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■最終更新 2013年4月4日

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障害者権利条約・国連作業部会草案に関する意見書

2004年4月28日

外務大臣
川口 順子 様

日本障害フォーラム(JDF)準備会
代表 兒玉 明

障害者権利条約・国連作業部会草案に関する意見書

 貴職におかれましては、国際的な人権の確立、とりわけ障害者権利条約の策定過程に積極的に参画しておられることに敬意を表します。
 さて、標記の作業部会草案(以下、草案と略)が1月に採択されてから早くも3ヶ月が経ちましたが、5月の国連特別委員会に向けて、政府内でも意見のとりまとめを進めておられるものと思います。私たちは、貴省を中心に政府が一体となって障害者権利条約に向けて関与していることに対して、その積極性を大いに評価をする一方で、既存の障害者施策の問題点をおざなりにさせることがないように、政府とNGOとのパートナーシップを強めていく必要も感じています。
 特別委員会では、標記の草案をたたき台に条約交渉を進めると聞き及んでおります。
JDF準備会としても、この草案の各条文に対する意見書を提出すべく準備を進めております。日本政府におかれましても、日本の障害者団体の主張を十分に酌んだ意見提起を特別委員会で展開していただきたいと願っております。
 以下に、現時点におけるJDF準備会としての意見書をまとめました。
貴省のみならず各省庁におかれましても私たちの意見を共有し、意見提起に反映されるよう強く要望いたします。

◆意見1 障害、差別の定義(草案第2条、3条、7条、9条)
 作業部会では「障害」の定義を含めるべきか否かという点で議論が分かれたが、以下では、「障害の定義」を議論する場合に最低限留意しなければならない諸点を挙げておきたい。

A)まず、作業部会において、「障害」(ディスアビリティ)の定義は、「障害の医学モデル」ではなく「障害の社会モデル」に基づくべきであるとのコンセンサスが得られたこと(草案注12参照)は決定的に重要であり、この点を議論の前提としなければならない。
 ただし、「社会モデル」に基づき、「障害(ディスアビリティ)」の定義の中に、個人のインペアメントに加え社会的障壁の要素も含める場合には、「障害の定義」と「障害のある人の定義」と「障害に基づく差別の定義」とが、内容面において重複する帰結になることに留意すべきである。

【草案注12】
作業部会の多くの構成員は、条約が障害(すなわち、すべての種別の障害)のあるすべての人の権利を保護すべきであることを強調して、「障害」という語は広く定義されるべきであると提案した。構成員の中には、障害の複雑性や条約の範囲を制限する危険性を考慮すれば、この条約には「障害」の定義を含めるべきでないとの見解を表明した者もいる。他の代表の中には、国際的文脈で用いられている既存の定義(世界保健機関の国際生活機能分類を含む。)を指摘した者もいる。定義が含まれる場合には、障害の医学モデルでなく、障害の社会モデルを反映する定義とすべきであることに一般的な合意が得られた。

B)他方、現実にあるインペアメントのみを「障害(ディスアビリティ)」と定義すると、「社会モデル」の視点が欠落する帰結となる。さらに、かかる定義においては、「ユニークフェイス」(顔面に疾患・外傷のある人でつくるセルフヘルプグループ)の人やAIDSを発症していないHIVポジティブの人、過去に障害の経歴があった人などが排除される。よって、現実にあるインペアメントを障害(ディスアビリティ)と定義する場合であっても、「ユニークフェイス」の人などが、本条約の適用範囲から抜け落ちないようにしなければならない。そのためには、「社会モデル」の視点を取り入れて、「障害」、「障害のある人」、「障害に基づく差別」の定義のいずれかの中に「みなし規定」等を入れることが必要である(米国障害者法、草案7条2項(b)等参照)。

【ADA(米国障害者法)】
「『障害(ディスアビリティ)』とは、個人に関して、次のことをいう。
(A)当該個人の一つ以上の主たる生活活動を実質的に制約する身体的若しくは精神的な機能障害(インペアメント)、
(B)当該機能障害の経歴、又は
(C)当該機能障害を持つと見なされる状態」。

【草案第7条2項(b)】
「差別は、あらゆる形態の差別(直接的、間接的及び体系的な差別を含む。)を含むものとし、また、現実にある障害又は認識された障害を理由とする差別を含むものとする。」

