JANNET障害分野NGO連絡会 メールマガジン 第223号 4月号 2022年4月28日発行 ―目 次―  トピックス 〜会員団体の活動報告〜 1. オンラインでの参加型研修〜「誰も取り残さない」への挑戦 公益財団法人 アジア保健研修所(AHI) 職員 清水 香子 2. CBRからCBIDへの変遷と事例紹介 公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 元参与/JANNET名誉会員 上野 悦子 3. 日本財団助成事業「アジア太平洋障害者連携フォーラム2022」報告 公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 企画研修部研修課 光岡 芳宏 4. タイにおける「いきいきとした」高齢化への取り組み 国際教養大学 3年 / 野毛坂グローカルスタッフ 鈴木 知世 インフォメーション 1. 国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 2.JANNET新規個人会員のご紹介 イベント情報 1. 第12回「リハ協カフェ」 2022年6月23日(木) トピックス 〜会員団体の活動報告〜 1. オンラインでの参加型研修〜「誰も取り残さない」への挑戦 公益財団法人 アジア保健研修所(AHI) 職員 清水 香子   アジア保健研修所(AHI)は愛知県日進市にあるNGOです。1980年の設立以来、アジア各地で活動する保健開発ワーカーを対象に、リーダーシップを育成する参加型研修を行っています。現在30か国に720名の元研修生がいます。 この研修は、宿舎を併設したAHI事務所のある日本で開催するものです。研修生は、約6週間、多様な背景や経験を持つ仲間と共に生活しながら、誰も取り残さ(れ)ず共に成長し合うコミュニティをここでどうつくっていくか、議論と実践を繰り返します。そしてそこから自らの地域で生かすアイディアを掴み、計画をたて、帰国します。 ですが2021年は、コロナウィルス感染拡大を受けZoomを用いて開催しました。「変化をつくりだす次世代育成」をテーマに、6か国より、地域の課題にとりくむ若者グループのメンバーと、若者グループを育成するNGOの職員9名が参加しました。 オンラインでの開催は、AHIにとっても初めての経験でした。さまざまなチャレンジがありましたが、その最たるものは、今まで以上に研修生間に「安心できる関係」をつくることに焦点を当てたことでしょう。 英語が母語でなく他地域の人が話す英語の発音に不慣れな研修生たちにとって、Zoom越しのコミュニケーションは非常に難しいものでした。研修生たちで話し合った結果、誰かが議論についていけないとき、また聴覚障害の研修生とのやりとりにはチャットを用いて文字にすることになりました。時間はかかります。ですが理解し合わなければ学び合うこともできません。わからないと表明する勇気を持ち、それを受け止め助け合う関係づくりが必要でした。また、時差の関係からセッションの時間は従来より短い上、共同生活をしているわけではなく、関係を深める時間は限られていました。そこで、お互いの態度、姿勢や役割の取り方などについて、よいと思った点・改善点両方を率直にフィードバックし合うワークを頻繁に行いました。併せて、それにより自分のセッションでの関わりがどう変わり、どのように研修生同士の議論を活発にし、他の研修生の学びにつながったのか、振り返る時間を何度も持ちました。 自然と議論の進みは遅くなり、当初研修生が計画した内容を大幅に削ることにはなりました。ですがこのプロセスを積み重ねていくうちに、研修生たちは、自分が所属する若者グループもしくは支援する若者たちの間にも、安心して率直に意見が言い合える信頼関係が必要だと気づきました。自分が研修で体験したように、そのような関係ができることによって、若者たちひとりひとりが自信をつけ、意見をだし役割を担い、そこから学び合うことがグループの成長や力につながるのだと。そして、若者たちが自ら力を発揮する場をつくるために、自分は何ができるかを考えるようになっていきました。 Zoomでの研修開催は、ネット環境の整った人にのみ参加が限られるなど課題もあります。一方で、相互理解の困難さは、インクルーシブとは何かを考え、そのような場をつくる方策を試行錯誤する教材となることを、研修生たちは示してくれました。AHIでは2022年度もオンラインで研修を行います。今年の研修生たちがどんな新たな発見や学びを生み出すのか、また一緒にチャレンジするのが楽しみです。   スリランカからの研修生プラモさん(NGO・左)とアマさん(若者グループ・右)。二人は、同じ地域で共に活動しています。 プラモさん「今までアマを助けなきゃと思ってきたけど、それはアマの成長を妨げていたとわかったよ。アマが自分でできるなら、それを待つことのほうが必要なサポートなんだ」 アマさん「研修では未熟でも独立した一人の人間であることを求められた。自分の考えは自分でしか言えないし、そうしないかぎり学べない」 二人は帰国後、アマさんの若者グループのメンバーを対象に、「安心できる関係づくり」と「フィードバック」の大切さを体験する5日間の研修を開催しました。 ※二人が手にしているのはAHIの研修(ILDC)を一言で示したものです。 プラモさん「ILDC is FAMILY」 アマさん「ILDC is a good learning Platform for me」  *研修生のディスカッションの様子を見たい!という方はインターンさん作成による動画(3:34)をぜひ!研修を終えてのコメントもあります。 https://youtu.be/sFS0Nwhx0Yo   2. CBRからCBIDへの変遷と事例紹介      公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 元参与/JANNET名誉会員 上野 悦子 ※去る2022年2月25日に開催した、(公財)日本障害者リハビリテーション協会主催『第10回「リハ協カフェ」』にてご登壇いただいた内容を、まとめていただきました。 1980年代にWHOが、途上国の障害のある人と家族の生活の質の向上のために開発されたCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)は国連障害者権利条約の採択の動きに沿って、CBRの目的はCBID(地域に根ざしたインクルーシブ開発)であることが明確に示されました。2月25日には「CBRからCBIDへの変遷と事例紹介」について発表しましたのでその概要を紹介します。 事例は、昨年11月6日に当協会が主催したCBID国際シンポジウムでの3組の発表概要を紹介しました。一人目は東近江市にある永源寺クリニック所長の医師、花戸貴司さん。花戸さんは東近江市で多職種が参加する「三方よし*研究会」開催と永源寺での「チーム永源寺」という研究会をとおして人のつながりがすすみ、地域住民も支えあいに参加するようになってきたことが紹介されました。二組目は、タイ東北部にある「希望の家」財団代表のラオン・マニタームさんと同財団理事のソムチャイ・ランシップさん。「希望の家」は、学校の先生たちと始めた子どもたちのためのホームでしたが、事業評価を行った結果、ホームに来られない障害のある子どもたちが地域に多く存在することに気がつき、地域住民とともに子どもたちを地域で支える活動に転換したことを発表しました。3人目は、ベトナムのハノイにある障害者団体、DPハノイ副代表のドゥー・ティ・フーイエンさん。障害のある人が健康を保つにはスポーツが必要ですが利用できるスポーツ施設が限られていることからパイロットプロジェクトとして、小学校の敷地内で障害者向けスポーツジムを設立し、障害のある人と家族を対象にスポーツをはじめたところ、学校の先生や生徒、さらに近所の人もいっしょにスポーツを楽しむようになったという内容でした。 3つの事例については、CBRマトリックスを使ってそれぞれの基本となる分野からの活動の広がりを示しました。その結果、3事例共に地域資源の動員までの結びつきが見られ、地域住民の参加は、国は違っても共通する考え方として根底にあることがわかりました。 *三方よしとは、近江商人の精神で「売り手よし、買い手よし、世間よし」のことをいう。       3. 日本財団助成事業「アジア太平洋障害者連携フォーラム2022」報告 公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 企画研修部研修課 光岡 芳宏 2022年3月9日にオンラインにて、「アジア太平洋障害者連携フォーラム2022 withコロナ時代に蒔く、ソーシャルビジネスの種〜日本からアジアへ」と題して開催致しました。元々の予定では2020年に日本に研修生を招聘しての開催の予定でしたが、コロナ禍により延期を重ねて、ようやく開催することができました。このフォーラムは日本財団助成事業によるもので、日本障害者リハビリテーション協会が受託している、障害当事者リーダー育成事業の修了生を対象とし、更なるエンパワメント、地域や国レベルでの共生社会の実現に貢献できるリーダー育成を目的に、2015年度より開始されたフォローアップの一環です。2016、2017年度では、日本においてワークショップを開催し、2018年度には東京都で、「アジア太平洋障害者連携フォーラム〜社会を変える障害者のネットワークと日本の役割」、2019年度事業ではパキスタン国ラホール市におきまして、「アジア太平洋障害者連携フォーラムinパキスタン〜チャリティから投資へ」を開催致しました。 今回のフォーラムでは、2019年にパキスタンで開催したフォーラムの成果や学びについて、ダスキン・アジア太平洋障害者リーダーシップ育成事業の卒業生5名から、成果報告や自国地域でのソーシャルビジネスへの取り組みについて発表を行いました。パキスタンからはパキスタンフォーラムのインパクト、ネパールからは視覚障害のある女性の経済的エンパワメント、タイからはろう者の観光ツアーガイドによる所得創出、台湾からは企業などとの協働によるソーシャルビジネスの可能性、そしてカンボジアからは障害当事者が経営する、ドライフルーツなどの販売について発表がありました。 