●社会的な問題
・原発ではたらく人々
◇下請け労働者
みなさんは電力会社や学校からくばられる原子力発電所の写真や絵を見たことがあるでしょう?
原子力発電所はたいていきれいな海岸のそばにあって、発電をコントロールしている部屋は最新式のコンピュータみたいで、とてもスマートですよね?
でも、発電所ではたらいている裏方さんがどんな仕事をしているのか、そのたいへんな仕事をしている裏方さんがいなければ発電所は一日も動けないことを説明したパンフレットなんて見たことがありますか?
たいへんな仕事はたいてい電力会社の社員ではなくて、今ニュースでもよく問題になっている 下請けのハケン労働者がやっています。そしてその給料はたいていピンハネされます。
電力会社の社員とハケン労働者の割合を示したのがこのグラフです。この割合を見ても下請けの労働者の仕事がいかに多いか分かるでしょう。
◇防護服
下請け労働者が働くところは、たくさんあびると死んでしまうような強い放射線がでていたり、放射性物質で汚れているところです。
放射性物質をすい込まないようにするためにはマスクをつけます。
ひどく汚れた場所ではたらくときには全面マスク(左)をつけます。
汚染がそれほどひどくないときには半面マスク(右)です。
放射線から身体をまもるためには宇宙服のような防護服をきます。くつ下やてぶくろは3まいもかさねなければなりません。ふつう仕事をする場所はとてもあついので、あせが流れマスクもすぐにくもってしまうそうです。それで、危険を知りながらマスクをとってしまう人もいます。
◇アラームメーター
厳重な防護服をきていても放射線は服をつきぬけることもありますし、放射性物質でからだがよごれてしまうこともあります。少しの放射線でもあびると十年以上たってからガンなどになる危険があります。
それで放射線にはこれ以上あびてはいけないという限度が決められています。危険な場所ではたらくときには、あびた放射線の量をはかるために写真右のような線量計や、警告を出すアラームメーターを体につけます。アラームがなるとそれ以上仕事を続けることはできませんから次の人と交代します。
原発の中心にある炉心のあたりは放射線がつよいので、すぐに交代できるように次の人が待っています(写真)。でもあまりたびたび交代すると仕事ははかどらないため、線量計を他の場所においたり、警告がなっても無視することがあるそうです。
◇原発は事故がなくても人を被曝させ続ける
厳重な防護服を着たりマスクをしても放射性物質で体がよごれることはしばしばあります。
放射性物質で汚れている場所(管理区域)から外にでるときには、体に放射性物質がついていないかどうかを検査します。(写真)
もし汚れていたらそれが落ちるまでシャワーであらいます。(写真)
洗ってもこすっても汚れが落ちないときにはほんとうに心配になります。トイレに行きたくても汚れが落ちるまで外に出ることはできません。こんなことは電力会社や文部科学省からくばられるパンフレットには全く書いてありませんね。
でもこのような労働者がはたらかなれば原発は一日も動かないのです。
ということは、原発は事故がなくても人を被ばくさせ続けるということです。
白黒写真は「原発 樋口健二写真集」より
最新のハンドフットクロスモニター:体全体の放射能汚染をチェックする装置
この装置の金網の前に立つと、体全体の放射能汚染をチェックできるという。
この装置のメーターを拡大
◇原発被ばく裁判
写真は1971年5月福井県敦賀市にある日本原子力発電敦賀発電所内で被ばくした 岩佐嘉寿幸さんです。
被ばく後、体の調子がわるくなりチョットしたことでもつかれやすく、仕事をつづけられなくなりました。外からは健康に見えるため、人から「ぶらぶら病」などと悪口を言われていました。
写真の岩佐さんの住まいのようすからは、岩佐さんの苦しい生活がうかがえます。
彼は病気にもかかわらず日本ではじめて電力会社を相手に「原発被曝裁判」をおこしました。原発で被ばくしたことが原因で体をこわしたので、電力会社にその責任があるとしたのです。裁判は17年間もつづきましたが裁判所は、体をこわしたのは被ばくによるためだとは認めませんでした。岩佐さんはその後なくなりました。
最近では東京電力ではたらき被ばくして多発性骨髄腫という血液のがんになった長尾光明さんも、東京電力を訴えて裁判を起こしました。しかし、長尾さんは判決がでるまえに亡くなりました。
このような下請け労働者の数は電力会社の正社員の数よりもずっと多いことは前のグラフでもわかります。原発で働いて白血病やガンになる人は多くいますが、日本でこれまでに原発ではたらいたことが原因だと認められた人はわずか6人にすぎません。労働者が下請けや孫請けのため、親会社が事故をひみつにして裁判にうったえることがむずかしいためでもあります。
写真:長尾光明氏/東京電力福島第一原子力発電所2号機格納容器内にて1981年12月
・原発止めたら電気が足りない?
