●放射線
・原子ってどんなもの?
■原子とは?
この宇宙にあるすべてのものは、原子という小さなつぶからできています。全部で100種類ほどの原子がさまざまに組み合わされて、この宇宙のすべての物質がつくられています。
■原子の大きさ
そして、その原子の中には、まんなかに原子核があり、そのまわりを電子が回っています。その原子の大きさは1cmの1億分の1(1オングストローム)という大きさです。
これがどれくらい小さいのか、しくみがいちばんかんたんな原子:水素で考えてみましょう。
たとえば、ピンポン球の大きさは直径4cmです。水素原子は約1オングストローム(1Å:オングストローム=1億分の1㎝)ですから、もし、ピンポン球を地球の大きさまで大きくすると、水素原子はピンポン球と同じくらいの大きさになります。
地球の直径=約12,000km=約120,000,000cm
■原子のしくみ
原子核の中には、
陽子と中性子というつぶがあって、陽子はプラスの電気をもっています。
中性子は「中性」ですから電気を持っていません。
まわりをまわっている電子はマイナスの電気をもっています。
原子によって、陽子の数はちがいますが、原子の中の陽子の数と、電子の数は同じで、プラスとマイナスの電気はつりあいがとれています。
陽子の数が、その原子の原子番号です。
たとえば、原子番号1番は、水素【記号:H】、 2番はヘリウム【記号:He】、 6番は炭素【記号:C】、 酸素は8番【記号:O】、
天然の原子で一番原子番号の大きいのはウラニウム【記号:U】で原子番号は92番です。
それぞれの原子核に陽子はいくつあるかわかりますね?
■同位体と放射線
中性子の数は、原子によっていろいろあります。たとえば、ふつうの水素の原子核には中性子はありませんが、中には中性子を1つ、あるいは2つもっているものもあります。それぞれ、重水素・三重水素といいます。
このように、原子番号が同じでも中性子の数がちがうものを同位体(アイソトープ)といいます。
同位体の中には、不安定なものがあり、自然にこわれていくものがあります。こわれるときに、とびだしていく原子の一部が放射線になります。
■核分裂
ウラニウムなどの大きな原子核に中性子をぶつけると、原子核がこわれることがあります。このことを核分裂といいます。
原子が核分裂するときに、放射線といっしょに、とてもおおきなエネルギーが出ます。
これを利用したのが原子爆弾や原子力発電です。
この核分裂のときにとび出した中性子が、ほかのウラニウムの原子核にぶつかると、その原子核も核分裂します。これがつぎつぎにくりかえされて、ぜんたいとしては大きなエネルギーが出てきます。このことを「連鎖反応」といいます。
原子爆弾は、この連鎖反応を一しゅんのうちにおこして、おおきなエネルギーでものをこわしたり、人をころしたりするために使います。
原子力発電は、この連鎖反応をちょっとずつおこして、エネルギーをコントロールしながらとり出すのですが、事故がおきてコントロールに失敗すると、原子爆弾と同じになってしまうかもしれません。
・放射線ってどんなもの?
1.放射線ってどんなもの?
放射線というのは、目には見えないし、においも味もしない。身体にあたってもいたくもないし、とおりぬけても感じない。病院でレントゲン検査をしたことがある人はいますか?その時、いたいとかかゆいとか何か感じましたか?何も感じなかったでしょう?
放射線とはとても大きなエネルギーをもった、ちいさなちいさなつぶの流れで、生き物の身体をかんたんにつきぬけてしまうので、これを感じることができないのです。
■放射線にはどんな種類があるの?
