JANNET障害分野NGO連絡会 メールマガジン 第212号 5月号 2021年5月31日発行 ―目 次―  トピックス 〜会員団体の活動紹介〜 1. 特定非営利活動法人 難民を助ける会[AAR Japan]の団体活動紹介 特定非営利活動法人 難民を助ける会[AAR Japan] 野際 紗綾子 2. 開催報告 「交通バリアフリーの現在・過去・未来の可能性と課題について考える」 宇都宮大学地域デザイン科学部 客員教授 土橋 喜人 インフォメーション 1. 国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 2. DAC-CSO Reference Groupコンサルテーションミーティングが開始 3. 「誰ひとり取り残さない」小論文・作文コンテストのご案内 イベント情報 1. 第6回「リハ協カフェ」 2021年6月9日(水) トピックス 〜会員団体の活動紹介〜 1. 特定非営利活動法人 難民を助ける会[AAR Japan]の団体活動紹介 特定非営利活動法人 難民を助ける会[AAR Japan] 野際 紗綾子    特定非営利活動法人 難民を助ける会[AAR Japan](以下、AAR)は、1979年に、インドシナ難民を支援するために、政治・思想・宗教に偏らない市民団体として設立されました。緊急人道支援、障がい、地雷、感染症の分野を中心に、現在、日本を含む14ヵ国で活動していますが、今回は、障がい分野の活動についてご紹介させていただきます。 AARの障がい分野の活動は、1980年代後半に、タイの難民キャンプで、避難中で地雷の被害に遭った人々に対する車いす等の補助具の配布からはじまりました。 1994年にはカンボジアで、2001年にはラオスで車いす工房を開設するなど、中長期的な取り組みが始まりました。その頃、ミャンマーでは障がい者のための職業訓練校が、タジキスタンやアフガニスタンでは障がい者のためのリハビリテーション施設の充実化等の活動が進みました。2006年12月に障害者権利条約が採択され、各国政府の関心も高まる中、2000年代はアジア地域を中心に、AARの障がい分野の活動を拡大していきました。 2008年5月。当時の軍事政権下のミャンマーでサイクロン被災者への緊急支援のため現地入りした際、私が驚いたのは、「障がい者へは、緊急支援物資のみならず情報すら届いていません」という被災障がい者からのメッセージでした。多くの方々からのご寄付に加え、ジャパン・プラットフォーム(JPF)からも助成金を頂きました。 当時、JPFの助成ガイドラインには、災害時の緊急支援における障がい者の支援は含まれていませんでしたが、現状をご理解いただき、大規模な支援を行うことができました。その後もインドネシア地震、パキスタン水害、フィリピン台風、東日本大震災、熊本地震等の災害が相次いでいますが、災害時の障がい者支援の必要性や重要性が理解されるようになってきています。 2013年からは、障がいの有無にかかわらず、すべての子どもが学校に通えるよう、カンボジア、タジキスタンやハイチ等でインクルーシブ教育事業を実施し、現在、活動はアフガニスタンやパキスタンでも広がっています。また、福島をはじめとする東北においては、東日本大震災からの復興に向けて、福祉施設の販路拡大等の支援や平時からの準備を進めてきました。障がい分野の国際会議や学会や関連誌においても発表し、活動現場の知見・経験を国内外に提言・発信する試みも続けています。 すべての人に優しい世界の実現に向けて、私たちは、障がいの主流化と、障がいインクルーシブな教育、就労、災害支援等の活動を推進し、発展させるよう、努力してまいります。 2. 開催報告 「交通バリアフリーの現在・過去・未来の可能性と課題について考える」     宇都宮大学地域デザイン科学部 客員教授 土橋 喜人 ※去る2021年4月27日に開催した、(公財)日本障害者リハビリテーション協会主催『第5回「リハ協カフェ」』にてご登壇いただいた内容を、まとめていただきました。   先ずは近年の動向について、旧・交通バリアフリー法を中心にバリアフリー新法等を振り返りました。セクターごとに俯瞰し、鉄道、空港、タクシー、バス、道路・歩道の取り組みについて報告して、地域間格差の拡大について問題提起しました。そしてバリアフリー基本構想の進捗や新たに導入されたバリアフリーマスタープランについても触れました。 続いて、過去については筆者の博士論文を中心にお話をしました。同論文は阪急電鉄伊丹駅の復旧・復興事業、福岡市地下鉄七隈線事業、仙台市地下鉄東西線事業を主な研究対象としています。様々な工夫は事業者側の努力もありますが、地元の障害当事者の働きかけによる影響についても伝えました。本研究の独自性は、実際に障害者を主とした移動制約者にとって利便性が高い駅が建設できたのかの確認です。このような事後評価の取り組みはまだ不十分です。対象三事業の障害者団体と一般利用者向けのアンケートを実施して、統計的な検定を行ない、その差を確認しました。