JANNET障害分野NGO連絡会 メールマガジン 第113号 2012年12月27日発行 第一回CBR世界会議がインド・アグラで開催され、JANNET会員5名が参加しました。今月号では標記会議を特集します。 ++ 目次 特集:第一回CBR世界会議 (インド・アグラ) 1.会議概要報告 2.会議報告、感想 + インフォメーション 1.国連障害者の権利条約批准国情報 + イベント情報 1.コーヒーアワー「障害と開発」シリーズ(1月16日開催) 2.第20回海外技術協力セミナー・第11回国際交流セミナー(1月26−27日開催) ++ 特集:第一回CBR世界会議       開催日時:2012年11月26日〜28日       開催場所:インド・アグラ + 1.会議概要報告 上野 悦子  2012年11月26日から28日まで、インドのアグラで、第一回CBR世界会議が開かれました。会議には86カ国から1,200人が参加し、「権利実現への鍵」、というテーマで研究発表や具体的な活動報告が行われました。  日本からはJANNETから派遣された4人を以外に発表者、参加者を含めると12-3人が参加したのではないかと思います。  3日間の会議は、全体会が5、分科会が5、ポスターセッション、ラピッドファイアーと呼ばれる短時間に多くの発表をしてもらう会等があり、私が出席した会だけでも多くのスピーカーが、CBRマトリックスを説明に用いていました。  全体会のスピーカーには世界の障害団体の代表が参加して、それぞれの取り組みとCBRとの関連について話をしました。スピーカーには国連開発計画、オーストラリア国際開発庁、アメリカ合衆国国際開発庁、国連ESCAP社会開発部長、RI事務総長、DPI世界議長などが含まれていました。  この会議の成果として、CBRグローバルネットワークが設立さ れました。CBRのネットワークは現在、アジア太平洋、アフリカ、中南米の3つの地域に設立されており、それらネットワーク間の交流を図り、国連等にコミュニティレベルの障害のある人の声が届くこともねらいとして設立されました。事務局は、アジア太平洋 障害者センター(APCD)に置かれ、2016年に予定される、第二回CBR世界会議はマレーシアで開催されることになりました。閉会式では、日本で2015年に開催予定の、第三回アジア太平洋CBR会議のアナウンスをさせていただきました。 *写真提供:宮本亮平 + 2.会議報告、感想 @山崎 眞由美(JANNET個人会員)  今回、CBR世界会議に参加する機会を得て、CBRに関して雲が晴れて視界がパッと開けた感じです。CBRやCBID*1に関してJANNETを通して学んできたのですが、断片的な理解にとどまり、よくわかっていなかったことがよくわかりました。ICF*2やUNCRPD*3が提唱されるに及び、障害が再定義され、障害者の権利が確立された上でのCBRは「進化するCBR」でした。そのことにWHOは大きく貢献し、更にILO*4やUNESCO*5を巻き込んでジョイントペーパーを出し、CBRガイドラインやCBRマトリックスにまとめるなど、理念や理論面での進化に合わせた新たなCBRの戦略やすすめかたを提示して、インクルーシブな社会の実現に向けて世界が歩調を合わせてすすんでいけるようにしているダイナミズムを実感しましたが、その背後にはIDDC*6など欧州を中心とするNGOがネットワークを形成してWHOに強く働きかけた成果でもあったとのこと。また、CBM*7やSightsavers*8といったINGO*9が地元NGOとともにCBRに特化した活動を展開してCBRの実施に努めていたことで、このようなCBRをめぐる世界的な大きなうねりとなっているのだ、ということがよくわかりました。多くの実践例の中でもハンセン病に取り組むNGOがCBIDを展開しているという発表が目を引きました。2006年から中南米、アフリカ、アジア太平洋でネットワークが立ち上がり、3地域でCBR活動をすすめ、今回ようやく世界会議にこぎつけたという記念すべき国際会議だったのだ、とその道のりに想いを馳せました。1970年代から現在に至るCBR推進者が登壇して、各人が語るCBRは圧巻でした。その中に日本人が少なくない数で含まれており、私も早くキャッチアップし、その一翼として社会的な役割を果たせるようになりたいと強く思いました。貴重な体験となりました。このような機会を与えていただき、心から感謝いたします。 *1 CBID: Community-Based Inclusive Developmentコミュニティベースのインクルーシブ開発 *2 ICF: International Classification of Functioning, Disability and Health国際生活機能分類 *3 UNCRPD: UN Convention on the Rights of Persons with Disabilities国連障害者権利条約 *4 ILO: International Labour Organization国際労働機関  *5 UNESCO: United Nations Educational, Scientific and Cultural Organizationユネスコ *6 IDDC: International Disability and Development Consortium国際障害と開発コンソーシアム *7 CBM: Christian Blind Missionという国際NGOで世界のCBRを支援している *8 Sightsavers: CBR/CBIDを推進する国際NGOであり、当世界会議のスポンサー団体のひとつである *9 INGO: International Non-Governmental Organization国際NGO + A宮本 亮平(JANNET個人会員)  初日は、ラテンアメリカについての分科会に出席しました。その中で注目したのはニカラグアの事例です。地震やサイクロンなどによる災害が多く、アメリカ大陸で二番目に貧しいとされる国とのことですが、政府はNGOへの協力に積極的であり、また地域の活動は盛んであるとのことです。CBM(国際NGO)は、幼少期の教育分野でのCBR活動として、幼少期に学校を通して政府から両親に配られる冊子に、障害の予防や対応についての基礎的な知識を掲載することで啓発を行うというアプローチを取ったようです。この冊子は、特に障害のことに特化したものではなく一般的なものであり、浅くはあるけれども広く知識を広めているとのことです。また、学校の教師への教育や、地域のボランティアを巻き込んで眼の検査を行うなど、興味深い活動をしているようでした。  2日目の「CBRと地方政府」と「CBRとインクルーシブなコミュニティ開発」の2つの分科会の双方で、CBRプログラムを持続可能なものにするためには、従来のNGOをはじめとした民間セクターと住民組織によって地域開発を行うのではなく、中央・地方政府など現地の公的セクターを巻き込んでいく必要性が強調されているように感じられました。  3日目の「エビデンスに基づくCBRの実践」においては、シドニー大学の発表で「プログラムを実施したことの説明責任を果たすため(だけ)のデータ集積が多い風潮にある。しかし、プログラムを改善するため、およびプログラムがこのように役に立っていると言える根拠ともなるデータを、モニタリングから得ることが大事である」という論調の発表が印象に残りました。 + B山本 祐一郎(難民を助ける会)  今回インドで開催された第1回CBR世界会議では、3日間にわたり、5つの分科会で、のべ110本以上の発表がCBR実践者や研究者によって行われました。  発表のテーマは、「教育」、「ジェンダー」、「権利擁護」など分野別、あるいは、「アフリカ」、「中南米」、「アジア」など地域別に分けられ、障害における社会生活上の具体的な課題が幅広い範囲で取り上げられました。その中でも、会議3日目に行われた「CBR Practices」のセッションでは、CBR事業を実際に展開している「インプレメンター(実施者)」によって、様々なCBRの好事例が発表され、現場の視点を通じて、CBRの重要性を改めて学ぶことができました。  当セッションでは、例えば、中国における精神障害者グループに対しての自己管理力向上プログラムや、インドにおけるハンセン病患者の社会参加プログラムの紹介などがありました。その中でも特に印象に残った事例は、カンボジアでの障害に対する偏見を減らすための「Inclusive Play」についての発表でした。「Inclusive Play」とは、就学前の段階で、障害をもつ子どもと障害をもたない子どもが一緒に遊ぶという啓発活動です。この取り組みは、障害児の就学率向上を促すだけではなく、地域住民の障害に対する偏見が低減されたり、障害者に対する接し方や態度が改善されたりと、波及効果および持続発展性がみられます。  障害者のための支援事業に関する知見を現場に応用する際に生じるギャップを埋めるためには、包括的な支援活動を含む事業展開をする必要がありますが、今回発表された様々な活動から多くの学びを得ることができました。AAR Japan [難民を助ける会]は、2009年よりミャンマーで、CBR事業を実施しており、これらの好事例を基に、今後も、事業を進展させていければと思います。 【感想】 今回、このような規模の会議に参加するのは初めてで、当会の活動について発表させていただけたことを光栄に思います。また、JANNETにサポートいただき、改めて感謝申し上げます。障害当事者も支援者も、背景が多彩な人々が参加されており、ネットワークを構築する絶好のチャンスとなりました。障害者支援に力を入れている団体として、今回築くことができた多くのCBR実践者との関係を大切にしていきたいと考えています。 + C北 朱美(難民を助ける会)  AAR Japan [難民を助ける会]のミャンマー事務所では、2009年よりCBR事業を始め、障害のある方へ支援を行ってきました。今回、CBR世界会議に参加し、当会が現地で行っている事業やその成果について発表する機会をいただきました。  ミャンマーにおける障害者の多くは学校に行っておらず、そのため職を得ることも難しく、多くが貧困に陥っています。今回の発表では、AAR Japan [難民を助ける会]がミャンマーで取り組む、障害者への就学支援と就労支援について発表しました。  当会は就学支援を通じて、障害児の受け入れを躊躇する学校や、教育への理解が低いために障害児を通学させていない家族に対し、当会職員が学校や家族と話し合いを重ねることで、障害児を普通学校で受け入れてもらう啓発活動を実施しています。また、就労支援では、障害者グループが始めた小規模店舗経営や、増えた家畜の一部を分け合う家畜銀行システム作りについて紹介しました。地域住民や政府関係者へ障害についての理解を促すため、地域で啓発活動も行っています。  CBR世界会議では、障害者の発展を地域社会全体の発展にもつなげていく必要があるとの声があり、今後はミャンマーの活動地域においても地域に住む住民をもっと巻き込み、障害者とともに持続性のある活動を行っていきたいと思います。 【感想】CBR会議に出席して 様々な国から種々の発表があり、ミャンマーCBR事業で行っている活動、行っていない活動と比較しながら聞くことができました。精神障害に関する発表も多く見られました。ミャンマー事業においてはどのくらいの精神障害者がいるのかさえ把握できていない状態で、これから精神障害への支援も広げていければと思っています。 普段日常業務では自分たちの活動だけに目を向けてしまいがちでしたが、今回国際的な会議に参加することができ、同じような問題を抱えながらも前進している団体、新たなことに挑戦している団体を知ることができ、とても励みになりました。 *写真提供(上記4枚):山本祐一郎 + D第一回CBR世界会議に参加して 「ごった煮的旨みと混沌」 河野 眞 杏林大学保健学部 日本作業療法士協会国際部  CBR関連の国際会議に参加するのは、一昨年のマレーシア、昨年のフィリピンに続き3度目でしたが、毎度のことながらその場に充満するエネルギーの強さに大いに刺激されました。  CBR本来の特性によって、多彩な背景を持つ人たちの集まりとなるCBR会議の場は、喜ばしい驚きとがっくりくる驚きの入り混じった混沌の場でもあります。  まず良い方の驚きとして、これまで以上にリハ職の発表の目立ったことがあります。それだけでなく、「ピアグループの活用に一部の医学的リハ手法と同等の有効性が立証された」という発表など、CBRの理念や枠組みにふさわしい発表が散見されました。「CBRのRをどう扱うか」という課題は以前から指摘されていますが、双方のハーモナイズの可能性を感じさせる一面でした。  一方で、がっくりくる驚きも専門職による発表にありました。例えば、「座敷牢に暮らしている精神障害者の運動能力改善のために座敷牢部分を広くすることが有効」という医師の発表は、どこがCBRか?と心が暗くなる思いでした。 思えばごった煮には雑多な食材が入っているが故の旨みがありますが、一方でアクの強さや混沌とした気味の悪さもあるかもしれません。CBRはまだまさにそんな状況にあるように感じました。ごった煮的な旨みを残したまま、ある程度レシピの整った料理としてCBRを洗練するために、自分は何が出来るだろうと考えさせられる参加になりました。                                                                    ++ インフォメーション 1. 国連障害者の権利条約批准国情報 (関連サイト: http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/rights/right.html) 新たに標記批准国となった国と地域は以下の通りです。 (2012年12月20日現在)     127. カンボジア 計:127の国と地域 国連批准国リスト(英語): http://www.un.org/disabilities/countries.asp?navid=12&pid=166 ++ イベント情報 1.コーヒーアワー「障害と開発」シリーズ開催 コーヒーアワー「障害と開発」が「アジア太平洋地域の新たな時代を担うリーダー達が抱負を語る!」というテーマで以下の通り開催されます。今回のスピーカーはJDF幹事会議長 藤井克徳さんとWBUアジア太平洋地域協議会会長に選出されたJANNET役員の田畑美智子さん(日本盲人会連合)です。藤井さんは、11月末にインチョンで開催された国連ESCAPハイレベル政府間会合で、障害者の権利擁護に活躍する人に贈られる「障害チャンピオン賞」を授与されました。 