放射線にはいろいろな種類があります。図を見て下さい。病院の検査や治療でつかわれたり、原子力事故があったりしたときによく名前がでてくる放射線の種類をあげてみましょう。
エックス線(X線)、ガンマ線(γ線)、ベーター線(β線)、アルファ線(α線)、中性子線、重粒子線などです。
2.放射線の種類
■エックス線
ウイルヘルム・コンラート・レントゲン博士は実験しているときに、自分の手の骨の影が紙の上にうつっていることに気づきました。これがエックス線の発見です。博士は「身体をとおりぬけるふしぎな線」という意味でエックス線と名付けました。1895年のことです。発見した博士の名前をとってレントゲン線といわれることもあります。
この放射線は左の図のように筋肉や皮膚などをとおりぬけ、身体をすかしてみることができる性質のため、発見されるとすぐに医学の分野でさかんにつかわれるようになりました。技術が進み身体を輪切りにして見る「CT検査」も行われるようになりましたが、これもエックス線です。しかし、生き物には害があることは、あまり知られていませんでした。
日本は世界で一番エックス線検査の回数が多いそうです。このためがんなどがふえるといわれています。これを医療被ばくといいます。
(写真の説明)これはレントゲン博士がとった写真です。骨や金属は黒い影のように写っています。
■ガンマ線
ガンマ線の性質はエックス線とほとんど同じです。これは光の速さでとぶ光のつぶで、原子核がこわれるときにとびだしてきます。目に見える光とちがうところは、エックス線と同じように身体や木や紙などをとおりぬけることです。身体をとおりぬける性質を利用して医療の検査に使ったり、細胞を殺す性質を利用してがんの治療にも使われます。
ガンマ線はあついコンクリートや鉛などはとおりぬけることができないので、これらはガンマ線を防ぐために使われます。
この図は、放射線の透過能力の模式図(わかりやすくあらわしたもの)です。実際の放射線とちがうことは、次の2点です。
①:実際の放射線は、ものをとおりぬけるたびに、いきおいはおとろえます。
②:人間の身体はほとんど水分ですから、中性子線が人間の身体に当たると、身体の組織を破壊したりして、そこで止まるものが多くなります。
■ベーター線
これはとてもはやい速度でとぶ電子で、やはり原子核がこわれるときにとび出してきます。マイナスの電気をおびていますが、アルファ線よりもずっと小さいのでこれよりは長くとべます。体の中では数ミリメートルから数十ミリメートルとぶだけですが、そのとおり道にある細胞をきずつけるのはエックス線やガンマ線と同じです。
■アルファ線
アルファ線ははだかのヘリウムの原子核そのものです。これもプルトニウムのように大きな原子核がこわれるときにものすごいいきおいでとび出します。図のように二つの中性子と陽子からできています。つぶが大きく、プラスの電気をおびているため遠くにとぶことができないので、ふだんはあまり心配はありません。
でも、プルトニウムのようにアルファ線を出す物質がいちど体の中に入ると近くにある細胞をきずつけます。このように体の中から放射線をあびることを内部被ばくといいます。細胞がきずつくとガンなどの原因になります。
アルファ線が細胞をきずつける力は、同じ量のエックス線やガンマ線の20倍くらいあります。
■中性子線
中性子のつぶがはやいスピードでとぶ線です。原子力発電所の原子炉や原爆のような核兵器に使われる原子の原子核がこわれるときにとび出してきます。
1999年9月30日、原子力発電に使う核燃料を作っていた会社で起きたJCO事故のとき、工場ではたらいていた二人はこの中性子線をたくさんあびてなくなりました。
名前があらわすように中性で電気をおびていませんから体の中をたやすくとおりぬけ、細胞をきずつけます。その害はエックス線やガンマ線よりも5倍から20倍高くなります。
■重粒子線
これは炭素やネオンなど、普通の状態ではほとんどとまっているような原子核を加速器といわれる大がかりな装置をつかってむりやりものすごい速さで走らせた線です。エックス線やガンマ線とちがって止まるときに細胞をきずつける力が最大になる特長を生かしてがんの治療に使われています。
3.自然放射線って何?
原子爆弾や原子力発電所から出る放射線とはちがい、人間が作りだしたのではない放射線を自然放射線といいます。その中には宇宙や太陽や地中からでてくる放射線や食べ物の中にある物質がだす放射線がふくまれます。そのために「生き物は地球上に誕生したときから放射線を受けている」という説明をよく聞きます。
でも下の図を見てください。この図は、地球が誕生してから現在まで、地球にふりそそぐ宇宙からの放射線(宇宙線)や紫外線と、地球の生き物の関係をえがいたグラフです。
図中A:生命が生まれたのは生物に害をあたえる宇宙線がとどかない深い海の底でした。
図中B:生物が浅い海でも生きられるようになったのは、地球上にふりそそぐ宇宙線をふせぐバリアー(ヴァンアレン帯)ができた後でした。放射線が命に危険にならないくらい少なくなったからです。
図中C:海の中に酸素を作り出す細菌が生まれると、大気中にたくさんの酸素がたまりオゾン層ができました。植物や動物が海から陸に上がって生きられるようになったのはこのオゾン層が命に危険な紫外線を防ぐようになったためです。
このようにみてみると、生き物は放射線の害がすくなくなり、命に害をあたえない場所にひろがっていったことが分かります。
4.放射線と放射性物質とはどう違うの?
