JANNET障害分野NGO連絡会 メールマガジン 第222号 3月号 2022年3月31日発行 ―目 次―  トピックス 〜会員団体の活動報告〜 1. インクルージョン社会のなかで、0歳からの発達相談をとおして親のエンパワメントと家族支援を進めるために -「認定NPO法人日本ポーテージ協会中期計画(2022-2025)」を指針として- 認定NPO法人日本ポーテージ協会 副会長・事務局長 谷島 邦雄 2. なぜ「アジアの農林水産業に従事する障害者の暗黙知」なのか? 法政大学 現代福祉学部 准教授 佐野 竜平 3. とりのこさないカフェ オープニングイベント ―さまざまな「とりのこさない」活動― 開催報告 JANNET研修・研究委員長 伊藤 智典 4. 第三回HAPICに参加して 公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 参与 上野 悦子 インフォメーション 1. 国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 イベント情報 1. 第11回「リハ協カフェ」 2022年4月22日(金) トピックス 〜会員団体の活動報告〜 1. インクルージョン社会のなかで、0歳からの発達相談をとおして親のエンパワメントと家族支援を進めるために -「認定NPO法人日本ポーテージ協会中期計画(2022-2025)」を指針として- 認定NPO法人日本ポーテージ協会 副会長・事務局長 谷島 邦雄   認定NPO法人日本ポーテージ協会(会長 清水直治)は、1985年に設立されて以来、「ポーテージプログラム」(アメリカ合衆国ウィスコンシン州ポーテージで組織された“ポーテージ・プロジェクト”により1972年に開発された、障害のある乳幼児とその親・家族支援への早期介入プログラムである「ポーテージ期教育ガイド(Portage Guide to Early Education : PGEE)」と、それをもとに翻訳・翻案された各国版の総称)をもとに、発達に遅れや偏りがある子どもの0歳からの発達相談と親・家族支援のための活動・事業を国内・国外で展開しています。 国内では、全国49支部・約900名の会員がおり、各地域の実情に応じて活動しています。2020年からの新型コロナ禍においては、各種研修セミナーはもとより、定例の会議と恒例のイベントはオンライン開催を余儀なくされ、ポーテージ相談については「ポーテージ相談ガイドライン」を作成し、感染拡大に配慮した面談を実施してきました。 国際協力については、直近では、ネパールポーテージ協会の「5カ年計画 (2014-2018) 」のもとで、バネパ、カトマンズ、バグルングにおいて毎年研修セミナーを開催し、また2017年には、JICA事業のプロジュクトの一部として、モンゴル・ウランバートルで研修セミナーを行い、その機会にモンゴルポーテージ協会と協定を締結して活動を継続しています。 近年、障害のある子どもの福祉制度が改正され、保育や学校教育においても障害の有無にかかわらず多様な子どもたちが共に学ぶインクルーシブ保育・教育の方向性が示されました。こうした社会情勢の変化のもとで、リニューアル版『ポーテージ早期教育プログラム』を刊行するとともに、日本ポーテージ協会の現状と課題を踏まえ、“ポーテージプログラムを普及し発達に遅れや偏りのみられる乳幼児の早期教育システムの確立と発展に寄与する(定款第3条)”という目的のもとに、「認定NPO法人日本ポーテージ協会中期計画(2022-2025)」を策定し、創立40周年を迎える2025年を目途に、達成を目指す4つの「目標」と総数33の「具体的な取組」を挙げ、今後の活動・事業の指針として「見える化」しました。     2. なぜ「アジアの農林水産業に従事する障害者の暗黙知」なのか? 法政大学 現代福祉学部 准教授 佐野 竜平 ※去る2022年2月25日に開催した、(公財)日本障害者リハビリテーション協会主催『第10回「リハ協カフェ」』にてご登壇いただいた内容を、まとめていただきました。 2022年2月25日(金)に開催された第10回「リハ協カフェ」にて、現在行っている研究の1つである「アジアの農林水産業に従事する障害者の暗黙知」について紹介する機会をいただきました。アジアの農林水産業に関わっている障害者の実践を取り上げましたが、私の不手際で限られた時間での発表となってしまいました。そこで、以下の3点から今一度ポイントを補足します。 1点目は、農林水産業に従事する障害者の暗黙知について、それぞれの環境に照らした創意工夫の「有」や「可」を模索することです。