◇原発止めたら電気がたりないってホント?
Q:原子力発電所が全部止まったら、電気が足りなくなるってほんと?
A:そんなにかんたんな話ではないようね。じっさいに2007年7月16日、新潟県中越沖地震で世界最大の原子力発電所が故障したの。東京電力の柏崎刈羽原発というところだけれど、それいらいそこの7つの原子炉はしばらく全部止まっていたの。そこで発電できる電気は、800万キロワットアワーという大きさで、東京電力全体の約5分の1もの電力を、そこだけで発電していたのよ。
この事故のために電気が足りなくなって、停電がおきたという話はありません。 (2010.10現在、1・6・7号機運転再開)
柏崎刈羽原発と、地震で起きたパイプのずれ
Q:よく、「電気の3分の1は原子力?」っていわれてるね?
A:それはね、原発は止めずにずっとうごかしつづけていても、ほかの発電所はとめてしまうからなのよ。上のグラフは、一日のうちの電気の使用量の変化をあらわしたグラフです。電気は作ってためておくことができないから、使う分だけ作らなければならないの。
だからこのグラフは、発電した電気の量をあらわしてもいるのよ。
このグラフから、電力会社がどんなふうに電気をつくっているかわかるんだけど、気づいたことはある?
グラフの①~③のところをよくみてね
◇いちばん電気を多く使うとき
Q:じゃあまずグラフの中のいちばん高いところは①のところだよね。
夜にくらべるとずいぶん高い山になってるんだね! ということは、夜と昼とで電気の使用量が大きくかわるということかな?
とくに昼まの2時ごろがいちばんだね
A:そう。電力会社は、こういうときに電気が十分に間に合うように発電所をつくり、そなえておくのよ。このときは、あらゆる発電所をフル回転して電気をつくっているの。
季節によっても変わるので、一年間で一番電気を使う季節はいつだと思う?
Q:夏かな?
A:そう、夏の暑い日のお昼すぎ、みんなが会社やお家でエアコンをつけて、すずしさがほしくなるときね。気温が30度とか35度とか、とてもあつい日が一年間に何日かあって、そういう日の午後がもっとも電気の使用量が多いときね。
そういうときが夏に数十時間あって、そのときにそなえて発電所は 準備されているけど、
逆にいえばそれ以外のときは、発電所の発電能力(設備容量といいます)にはゆとりがあるの。だから、かなりの発電所はとまっているわけね。
ところで、グラフの①のところ、ちょうどお昼のあたりが、ちょっとへこんでるでしょ?どうしてだか分かる?
Q:お昼休みの時かな?
A:その通り。会社や工場でみんながいっせいにお昼休みで機械やエアコンを止めるでしょ?だから、電気の使用量がへるのね。
Q:みんながお昼休みをちょっとづつずらして、休むといいのかもね?
