JANNET障害分野NGO連絡会 メールマガジン 第210号 3月号 2021年3月31日発行 ―目 次―  トピックス 〜会員団体の活動紹介〜 1. 社会福祉法人日本視覚障害者職能開発センターの40年の沿革と紹介 社会福祉法人 日本視覚障害者職能開発センター 常務理事 杉江 勝憲 2. 「Learning Crisis」とは何か? ―COVID-19下のインクルーシブ教育に関する調査から 津田塾大学学芸学部国際関係学科 准教授 柴田 邦臣 3. アジア経済研究所が主催のオンライン講座 「新型コロナ禍の下の途上国の障害者の状況を考える」に参加して 名古屋学院大学国際文化学部 教授/元国連職員 長田 こずえ 4. 2020年度第2回「NGO-JICA協議会」の報告 JANNET研修・研究委員会 専門委員 奥井 利幸 5. JANIC主催「HAPIC2021」に参加して 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 参与 上野 悦子 インフォメーション 1. 国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 2. ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業23期生募集のお知らせ イベント情報 1. 第5回「リハ協カフェ」 2021年4月27日(火) トピックス 〜会員団体の活動紹介〜 1. 社会福祉法人日本視覚障害者職能開発センターの40年の沿革と紹介 社会福祉法人 日本視覚障害者職能開発センター 常務理事 杉江 勝憲    日本視覚障害者職能開発センターは、視覚障害者が一般の人と共に働くことを目指して、故松井新二郎によって創設されました。 昭和51年9月に日本盲人職能開発センターとして社会福祉法人の認可を受け、社会事業授産施設として発足しました。次いで、東京都新宿区四谷本塩町2-5(TEL03-3341-0900)の現在地に新装となったビル(地下1階、地上2階)に移転して、昭和55年4月には身体障害者通所授産施設「東京ワークショップ」が誕生(通所施設としては全国で初めて)し、現在に至っています。 平成9年には、事務系職業訓練として、OA実務科(定員5名、東京障害者職業能力開発校委託訓練、現在までの就職者202名)を開始しました。 平成23年4月には、障害者総合支援法による就労継続支援B型(現定員30名、作業内容は各種審議会等のテープ起こしによる議事録作成、この10年間の月額平均工賃は95,926円)、就労移行支援(現定員30名、音声読み上げソフトによるPC事務職への就労支援、現在までの就職者163名)の多機能型施設「東京ワークショップ」に変更しました。 平成30年10月には、当センターから就職した視覚障害者の職場定着をサポートするため、就労定着支援を開始しました。 公益事業としては、視覚障害者の就労の啓発を図る「視覚障害・就労支援者講習会」、全国のロービジョン(低視覚)の方々への「全国ロービジョンセミナー」を開催しています。 令和元年10月に法人名を社会福祉法人日本盲人職能開発センターから、社会福祉法人日本視覚障害者職能開発センターに変更しました。 令和2年に東京ワークショップは創立40周年を迎えることが出来ました。同年9月26日には、「創立40周年記念全国ロービジョンセミナー・オープンハウス」及び「創立40周年記念会」を開催いたしました。(当センターホームページにセミナーの内容と記念会の動画30分を掲載しています) https://www.jvdcb.jp/about/history/ 2. 「Learning Crisis」とは何か? COVID-19下のインクルーシブ教育に関する調査から        津田塾大学学芸学部国際関係学科 准教授 柴田 邦臣 ※去る2021年2月24日に開催した、(公財)日本障害者リハビリテーション協会主催『第4回「リハ協カフェ」』にてご登壇いただいた内容を、まとめていただきました。   新型コロナウィルス感染症(COVID-19)による影響は、日本社会に緊急事態を繰り返し迫るほどのインパクトを与えていますが、その危機にもっとも早く直面したのが、学校教育でした。特に、緊密な対面指導を長所としてきた特別支援・インクルーシブ教育において、COVID-19が強いる「新しい生活様式」下の学校は、陰に陽に大きな変容を求められています。一見、朗らかに登校している子どもたちの裏側に、日々、努力を重ねていらっしゃる先生方の背後に、看過し難い「危機的影響」が迫りつつあるのではないでしょうか。「Learning Crisis研究会」では2020年から全国の特別支援学校にオンラインで調査を実施し、現場でのフィールドワークを重ねながらその現実の把握を試みました。その結果は、以下の3点に帰結されつつあります。 (1)格差を超えた「分断化」…地域ごとの感染状況や、家庭ごとの事情によって、子どもたちの学習経験は、義務教育を揺るがしかねないほどの格差となり、特にオンラインの導入の程度によっては「分断」と呼びうる差を生みつつあります。 (2)形骸を超えた「空洞化」…長期休校後に、慌てて時間割や教科教育を再開したことなどにより、「形だけ学校を取り戻す」ことになってしまい、「危機を乗り越えるために繰り返し示される新方針や通知が絵空事」(調査回答より)となるような、教育の「空洞化」が起こりつつあります。 (3)自粛を超えた「無力化」…強制された自粛という「青春」の中での脱力感、先生でさえ「いかんともしがたい」という無力感が、障害のある子どもたちにある種の「無力化」をもたらしうることが危惧されつつあります。 当日の報告内容は、文章として:教育新聞・連載・「学びの危機」(https://www.kyobun.co.jp/education-practice/p20210126/)、 音声・動画として:Learning Crisisとは何か?・津田塾IESチャンネル(https://www.youtube.com/channel/UCMvc0Fm4QRkJDAWeuAKJMow) などもあるので、アクセシビリティ対応を含め参照してください。 2020年からの私たちは、それぞれがそれぞれの場所で最善を尽くしたはずではありましたが、子どもたちにとってそれは言い訳にはならないのです。教育の責任は、「子どもたちの我慢」ではなく、「大人たちの覚悟」によって果たされなければなりません。実際に調査では、危機感の自覚が、対応力の向上につながっていると見られる例が生まれていました。現実をLearning Crisisと正視することで、その道は切り拓かれつつあります。     3. アジア経済研究所が主催のオンライン講座 「新型コロナ禍の下の途上国の障害者の状況を考える」に参加して      名古屋学院大学国際文化学部 教授/元国連職員 長田 こずえ 2021年2月18日14時から15時まで、上記のオンライン会議に名古屋より遠隔参加しました。議題は途上国におけるコロナ下の障害者の状況と日本のこの分野における国際協力の可能性についてでした。主催のアジア経済研究所の他にもJICAから障害を担当されている久野研二専門家などがスピーカーとして参加されました。会議の言語は日本語と手話が平行して使用されました。アジア経済研究所の森壮也さんが会議のリードを、小林昌之さんが司会を務められました。 コロナの障害者の生活に及ぼす影響としては、コミュニケーション手段の問題、施設に暮らす障害者の感染リスク、経済不安や貧困が障害者にもたらす影響、また知的障害者、ろう者、盲人たちが抱える情報的なチャレンジなど様々なものを幅広く取り扱っていました。たとえば、リップリーディングをする場合はマスクを着用しては不可能です。視覚障害を抱える人にとっても、タッチすることによる情報受信手段は大切なツールですがソーシャルディスタンスでは難しい状況です。まず一番の問題点は、コロナの障害に及ぼす影響を調査したものが途上国では皆無であるということです。先進国でも調査は限られています。国連や世界銀行の研究調査にも十分には含まれておらず、まずは障害者の状況に関する情報不足が問題点として指摘されました。またワクチンの配布や雇用の面においても障害者が排除される危機に立たされている点、途上国においては通信や情報の分野でのDEVIDE-格差の問題も深刻です。国連の持続可能な開発目標、SDGsは 誰一人取り残さない開発 を目標にしていますが、どのようにして障害者の権利条約32条で提唱されている、インクルーシブな国際協力を推し進めていくかは将来の緊急課題であると思います。 私個人的にはワクチンのジェネリック薬品や特許権のジレンマも人道的な課題であると思います。 今回遠隔参加して、地方に住む我々のような人間も気軽にオンラインでこのようなタイムリーな会議に参加できてよかったと思います。以前は、東京以外は排除される傾向にありましたから、これはプラスでしょうか。 まさに、世界はオンラインとGAFAの時代に突入したのですね。 他方、情報分野、オンライン環境のディバイドは、本当に一部の貧しい途上国の障害者にとっては取り残されがちな、深刻な問題であると思います。また、私事ですが教育分野においても、遠隔教育における様々な課題が浮き彫りになっていますから、今後ともこのような会議を継続してほしいと思います。 オンラインでの活発な意見交換の後、森さんの閉会挨拶をもって終了しました。 以下が、今回の講座の案内サイトです。 https://www.ide.go.jp/Japanese/Event/Seminar/210218.html     4. 2020年度第2回「NGO-JICA協議会」の報告 JANNET研修・研究委員会 専門委員 奥井 利幸 2021年3月1日に実施されたNGO-JICA協議会について報告させていただきます。 本協議会はJICAとNGOとが年に2回、会場をJICAで実施していますが、今年度に関しては、新型コロナウィルス感染症の影響によりオンライン(zoom)で実施されました。例年は数十人の出席で実施されていますが、今回はオンラインということもあり、JICA側NGO側合わせて200名近い出席者となりました。 JANNETからは、事務局の上野悦子氏、研修研究委員会専門委員の奥井が出席させていただきました。 まず、外務省国際協力局政策課臼井課長およびJICA萱嶋理事の挨拶があり、コロナ禍での国際協力を「NGOとの連携の強化」「制度の(コロナ禍に対応した)柔軟な運用な見直し」「DX(デジタルトランスフォーメンション)の活用などによるイノベーション」に対応していきたい旨の説明がありました。 