C)以上のことから、「障害」の定義について議論を進めるに当たっては、(1)社会モデルの視点を十分に念頭に置くこと、(2)障害という用語を広く定義すること、(3)現実にあるインペアメントに限定されないことについて十分注意しなければならない。
また、「障害」、「障害差別」、「障害のある人」のそれぞれの定義の相互関連性・整合性という点にも十分留意すべきである。

D)草案第7条3項では、一般的な形で差別の正当化事由を規定している。同規定は、差別を禁止し、権利を保障することを目的とした条約自体を骨抜きにする恐れがあり、同規定がなくとも特に支障はないという判断により、同規定は本条に含めるべきではないと考える。

【草案第7条3項】
「差別は、正当な目的により、かつ、その目的を達成する手段が合理的かつ必要である場合には、締約国が客観的かつ明白に十分な根拠を示す規定、基準又は慣行を含まない」

E)草案第7条4項では「(略)合理的配慮を提供するためのすべての適当な措置(立法措置を含む。)」と規定しながら、「不釣合いな負担を課す場合には、この限りでない。」としているために、障害のある人に対する結果としての不利益、差別的取扱いが放置されることにつながる恐れがある。関係主体が「不釣合いな負担」に適切に対応できない場合には、不釣合いな負担を証明する説明責任があることを明記すべきである。説明責任を果たすことを含む「合理的配慮を提供する」ことの欠如が明らかである事案については、差別の定義に該当することを明記する必要がある。

【草案第7条4項】
「締約国は、平等についての障害のある人の権利を確保するため、障害のある人がすべての人権及び基本的自由を平等な立場で享有し及び行使することを保障するための必要かつ適当な変更及び調整と定義される合理的配慮を提供するためのすべての適当な措置(立法措置を含む。)をとることを約束する。ただし、このような措置が不釣合いな負担を課す場合には、この限りでない。」

◆意見2 合理的配慮(草案第3条、7条、17条、22条)

A)「合理的配慮reasonable accommodation」は、6大人権条約に見られない概念であるが、米国障害者法(1990年)やEU平等取扱い指令(2000年)などに見られるように、障害者法体系に必須のものとして国際社会で広く受け入れられつつある。したがって、「合理的配慮」は本条約に明確に規定されることが不可欠であると考えられる。

B)「合理的配慮」という用語は、作業部会草案の実体規定においては、第3条(定義)、第7条(平等及び非差別)、第17条(教育)、第22条(雇用)で明記されている。少なくとも、これら4つの条文で明記された「合理的配慮」という文言自体は削除されるべきでない。さらに、これらの条文に加えて、草案第4条(本条約に定めるすべての権利に適用される一般的義務規定)及びその他の条文においても、「合理的配慮」を明示的に言及する余地は十分ある。

【草案第7条4項】
「締約国は、平等についての障害のある人の権利を確保するため、障害のある人がすべての人権及び基本的自由を平等な立場で享有し及び行使することを保障するための必要かつ適当な変更及び調整と定義される合理的配慮を提供するためのすべての適当な措置(立法措置を含む。)をとることを約束する。ただし、このような措置が不釣合いな負担を課す場合には、この限りでない。」

【草案第17条2項(b)】
「必要とされる支援(教員…中略…又は障害のある生徒・学生の完全な参加を確保するための他の合理的配慮を含む。)を提供すること。」

【草案第22条(e)】
「職場及び労働環境における障害のある人の合理的配慮を確保すること。」

C)「合理的配慮」の定義は、草案第7条4項に置かれているが、ここで定義されている理由は必ずしも明らかではない。各種定義を包括的に列記している草案第3条において「合理的配慮」を定義することが適当であると考えられる。

D)「合理的配慮」の否定が障害差別であることを、とりわけ草案第3条(合理的配慮及び障害差別の定義)及び第7条2項(差別の定義)において明記すべきである。

E)「合理的配慮」の否定が公的分野か私的分野かを問わず障害差別であることを認めて、「合理的配慮」を提供するための締約国の義務が公的分野と私的分野の双方に及ぶことを条文中に明記すべきである。

◆意見3 強制医療、身体拘束、施設収容(草案第10条、11条、12条、15条、21条)