放射能は放射線を出す能力という意味です。放射性物質は自然に壊れながら放射線を出す物質で、放射能ともいわれます。
放射性物質と放射線を、ランプと光の関係にたとえた上のような図を見たことはありませんか。でもよく見かける図には放射線が身体をとおりぬけるようには書いてありません。光と放射線の大きなちがいは、図にあるように光は身体をとおりぬけることができないけれど、放射線はとおりぬけるということです。そしてその放射線のとおり道にある細胞はきずつけられます。
JCO事故や原爆の時のように一度にたくさんの放射線をあびるとほとんどの人が死にます。光はいくらあびても日焼けして水ぶくれができたりはしますが、特別な病気を持っていないかぎり死ぬことはありません。
5.半減期って何のこと?
放射性物質は自然に放射線を出しながらこわれ、ほかの物質に変わってゆきます。もとの物質の量が半分になるまでの時間を半減期といいます。半減期は放射性物質の種類によって違います。
例えば原子力発電の燃料になる燃えるウランの半減期は約7億年、原爆の原料になるプルトニウムの半減期は24,000年、1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所事故の時に世界中にばらまかれたセシウムの半減期は30年などです。ということはチェルノブイリ事故が原因でがんになる人がまだまだたくさんでてくるということです。
上の図は、原子力発電を続けるかぎり燃料の中にたまりつづける猛毒のプルトニウムの寿命と、人類の歴史を比べてみました。プルトニウムは24000年経ってようやくはじめの量の半分になります。キリストが生まれてからまだ2000年チョットしかたっていないのに・・・・。
24000年後地球はどうなっているでしょう?人類はまだ滅びないでいるでしょうか?
これまでに日本の原子力発電だけでたまったプルトニウムの量は、約170トンあまりです。プルトニウムは1グラムで約5000人に肺がんをつくります。これが生き物に無害になるまでにはどの位の時間がかかるのでしょう?計算してみてください。
・放射線の単位
6.放射線の強さをあらわす単位は?
キューリー(Ci):キューリー夫妻がはじめて純粋なかたちで取りだしたラジウムは不安定な原子で、自然にこわれてほかの原子に変わってゆきます(これを崩壊といいます。)
ラジウムはこわれるときに図に示すように放射線を出します。放射線を出す能力がある物質をキューリー夫妻は放射能と名付けました。(放射能は最近では放射性物質と呼ばれることのほうが多くなっています。)
放射性物質の単位は発見者であるキューリー夫妻にちなんでキューリーと名づけられました。
1キューリーというのはラジウム1gが出す放射能量のことです。
1キューリーは370億ベクレルになります。
ベクレル(Bq):放射性物質は一回こわれるたびにアルファ線かベーター線が原子核から一個飛び出し、同時にガンマ線もでます。
1秒間に1回こわれる放射性物質の量を1ベクレル(1Bq)といいます。
放射性物質によってとびだしてくる放射線の種類がちがいます。例えばプルトニウムはこわれるときにアルファ線を出し、セシウムはベーター線を出します。
グレイ(Gy):放射性物質や放射線を発生させる装置から飛び出す放射線のエネルギーが生き物の身体にどれだけ吸収されたかをあらわす単位です。生き物の身体1キログラム当たりが吸収したエネルギーの全体量を1グレイ(1Gy )といいます。
エネルギーを吸収するということは、体の中で放射線が何かにぶつかって速さが遅くなるか、止まるかして変化することです。吸収したエネルギーが大きければ細胞が受ける傷の程度も大きくなります。
シーベルト(Sv):同じ量の放射線が身体に当たっても放射線の種類によってあたえる影響はちがいます。その影響の大きさを考えに入れた放射線の単位をシーベルト(Sv)といいます。
例えば同じ重さの生き物が1グレイのエックス線かまたはアルファ線をあびたとすると、アルファ線の方が20倍も害をあたえるので、アルファ線1Gyは20Svにあたります。
しかし、アルファ線はプラスの電気をおびているため、長い距離は飛べません。したがって、身体の外にある場合にはそれほど心配しなくても良いのですが、食べ物や水や空気といっしょにいったん身体の中に入ってしまうと、傷をつける作用は大きくなりますから危険です(このように放射線を身体の中から浴びることを内部被ばくといいます。)
エックス線やガンマ線の1グレイは1シーベルトです。
7.外部被ばくと内部被ばく
図で示すように放射線を身体の外からあびることを外部被ばくといい、放射性物質を身体の中に取り込んでしまい内側から放射線を浴びることを内部被ばくといいます。
外部被ばくで危険な放射線は、図に示すように、エックス線、ガンマ線、中性子線、です。
ベーター線は服を着ていればそれ程心配はないでしょう。
アルファ線のように遠くに飛べない放射線でも、アルファ線を出す放射性物質が身体の中に入ってしまうと、すぐまわりには細胞がたくさんありますから、細胞は傷つけられます(内部被ばく)。その程度はエックス線やガンマ線の20倍にもなります。
・放射線は身体に悪いの?