【日時】2013年1月16日(水) 午後6時30分〜8時00分 【場所】世界銀行情報センター(1階 PIC東京) 【お問い合わせ】世界銀行情報センター(PIC東京)  E-mail: ptokyo@worldbank.org  Tel: 03-3597-6650 【お申し込み】世界銀行東京事務所ウェブサイト http://www.worldbank.org/japan/jp でオンライン登録ください。 *JANNET HPからでも会の案内・申込みページ(東京銀行東京事務所ウェブサイト内)へのリンクが可能です。 http://www.normanet.ne.jp/~jannet/    アジア太平洋地域での新たな活動について知っていただく良い機会です。皆様、ぜひご参加 ください。 + 2.第20回海外技術協力セミナー・第11回国際交流セミナー  日本理学療法士協会主催の標記セミナーについて以下の通りご案内いたします。 第20回海外技術協力セミナー・第11回国際交流セミナー 1.日時:平成25年1月26日(土)・27日(日) 2.場所:日本理学療法士協会 田町カンファレンスルーム 〒108−0023東京都港区芝浦3−5−39 田町イースト ウイング6階 3.内容:20年のまとめと今後への提言 ・記念式典 4.日程: 【1月26日(土)】 第一部 13:30 開会の挨拶 (13:00〜受付開始) 13:35 基調講演 地域包括的ケアにおける現代アジアの潮流 1)「タイにおける高齢者ケア」 講師;竹林 経冶 氏 (厚生労働省) 2)「FROM COMMUNITY BASED REHABILITATION (CBR) TO COMMUNITY INITIATIVE REHABILITATION (CIR)」 講師:Handojo Tjandrakusuma 博士(元ソロCBRDTC所長) 15:00 休憩  15:15 シンポジウム 国際協力の未来 3)「BOPビジネスの最新動向〜途上国の高齢化と障がい分野のソーシャルビジネス」 講師:小柴 巌和 氏 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社) 4)「国際貢献の未来をソーシャルビジネスの観点から提言する」 講師:小林 義文 (日本理学療法士協会国際部 部員) 16:45 第1部 終了 第二部 17:00 20周年記念式典パーティー  17:45 「20年を振り返って」  *記念誌配布とスライド提示 18:15 セミナー参加経験者からその後の経験談を披露、 19:00 閉会 【1月27日(日)】 9:00  実践報告会 (8:30〜受付開始) 作業療法士 2名 理学療法士 2名 *JICAボランティア、JICA専門家、シニアボランティア、NPOなどで途上国で障碍者リハビリテー ション分野の国際協力にかかわったり、国内で途上国からの研修生受入を行っている作業療法 士や理学療法士に、その実践活動を報告していただくことで、今後国際協力を目指す療法士の 知識の向上、啓蒙を行う。 11:30 まとめ 12:00 終了 5.参加費  一般会員4,500円(内500円は資料代)、学生2,000円  記念式典(パーティ)は別途3,000円予定 6.定員  200名 (定員になり次第締め切らせていただきます) 7.参加申込み  理学療法士協会ホームページ(以下URL) 研修会申し込みよりご入力ください。      http://www.japanpt.or.j 【お問い合わせ】 kobayashiyoshifumi58@yahoo.co.jp まで 【締め切り】 平成25年1月14日(月)                 ++ 編集後記   今年は特に後半にインチョンでのESCAP関連のいくつかの地域会議や国際会議、バンコクの世界盲人連合世界会議、インドでのCBR国際会議など、目白押しに重要な会議が続きました。出席した人は、世界レベルでの活動に大いに触発されたのではないでしょうか。直接参加せずとも会議の報告から、進むべき道の示唆を受けた人も多いと思います。会議の場での日本人の活躍も例年にも増して目立ったといえ、いまだ「入超」の時代が続いているとの印象は否めません。  来年こそ、さらに日本からの情報発信を増やしたいものです。直接出向いて意見を述べずとも、ブログやツイッターなどいろいろな方法で、日本の声を届けませんか。 中西 由起子 ++ JANNET事務局では、会員の皆様よりメールマガジンに掲載する国際活動に関する情報を募集 しております。団体会員様のイベント情報などありましたら事務局までご連絡ください。 JANNET障害分野NGO連絡会 〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会内 【JANNET事務局直通】 TEL:03-5292-7628 FAX:03-5292-7630 URL: http://www.normanet.ne.jp/~jannet/