また基調講演では、ボーダレスジャパン、ジョッゴ株式会社の太田真之氏から、バングラディシュと日本でのソーシャルビジネス事業の紹介をして頂き、経営理念や障害者雇用の実情など、幅広いトピックでの講演を頂きました。後半のプログラムでは、発表を行った研修生とパキスタンフォーラムに参加した2名を加え、研修生のソーシャルビジネスのアイディアに対して、太田氏からアドバイスや情報提供をして頂き、それぞれの国や地域でソーシャルビジネスを展開する上でのヒントもらいました。当日のフォーラムの発表要旨などは日本語と英語にてホームページと冊子を制作致します(2022年5月末頃完成予定)。 2015年度より始まったフォローアップですが、本フォーラムをもって完了となります。2019年以降はコロナの影響を受け、計画していた内容での事業ができず、残念なところはありますが、研修生が再び来日し、日本人関係者との繋がりを通じて学べる機会を作れたこと、また研修生の活動を活性化する方法として、ソーシャルビジネスという選択肢を提示できたことは、この事業の成果であったように思います。機会がありましたら、みなさまと研修生とのネットワーク構築も実現できると嬉しく思います。 4. タイにおける「いきいきとした」高齢化への取り組み 国際教養大学 3年 / 野毛坂グローカルスタッフ 鈴木 知世 私は2022年3月に「野毛坂グローカル」のタイ出張へ2週間ほど同行しました。渡航の目的は、記録の作成や研修の企画・運営といった役割をいただきながら、タイでの高齢者ケアの様子を肌で体感することでした。短期間の訪問であり、私自身まだまだ勉強中であるため、一面的な考えかもしれませんが、実際に現地で感じたこと・学んだことを綴らせていただきます。   タイでの滞在中は、様々な自治体、高齢者ケアに関わる施設やコミュニティを訪問しました。現場を実際に訪れてみた最初の印象は、タイの高齢者ケアがとても「いきいきしている」ということでした。その感覚がどうして湧いてくるのか自分なりに考えてみたところ、どうやら地域の実情や特徴が色濃く反映された高齢者ケアの仕組みづくりを行っていることに起因しているのではないかと思います。実際に、ケアに関わる多様な人々が意欲をもって、それぞれの地域に必要なもの・あったらいいなと日常のなかで感じるものを創り出し、活動・交流している様子を見ることができました。 また、自治体、省庁、大学、市民団体といった多機関での連携が行われていたのも印象的です。例として、「認知症カフェ」に関する検討会では、自治体の医療福祉関係者と大学教員とが、実施する方向性について真剣に議論した結果、認知症カフェを試しに行ってみるという最終結論にその場で至りました。あるいは、自治体の職員や市民ボランティアなどが一緒に別の自治体を訪問し、施設の見学、高齢者の方によるダンスの披露、そして昼食を共にしながらの雑談を行っていました。市民どうしの規模感から、お互いの事例や経験を紹介しあっている様子からは、お互いの取り組みへリスペクトし合っている雰囲気を感じることができました。 野毛坂グローカルは、日本と途上国のあいだでの「学びあい」を後押ししている団体ですが、今回のタイ渡航中も、日本の経験をタイに伝えるとともに、タイでの取り組みを日本の関係者などへ伝えるオンラインイベントが行われ、様々な質問や意見が相互に行き交っていました。国や地域を越えた「学びあい」は、文化・社会経済状況が異なることを前提に起こり得るため、教えられる側だけでなく教える側にとっても、何気ない自分の日常や経験が新鮮なものとして相手に受け取られることで、普段の暮らしへの肯定感が上がったり、外の視点から自分の活動をみることができるようになったりといった、前向きな影響を得られると思います。 今回のタイ渡航では、高齢化への取り組み以外にも、ミャンマー出身の方々のコミュニティやスラム、廃棄物収集場などを訪れる経験ができました。また、良い意味で「余白」がある旅路であり、目的を持たずに町や村を歩くなかで、偶然出会ったひとやものから、多くの尊い気付きや学びを受け取ることができました。これからも、机上で学ぶ理論と、実際にその地に立って感じることができる現場の風とを行き来しながら、「誰ひとり取り残さない」社会とは何なのか、どんな道筋を描いて実現していけるのか、自分なりに問い続けていきたいです。 ******************************************************************************** インフォメーション 1.国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 (関連サイト:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html) 署名国・地域数164/ 締約国・地域数 185 (2022年4月末現在) https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=IND&mtdsg_no=IV-15&chapter=4&lang=en 2.JANNET新規個人会員のご紹介 2月19日に開催した、JANNET研究会「とりのこさないカフェ」にご参加いただいた方が、4月よりJANNET個人会員として新規ご入会されました。