障害者に関して何らかの評価や基準が検討されるとき、しばしば「無」や「不可」から始まります。形式的な障害者の参加・介在では、表面的なインクルージョンに留まりがちです。障害者が持つユニークな暗黙知の表出が、より実践的な評価や基準につながればと愚考しています。 2点目は、日本でも2020年に行動計画が策定された「ビジネスと人権」の広がりです。ビジネス関係者の人権リスクの特定や対応の方法である「人権デュー・ディリジェンス」など、様々な製品をアジアから輸入している日本にも大きく関係するトピックです。アジアでは「サプライチェーンの見える化」が課題となっており、障害者を含む関係者の農林水産業への関わり方を明らかにしていくことが期待されています。農林水産業における障害者の暗黙知の 蓄積は本質的な参画と言えるもので、農福・水福・林福連携からさらに踏み込むこととなり、障害者の就労事情の改善の一助になりえます。 3点目は、「リニアエコノミー(線型経済)」から近年注目を集める「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」へのシフトです。大学生等若い世代を前にして、確かにSDGs(持続可能な開発目標)への理解が深まっていると実感します。これからアジアの循環型経済は大きく普及すると予想されており、農林水産業は馴染みやすい分野の1つです。今後もアジアの事例と障害者の暗黙知の関係を考究し続ける見込みです。 末筆ではございますが、主催者および参加された皆様に改めて御礼申し上げます。 3. とりのこさないカフェ オープニングイベント―さまざまな「とりのこさない」活動― 開催報告 JANNET研修・研究委員長 伊藤 智典 設立30周年を迎えるJANNETは、2030年の「SDGs達成」をにらみ、CBR/CBIDや障害インクルーシブな社会を目指しています。このたび新しいとりのこさない活動の一環として、それぞれの立場でご自身が実践しているとりのこさない取り組みを紹介いただくオンラインイベント、「とりのこさないカフェ」を2022年2月19日(土曜)に開催しました。 川口 夏芽さん(大阪府立大学理学療法学部3回生)は、大学でボッチャ部と Adapted Sports Clubに所属し、選手のサポートを行ったり、自らが選手としてボッ チャを競技していることなどを紹介しました。ボッチャの大会に審判やボランティアとして参加したり、地域の小学校でボッチャ体験会を開き、また東京2020 パラリンピック大会でボランティアとして参加したことなどを紹介されました。 向井 幸治さん(フライングディスク選手)は、先天性の聴覚障害。学生の頃は野球をしており、その経験を活かし、現在はフラ イングディスク競技の選手、そして審判員として活動しているとのこと、2016年から全国障害者スポーツ大会の横浜市フライングディス ク競技代表選手に選出されたことや、遠くに飛ばすディスタンス競技での60mの記録などについて紹介されました。 正木 楓さん(車いす陸上競技選手)は、大学在学中の事故で脊髄を損傷、車いすの生活となりました。その後、2019年に参加したスポーツ大会でパラ陸上と出会い、競技を始め、現在は、競技用 車いす「レーサー」で様々な大会に出場しているとのこと。2021年に初めて出場した第40回 記念大分国際車いすマラソンでは、ハーフマラソン女子の部で2位、 2021年全国障害者スポーツ大会(三重県、新型コロナウィルス感染拡大により中止)の横浜市陸上競技代表選手として選出されるなど、自身のスポーツ活動の取り組みについて紹介されました。 岩本 直美さん(公益社団法人日本キリスト教海外医療協力会)は、大津赤十字看護専門学校卒業後、地元の病院や福祉施設で障がい児療育に携わられてきました。1993年にJOCSワーカーとして、バングラデシュ・ボグラ県のハンディキャップ センターで活動をスタート、その後ロンドン大学地域主導型リハビリテーション 修士号取得してから、1999年にバングラデシュ・マイメンシン県に再赴任し、障害者コミュニティーセンターにて障害を持つ人々の自立援助やラルシュコミュニティ (知的な障がいのある者と障がいのない者が共に暮らす共同体)で活動をしているとのこと。現在の新型コロナウィルスにおける活動の中で、人が人としてあるべき姿について問いかけをされました。 研修研究委員会の金子さんは、それぞれの話題提供者に対してコメントを述べ、意見交換を促したところ、スポーツを通じたコミュニケーションや取り組みが人とのつながりを作るのではないかとのこと、日本発達障害連盟さんの紹介とともに第一回目のオープニングイベントは終了しました。 