JDF-日本障害フォーラム-Japan Disability Forum

JDF は、障害のある人の権利を推進することを目的に、障害者団体を中心として2004年に設立された団体です。

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■最終更新 2012年8月13日

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求刑を超す判決を下した大阪地裁判決に対する声明

2012年8月13日

求刑を超す判決を下した大阪地裁判決に対する声明

日本障害フォーラム(JDF)
代表 小川 榮一

 本年7月30日、大阪地裁において、小学校5年生から不登校となり、約30年間自宅に引きこもる生活をおくってきたアスペルガー症候群を有するとされる42歳の男性被告人が、実姉を刺殺した殺人事件で、検察官の求刑16年を超える懲役20年の判決が言い渡された。
 求刑を超える懲役刑となった理由として、被告人は未だ十分な反省に至っていない。社会内でアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもない現状では、再犯の恐れが強く心配される。長期間刑務所に収容することで、内省を深めさせる必要があり、そのことが社会秩序の維持にも資するとされたためである。
 この障害を理由とした判断により量刑が左右されることは、全く妥当性を欠く差別的な判決であり、怒りを禁じえない。
 求刑よりも重く厳罰に処した部分は、発達障害への無理解と無認識に基づくものであり、結果として根拠のない偏見と差別を助長することを危惧するものである。2006年には障害者権利条約が国連で採択され、現在、我が国においては障害を理由として、あるいは障害に関連して理不尽な取扱いがされることの無いよう障害者差別禁止法の制定に向けて議論を尽くしている最中である。今回の判決はこうした流れに大きく逆行するものである。
 
 被告が反省に至っていないとして判決に影響をもたらしたが、裁判所が捉えた状況は、アスペルガー症候群を正しく認定できているか疑問である。アスペルガー症候群の特徴として、相手の感情や周囲の空気を読み取るのが苦手で、自ら深く反省する気持ちがあってもそれを表現することがうまくできないことが指摘されるからである。ここに至る前に障害に対する支援策が用意される必要がある。障害を理解し、被告人の考え方やサポートできる専門家が取り調べや裁判において事件について正確に知るために同席できるなどの配慮が必要となるが、果たして今回の司法上の手続きの中でこのような配慮がきちんと行われてきたのだろうか。

 さらに受け皿がないから社会復帰(参加)の可能性が阻まれると言うことは、障害の有無や家庭環境によって刑のあり方が左右されるということになり、認めるわけにはいかない。ましてやそれが「社会秩序の維持にも資する」と述べることについては、社会の環境整備の不足をなぜ障害者自身が責任を取らされなければならないのか、断じて納得できない。
発達障害者の社会支援は05年の法施行以降、各都道府県に支援センターが設置され、福祉サービスを受けて地域で暮らしている発達障害者は大勢いる。罪を犯した障害者についても地域生活定着支援センターが全都道府県に設置されている。判決はそうした社会的な状況をまったく考慮していない。一方で受け皿が無いと判断した事情には、こうした支援体制が多くの国民の知るところに至っていないとの現状も物語っている。障害理解も含めた発達障害支援の不十分さ等、多くの課題が露呈したと言わざるをえない。
 また今回の判決は、刑に服した後の社会復帰を社会の責任でどのように支援していくかという課題を改めて示している。犯罪は、障害の有無にかかわらず発生する。犯した罪を本人が反省する事はもちろんだが、社会復帰に向けては社会の支援体制が無ければ個人の努力だけでは難しい。障害の有無にかかわらずどの人にも適切な復帰へのプログラムと環境が用意されるべきである。

 私たち日本障害フォーラムは改めて今回の判決に大きな怒りを表明するとともに二度とこうした判決が下されないよう司法当局に強く求める。また、この判決が新たな障害への差別偏見を生み出すきっかけになる事の無いよう多くの国民が障害の正しい理解と認識をもつよう各界の努力を求めるものである。
多くの国民の理解と共感の中、障害のある人もない人も平等に共に生きる共生社会の実現に向けて、我が国が着実に歩を進めて行く事を期待するところである。 

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