ホーム > みみっと > 平成17年版 > 平成20年10月 4日:初稿

~北の国から~(1)

1996年9月7日発行 みみっと2号に掲載
瀬谷 和彦


 みなさん,お変わりありませんか?
 広報担当から依頼がありまして エッセイを送ります。
 弘前の夏は暑いです。弘前なんぞ寒いから、と思って冷房も扇風機も持っていかなかった妻や私は連日30度を超す暑さにもう辟易しております。今度の盆に帰ったら扇風機を持って弘前に戻る予定です。(これを書いてるのは7月28日です)

 さて,信じられないと思いますが、私は青森県のろうあ協会に入会しました。難聴者運動も大切ですが、歴史の古いろうあ者(協会あるいは連盟)の考え方を身を持って知りたいと思ったからです。今まではろうあ協会の中身をよく知りもしないで「なんだかんだ」と言った、という反省もあってのことです。

 私は3月に初めて弘前市の聴覚障害者協会の総会に参加しました。まず,驚いたのは手話だけでみなさん、声を出さないのです。まるで異様な雰囲気でした。そして来賓のために手話通訳者が逆通訳しているのです。声を出して話ができるはずの知人も声を出さないのです。

 さらに驚いたのは総会が終わった後の懇親会ではほとんどの人が声を出せることがわかりました。さらに半数の人がきれいな発音をするのです。これだけでろうか難聴かの区別はできませんが、少なくとも中途で失聴された方が結構いらっしゃることがわかりました。

 余談ですが、今、宮城県ろうあ協会の事務局長をしている工藤さんのことはみなさんよくご存じでした。

 では、なぜ声を出さないのか?何か訳があると思いますのでしばらく調べてみたいと思っています。

 声を出す、出さないの話になりましたが、私は月に1回ことばの教室(手塚先生)で発音の練習をしております。弘前大学で講義を担当する場合に備えてのことですが、それよりも私なりの考えがあるからです。それは私は身体障害者手帳3級で国や地方公共団体、そしてボランティアなど様々なところから聞こえないというハンディキャップに対していろいろな福祉サービスを受けています。つい最近も郵政省が民間の放送局にも字幕放送を義務づける方針を発表しましたね。

 私は生後百日で失聴したので、発音がまだ完璧ではありません。私の発音の正確さはまだ80%くらいです。でも私の喉は正常で声も出せます。耳が不自由というハンディキャップはどうしようもありませんが、発音については努力次第で何とかなります。耳が不自由というハンディキャップに対し、福祉サービスを受けているわけですから、せめて話す方では相手が少しでも聞き取れるよう努力すべきだと思うのです。

 この「ことばの教室」では私にいろいろなことを教えてくれます。一番驚いたのは摩擦音です。「し」という言葉は「し」の形の摩擦音と「い」という有声音との組み合わせで発声されるのです。私は今までずっと摩擦音とは無声の音だと思っていたのです。ところが騒音計が私の耳には全く入ってこない「し」の摩擦音をなんと60-70ホン(手塚先生が5m離れたところから発した場合)と示すのをこの目で見て大変ショックを受けました。摩擦音は聴者にははっきり聞き取れる音だったのですね。この「し」の摩擦音の周波数は2から4kHzの帯域にあり、私の耳では全く聞き取ることができません。

 今まで、私は「し」は小さくても「し」らしい音を出してれば、聴者は理解してくれると思ってたのが、間違いであることがわかったのです。つまり、今までは、例えば、「ありがとうございました」を私は「ありがとうございまた」としゃべってたのですね。聞く人によっては「ありがとうございまった」なんて聞こえてさぞ変に思ったことでしょう。あるいは摩擦音がないから声に出したら「ありがとうございまちた」かな。

 今は自信を持って「し」と発音できるようになりました.声に出さなくても摩擦音を出せばよいのです。しかし、「し」の他にも曖昧な発音がたくさんあります。例えば、「スキー」と発音すると100%「えっ?」と聞き返されます。それでスキーをする素振りをしてもう一度言うと,「あっ、スキーね」と理解してくれます。どうしてなのか、今でもわかりません。

 発音の正確さが80%と書きましたが、ある私の友人は私よりももっと聴力が落ちているのに発音はすごくきれいで正確です。中途失聴という利点はあるかもしれませんが、私も彼のように正確に発音したいのでこれからも努力していこうと思っています。

 今回は私自身のことを書いてしまいましたが、次回は聴力判定の問題点か、あるいは手話の問題点について書こうと思いますのでお楽しみに。


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