今回のイベントでは、専門職団体やNGO団体の方のみならず、保健福祉領域の学生の方の参加や、スポーツ関係の方もご参加いただきました。SDGsで見たとき、障がい課題は横断的なイシューであると言われています。教育、就労、不平等などの分野への対応もふくめ、研修研究委員会ではリサーチ活動、資料翻訳、オンラインイベントや研修などを通じ、インクルーシブ社会を目指す活動に取り組んでいきたいと思います。 手話通訳者の皆さま、要約筆記の皆さま、そしてJANNET事務局、日本リハビリテーション協会の仁尾さん、廣田さん、原田さん、など本当にお世話になりました。そしてご参加いただきました約30名のみなさま、またご案内を差し上げますので一緒に「とりのこさない取り組み」にご参画いただけると嬉しいです。ありがとうございました!     4. 第三回HAPICに参加して 公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 参与 上野 悦子 2022年2月13日から15日までJANICは第三回HAPICをオンラインで開催しました。 HAPICとはHappiness, Idea Conferenceの頭文字を並べたもので、課題解決の先にあるみんなのしあわせについて話し合うカンファレンスとして3年前からJANICが開催しています。 第3回目のことしの参加者数は主催者発表で500人、第1回目からの合計は1,300人に上るとのこと。 今年のテーマは「国際協力をリデザインする」で、国際協力をとりまく世界の状況の変化が大きい中、これからの国際協力はどうなっていくのか、その変化への対応を自分事として考えられるような機会が各セッションをとおして提供されました。 オープニングで、JANIC理事長の本木恵介氏は、「今私たちがいるのは、新型コロナ感染症拡大、民族主義の対立、気候変動、など変化がみえない混沌とした時代で、これからしばらく続くだろう。だからこそ国を超えて協力するときだ。」、と述べました。 初日のオープニングセッションでは、アメリカとイギリスとカンボジアのNGOが、国際協力のこれまでとこれからを考え、混沌の時代にNGOとしてのどう挑戦していくかに関する講演の録画を流しました。その中の一人、イギリスのBondの事務局長のステファニー・ドレイパーは、世界の対立、民主主義への圧力の中で自分たちの権利と自由を守っていく、人々の連帯意識が低下しており、Bondへの圧力もあることを述べた上で、国際協力が気候変動、労働組合、ビジネスセクターなどに働きかけて、より広い連携を目指していくことが大事だと述べました。 その後、日本から応答したのは、SDGs市民社会ネットワーク共同代表の三輪敦子さんとNPO法人アクセプト・インターナショナル代表の永井陽介さん。 三輪さんは、国際協力のリデザインとは、世界のあり方リデザインであり、それは世界との関係性をリデザインすることでもあります。脱植民地化や現地化について今回も話題に上がっているが、前から議論されてきた古くて新しいこと、国際協力がその実現を阻んできたのではないか、と国際協力のあり方に疑問を提示。三輪さんは東日本大震災後の調査結果から、ロバート・チェンバースが言っている、“Putting the last first”(最後の物を前へ:援助の受け手を前に)の考え方は今こそ必要。聞こえない声を政策につなぐことが大事だと述べました。  3日目のセッションでは、国際協力NGOの活動を振り返り、これまでと異なり今は個人に移ってきている。一人の主婦がはじめた動きで何千万円も集めた例もある。ネットワークNGOのあり方としては、無数のネットワークができることが今後は大事になるのではないか、という話がありました。 ******************************************************************************** インフォメーション 1.国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報    (関連サイト:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html)    署名国・地域数164/ 締約国・地域数 185 (2022年3月末現在) https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=IND&mtdsg_no=IV-15&chapter=4&lang=en イベント情報 1.