日本肢体不自由教育研究会
 

肢体不自由教育 No.197

自立活動に求められる専門性とは

 特別支援学校学習指導要領の改訂により、自立活動の内容に、新たに「人間関係の形成」が設けられ、自立活動が自閉症や発達障害のある子供に対する指導内容として明確に位置付けられました。このことは、自立活動の指導においては、すべての子供の「学習上又は生活上の困難の改善を図る」ことが必要不可欠であり、前提となっています。

 巻頭言では、村田先生に自立活動における教員の専門性として、自立活動の特質に関する観点や指導に当たっての基本などについて分かりやすく論じていただきました。また、論説では、徳永先生に自立活動の歴史的変遷や、教科等の関連付けや「自己肯定感」「子供の学び」など自立活動に求められる新たな視点への言及、昆先生には、養護・訓練から自立活動までの変遷について解説していただき、その変遷を踏まえて、自立活動の指導に関する充実のための方策について論じていただきました。

 そして、実践報告では、自立活動における時間の指導と教員間の連携やATの活用、認知特性を踏まえた指導など、自立活動の専門性を生かした実践を紹介していただきました。

 今後ますます、特別支援教育における「自立活動」のあり方や自立活動の指導の重要性が高まる中、本特集号を生かしてより具体的な専門性を培い、指導の一助にしていただければと願っています。

(古山 勝)

 

特別支援学校学習指導要領の改訂により、自立活動に新たな区分等が盛り込まれました。自立活動の専門性として、さらに何が求められているのでしょうか。これからの自立活動に求められる専門性について問い直します。
・巻頭言
自立活動における教員の専門性
村田 茂
国立特別支援教育総合研究所名誉所員

・論説
自立活動の指導における新たな視点
徳永 豊
福岡大学人文学部教授

自立活動のこれまでの発展と充実のための方策

昆 俊雄
京葉介護福祉専門学校長
(前千葉県立袖ヶ浦特別支援学校長)


・実践報告
自立活動における専門性―時間の指導のあり方と教員間の連携を中心に―
渡邉 涼
東京都立北特別支援学校主任教諭
(前東京都立大泉特別支援学校主任教諭)


アシスティブ・テクノロジーを活用した身体の動きの向上に関する取組
渡邉 弘規
福島県立平養護学校教諭

自立活動との関連を明確にした教科指導―認知特性に焦点をあてた国語科の授業づくり―
小倉 靖範
筑波大学附属久里浜特別支援学校教諭
(前北海道網走養護学校教諭)


・研究大会報告
第34回研究大会を終えて
井 富夫
(東京都立城北特別支援学校長)

研究大会概要

・連載講座
摂食指導の基本と実際(3)
摂食指導の実際とリスク管理
阿部 晴美
東京都新宿区立新宿養護学校主幹教諭
・講座Q&A
排泄指導
・取組紹介
医療的ケアの必要な人たちの地域生活における
QOLの向上を目指して
飯野 順子
特定非営利活動法人
地域ケアさぽーと研究所代表理事
・基礎知識 《見ることの支援3》
教室での支援のスタート
奥山 敬
東京都立北特別支援学校教諭
・ちょっといい話 私の工夫
詩を題材にした表現活動
―一人一人が光り、一体感のあるステージ発表へ―
上村 美紀
熊本県立松橋養護学校教諭
・学校保健と医療的ケアの今
就学前施設における医療的ケアの対応について
下川 和洋
東京都立八王子東特別支援学校教諭
・特別支援教育の動向
千葉県の特別支援教育にかかる研修について
唐鎌 和恵
千葉県教育庁南房総教育事務所 安房分室 指導主事
(前千葉県総合教育センター特別支援教育部研究指導主事)
・トピックス
第27回障害児摂食指導講習会、本研究会評議員を委嘱、
第4回肢体不自由教育研究セミナー 第2次案内
・読者の声
 
「つなぐ」ことの大切さ
渡部 英治
島根県立松江清心養護学校教諭

 平成19年3月、島根県教育委員会は「今後の特別支援教育の推進に向けた盲・ろう・養護学校から特別支援学校への転換基本計画」を示しました。

 その中で、筆者の勤務校に対しては「専門性の継承と発展」と「重複障がい教育に関して障がいの特性を踏まえた教育課程を検討するとともに、子どもの実態に即した教育を行っていく」という二つの方向性が示されました。この基本計画を基に、一人一人の教育的ニーズ充実のために、「個別の教育支援計画」等を授業へ反映させることや、外部の専門家等を活用した取組や授業研究を行っています。これらを進めていく上で参考にしているのが本誌です。本誌は具体的な実践例が多くの誌面を割いて紹介されており、とても参考になっています。

 21年度、私は研究研修員として、国立特別支援教育総合研究所でキャリア教育研究に参画しました。そこで学んだことは「自立に向けた一貫性・系統性のある指導の大切さ」です。本校の実態として障がいの状態の重度・重複化、多様化が挙げられ、それに対応する複数の教育課程があります。個々の教員は実践への研鑽を行っていますが、「一貫性・系統性のある指導」という点では課題があるように感じています。

 私は「つなぐ」をキーワードに、参画研究で開発した各種ツールを活用しながら、子供たちの「自立」に向けての取組を、「夢」や「希望」をもちながら「感謝」の心で進めていきたいと思っています。




たくさん話そう
田城 聡子
長野県稲荷山養護学校教諭

 4月の出会いのころは、子供も教員もお互いに「わからない」がたくさんある中でかかわっています。そして少しずつ「そうか、わかった」が増えていく中で、子供たちが力を発揮できる環境が整ってきます。不思議なことに、次第にお互いの関係ができてきて生活が落ち着いてくると、教員が子供について「わからない」を見つける方が難しくなることがあります。これは、「慣れ」や「決めつけ」という言葉に置き換えられるのかもしれません。

 私は、「わからない」という状況から抜け出すために、子供たちにたくさん話しかけます。子供たちは、言葉、表情、身体全体の動き、触れたときの体温などで、たくさん応えてくれますが、「わからない」状況の時には感度が鈍っているので、うまく聞き取ることができません。

 そんな時、頼りになるのが同僚です。同じクラスを担当する同僚から、子供の姿や私のかかわり方、授業の内容などについて、「どうしてそうしているの」と質問してもらうと、改めて振り返ることができます。そこで考えたことを実際にやってみると、新たな「わからない」が生じ、次の「そうか、わかった」につながります。同じクラス以外の同僚とも他愛ない話をしていると、「そうか、わかった」が浮かんでくることもあります。

 同じように、私にとって本誌は経験豊富な同僚がたくさんいるという感じです。情報を伝えてくれるだけでなく、自分から「わからない」について考え、「そうか、わかった」に向けて動き出すきっかけを与えてくれます。今後もたくさんの同僚と話をして、子供たちの成長に置いていかれないように、精進していきたいと思います。

・図書紹介
『摂食障害―指導援助の実際―』
『特別支援教育のためのかずの学習 第1集―1〜10までの数の理解―』
■次号予告
■編集後記