A)草案第10条1項は、そのまま維持すべきである。他方、同条2項は、障害のある人が
自由を奪われてもやむを得ないという認識と誤解を招く虞があるため、一旦削除し、自由権規約第9条を障害者特有のニーズを十分に考慮した条文として抜本的に修正した上で、新たに設けるべきである。この場合は言うまでもなく、既存の国際人権基準を下回るような規定とならないことに十分留意しなければならない。

【草案第10条1項、2項】
1. 締約国は、次のことを確保する。
(a) 障害のある人が、障害を理由とする差別なしに、身体の自由及び安全についての権利を享有すること。
(b) 障害のある人がその自由を違法に又は恣意的に奪われないこと並びにあらゆる自由が法律で定めることなしに奪われず、かつ、いかなる場合にも障害を理由として奪われないこと。
2. 締約国は、障害のある人が自由を奪われた場合には、次のことを確保する。
(a) 人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して、及び障害に基づくニーズを考慮して、障害のある人を取り扱うこと。
(b) 自由の剥奪の理由に関する十分な情報を利用可能な形態で障害のある人に提供すること。
(c) 次のことのための法的その他の適当な支援の速やかな利用を障害のある人に提供すること。
(i) 自由の剥奪の合法性を裁判所その他の権限のある独立のかつ公平な機関において争うこと(この場合には、その者は、いかなるこのような訴えについても、速やかな決定を受けるものとする。)。
(ii) 自由の剥奪について定期的な審査を求めること。

B)草案第11条(拷問等からの自由)2項においては、「医学的又は科学的実験」及び「強制的介入又は強制的施設収容」の禁止義務規定と、それからの障害者の保護義務規定とは維持すべきである。

【草案第11条2項】
「特に、締約国は、障害のある人が十分な説明に基づくその自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けることを禁止し、かつ、当該実験から障害のある人を保護するものとし、また、いかなる実際上又は認知上の機能障害をも矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入又は強制的施設収容から障害のある人を保護する。」

C)草案第12条(暴力等からの自由)2項においては、「強制的介入又は強制的施設収容」の禁止義務規定と、それからの障害者の保護義務規定とは維持すべきである。

【草案第12条2項】
「このような措置は、いかなる実際上又は認知上の機能障害をも矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入又は強制的施設収容並びに拉致を禁止し、かつ、これらから障害のある人を保護しなければならない。」

D)草案15条(自立した生活とインクルージョン)(b)においては、「障害のある人が、施設への収容及び特定の生活様式を義務づけられないことを確保する」ための適当かつ効果的な措置をとる義務規定は維持すべきである。

【草案第15条(b)】
「障害のある人が、施設への収容及び特定の生活形式を義務づけられないことを確保すること。」

E)「希望に基づかない医療及び医療関連の介入及び矯正手術が障害のある人に矯正されることを防止する」(草案第21条(k))については、「防止する」という文言を「禁止しかつ防止する」に修正すべきである。

F)上記の締約国の義務が公的分野と私的分野の双方に及ぶことを各条文中に明記すべきである。または、そのような解釈が明確であるような義務規定の仕方を検討すべきである。

◆意見4 教育(草案第17条)

A)草案注55に関して、第17条はあくまで教育だけに焦点を絞るべきであり、「訓練」は第22条(労働の権利)など他の適切な条文で取り上げるべきである。

【草案注55】
「特別委員会は、この条文草案が、他の条文草案の訓練に関する規定とともに、訓練をより強調して取り扱うべきか否かを検討することを望むかもしれない。」

B)草案第17条1項については、「漸進的に」を削除すべきである。脚注56に関しては、高等教育等を含むことを念頭に第1項の柱書きの「障害のある子ども」は、「障害のある人」にすべきである。

【草案第17条1項(a)~(d)】
「締約国は、教育についての障害のあるすべての人の権利を認める。この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため、障害のある子どもの教育は次のことを指向するものとする。
(a) 人間の潜在能力、尊厳の意識及び自尊の意識の完全な発達並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重の強化
(b) 障害のあるすべての人が自由な社会に効果的に参加することができるようにすること。
(c) 子どもの人格、才能並びに精神的及び身体的な能力の可能な最大限度までの発達
(d) とりわけ、教育を個人の特殊事情に合わせることにより、子どもの最善の利益を考慮すること。」