A:エアコンの冷房の温度を1度でも2度でもあげて、節電するだけでもいいんじゃない?このピークの時の電気の使用量をへらすことが出来たら、そんなに発電所がいらなくなるし、原子力発電所もへらすことができるわけね。
◇原発の電気が3分の1になるわけ
Q:上グラフの②のところを見ると、これは原発の電気じゃない?
水力発電とか火力発電とか、ほかの発電所は動いたり止めたりしているけど、原発だけはずっと同じに電気をつくっているんだね。
どうしてこうなるの?
A:原子力発電所にはスイッチがひとつしかないの。オンとオフこれだけ。つまり、動かしはじめたら、最大の出力で動かしつづけるしかないし、さもなければ出力をゼロにする、つまり、止めるしかないわけ。
原発というのはそういうふうにしか運転できないもので、出力を下げて中途半端に動かそうとすると、とっても不安定になるものなの。
やってできないことはないらしいけど、出力を下げて運転する「出力調整試験」をしようとしたら、その原発のまわりの人たちの反対運動が起こって電力会社もそれからやっていないのよ。
(伊方原発 1988年)
それに、1986年に起こった史上最悪の原発事故=チェルノブイリ原発事故は、出力調整運転の試験中におこった事故だということよ。
Q:じゃあ、原発は動かしはじめたら、止めることはできないの?
A:13ヶ月に一度、定期検査をすることが法律で決まっていて、その時には止めてるけど、それまでは最高出力で動かしっぱなし。だから、原発でつくられた電気は多くなるのね。
◇あまった電気を「捨てる」とき
Q:グラフの③のときはどうなっているの?
A:夜中には、寝ている人が多いから、電気の使用量がぐっとすくなくなってしまって、それでも、
原発は止めることができないから、発電量の方が多くなってしまうわけ。つまり、電気があまってしまうのね。そこであまった電気の使い道として必要になってくるのが揚水式発電所というもの。
川の上流と下流に2つのダムをつくり、夜のあいだに原発のあまった電気で下のダムから水をくみ上げて、上のダムにためておいて、昼間の電気を多く使うときに、上のダムの水を落として水力発電をするしくみ。
原発をつくるときに、必ずこの揚水式発電所がつくられているようなの。電力会社は原発と揚水式発電所の関係をみとめたがらないけど、じっさいには、原発の施設の一部といってもいいものなのよ。
Q:夜の電気をむだにしないなんて、頭いいかも?
A:でも水をくみ上げるときにエネルギーがむだになるし、その水で発電するときにもエネルギーがむだになるから、効率はとてもわるいの。それに、川の水を上げ下げするので、川の生き物は大変な迷惑だし、大きなダムは自然を破壊するし、そもそも電気をつくりすぎるからいけないんだから、原発が多すぎることでいろいろな問題があるんじゃないのかな?
Q:そうか、原発がたくさんできると、夜には電気があまっちゃうんだね。 あまった電気を揚水式発電所というところで使いきる、つまり、全体としてはむだがおおくて効率がわるいから、電気を「捨てている」といわれてもしかたがないのかな?
◇電力会社は節電してるの?
Q:電力会社は余った夜の電気を、いっぱい使ってもらおうといろいろなキャンペーンをやっているみたいね。もしかして、夜にいろんなところをライトアップしたりしているのもそうかな?
A:そうかもね。それから、夜のうちに安い電力で冷凍機で氷をつくっておいて、昼間その氷の冷気をエアコンに使うしくみを「エコアイス」なんていって、宣伝してるわね。
Q:原発の電気でつくるアイスだから「核アイス」だよね?たしか、僕の家は太陽電池がついているんで、昼の電気は高いけど、夜の電気は安いってお母さんが言っていたな?それも関係あるの?
