また、本誌からも、授業づくりや指導のヒントをもらいました。今後も学ぶ姿勢を大切にし、授業や指導方法を工夫して、子供たちの成長を支援していきたいです。




つながることの大切さ
田中 慶子
大分県立臼杵支援学校教諭

 本校は知的障がいと知的障がいを併せ有する肢体不自由のある子供に対応した教育課程を設置しており、全児童生徒64名中肢体不自由のある子供は8名(訪問学級を含む)です。私はそれまで14年間肢体不自由校に勤務していたこともあり、肢体不自由のある子供の担任となりました。当初、肢体不自由単独校と違い、肢体不自由教育に関することがすべて担任の力量に任されてしまうことや、特性の異なる子供たちを一緒の場で教育していくことに、戸惑いを感じました。そこで、次の点を心掛けるようにしました。

 一つ目は、自分が周りの職員とつながりをもつことです。自分一人の考えで教育活動が進む偏りを防ぐため、子供についての相談や情報発信を常に行い、意見を求めるようにしました。

 二つ目は、子供自身に周りの子供たちとつながりをもたせることです。周りの子供たちには、かかわるときのルールを説明したり、どんな声掛けをしたらよいかなどを伝えたりしました。担任している子供には、周りの子供たちに意識を向ける声掛けを常にするようにしました。子供同士がお互い伝え合うことができたときの笑顔は忘れられません。

 三つ目は、情報とつながりをもち、研修をすることです。単独校にいるときよりも、肢体不自由教育に関する研修の機会がどうしても減ってしまうので、常に新しい情報を得ることを心掛けました。その時に役立ったのが、本誌です。常に質の高い情報を発信してくれることに感謝しています。

 私たちは、障がいの有無にかかわらず、周りとつながることで成長できると思います。これからも、つながりを大切に日々研修していきたいと思います。

・図書紹介
『発達支援学 その理論と実践―育ちが気になる子の子育て支援体系―』
 
・トピックス
ねむの木賞・高木賞決定、研究紹介、第36回日本肢体不自由教育研究大会予告
 
■次号予告
■編集後記