その後、今年度の協議会活動報告、来年度計画の説明ののち、特に「NGO/JICA共同での勉強会の開催」「ジェンダ主流化にむけた対話の場」「外国人人材受け入れ支援・多文化共生の取り組み」について重点的に取り組むことの説明がJICA側からなされました。 NGO側からのコメントとして、DPIからは、ジェンダ主流化の取り組みに関して、障害女性の視点も取り入れるべきとの要望が、また、JANNET上野氏からは、格差やインクルージョンを考える際に、デジタルデバイドの今後の影響にどう考えるのかを、各方面から検討するべきとのコメントが出され、いずれも了解されました。 終了後、上野氏からは、JANNETがJANICに参加していることで、NGOとJICAとの対話の場に参加でき、「障害者を取り残さない」と主張をすることから一歩先へ進み、JICAや他のNGOとの協働について多分野の人が議論するこのような機会は重要との感想がありました。   5. JANIC主催「HAPIC2021」に参加して 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 参与 上野 悦子    JANIC(国際協力NGOセンター)主催の第二回「HAPIC(Happiness, Idea Conference)2021」が2月14日から16日までオンラインで開催され、JANNETから参加しましたので報告します。参加者は主催者発表で650人。プログラムはオープニングとクロージングが全体会および27の分科会にあたるブレークアウトセッションで構成されました。 全体のテーマは、「課題解決のその先へ」で、団体も企業も個人も、世界や国の今後の方向性を見据えつつ、自分たちの活動を見直すきっかけがそれぞれのセッションで提供されていました。  オープニングでは各界で活躍する3人の女性スピーカー(国連から水鳥真美さん、JICAから萱嶋信子さん、トヨタから大塚朋美さん)が登壇し、モデレーターの小沼大地さん(NPO法人クロスフィールズ)の進行で、それぞれの新型コロナ禍での活動概要とその中でご自分は何をされてきたのかを報告しました。 ブレークアウトセッションで参加したうちのひとつは「“経営の視点”で考える国際協力セクターの未来」(初日)で、JANICがアビームコンサルタント会社とともに国際協力を行っているNGOへの調査した結果をもとに、国際協力を行う団体が今後成長していくための経営や組織運営の方法が検討されたことが紹介されました。続くパネルディスカッションでは調査に協力した3団体の代表(地球市民の会、PHD協会、JANIC)が現状を踏まえ、どのような改善プランを実施したかを報告しました。この調査の背景にあるのは、国際協力を行うNGOの新規設立が極端に減っていること、しかし新たな傾向として若い世代には社会課題への解決に携わりたい人口が増えていること、企業がSDGsを見据えた事業活動を行うようになってきたことがあります。国際協力団体が組織運営を進展させていくことが活動の継続性のために必要であるということが示されました。 クロージングセッションは、「日本の社会課題解決から考える国際協力の未来」というテーマで、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事の坂野晶さんと認定NPO法人テラ・ルネッサンス創設者・理事の鬼丸昌也さんの対談が行われました。二人のお話から、日本の地域での課題への取り組みは国際協力にどのように伝わっていくのかについて興味深いことがあぶりだされました。キーワードは「学び直し」。これからの国際協力は、大規模な活動も大事だが、住んでいる地域での関係の結びなおしも重要だということでした。 【所感】 今年はオンラインでの開催にも関わらず、組織のあり方の見直しを含めた興味深いプログラムが用意されていたのではないかと思います。主催者であるJANIC自身が組織を変える手法を導入して結果を発表していました。ちょうどJANNETでは中期計画(2017-2020)を検証し、次の中期計画を策定しようという時期でもあり、JANNETとJANNETの団体にとっても参考になることがあるのではないかと思いました。 ************************************************************************************** インフォメーション 1.国連障害者の権利条約(UNCRPD)締約国情報 (関連サイト:http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html) 署名国・地域数164/ 締約国・地域数 182 (2021年3月末現在) https://treaties.un.org/Pages/ViewDetails.aspx?src=IND&mtdsg_no=IV-15&chapter=4&lang=en 2.ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業23期生募集のお知らせ 本事業は、アジア太平洋地域に居住している若い障害者を対象としており、日本での約10カ月間の研修機会を通して、彼らに日本の福祉の現状を学び、自己研鑽に励む機会を提供することを目的としております。応募書類は郵送もしくはメールにて受け付けております。 