JANNET障害分野NGO連絡会 メールマガジン 第231号 12月号 2022年12月28日発行 ―目 次―  トピックス 〜会員団体の活動報告〜 1. 自治体ネットワーク構築と認知症セミナー(野毛坂グローカルの活動近況) 野毛坂グローカル 代表 奥井 利幸 〜会員団体の活動報告〜 2. すべての子どもが健やかに育つ世界を目指して 特定非営利活動法人 ワールド・ビジョン・ジャパン 支援事業部長 佐々木 貴代 3. はじまりはアンコールワット国際ハーフマラソン 特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールド 事務局次長 井上 恭子 4. 「国際リハビリテーション研究会第6回学術大会」開催報告 国際リハビリテーション研究会 理事/ 一般社団法人Bridges in Public Health 事務局長 石本 馨 インフォメーション 1. 国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 イベント情報 1. 第251回 FASID BBLセミナー「開発・人道の新たな優先事項:メンタルヘルス 〜精神保健・心理社会的ウェルビーイングへの取り組み方〜」 2023年1月18日(水) トピックス 〜会員団体の活動報告〜 1. 自治体ネットワーク構築と認知症セミナー (野毛坂グローカルの活動近況) 野毛坂グローカル 代表 奥井 利幸 タイの地域では認知症対策はまだ大きな課題とはなっていません。 そんななか、11月23日にブンイトー市で、「地域に根ざした認知症ケア」セミナーが実施されました。 タイでは、すべての人が安価に医療サービスを受けることができるUHC(ユニバーサル ヘルス カバレージ)制度が2002年に開始されて以来、71歳であった平均寿命が2020年には77歳に上昇しました。喜ばしいことですが、それに伴い高齢化率の上昇や要介護者の増加など様々な課題も発生しています。 認知症発症の最大の要因は「年齢」です。つまり今後タイで認知症の人の数が大きく増加することが予想されます。 さらに、認知症はご本人のみならず家族にとっても、とても精神的な負担が大きな症状です。また差別や偏見も大きいのが実情です。医療や介護技術だけでなく、地域での取り組みが重要となります。 そんななかでの本セミナーでした。 講師は現地大学教員と日本から渡航いただいた地域における認知症ケアの専門家、それに日本からオンラインで行政の介護施策責任者、老人ホームの施設長や認知症デイサービスの主任ケアマネージャー。また、参加者は現地で2箇所の自治体から約40人の自治体職員や高齢者ケアに取り組むボランティアたち。さらにオンラインで7箇所の自治体から各自治体毎にサテライトで繋いでのセミナーでした。 講師も参加者も現地とオンラインの組み合わせによるセミナーでした。コロナ禍以前には考えられない、ダイナミックなセミナーとなりました。 このようなタイの複数の自治体参加のきっかけになったのが、コロナ禍真っ只中の2020年。コロナ以前には、当団体はブンイトー市の高齢者ケアに協力していましたが、それをどのように他の自治体に広げて行くかが課題でした。コロナ禍でもコミュニケーションやセミナーはオンラインを活用してできましたが、他の自治体への普及が課題でした。その時にでてきたアイデアが「タイの自治体をネットワーク化して学び合う」ことでした。2020年にまずブンイトー市とタップマー市と野毛坂グローカルの三者で協力協定を締結しネットワークの枠組みをつくり、それをもとに2022年8月には加入自治体を9自治体に拡大しました。 今回のセミナーはその枠組みを使って実施されました。ネットワークには、自治体だけでなく内外の大学や民間事業者も加盟して広がっています。 今後高齢者ケアだけではなく、障害、青少年、多文化共生など様々な課題も、学び合おうという機運も生まれてきました。 ぜひ、JANNET加入団体の皆様のご協力や指導をいただきながら発展していきたいと思います。よろしくお願いします。       