JANNET障害分野NGO連絡会 メールマガジン 第143号 2015年6月29発行 ++ 『第3回アジア太平洋CBR会議にむけて』 「CBRの歴史」 広報・啓発専門員  宮本 亮平    今回は、CBRの歴史について改めてご紹介します。一説では、CBRの国際戦略は1950年代から、主に発展途上国で始まったとされます。施設を中心としたリハビリテーションに代わる新たな方法として、1970年代後半からWHOなどの国連機関や政府機関、また多くの民間団体によって世界各地で実践されてきました。そして、1979年にはWHOによる初めのCBRマニュアルが発行され、実地での実証を行いながら改訂が重ねられ、1989年にWHOにおけるCBRマニュアルが完成しました。このマニュアルは、約50か国語に翻訳され、全世界での広がりをもちました。他方、1970年代からメキシコ西部で、村の人により運営される保健プログラムを行ったデビット・ワーナーが作成したマニュアルも85か国語に翻訳され、広くCBRワーカーに読まれています。  当初のCBRは、資源の限られている開発途上国の特に農村地域において、障害者への基礎的なリハビリテーションを普及するために開発されました。そのため、初期のCBRは個人的なサービスを強調しており、障害当事者に対する医療、外科的な介入、セラピー、教育、職業訓練などに焦点があてられていたといえます。  CBRの普及に伴い、種々の解釈に基づいたCBRプログラムが世界各地で実践されるようになりました。その混乱した事態に歯止めをかけるために、WHO、ILO、UNESCOは、1994年にCBRに関する合同政策指針を発表しました。その後、2000年のMDGsや2002年からの「障害者の権利条約」作成に向けた討議を受けて、2003年にヘルシンキでCBR再考会議が行われ、2004年には新しい合同政策指針が出されました。  そこでは、貧困への対応・障害者の権利・障害者団体の参加などが重要視されました。また、CBRマトリックス(保健・教育・生計・社会・エンパワメントという5つのComponentを、それぞれ5つのElementに分けた表)が示され、地域の実情に応じて25個あるElementのどこから、どの組み合わせでCBRプログラムを始めても良いとされました。マニュアルに沿って順番に進んでいくプロセスから脱却し、地域の独自性に応じて実践していく考え方です。そして、それを実践に導入するためのツールとして、2010年にはCBRガイドラインが発表されました。世界各地で実施されているCBR、もしくはCBRに通じる実践が集積され、その分析結果をもとにCBRを実施する上での留意点などが、実例を挙げながら記載されています。このCBRガイドラインについては、リハ協で邦訳されているので、是非とも参考にしていただければと思います。※1 (概要版はJANNETが作成 ※2)  2007年にWHOが行った調査によると世界92か国でおいてCBRプログラムが実施されています。 ※1:「CBRガイドライン日本語訳」 http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/un/CBR_guide/index.html ※2:「CBRガイドライン概要版&CBRマトリックス使用の手引き」 http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/intl/un/CBR_summary/index.html ++ 目次 +  トピックス 1.第16期ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業 成果発表会 2.第16回春季国際開発学会参加報告 + インフォメーション 1.国際協力NGOセンター(JANIC)総会参加報告 2.国連障害者の権利条約批准国情報 + イベント情報 1.第3回アジア太平洋CBR会議参加登録について ++ トピックス +  トピック1 第16期ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業 成果発表会 特定非営利活動法人ネージュ 代表 稲治 大介  6月6日(土)、東京都内の戸山サンライズにて、「第16期ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業成果発表会が開催されました。毎年恒例となっているこのイベント、帰国が間近となった研修生の“成長ぶり”が楽しみな会です。6名の研修生は、自国の障がい者リーダーとなることを目指し、昨年9月から日本語や日本の障害者福祉に関する様々なことを学んできました。 日本に来ることも初めて、もちろん日本語など一切話すことも、書くこともできなかった彼らでしたが、成果発表会では、学んだこと、自国に帰ってやりたいこと、将来の夢などを大変流暢な日本語で、堂々としたプレゼンテーションを行っていました。  障がい者スキースクール・ネージュでは、毎年1月に彼らのスキー研修を担当しています。まさかスキーができるなんて思ってもみなかった彼らが受ける衝撃は相当なものなのでしょう、毎年の成果発表会では、ほとんどの研修生がスキーを忘れられない思い出として語ってくれます。今回も「何度も転んだが楽しかった、二日間では短かった!」「帰国して友人に、ぜひ話したい経験だった」などの感想を話してくれました。なかでも、骨形成不全のモナさん(インド)は、「いつも怪我を心配している私たちが、工夫によって遊びに終わらない“冒険”ができる。これはスピリッツの勝利を感じた経験だった」と語ってくれました。  