【草案注56】
「特別委員会は、この条文草案の規定が障害のある「人」に言及しているため、この柱書きが「子ども」にのみ焦点を合わせるべきか否かを検討することを望むかもしれない。」

C)第2項(a)の「インクルーシブでアクセス可能な教育を選択することができる」は不可欠である。

【草案第17条2項(a)】
「この権利を実現するため、締約国は次のことを確保する。
(a) 障害のあるすべての人が、自己の属する地域社会において、インクルーシブでアクセス可能な教育を選択することができること(幼年期及び就学前の教育の利用を含む)。」
D)第3項における草案注61での選択と、教育についての権利との比較に関しては、「選択できる環境の提供」こそが教育についての権利のまさに核心部分であるべきである。
視覚障害教員がいて、点字の指導ができる盲学校、聴覚障害・ろうの教員がいて手話の指導ができる聾学校それぞれに関する適切で十分な情報提供が、本人、保護者に対して行われなければならない。また、普通学校に就学している視覚障害のある子に対しては専門機関としての盲学校からの支援が受けられる体制ないしシステムを作るべきである。

E)第3項(c)の「十分な説明に基づいて自由に選択」は非常に重要である。この条文に関しては脚注もついておらず論点となっていない。この条文のまま条約に盛り込まれるべきである。

【草案第17条第3項】
「締約国は、一般教育制度が障害のある人のニーズを十分に満たしていない場合には、特別の又は代替的な学習形態を利用可能なものにすることを確保する。いかなる特別の又は代替的な学習形態も、(a) 一般教育制度で提供される同一の基準及び趣旨を反映しなければならない。
(b) 一般教育制度への障害のある子どもの参加を最大限可能な程度まで認めるようにして提供されなければならない。
(c) 一般制度か特別制度かを十分な説明に基づいて自由に選択することを認めなければならない。
(d) いかなる意味においても、障害のある生徒・学生のニーズを一般教育制度において満たすことに引き続き努める締約国の義務を制限するものであってはならない。」

【草案注61】
「作業部会の構成員は、このパラグラフの一つの重要な要素が選択であると考えた一方、その構成員の中には、教育についての権利がより重要であると考えた者もいる。他の構成員の中には、この選択において子どもの利益を一層強調することが好ましいと考えた者もいる。また、専門的教育サービスと一般教育制度との関係を提示する様々なアプローチが確認された。作業部会の構成員の中には、一般教育制度における障害児の教育が通則で、専門的教育サービスは例外であるべきだと考えた者もいる。他方、構成員の中には、あるアプローチが他のアプローチよりも望ましいという想定をしないで、専門的教育サービスは一般教育制度が不十分である場合に提供されるのみならず、むしろいつでも利用可能であるべきだと考えた者もいる。たとえば、構成員の中には、ろう児及び盲児が自己の集団において教育を受けることを認める必要性を強調した者もいる。後者のアプローチをとる場合であっても、作業部会は、一般教育制度か専門的教育サービスかを選択する個人の能力を制限することなく、障害のある生徒・学生が一般教育制度を利用できるようにするための明確な義務を国家がなお負うべきであると考えた。」

F)第4項については、現在は盲とろうの感覚障害両方を一つの条文で扱っているために、明確さを欠いている。点字と手話の性格の違いから、別個の条文とすべきである。
聾教育に関しては、手話と音声言語・書記言語のバイリンガル教育が重要である。
視覚障害に関して、点字の重要性を強調するあまり、点字を使用するまでもない、低視力あるいは弱視の人々の普通文字を使用する自由や機会の拡大が無視されかねない点にも留意するべきである。

【草案第17条第4項】
「締約国は、感覚的な障害のある子どもが、適当な場合には手話又は点字の教育を受けること及び手話又は点字で履修することを選択することができることを確保する。締約国は、手話又は点字に通じた教員の雇用を確保することにより、感覚的な障害のある学生に対する良い教育を確保するための適当な措置をとる。」

G)第5項については、教育年限の後半期では職業教育も必要であることを踏まえ、「職業訓練」を「職業教育」に修正するべきである。

【草案第17条第5項】
「締約国は、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習を利用することができることを確保する。このため、締約国は障害のある人に適当な支援を与える。」

◆意見5 情報とコミュニケーションのアクセス
(草案第3条、13条(b)(c)(e)、15条(e)、17条、19条2項(b))