2. すべての子どもが健やかに育つ世界を目指して      特定非営利活動法人 ワールド・ビジョン・ジャパン 支援事業部長 佐々木 貴代 ワールド・ビジョン(WV)は、1950年にアメリカの宣教師ボブ・ピアスによって設立された、キリスト精神に基づいて世界の子どもたちを支援する国際NGOです。「ワールド・ビジョン・ジャパン」(WVJ)は1987年に設立され、チャイルド・スポンサーシップ等による開発援助、緊急人道支援、アドボカシーを活動の3本柱として、設立から30年以上経ったいま、世界36か国で支援活動を展開しています。 2021年11月、ユニセフは世界の2億4,000万人の障がいのある子どもたちについて厳しい状況を示すデータを発表しました。障がいのある子どもたちは、同年代の子どもたちと比べて、一度も学校へ通うことができない可能性が49%高く、差別されていると感じる傾向が41%高く、自分が不幸だと思う傾向が51%高いということが分かりました。 ワールド・ビジョンは支援地域において、そのような最も弱い立場にある子どもたちのニーズ、尊厳の平等や生活の質を妨げる障害に取り組むことで、この格差を少しでも縮める活動を行っています。また、ニーズを満たすだけでなく、私たちが願う「すべての子どもに豊かないのち」の実現の一翼を担ってもらうために、あらゆる活動において、障害のある子どもも大人も可能な限り平等に機会にアクセスし地域社会に参加してもらうことも追求しています。   バングラデシュの3児の母、ハミダさん(中央)は左足に身体的な障害があり、経済的に苦しく自分は家族や社会の負担になっていると感じていました。 あるときワールド・ビジョンが実施する水衛生事業の地域委員会のメンバーとして選ばれ、地域に住む10代の女児と母親たちに衛生習慣の改善を促す啓発活動を始めました。 はじめ周囲の反応は冷ややかでしたが、ハミダさんが毎日活動を続けるうち地域の見方は変わり、以前は「足の悪い不自由な人」と呼ばれていたのが、今では「お姉さん」「尊敬するおばさん」と呼ばれるようになりました。障害を持つ他の女性にも力を与えています。   ザンビアのメアリーさん(中央)は、幼い時に破傷風に感染し自力で歩けなくなりました。トイレや水浴びをするときは、いつも母親の手を借りなければなりませんでした。 しかし、ワールド・ビジョンが彼女の町で支援を開始し、障害者が使いやすいトイレ等の整備や車椅子の提供を行ったことで、メアリーさんは自分で動けるようになり、家族の生活も大きく変わりました。 メアリーさんは遠距離のため今は学校へ行けていませんが、友達や兄弟と遊んだり、洗濯や皿洗い、鶏の餌やりなど家の手伝いをして日々過ごしています。   ヨルダンで実施中の教育事業では、学校運営委員会に障害のある児童(中央)にも参加を促しています。 事業では学校のインクルーシブ化としてバリアフリーの学校施設・教材の整備、教職員のインクルーシブ教育の研修などに加え、学校運営委員会の能力強化の一環として、児童たち(障害を持った子どもを含む)にも委員会に参加してもらおうとしています。障害を持つ児童にも確認しながら、学校運営委員会での議論を進めています。 写真:https://m.facebook.com/story.php?story_fbid=pfbid02GQAaDYnFcjV5TjvfgdzkHcwYLuv2tkst4k1nXbcvg6kwQgdBHBeXBhFiaS8dZY37l&id=100081613845441&sfnsn=mo   ワールド・ビジョンは、障害を持つ子どもも持たない子どもも、共に大切な存在として受け入れられる地域、社会を目指し、これからも活動を進めてまいります。   3.はじまりはアンコールワット国際ハーフマラソン 特定非営利活動法人ハート・オブ・ゴールド 事務局次長 井上 恭子 ※去る2022年10月15日に開催した、(公財)日本障害者リハビリテーション協会主催『「リハ協カフェシンポジウム」第2弾』にてご登壇いただいた内容を、まとめていただきました。 当日は、ハート・オブ・ゴールド代表理事の有森裕子さま(バルセロナ五輪女子マラソン銀メダリスト)からビデオメッセージをいただきました。 「なぜこの国なの?」「なぜ障害分野なの?」との問いに、ハート・オブ・ゴールドの設立経緯と活動についてお話をさせていただきました。 