雪が降らない国からやってきた研修生もいます。私たちは、雪の冷たさ、美しさ、雪国の寒さを感じてもらうと同時に、「できないと思い込んでいた事が、アイデアと工夫、適切なサポートによって可能になる」を体感してもらうことを、スタッフの共通コンセプトとして実施します。今回の研修生もチェアスキー(座位のままスキーができる器具)を使用したり、視覚障がい者にはスピーカーを使って音で誘導したり、下肢障がいがあって立位が不安定な場合は、アウトリガーという特殊なストックを使用したりと、それぞれの身体状況に応じたスタイルで楽しんでいただきました。  間も無く帰国する彼らには厳しい現実が待っています。でも希望を捨てず、日本で得た知識、スキル、そして若いパワーでたくましいリーダーになってくれることを願ってやみません。また、会いましょう! 【第16期研修生】 ディルショッド (ウズベキスタン)、モナ(インド)、マイケル(台湾) チゴン(ラオス)、ディナ(モルディブ)、ミジャン(バングラデシュ) + トピック 2 第16回春季国際開発学会参加報告 国際協力機構研究所総務課 同社会保障ナレッジマネジメントネットワーク 土橋 喜人  2015年6月7日、法政大学市ヶ谷キャンパスにて、開催されました。私は「企画セッション・アフリカの障害と開発」のコメンテーターおよび「包摂セッション」での発表者として参加してきました。両セッションの参加者は20-30名程度、全体の参加者は大凡300名程度でした(主催者発表)。  先ず、「アフリカの障害と開発」では、4つの発表が行われました。初めに同企画の主査であるアジア経済研究所の森壮也さんが主査で全体のコーディネーターとして話をされました。他の研究者は各国の地域研究の専門家としての発表でした。西真如(京都大学) さんはエチオピアで成功事例とされている保健医療政策とそこから漏れている障害者のニーズとその対応について発表されました。宮本律子(秋田大学)さんはケニアにおける障害者の法的権利の良好な整備状況と当事者運動のかかわりについて発表されました。戸田美佳子(国立民族学博物館・文化資源研究センター)さんはコンゴ川の国境貿易を例に障害者の生計の在り方について発表されました。牧野久実子(JETROアジア経済研究所)さんは南アフリカの障害者政策について民主化後の変遷について発表されました。私からのコメントとしては、HIVと障害の関係、法的な保護と生活水準向上の関係、インフォーマルなビジネスの持続可能性、南アフリカの障害者擁護の背景などの質問を投げかけました。  午後からの「包摂セッション」では、障害と開発関係では先ず、私が「JICA全スキームにおける“障害と開発”のメインストリーミング?NGO連携等との分析を中心に?」の発表を行いました。8スキーム(有償、無償、技協、ボランティア、研修、草の根技協、個別専門家、民間連携)に占める障害と開発に関連する割合を発表し、今後の可能性として割合が高い事業(有償、ボランティア、草の根技協)(10%前後)と他事業との組み合わせの戦略的アプローチが重要であり、(JANNETを紹介しつつ)JICA事業とNGOとの連携の重要性を主張しました。コメンテーターの森壮也さんからはJICAの取組の状況がわかって興味深いとのコメントと、ツイントラックとは言いつつもエンパワメントがメインとなっているのではないかとの指摘等をいただきました。続いて、一橋大学の金澤真実さんからバングラデシュの障害女性に関して、ノーベル賞経済学者のアマルティア・センのケイパビリティ(人が価値あると考える生活を選ぶ真の自由)アプローチを用いた分析の発表がなされました。  以前は「障害と開発」の研究部会がありましたが、研究部会がなくても毎回、コンスタントに障害と開発に関する発表がなされていることから、徐々に国際開発学会においても障害と開発のメインストリーミングが進んでいるのではないかと思いました。                                                                  ++ インフォメーション + 1.国際協力NGOセンター(JANIC)総会参加報告  6月22日におこなわれた国際協力NGOセンター(JANIC)の総会に出席しましたので報告します。  主な議題のひとつは、理事の選出でした。理事長にはこれまで8年続いた大橋正明さん(シャプラニール、聖心女子大教授)から谷山博史さん(日本国際ボランティアセンター代表理事)が選ばれました。大橋さんは、理事長就任中東日本大震災後の支援、ODA大綱改革への意見集約などで貢献されました。 新しい理事構成は、年齢、男女、分野などが多様で、ベストミックスという声も出ました。  総会の後半にはグループに分かれてワークショップが行われ、JANICへの期待とそのため自分たちは何が出来るかの2つを出し合いました。複数のグループから、ポスト2015の開発枠組みでは途上国と先進国との違いが接近するので、相互交流による支えあいが重要さを増すでしょう、という予想が出たのは興味深い結果でした。 そのワークショップ結果をもとに、JANICは今後3年間の行動計画案を策定するそうです。 事務局長 上野 + 2.国連障害者の権利条約批准国情報 (関連サイト: http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html)    新たに標記批准国となった国と地域は以下の通りです。 155.マダガスカル   156.トリニダード・トバゴ    計:156の国と地域  (2015年6月26日現在) 国連批准国リスト(英語): http://www.un.org/disabilities/countries.asp?navid=12&pid=166 ++ イベント情報 + 1.