A:そうね。東京電力なんかでは「おとくなナイト10」とかいうサービスがあるわね。これは、夜間のあまった原発の電気を多く使ってもらうため、とっても安くして、昼間の電気の値段を高くするしくみよね。
ドイツでは、ずっとまえから太陽電池や風力発電などの自然エネルギーでつくられた電気をふつうの3倍ぐらいの値段で買いとることが法律で決められているので、太陽電池なんかがものすごくふえたそうね。(固定価格買い取り制度 FIT)おかげで2006年、ドイツはたしか日本をおいぬいて太陽電池をつくるのと、いきわたるのとが、世界一になったようよ。日本ではことし(2010年)の春から太陽電池のつくった電気だけ、高く買いとるしくみがはじまったのね。
Q:そうか、太陽電池だけでなく、風力とかの電気も高く買いとるしくみにすればいいのにね?それにしても、夜の電気代ってものすごく安くなってない?
A:電力会社にしてみれば、原発を止めるわけにはいかないので、どんなに安くても電気を使ってもらえば助かるわけね。だから、いろんな夜間割引があるわね。
◇オール電化住宅の落としあな
Q:オール電化住宅 なんていうのも関係ある?
A:オール電化住宅の目玉は、IH(電磁)調理器と、エコキュートという電気温水器かな。このうち、エコキュートは安い深夜電力をつかって、夜のうちにお湯をわかしておいて、次の日にそれを使うのね。
エコキュートは温水器だけを見ると、ヒートポンプというしくみでとっても熱効率が良く、電気エネルギーを4倍の効率で利用できると宣伝しているわ。
でも、家庭でお湯を一番使う時ってどんなときだと思う?
Q:おふろに入るときかな?
A:そうよね。おふろに入るのはたいてい、夜、かえってきて、寝る前でしょ?その時に使うお湯は、じつは前の晩の夜中にわかしておいたものなのよね。おふろに入るときまでずっと暖めつづけたり、わかしなおしたりすると、とくに冬だとか、寒い地方だとよけいなエネルギーが必要になるわけ。
また、そもそも電気っていうのは、どんな発電方式でも発電するときにはとても効率が悪くて、だいたい発電に使うエネルギーの3分の1ぐらいしか電気にならないのね。だから、全体で見るとガスでお湯をわかすのにくらべると、たいしてちがいはないことになるのよ。
Q:そうか!!電気をつくるときには、上の図のようなことがおこっているんだね。だから、電気でおふろをわかすと、海の水もあたためていることになるんだね!?
A:そうね。お金のことを考えると、深夜電力はとっても安いので、エコキュートを使うと家計はちょっと助かるようね。でも、いまは地球温暖化防止のために、電気をつくるときのエネルギー全体を考えると、ガスを使うのとたいして変わらないのよ。とくに、原子力発電の電気を深夜安く使えなければ、エコキュートのメリットはないといってもいいくらいね。
Q:原発があると、「電気を節約しましょう」というよりも、「どんどん使いましょう」っていうふうになっちゃうんだね。
◇ホントの省エネ・節電は?
Q:どうすれば、ホントに省エネになるのかな?
A:「省エネが大切」とか「節電しましょう」とか電力会社は言ってるけど、電力会社だってお金をもうけるために仕事しているわけだから、電気料金の売り上げがへるようなことを本気で考えているとは思えないわ。
電力会社が考えていることは、発電所を効率よく動すために、一日をつうじて電気の使用量ができるだけ同じになるようにしたいのね。(これを「平準化」といいます。)
さっきのグラフでいうと、今よりも原発を増やしてA’にすると、電気があまってしまうので、夜中にできるだけ多くの電気を使ってもらうようにして、Aのようにしたいってことね。(これを「ボトムアップによる平準化」といいます)
Q:それより、Cのように原発をへらせば、夜中によぶんにエネルギーをつかわなくってすむし、昼間のいちばん電気を使うときに、Bのようなことを考えるほうがいいのにね。(これを「ピークカット」といいます)
前に言っていたみたいに、電気をいちばん多く使う夏の冷房の温度を少し上げるとか、夏には世の中全体で順番に夏休みをとって、電気を多く使うときをずらしてみるとか、みんなが本気になって省エネを考えないと、地球はだめになっちゃうよね。