A)言語の定義(第3条関係)については、手話は言語であるという基本認識に立ち、言語権の保障という観点から自由権規約第27条との関連性を踏まえ、手話を公用語として位置づけることが必要である。

【関連条文:自由権規約第27条(少数民族の権利)】
「種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。」

B)ろう者の権利を明確に表すべきである趣旨から、以下の修正を提案する。

草案第13条 表現及び意見の自由、情報へのアクセス
  作業部会草案 世界ろう連盟の修正案
b 障害のある人が代替的なコミュニケーション様式を公の対話において使用することを是認すること。 公の対話において、障害のある人が代替的なコミュニケーション様式を使用し、ろう者が手話を使用することを是認すること。
c 代替的及び拡大的なコミュニケーション様式を使用することができるように障害のある人を教育すること。 代替的及び拡大的なコミュニケーション様式を使用することができるように障害のある人を教育すること。ろう者には、国の手話による教育が提供されるべきである。
e 障害のある人が情報を利用する機会を確保するための他の適当な形態の援助及び支援を促進すること。 障害のある人が情報を利用する機会を確保するための他の適当な形態の援助及び支援を促進すること。これにはライブ支援者、仲介者、手話通訳者に適切な訓練を提供することがふくまれる。

草案第17条 教育
  作業部会草案 世界ろう連盟の修正案
4 締約国は、感覚的な障害のある子どもが、適当な場合には手話又は点字の教育を受けること及び手話又は点字で履修することを選択することができることを確保する。締約国は、手話又は点字に通じた教員の雇用を確保することにより、感覚的な障害のある学生に対する良い教育を確保するための適当な措置をとる  ろうの子どもは自分達のグループの中で教育を受け、手話と国の音声言語、書記言語のバイリンガルな使用者となるべきである。又、その他に外国の手話や音声・書記言語を学習する権利も有する。各締約国は、ろうの教員及び手話に精通している健聴の教員の雇用を確保することにより、手話による質の高い教育を提供できるよう、法的、行政的、政治的、その他必要な措置をとる。

草案第19条 アクセシビリティー
  作業部会草案 世界ろう連盟の修正案
2(b) 公共の建物及び設備の利用可能性を推進するための他の形態のライブ支援及び仲介者(案内者、朗読者及び手話通訳者を含む。)を提供すること。 (b)1:公共の建物及び設備の利用可能性を推進するための他の形態のライブ支援及び仲介者(案内者、朗読者及び要約筆記者・字幕製作者を含む。)を提供すること。
(b)2:公共サービス、教育、参加を可能にするために、情報を音声言語から手話へ、又手話から音声言語へ通訳する手話通訳者を仲介者として提供すること。

C)視覚障害者においては、同趣旨の立場から点字の通用性を高めるために次のような重要な課題がある。
 点字による選挙、点字による広報の普及、点字教育の充実、点字郵便の郵送料減免、すべての活字情報の点字化に伴う著作権処理上の便宜(無許諾点字化の承認、あるいは、著作権者に対する償金の公的支払いなど)、低視力者や弱視者向けの拡大図書製作のための図書製作及びそのための著作権処理上の便宜、低視力者や弱視者の残存視力を活用しながらの文字教育、視覚障害者の情報アクセスに不可欠な支援技術(assistivetechnology)の開発と普及に務めることなど。

◆意見6 国際協力(草案前文、草案注3、注7、付属書II)

A)国際協力については、条文に取り上げること自体が重要である。条文に位置づけられなければ、障害者の国際領域において何をしていくのかという議論すらおこってこないというマイナス面を考慮すべきである。

B)「国際協力」を条約中に位置づける場合には、社会権規約第2条第1項及び子どもの権利条約第4条を踏まえ、モニタリング(監視)に関連して、子どもの権利条約の第二部〔実施措置〕に規定されている第45条を参考にすることが必要である。

【関連規定:社会権規約第2条1項】
「この規約の締約国は、(略)自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、個々に又は国際的な援助及び協力、特に、経済上及び技術上の援助及び協力を通じて、行動をとることを約束する。」

【関連規定:子どもの権利条約第4条】
「締約国は、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、自国における利用可能な手段の最大限の範囲内で、また、必要な場合には国際協力の枠内で、これらの措置を講ずる。」