プロセスの分析に関しては、関係者分析では事業者・行政が前向きであること、移動制約者・障害者からの働きかけがあったことを本論文で述べています。 未来に向けて、先ずは国のイニシアティブとして、オリ・パラに向けて「ユニバーサルデザイン行動計画(UD2020)」が策定されています。一方、一部の意識調査では様々な取り組みの認知度は低いままです。自動運転が技術的な開発として脚光を浴びていますが、実用化までにはまだ時間がかかると言われています。一方、移動制約者のための様々なICTツールの開発も進んできており、Check A Toilet、WeeLog、アクセシブルラボ、袖縁などといったツールや取り組みが生まれてきています。 途上国については、JICAで障害と開発の取り組みが進められており、障害と開発の主流化の成果で途上国の交通バリアフリー化に寄与しています。具体的には、インドのデリーメトロにおけるバリアフリーの取り組み等があり、その背景には日本の援助で行われたUNESCAPの研修で日本の有識者の指導を受けたインドの車いす使用者が障害当事者団体を設立して働きかけたことがあります。タイの好事例としては首都バンコクの地下鉄事業があります。ベトナムではハノイ市とホーチミン市で地下鉄事業の計画段階で日本の有識者を派遣し、各機関との協議等を実施しました。最後に台湾の地下鉄では、様々な工夫がなされており、幅広改札では車いす用にICカードのタッチパネルが低く設定されている等、日本も学ぶ点があります。   【台湾・台北市の地下鉄の様子(2018年訪問時、発表資料より一部抜粋・加工)】 (写真)1:エレベータは殆ど優先表示、2:多機能トイレは3か所、3:プラットホームはフルスペックのホームドア、上下エスカレータ、エレベータ等、4:段差隙間を最小化(ゴム櫛あり)、5:幅広改札はタッチパネルが低く設定 重要な視点として、国連障害者の権利条約には交通バリアフリーに関する記載がありますが、訴える手段がありません。身近なものは障害者差別解消法がありますが、訴える窓口となる地域協議会等を把握することが必要になる一方、地域協議会が未設置の自治体も多くあるという課題があります。過去の取り組みを現代に活かすことも重要です。また本論の重要な点として当事者参加がありますが、的確にニーズを伝えられるようになること、巻き込む力・人としての魅力を持つことが重要です。戦略的に動くことで結果が変わってくるでしょう。 ************************************************************************************** インフォメーション 1.国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 (関連サイト:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html) 署名国・地域数164/ 締約国・地域数 182 (2021年5月末現在) https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=IND&mtdsg_no=IV-15&chapter=4&lang=en 2.DAC-CSO Reference Groupコンサルテーションミーティングが開始 OECD(経済協力開発機構)のDAC(開発援助委員会)は2018年からCSO(市民社会組織)との定期会合を年一回開催してきましたが、CSOの開発援助における位置づけを文書化し6月に採択、という動きがあります。そのために日本のCSOから文書への修正案を提案してもらう会議をJANICが4月21日にオンラインで開催し、JANNET事務局から上野と宮前が参加しました。 DAC-CSO Reference Group にはタスクフォース(10人)が設けられ、JANICの政策提言チームから参加している高柳さん(フェリス大教員)による報告がありました。今後CSOからの意見をとりまとめ、6月22日に最終ドラフトが発表になる予定です。 決定まであまり時間はありませんが、JANIC会員に意見を述べる場を提供していただけるのはありがたく、今後もJANNETは少なくとも情報収集はしておくといいのではないでしょうか。(JANNET元事務局長  上野 悦子) 3.「誰ひとり取り残さない」小論文・作文コンテストのご案内 野毛坂グローカルでは、昨年に引き続き、若者を対象としたSDGsに関する作文・小論文を募集します。 すべての応募作品はお名前とともにホームページで公開されます。また副賞として大賞3作品(3万円)、入賞15作品(1万円)、他に特別賞若干(2万円)を用意しています。 昨年の大賞受賞者でも、障害当事者や外国にルーツを持つ人など、当事者の持つ発信力には本当に驚かされましたし、学びにもなりました。ぜひ、このコンテストを紹介いただければうれしいです。 