なお、第23期の応募申込の締め切りは、2021年4月15日(郵送の場合は当日消印有効)となっております。 アジア太平洋のお知り合いの方がいらっしゃいましたら、是非ご案内いただけますようお願い申し上げます。 応募用紙につきましては以下のページからダウンロードできます(英語)。 https://www.normanet.ne.jp/~duskin/english/apply/index.html 本事業につきましては、こちらのページをご参照頂けますと幸いです(日本語)。 https://www.normanet.ne.jp/~duskin/our-program/index.html ご不明な点等ございましたらお問い合わせください。何卒よろしくお願い申し上げます。 【お問い合わせ先】 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 企画研修部 研修課 〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 TEL: 03-5273-0633 FAX: 03-5273-1523        イベント情報 1. 第5回「リハ協カフェ」 2021年4月27日(火) 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会では、海外からの訪問者の報告会等を実施しておりましたが、本年度は、新型コロナウイルの影響で海外関連の報告会の実施は難しい状況にあります。そのため、「リハ協カフェ」として、リモートによる報告会を企画し、2020年8月より隔月で開催してまいりました。今回は第5回目の開催です。 第5回は、北村弥生先生(長野保健医療大学 特任教授(令和3年4月1日〜))より「障害者統計の動向」、土橋喜人先生(宇都宮大学地域デザイン科学部 都市計画研究 客員教授)より「交通バリアフリーの現在・過去・未来の可能性と課題について考える」をご報告いただきます。 関係者以外にも広くご参加を募ります。皆様のご参加をお待ちしております。 日時:2021年4月27日(火)13:30〜15:15 場所:リモート開催(Zoom) 参加費:無料 ※情報保障あり 【プログラム】 13:30-13:35 開会挨拶 君島淳二(公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 常務理事) 13:35-14:15 報告1「障害者統計の動向」 北村 弥生先生(長野保健医療大学 特任教授(令和3年4月1日より)) 14:15-14:25 質疑応答 14:25-15:05 報告2「交通バリアフリーの現在・過去・未来の可能性と課題について考える」 土橋 喜人先生(宇都宮大学地域デザイン科学部 都市計画研究室 客員教授) 15:05-15:15 質疑応答 15:15    閉会 *プログラムの内容に変更がある場合がございます。ご了承ください。 【申込方法】 以下のサイト、またはFAXにてお申し込みください。 https://kokucheese.com/event/index/609853/ 申込受付:4月26日(月)15:00まで ※情報保障が必要な方は、4月20日(火)までにお申し込みください。 定員満員になり次第、締め切りとなりますので、ご了承ください。 お名前、ご所属、ご住所を明記の上、手話通訳、要約筆記、点字資料など必要があれば申し込み時にお知らせください。 参加登録された方へZoomのURLをお送りいたします。  【お申し込み、お問い合わせ先】 《公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会 国際課》担当:村上・仁尾(にお) 〒160-0052東京都新宿区戸山1丁目22番1号 TEL: 03-5273-0601   FAX: 03-5273-1523    Eメール:kokusai@dinf.ne.jp 編集後記 今月号の津田塾大学の柴田先生が講演された内容にて、格差を超えた「分断化」というキーワードがありました。盲ろう者の場合、目と耳の代わりとなる通訳・介助員の派遣利用は、生きるために欠かせません。しかしながら、音声や指点字、触手話・接近手話等の「接近・接触」を伴う通訳方法ゆえ、COVID-19が流行する前のような気軽な利用は、実質的に難しくなっています。 (社福)全国盲ろう者協会が進める国際協力事業においても、海外の盲ろう者の側で支援者を確保できず、満足に連絡を取り合えない状況です。ただでさえ、通信環境や点字ディスプレイのような情報機器の普及など、国ごとに格差が生じがちなところに、人の手を借りることもままならない状況が重なっています。 盲ろう者が社会と分断されないためにも、このコロナ禍の早期の終息を願うばかりです。 (小林 真悟/JANNET広報啓発委員) JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 JANNET障害分野NGO連絡会 〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内 【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630 URL: http://www.normanet.ne.jp/~jannet/ 以上