C)国際協力のあり方については、児童労働を廃止することを目的とした、ILO児童労働禁止および廃止条約(ILO第182号条約および第138号条約)実施へのつぎのような、ILOの取組みを参考にしていくことが必要である。
 ILOでは、最悪の形態(たとえば、性的な労働や兵役につかせることなど)の児童労働については、直ちに禁止ならびに廃止するようにしなければならなくなっている(ILO第182号条約)。とくに途上国におけるそうした最悪の形態の児童労働を「5年以内に」禁止ならびに廃止できるようにするため、先進国の政府および労使団体などから任意拠出された資金により、技術協力が行われ、実効をあげている。
 (したがって、こうしたILOによる方式は、とくに途上国における障害者差別撤廃に 向けて国際協力をすすめる上で参考になると思われる。)

D)現在の政府開発援助の問題点は、障害者だけを対象にした事業と、一般的な事業が乖離し、後者における障害者への配慮が欠けている点にある。障害者を対象とした国際協力事業だけでなく、一般住民を対象とした国際協力事業の恩恵にも障害者が浴しうるようにするため、バリアフリーガイドラインの策定と遵守を国際協力の原則とすることを提案する。

◆意見7 モニタリング(草案第25条)

<意見7-1> 国際レベルのモニタリング(監視)
●政府見解(2003年12月)

「人権諸条約におけるモニタリング・メカニズムの重要性については異論はないが、実体規定の内容や条約の性質・形式等についての議論が深められた上で検討がなされるべき事項である。例えば、いわゆる個人通報制度については、各国が直ちにすべて受け入れられる段階に至っていないことから、本条約の普遍性を確保するため、選択議定書で別途定めるか、任意で受諾宣言を行いうる規定とすべきである。」
「既存の人権諸条約の下で各締約国は、既に、政府報告の作成や審査等膨大な作業を抱えており、作業の重複や遅延等の問題が生じていることは、累次の機会に議論されているとおりである。こうしたメカニズムが人権の国際的な促進・保護に果たしてきた役割は大きいが、現行の体制のまま新たな条約上の義務を逓増させていくことは限界に達しつつあり、抜本的な改革を図るべき岐路にあると考えられる。」
「このような認識のもと、障害者権利条約の実施措置も、全体の流れの中で歩調をあわせて、人権の促進・保護のための監視・実施機能を低下させない形で合理化をはかる必要性がある。」

A)現在、条約体改革議論が国際レベルで進められ、既存の諸条約の目的達成を図る上でのモニタリング(監視)の合理化の必要性には一定の認識をもつが、本来は目的達成に向けて、人的資源や予算の増強を行い政治的意思の伸張を目指していくことが望ましい姿である。
少なくとも、条約体改革における合理化(効率化)が障害者権利条約のモニタリングを設けないという主張につながること、ひいては人権条約体の実効性の欠如につながることがあってはならない。人権条約体の実効性と合理性(効率性)との両方の観点から、障害者権利条約の国際モニタリング(監視)を設けるという結論を日本政府としてもつことが必要である。

B)本当の問題の所在は、条約を守ろうとする政治的意思とサポート体制への意思がないという点にある。最も実効的な方法は、予算を増やし、政治的意思を高めていくことが本当の機構改革である。「効率性優先」の考え方は、個人の権利保護を核心的テーマとする「モニタリングの実効性」と基本的に相容れないものである。

C)誰がモニタリングするのかという点も大切であり、多様な立場と当事者参画という要素がなければ委員会は機能しない。効率性・統一性を求めると、救済の道を排除しかねない。他の人権諸条約と相互連動しながら、実施措置に基づく条約独自の委員会を設け、財政強化し、当事者性を高めていくことが必要である。

D)国際レベルでのモニタリングについては、条約体改革議論を待つのではなく、既存の条約と同様の定期的な政府報告制度を明確に位置づける条約体を創設すべきであり、かつ、この条約体は当事者性を重視したものであるべきと考える。

E)人権諸条約には、すべて定期報告審査があり、批准している国はすべて報告義務があるが、現状は、報告書提出の期限に間に合わない国が続出し、委員会側の報告書審査も裁ききれていない状況にある。その要因としては、委員会をサポートする人権高等弁務官事務所などの人が足りない。そもそも国連の予算が少なすぎて人が雇えないことなどが上げられるが、もっとも大きなものとしては、何より委員の選出の仕方が不透明であること、そして政府から独立しているのかが分からない人が紛れ込んでいるなどの点で、独立性に対して疑問が指摘されている。