【募集内容】SDGsの基本理念、「誰ひとり取り残さない」の視点で、考えること、自分が行いたいこと、社会への提言など自由な発想で、日本語1000-2000文字で作成の上ご提出ください。 【応募資格】2021年4月1日時点で25歳以下の方 【締め切り】2021年6月30日(水)23時59分 【主催】野毛坂グローカル  【後援】朝日新聞社      SDGsジャパン       独立行政法人国際協力機構(JICA) ※詳細/応募方法はこちらをご覧ください https://nogezaka-glocal.com/dh2/          イベント情報 1. 第6回「リハ協カフェ」 2021年6月9日(水) 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会では、海外からの訪問者の報告会等を実施しておりましたが、本年度は、新型コロナウイルの影響で海外関連の報告会の実施は難しい状況にあります。そのため、「リハ協カフェ」として、リモートによる報告会を企画し、2020年8月より隔月で開催してまいりました。今回は第6回目の開催です。 第6回は、春名 由一郎氏(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター副統括研究員)より「世界の職業リハビリテーションの収斂進化」、野際 紗綾子氏(認定NPO法人 難民を助ける会 [AAR Japan] 支援事業部マネージャー)より「ミャンマーにおける緊急人道支援(仮)」についてご報告いただきます。 関係者以外にも広くご参加を募ります。皆様のご参加をお待ちしております。    日時:2021年6月9日(水)13:30〜15:15 場所:リモート開催(Zoom) 参加費:無料 ※情報保障あり 【プログラム】 13:30-13:35 開会挨拶 君島淳二(公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 常務理事) 13:35-14:15 報告1「世界の職業リハビリテーションの収斂進化」 春名 由一郎氏(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター副統括研究員) 14:15-14:25 質疑応答 14:25-15:05 報告2「ミャンマーにおける緊急人道支援」(仮) 野際 紗綾子氏(認定NPO法人 難民を助ける会 [AAR Japan]支援事業部マネージャー) 15:05-15:15 質疑応答 15:15    閉会 *プログラムの内容に変更がある場合がございます。ご了承ください。 【申込方法】 以下のサイト、またはFAXにてお申し込みください。 https://kokucheese.com/event/index/611047/ 申込受付:6月8日(火)15:00まで ※情報保障が必要な方は、6月1日(火)までにお申し込みください。 定員満員になり次第、締め切りとなりますので、ご了承ください。 お名前、ご所属、ご住所を明記の上、手話通訳、要約筆記、点字資料など必要があれば申し込み時にお知らせください。 参加登録された方へZoomのURLをお送りいたします。  【お申し込み、お問い合わせ先】 《公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 国際課》 担当:村上・仁尾(にお) 〒160-0052東京都新宿区戸山1丁目22番1号 TEL: 03-5273-0601   FAX: 03-5273-1523    Eメール:kokusai@dinf.ne.jp 編集後記 多くの地域で緊急事態宣言などが出される中、読者の皆様もそれぞれの活動にご苦労されながら取り組まれていることと思います。 国会では、今号のトピックスでも言及がありました、障害者差別解消法の改正案の審議が大詰めを迎えています。ご存じのとおり、合理的配慮の事業者への義務化などが焦点となっています。(メルマガが発行されるころには成立しているかもしれません) 同じくトピックスでは、障害インクルーシブや当事者参加といったキーワードも出されています。 交通バリアフリーに関しては、無人駅における障害者の利用と合理的配慮に関して、インターネット上の動きをきっかけに大きな議論がありました。さまざまな意見があることは承知していますが、こうした議論を起こし、社会の仕組みについて多くの人が考えるきっかけを作っているのが、障害当事者からの発信であることを、改めて感じています。 (原田 潔/JANNET広報啓発委員) JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 JANNET障害分野NGO連絡会 〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内 【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630 URL: http://www.normanet.ne.jp/~jannet/ 以上