第11回「リハ協カフェ」 2022年4月22日(金) 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会では、海外からの訪問者の報告会等を実施しておりましたが、新型コロナウイルスの影響で、いまだに海外関連の報告会の実施は難しい状況にあります。そのため、「リハ協カフェ」として、リモートによる報告会を企画し、2020年8月より隔月で開催してまいりました。今回は、第11回目の開催です。 第11回は、佐藤 克志先生(日本女子大学 家政学部 住居学科 教授)より「我が国のバリアフリー環境整備における当事者参加の現状と課題」、林 早苗氏(公益財団法人 笹川平和財団 アジア・イスラム事業グループ 研究員)より「地域におけるケア:ベトナムと韓国の取組」についてご報告いただきます。 関係者以外にも広くご参加を募ります。皆様のご参加をお待ちしております。     日時:2022年4月22日(金)13:30〜15:15 場所:リモート開催(Zoom) 参加費:無料 ※情報保障あり 【プログラム】 13:30-13:35 開会挨拶 君島淳二(公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 常務理事) 13:35-14:15 報告1 「我が国のバリアフリー環境整備における当事者参加の現状と課題」 発表者:佐藤 克志先生(日本女子大学 家政学部 住居学科 教授) 14:15-14:25 質疑応答 14:25-15:05 報告2 「地域におけるケア:ベトナムと韓国の取組」 発表者:林 早苗氏(公益財団法人 笹川平和財団 アジア・イスラム事業グループ 研究員) 15:05-15:15 質疑応答 15:15    閉会 *プログラムの内容に変更がある場合がございます。ご了承ください。   【申込方法】 以下のサイト、またはFAXにてお申し込みください。 URL: https://www.jsrpd.jp/cafe11/ 申込受付:4月21日(木)15:00まで ※情報保障が必要な方は、4月15日(金)までにお申し込みください。 満員になり次第、締め切りとなりますので、ご了承ください。 お名前、ご所属、ご住所を明記の上、手話通訳、要約筆記、点字資料など必要があれば申し込み時にお知らせください。 参加登録された方へZoomのURLをお送りいたします。      【お申し込み、お問い合わせ先】 《公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 国際課》 担当:村上・仁尾(にお) 〒160-0052東京都新宿区戸山1丁目22番1号 TEL: 03-5273-0601   FAX: 03-5273-1523 Eメール:kokusai@dinf.ne.jp 編集後記 新型コロナウイルスの感染拡大による困難が2年近く続いてきましたが、このたびのウクライナ紛争においても、私たちは大きな人権上の危機に直面しています。ウイルスや戦争の直接的な被害ばかりでなく、それらによって引き起こされる差別や偏見、分断、対立などは、世界中の誰もが向き合わなければならない課題です。その中で障害のある人は、より大きな困難を経験します。JANNETの会員団体、そしてこのメルマガをお読みになっているお一人お一人が、それぞれの思いを持ちながら、取り組まれていることと存じます。お互いの取り組みの中からも学び合いながら、障害分野でできることをご一緒に考えていきたいと思います。 さて2022年2月号から、JANNET会員団体に改めて執筆を依頼し、最近の各団体の活動報告を、連続して掲載していくこととしました。来年2023年にJANNETは設立30年を迎えますが、それまでには、障害分野で活動するNGOの現在進行形の取り組みをご紹介する、一つの事例集ができあがるのではないかと考えているところです。連続し、まとまることで、何か全体として見えてくるものがあるのかもしれません。どうぞご期待ください。 (原田 潔/JANNET広報・啓発委員) JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 JANNET障害分野NGO連絡会  〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内 【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630 URL: http://www.normanet.ne.jp/~jannet/ 以上