F)障害者の権利条約を本当に履行させていくためには、実施措置の規定によって条約委員会を設置するというのがベストであるという観点から、次の点を提起する。
(1)NGOと関係機関を報告審査の中に位置づけることを条約に明記をすること。
(2)審査にあたる委員の審査にあたっては、だれが委員になるのか、当事者性をはっきりさせること。そうでないと提起される問題の意味も伝わらない。
(3)委員をサポートする機能が必要。人権高等弁務官事務所でいいのか、他の委員会と分断されない仕組みが大切であり、それに伴う資金の確保も必要である。
(4)どのような形で情報提供すればいいかを条約に明記すること。
※参考事例としては、ILOのような形で、審査の後、必要であれば具体的・技術的な支援を国際的に行なう仕組みと財源作りの取組みが重要となる。 (意見6-国際協力参照)

G)個人通報制度及び調査制度を盛り込むことが必要である。女性差別撤廃条約の選択議定書は、個人通報制度と調査制度について定めている。この議定書に加盟した場合、その加盟国によって、この条約上の権利を侵害されたと考える個人また団体は、上記の委員会へ通報し救済を求め、結果的に委員会はその締約国に、勧告などをすることになる。さらに、この議定書は調査制度を規定しており、委員会は、「権利の重大なまたは組織的な侵害」示す情報を受理した場合、当該国に対して調査を実施することが可能である。

<意見7-2> 国内モニタリング(監視)
A)草案第25条第1項については、政府部内のどこに調整機関を置くべきか明確にするとともに、調整機関に当事者の意思を反映させていくこと。
女性の条約では、内閣府に男女参画局が指定されている。障害者の条約では、少なくとも外務省の所轄部局と内閣府の障害者施策推進本部が政府内の総合的調整機能の役割を果たし、NGOの参画と意見を反映するための協議機関を設置することが必要である。

B)草案第25条第2項については、行政機関からの独立性と当事者性が確保された国内監視機関において、救済を含めた権利の監視を行い、また当事者の意思が反映されるための仕組みと役割を明確にすること。国内監視機関においては、「国内人権機関に関するパリ原則」(1993年)を踏まえ、行政機関からの独立性と当事者性(委員構成における障害NGOの積極的な参画等)が確保され、実効性のある権限と役割をもたせるために、条約の国内実施状況を監視し、権利侵害の救済を明記した監視・救済委員会の設置法の検討が必要である。(国家行政組織法第3条との関連)

【草案第25条】
「1. 締約国は、この条約の実施に関連する事項についての中心的な活動機関を政府内に指定するものとし、また、多様な部門及び多様な段階において関連のある活動を推進するため、調整機関の設置又は指定について正当に考慮する。
2. 締約国は、その法的及び行政的な制度に従って、この条約で認められた権利の実施を促進し、保護し及び監視するための枠組 を国内で維持し、強化し、指定し及び設ける。」

C)役割について
(1)条約に基づき、国内の法令、政策及び計画を監視すること。
(2)条約に基づき、国内法令の影響に関する研究に着手し、それを推進すること。また、障害のある人に与える影響を評価するための制度を開発すること。
(3)条約の不遵守についての苦情申立てを処理すること。
(4)国内監視委員会は、条約の実施に関する不尊守の申立てを受けると、まず、任意の調査を行い、任意の調査によって事案が明らかにならない場合でかつ事案の解明が必要と判断される場合には、職権による立ち入りも含めた調査を実施する。
(5)調査の結果、条約に違反することが確定した場合は、不利益または被害の回復に向けた調停を行う。
(6)調停が不調に終わった場合で、かつ差別、権利侵害の行為が認定されるときには、事案の重大性、緊急性に応じて、是正命令、警告、公表、勧告、要望等の処分を行う。
(7)条約の実施状況について調査・監視し、定期的にその調査結果をまとめ、関連法令の改廃・制定に関し、提言を内閣に提出する。
(8)条約の実施に関する国際的監視委員会に提出する「政府報告書」の作成を政府から委託を受けて行う。

以上

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