1970年代の激しい内戦の復興途中のカンボジアは、1,000万個の地雷が残り、その被害者は40,000人といわれていました。平和のアピールと地雷被害者の救済を掲げ、多くの日本人の協力のもと、1996年第1回アンコールワット国際ハーフマラソンがチャリティ大会として開催されました。マラソンランナーの有森裕子が、招待され参加したことがきっかけとなり、同大会の意義、スポーツが人々に与える影響とその力を認識し、大会の開催を継続していくため、1998年10月10日にハート・オブ・ゴールドを設立しました。私も2002年から活動に参加し、スタッフとなり現在に至ります。国際協力という分野で、初めて任されたプロジェクトがマラソン実行委員会日本事務局での調整でした。資金集め、広報、現地との運営確認、プログラム作成、専門家派遣、日本でのエントリー受付、ツアー企画と実施といった様々な業務がありました。 障害者の参加取りまとめのために障害者陸上連盟の組織化支援を行ったことで、障害者が仲間をつくり、ともに励ましあうようになりました。大会への参加も徐々に増えていきました。地雷被害により絶望したが、スポーツと出会ったことで再び生きる力が湧いてきたと多くの人が話してくれます。日本の大会への参加機会の提供にも積極的に取り組みました。 人材が育ち、2013年に大会のすべてをカンボジアオリンピック委員会に完全移譲しましたが、障害者支援事業は継続しています。TOKYO2020パラリンピック大会では、車いす陸上の選手がカンボジア代表としてただ一人参加し、決勝進出を果たしました。彼のようなヒーロー的存在とともに、一人でも多くの障害を持った人が、スポーツを通して社会と関わり、希望や夢を持って生きていく、その一助となりたいと願っています。       4.「国際リハビリテーション研究会第6回学術大会」開催報告 国際リハビリテーション研究会 理事/一般社団法人Bridges in Public Health 事務局長 石本 馨 11月13日(日)に、当研究会の第6回学術大会が愛知県名古屋市で開催されました。今回のテーマは「国際リハビリテーションの新たな可能性 〜内なる国際化への貢献を目指して〜」で、一般演題セッションのほか、国内で暮らす海外ルーツの人びとの健康課題とリハビリテーションに関するシンポジウムや特別セッションが組まれました。 一般演題では国内外での研究成果や活動報告が発表されました。その中にはミャンマーやウクライナの現状など時宜に即した報告もありました。また、本学会のテーマに関連する演題も複数ありました。国際リハビリテーションに携わる多くのひとがコロナ禍で研究や活動の変更を余儀なくされた中、いま置かれた場でできることややるべきことに冷静に向き合った様子が、どの発表者からも感じられました。 シンポジウムや特別セッションでは、海外ルーツの人びとへの支援を軸として、現場の声や家族の思いなど多文化共生に関連した研究や活動が紹介されました。内容は病院や地域での支援の様子、病院内での多文化共生推進活動、在留外国人の健康情報アクセスや医療系学部教育の取り組み、介護や終活など多岐にわたり、少しずつではありますが、支援の輪が広がっていることがわかりました。海外ルーツの人びとの健康問題を考えるときに、障害の社会モデルやCBIDの枠組みを使うことで問題のありかや解決策が見えてくるのではと感じました。 海外ルーツの人びとへの支援にあたっては言葉の壁があると言われています。しかしながら、現在はプロの医療通訳から無料の翻訳アプリまで、ニーズに合わせて多様な翻訳手段があります。言葉の壁を盾にして、海外ルーツの方に関わることを避けているのではないか、という発表者からの問いかけは、参加者それぞれの心に深く刺さった様子でした。自分の中にある心の壁を自覚することが多文化共生の第一歩となりそうです。 当研究会が目指す「国際性という文脈を帯びた場におけるリハビリテーション」の中で、今回は日本国内に住む外国にオリジンを持つ人たちへのリハビリテーションや介護・福祉に焦点を当てた大会でした。研究会活動としても次の展開へ向けて、多くの示唆を得る一日でした。新型コロナ感染症蔓延後3年ぶりの対面開催(一部の講師がオンラインで発表されたこともあり、実質的にはハイブリッド方式となりました)、かつ対面では初の地方開催でしたが、多くの方にご参加頂けました。