8.放射線の量と障害の関係
■放射線を浴びるとどうなるの?
放射線を浴びることを被ばくするといいます。放射線は人間だけでなく植物、動物、生きているもの全てに害を与えます。その害の程度は放射線の量によって全くちがいます。 せっかく放射線の量をはかる単位をおぼえたのですから、どの位の量の放射線で何がおきるのかみてみましょう。
ここでミリシーベルト(mSv) という単位がでてきますが、これは1000分の1シーベルト(Sv)のことです。
放射線の単位では、マイクロシーベルト(μSv)というものも使われます。
これは、1000分の1ミリシーベルト(mSv)のことです。
1(Sv)=1,000(mSv)=1,000,000(μSv)
それでは放射線が身体の中をとおるとどんなことが起きるのでしょうか。次の図は放射線の通った量とそれによって人間がうける傷害の関係を表しています。ここに書かれた放射線の量とそれによる傷害のていどは、おもに広島・長崎の被爆者や事故で被ばくした人の記録からわかったことです。
この図にあるように6000から7000ミリシーベルトを100人が一度にあびると生き残れる人はほとんどいません。半分の人が死ぬ量は3000から4000シーベルトといわれています。血をはいたり、髪の毛がぬけたり、血便が出たりの症状やそのていどは、あびた線量が多くなればそれにしたがってひどくなります。
つぎに、放射線を一度に大量にあびた場合にどんなことになるか、くわしく見ていきましょう。
9.急性障害
■一度にたくさん浴びると? ---急性障害---
皆さんは広島と長崎に落とされた原子爆弾でたくさんの人が亡くなったのを知っていますね?また、現在のウクライナで1986年に起きたチェルノブイリ原子力発電所事故でおおくの人が死にましたし、1999年日本の東海村で起きたJCO事故でも一度にたくさんの放射線をあびた二人が亡くなりました。
JCO事故で亡くなった大内さんや篠原さんも被ばくしてすぐには何も変わった様子はみられませんでした。しかし、しばらくたつと髪の毛が抜け、皮膚がむけ落ち、はぐきや胃や腸から出血して血の便がでて、皮下に出血がおきて紫色の斑点(紫斑という)ができ、細菌が感染すると、なおりませんでした。このような症状をしめしておおくの人は1ヵ月から3ヵ月以内に死亡します。これを急性障害と言います。他の病気とちがい大量被ばくの場合は、治療してなおるというものではありません。身体全体がくずれてしまい、「確実に死に至る」(英語では”A Certain Death”といいます)と言い表すのがピッタリです。
死亡するほどに多くの放射線を浴びなかった場合にも、あびた線量におうじて吐いたり、熱がでたり、下痢をしたりなどさまざまな症状があらわれます。これらの症状は時間がたつと治る人もいます。このような人は外見は普通と変わらないように見えます。が、本人はいつも身体がだるくて疲れやすいため仕事を続けられません。人はその原因を知らないのでなまけているのだと勘違いし、「ぶらぶら病」などと呼びます。そのために一生辛い思いをすることになります。
その上被ばくしてから数年から十数年後にがんになるかもしれません。前の図の右側の逆三角形で示したように多くの放射線を浴びた人ほど後でがんになりやすいことが分かっています。また、被ばくの影響が子供や孫に伝わることがあり、これを遺伝的影響といいます。このことも被ばく者にとっては大きな悩みになります。
10.晩発障害
■少しあびる(低線量被ばく)とどうなるでしょう? ---晩発障害---
少しの放射線とはどの位の量をさすのでしょうか?これは専門家の間でも長い間意見は一致しませんでしたし、今でもそれほどキッチリと決められているわけではありません。2006年にアメリカの科学アカデミーから出された報告書では「100ミリシーベルト以下を低線量という」と提案され多くはこれにしたがっています。