第3回アジア太平洋CBR会議登録申込のご案内  先月に引き続き、第3回アジア太平洋CBR会議についてご案内します。 参加費の情報を一部加筆修正しました。参加費(一般)については、早期申し込みの締切日を過ぎましたが、当初の3万円のままで変更はございません。  アジアの関係者と交流できるこの機会にぜひご参加ください! ◆第3回アジア太平洋CBR会議のご案内◆ ご存知ですか? 障害のある人も無い人も、高齢者も、何かに困っている人も、みんなで作る、みんなのための まちづくり=CBID(Community-based Inclusive Development) 日時:2015年9月1日(火)〜9月3日(木) 場所:京王プラザホテル(新宿 東京) テーマ:コミュニティベースのインクルーシブ開発(CBID)を通しての貧困削減と持続可能な 開発目標(SDGs) 参加費:3万円、学生1万5千円、介助者1万円     ◆当日参加受付あり 【1日 1万円。プログラム(コピー)が付きます。なお、ランチ・その他資料・レセプションは付きません。】   お申込み:会議ウェブサイトで受付中         http://www.apcbr2015.jp/jp/registration/ (登録申込ページ)         http://www.apcbr2015.jp/jp/ お問合せ:公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内       第3回アジア太平洋CBR会議事務局       〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1        Tel: 03-5273-0601、Fax: 03-5273-1523  発展途上国で始められたCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)という取組みが、CBIDというコンセプトに進化して、様々な形で展開されています。アジア太平洋地域の各地で、そして、もちろん日本にも素敵な活動が沢山あります。 本会議では、日本を含むアジア太平洋地域で行われている、CBIDのコンセプトに基づいた多種多様な活動を紹介します。 これからの日本に訪れる、未曾有の超高齢化社会や社会的孤立の増加。日本で模索されている地域包括ケア・地域福祉・福祉のまちづくりなどに取組む人たちにとって、珠玉のヒントが詰まっている筈です。 是非、お越しください! 分科会は、トピック別に3会場で行われます。以下の多様なトッピクを予定しています。 「障害と高齢化社会」、「障害インクルーシブビジネス」、「障壁のない環境」、「多様な障害(発達障害、精神障害など)」、「ジェンダーとインクルーシブネス」、「支援機器」、「コミュニティの資源を動かす」、「都市と農村の貧困」、「つながりと災害のリスク軽減」、「コミュニティにおける自助グループと障害当事者団体」、「早期発見・早期療育」、「官民連携」など。 *上記トピックは、今後変更の可能性もあります。 共催:CBRアジア太平洋ネットワーク、障害分野NGO連絡会(JANNET)     日本障害者リハビリテーション協会 協力: 世界保健機関(WHO)、アジア太平洋障害者センター(APCD)     国際協力機構(JICA)、日本障害フォーラム(JDF)、Beyond MDGs Japan、     国際協力NGOセンター(JANIC)、CBM、全国生活共同組合連合会、     埼玉県民共済生活協同組合、東京都民共済生活共同組合、日本財団他 後援:国連広報センター他 第3回アジア太平洋CBR会議事務局 事務局長 上野悦子 (日本障害者リハビリテーション協会内) 電話03-5292-7618、Fax03-5292-7630 E-mail: inquiry@apcbr2015.jp http://www.apcbr2015.jp/jp/ (会議ウェブサイト) ++ 編集後記   6月9日から11日まで、ニューヨークの国連本部で第8回障害者権利条約締約国会議が開かれました。同会議では、国連日本政府常駐代表吉川元偉大使がステートメントを行いましたが、その中で、日本の二人の障害当事者が紹介されました。障害者政策委員会委員長の石川准さんと、JICA専門家としてコロンビアで活動する奥平真砂子さんです。奇しくも、お二人とも「ミスタードーナツ障害者リーダー米国留学派遣事業」(現・ダスキン障害者リーダー育成海外研修派遣事業)の修了生です。  今号のトピックにありました「ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業」の成果発表会には、私は残念ながら参加できませんでしたが、帰国直前に行われた壮行会には参加することができ、日本語(または手話)による堂々としたスピーチに感銘を受けました。日本での経験を活かし、国際的に活躍するリーダーに育ってほしいですね。 原田 潔 ++ JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 + JANNET(障害分野NGO連絡会) 〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内 【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630 URL: http://www.normanet.ne.jp/~jannet/