参加者同士の交流も活発で、対面ならではの醍醐味を堪能できた会となりました。参加者それぞれが次の活動への刺激と示唆を得たことを願っています。  (写真提供:国際リハビリテーション研究会) ******************************************************************************** インフォメーション 1.国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 (関連サイト:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html) 署名国・地域数164/ 締約国・地域数 185 (2022年12月末現在) https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=IND&mtdsg_no=IV-15&chapter=4&lang=en イベント情報 1.第251回 FASID BBLセミナー「開発・人道の新たな優先事項:メンタルヘルス 〜精神保健・心理社会的ウェルビーイングへの取り組み方〜」 2023年1月18日(水) UNESCO憲章では、平和・開発・人権の土台として心の側面も重要だとされ、WHO憲章でも、健康は身体面だけではなく、精神面及び社会的福祉(well-being)の状態であることが述べられています。しかし、飢餓や紛争、母子保健や感染症対策などへの対応が迫られる中、精神保健は長らく優先事項から取り残されてきました。ようやく2030アジェンダやSDGsで 優先事項に加わり、世界銀行や大手企業が取組みを始めています。 開発課題における精神保健・ウェルビーイングの主流化に向けて尽力されてきた東京大学の井筒(いづつ)氏から、その背景や課題、今後の取組みの可能性について紹介いただきます。 ※手話通訳または字幕の設定が可能です。ご希望の方は、Peatixでのチケット購入後、2022年12月23日(金)までに下記のお問い合わせ先にご連絡ください。情報保障の方法について相談させてください。 ■日時:2023年1月18日(水)12:30〜14:00 ■講師: 井筒 節(いづつ たかし)氏/東京大学総合文化研究科 特任准教授 ■参加費:500円(賛助会員は無料) ■申込み締め切り:2023年1月12日(木)正午 ■詳細URL: https://www.fasid.or.jp/information/38_index_detail.php ■お問合わせ先:一般財団法人国際開発機構(FASID)国際開発研究センター 今/野口 〒106-0041港区麻布台2-4-5 メソニック39MTビル6階  Email:bbls@fasid.or.jp 編集後記 今年最後のメールマガジンも見どころ満載です。団体の活動報告では、高齢化が進むタイで、認知症のセミナーを通して複数の自治体同士のネットワーク構築の支援は互いの取り組みや経験が共有される貴重な機会であり今後の広がりが期待されました。また、途上国で障がいのある子供や大人がどのように地域社会で参加していくのか実例から知ることができました。さらには『「リハ協カフェシンポジウム」第2弾』、「国際リハビリテーション研究会」の学術大会もこの秋に開催されました。スポーツを通して障がいのある方と社会との繋がりや、国内での海外にルーツのある人々の健康課題を考える中で活発な意見交換が行われたようです。来年も皆様の団体とのネットワークを通して、私自身、国内外での学びの機会を増やしていけたらと思います。 (西本 敦子/JANNET広報・啓発委員) JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 JANNET障害分野NGO連絡会  〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内 【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630 URL: http://www.normanet.ne.jp/~jannet/ 以上