前の図でだいたい急性障害が見られなくなる線量にあたります。この線量以下だと急性障害の影響が見られなくなるのでこの境界の線量を急性障害のしきい値といいます。
低線量被ばくをするのは、原子力発電所やウラン鉱山や、病院の検査室で働く人のように、仕事で放射線をあびる場合で、これを職業被ばくといいます。職業被ばくには限度があって1年間に50ミリシーベルトを超えず、5年間で100ミリシーベルトを超えないと決められています。
また、病院などでエックス線検査を受ける場合もありこれを医療被ばくといいます。これには限度が決められていません。日本は世界でも一番医療被ばくが多く、そのためにがんになる人が年間1万人近くになると計算されています。
原子力発電所から出てくる放射性物質で環境が汚れて、近くに住んでいる子供に白血病が多いという報告もあります。そのため一般の人が原子力発電所などから出てくる放射線をあびすぎないように、その限度も決められています。それは1年間に1ミリシーベルトです。
生き物は放射線を感じないのになぜ、どのように放射線は害をあたえるのでしょうか?それは、生き物が命をつなぐ大事なしくみを、放射線がこわしてしまうからです。つぎを見てください。
11.放射線と細胞・DNA
■放射線と細胞のしくみ・DNA
人が全身にエックス線やガンマ線を1ミリシーベルト被ばくするということはどういうことなのでしょうか?
全身に 1ミリシーベルト被ばくするということは、身体の全ての細胞の核に放射線が平均して1本通ったことになります。図ではわかりやすいように細胞の核の中を通った放射線だけを書いてありますが、この密度で他にも放射線は通っています。
前の図にあるように6,000から7,000ミリシーベルト以上を一度にあびるとその中で生き残る人はほとんどいません。これはその人の全身の細胞の核に放射線が6,000本から7,000本以上通った事になり、この後で説明するように身体の設計図であるDNAがずたずたに切れてしまい、細胞が増えることができないからです。半分の人が死ぬ量は3,000から4,000ミリシーベルトといわれ、細胞の核に放射線が3,000本から4,000本通ったことになります。
放射線による傷害は他の病気とちがい治療して治るというものではありません。なぜでしょう?それは身体の設計図=DNAがこわれてしまい、新しく細胞が生まれないからです。人の皮膚を例にして考えてみましょう。
皮膚からは毎日古くなった細胞がアカとなってはげ落ちています。それでも皮がむけてしまわないのは、その下から新しい細胞が増えてきて死んだものをおぎなうからです。皮膚にかぎらず身体を作っている細胞には寿命があって、古くなると死に、死んだ細胞が新しく増えた細胞に交代します。細胞が新しくふえるためには、細胞のなかの生物の設計図にあたるDNAが、右上の図のようにそっくりにコピーされるしくみが必要です。これは胃や腸や血液などいろいろな臓器で行われていて身体はいつも同じような状態にたもたれています。
放射線は図のようにDNAを切断してしまいます。少しの放射線ならば、DNAの傷はあるていど自動的に修理されて、細胞は正常にもどることもできます。
しかし、たくさんの放射線を浴びるとDNAがずたずたにこわれてしまい、DNAを正常に修理することができません。細胞が増えるために必要な情報が失われたり、修理ミスが起こったりして、細胞は増えることができません。そのため死んだ細胞を新しい細胞がおぎなう事ができなくなります。
そうなるとどうでしょう?皮膚や腸の表面はあかむけになり、そこから大量の血液が流れだしてとまりません。
血液の細胞を作る骨髄でも細胞が増えませんから、細菌と闘う白血球や血を止める働きをする血小板もできなくなり、細菌による感染が起きたり、大量に出血したりして死亡します。
このような変化が、放射線を浴びてから短い時間の内に起こる急性障害の正体です。