ご紹介させていただきます。 お名前:永浦 さやか さま ご所属:特定非営利活動法人横浜市視覚障害者福祉協会(個人会員) 【永浦さまよりメッセージ】  全盲で、メンタル面の不調も抱えていますが、JICAやJANNETをはじめ、国際的な活動に強い関心があります。 今般のウクライナ情勢をはじめ、障害のある人々は、さまざまなリソースがあってもそれに十分にアクセスできない現状があると知り、個人として微力ながら、何か、お役に立つことや、他の会員の皆様との活発な交流ができることを期待しています。 これから、どうぞよろしくお願いいたします!   イベント情報 1.第12回「リハ協カフェ」 2022年6月23日(木) 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会では、海外からの訪問者の報告会等を実施しておりましたが、新型コロナウイルスの影響で、いまだに海外関連の報告会の実施は難しい状況にあります。そのため、「リハ協カフェ」として、リモートによる報告会を企画し、2020年8月より隔月で開催してまいりました。今回は、第12回目の開催です。 第12回は、長田 こずえ先生(名古屋学院大学 国際文化学部 教授)より「中東の経済破綻国レバノンに暮らす障害を持つ人々のパワー 2020年春のフィールド調査より」、木村伸也先生(愛知医科大学 名誉教授、同 看護学部非常勤講師)より「医療リハビリテーションから連携を考える」についてご報告いただきます。 関係者以外にも広くご参加を募ります。皆様のご参加をお待ちしております。     日時:2022年6月23日(木)13:30〜15:15 場所:リモート開催(Zoom) 参加費:無料 ※情報保障あり 【プログラム】 13:30-13:35 開会挨拶 君島淳二(公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 常務理事) 13:35-14:15 報告1「中東の経済破綻国レバノンに暮らす障害を持つ人々のパワー 2020年春のフィールド調査より」 発表者:長田 こずえ先生(名古屋学院大学 国際文化学部 教授) 14:15-14:25 質疑応答 14:25-15:05 報告2「医療リハビリテーションから連携を考える」 発表者:木村 伸也先生(愛知医科大学 名誉教授、同 看護学部非常勤講師) 15:05-15:15 質疑応答 15:15    閉会 *プログラムの内容に変更がある場合がございます。ご了承ください。 【申込方法】 以下のサイト、またはFAXにてお申し込みください。 URL: https://www.jsrpd.jp/cafe12/ 申込受付:6月22日(水)15:00まで ※情報保障が必要な方は、6月16日(木)までにお申し込みください。 満員になり次第、締め切りとなりますので、ご了承ください。 お名前、ご所属、ご住所を明記の上、手話通訳、要約筆記、点字資料など必要があれば申し込み時にお知らせください。 参加登録された方へZoomのURLをお送りいたします。  【お申し込み、お問い合わせ先】 《公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 国際課》 担当:村上・仁尾(にお) 〒160-0052東京都新宿区戸山1丁目22番1号 TEL: 03-5273-0601   FAX: 03-5273-1523    Eメール:kokusai@dinf.ne.jp 編集後記 コロナ禍から早3年が経とうとしています。まだ終焉は見えませんが徐々に通常日常生活に戻りつつあると言いますか、新しい生活様式に馴染んできたかと思います。聴覚障害者も情報獲得やコミュニケーション、通信方法も多様化してきました。また世界も狭くなり瞬時に情報を得られるようになりました。また非接触方式として代金の支払いや切符もIC化とデジタル化がかなり進みました。デジタル分野を不得意とする人たちが取り残される事のないよう、学習会などを開催する事が急務になっています。 その方法や仕組みを学ぶためには、書籍物で調べるよりネットの方が最新であり、量も豊富なのですが内容の良し悪しの判断も必要になってきます。また音声情報しかない事も課題となっています。各団体や各部署にもICT対策と言った部門を置き、新たな課題・取組が必要になってくるのかなと感じます。 (嶋本 恭規/JANNET広報・啓発委員) JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 JANNET障害分野NGO連絡会  〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内 【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630 URL: http://www.normanet.ne.jp/~jannet/ 以上