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障害者権利条約作業部会―日本政府代表団に参加して

DPI日本会議事務局次長 金  政 玉
(きむ・じょんおく)
 

障害者権利条約に関する日本政府の対応は、2003年6月の第2回特別委員会を前にして、障害関係NGOから申入れを行い、内容上の協議と第2回特別委員会に向けて政府代表団にNGOメンバー(東DPI日本会議常任委員)が参加することになって以降、同年9月、外務大臣の国連演説で言及されたこと等を契機に、国内における継続的な政府とNGO(JDF[日本障害フォーラム]準備会)との協議が定着してきている。政府としての組織的な対応を行うようになってきていることを改めて歓迎したい。
 
◆作業部会に向けた政府の見解
昨年12月に作業部会に向けた「障害者権利条約に関する日本国政府の見解」(以下、政府見解と略)では、これから政府として条約の内容を検討するための基本的視点を主に次のように述べている。
@ 既存の人権諸条約との整合性の確保の観点から、B規約第2条に規定する「平等原則」及び第26条「法律の前の平等」を確保することを基軸としつつ、障害者の権利の擁護・促進のため重要であるが、既存の人権諸条約の中では明確に規定されていないと考えられる権利についての規定を置く。(政府見解2.各論(2)盛り込むべき原則)
A また、経済的、社会的及び文化的権利の実現のための措置については、多くの国が参加できるようにするため、締約国が「自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより」といった、A規約第2条に規定するような漸進性を許容する趣旨の規定を設ける。(同上)
B 障害者の権利の実現を確保するために、必要に応じてとられる特別措置(※)は、障害者差別とは見なされない旨の規定を置く(「人種差別撤廃条約」第1条4又は「女子差別撤廃条約」第4条1参照)(同上)
  ※ここでの政府見解の「特別措置」は、主に障害者雇用の割当制度を指している。
C 我が国としては、障害者の権利擁護・促進との重要課題が国際社会で一層認知され、重視されていくためにも、例えば前文において、既存の国際的人権諸文書に謳われた権利は全て障害者も等しく享受するものである等宣明すべきと考える。自由権的内容、社会権的内容双方を含めるアプローチも基本的に支持する。(同上の(3)範囲)
D また、障害者の権利の実現はおおよそ全ての社会分野に関連することから、人権諸条約以外の既存の国際条約、または各国の国内法令等との関連について、十分整理することも必要であり、障害のない者と同等の権利の実現が進んでいる分野と今後実現を促進していく必要がある分野について整理を要する。(同上の(3)範囲)
 
◆今後の政府とNGOの協議に向けた課題
作業部会の議論から浮かび上がってきた論点については、長瀬氏の報告を参照していただきたい。
作業部会における日本政府委員の基本的対応は、主に国内制度の現状から見て整合性がとれているかどうかという観点から発言していくというものだが、議事の流れでは、NGOの意見を取り入れる場面もいくつかあった。
例えば条約の「一般的原則」の議題のところでは、日本政府として何が発言できるか、抽象的に「ノーマライゼーション理念とバリアフリー社会の実現」を述べても議論としてのインパクトがないため、NGO側から1995年の障害者プランで明記された「4つの障壁」論に言及すべきことを指摘すると、委員として、その相対的に踏む込んだ発言が議論の1つの核になることができたともいえる。また「差別の定義」では、直接的差別と間接的差別の関係に関連して、事前にNGOとの打ち合わせにそって具体的な例示をもとに議論を行うことを政府委員が提案したところ、その後はかみ合った議論が交わされていく流れがつくられたこともあった。
10日間の作業部会を通じて強く印象に残ったことは、第1に政府とNGOの具体的協議方法が、新しい局面に入ったということである。作業部会の日本政府委員(最初は山本行使で8日の午後からは角参事官)に対して、隣の席から議事進行の合間をみてNGOの意見をインプットし、その場で議題に関する要点を小声でやりとりをしながらできるだけ委員の発言に反映させていくという形式は、国内における政府協議とはまったく違う「緊張感」を伴うものでもある。しかし、こうした積み重ねがNGOとしての当事者参画と政策提言能力を高め、政府とのパートナーシップの具体的内容をつくりあげていくための実地演習になるという効果と意義は明確にあるとことを感じた。
第2に国内の障害者差別禁止法をはじめとする権利法制の構築に向けて、法的拘束力をもつ条約が国際基準を明示する根拠法としての有効性をどこまで発揮できるか、とくに「合理的配慮」という差別禁止法においては欠かせない要点を、既存の条約に規定されている政策的オプションとしての「恒久的な特別措置」やアファーマティブアクションの観点から行われる「差別の積極的是正措置」との違いを整理し、新しい概念として雇用や教育その他の関連条項に反映させていくことが重要な課題であることを再認識させられた。
最後に、先に紹介した「政府見解」のCとD―「障害のない者と同等の権利の実現が進んでいる分野と今後実現を促進していく必要がある分野について整理を要する」との関係で、関係省庁とNGOの双方の現状認識に基づく意見を交換しすりあわせをしていくことを通じて、合意できる点とそうでない部分を明らかにし、課題を共有化することのできる関係づくりに向けた努力を双方の立場から継続的に行っていくことが、今後の特別委員会へのアプローチや政府としての条約の署名・採択にかかわるプロセスの内容に関連して、とりわけ重要な意味をもつことになることを改めて強調しておきたいと思う。 (了)