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Personal-Computer Support Volunteer Conference 2003 in Saitama

パソコンボランティア・カンファレンス

PSVC2003 in さいたま

基調提案

(1)パソコンボランティアの確信

 障害者にとってパソコンやインターネットは「無が有になる希望の道具」です。でも、「つなが らない」「設定できない」「どうしたらいいかわからない」。ITの習得には、障害のためにさま ざまなバリアがたくさんあります。「たすけて!」の声に応えて、パソコンの利用やインターネッ トへの接続や環境設定の手助けをするさまざまな支援活動の総称を私たちは「パソコンボランティ ア(略称・パソボラ)」と呼びました。
 90年代の初めには、点のような一部のとりくみだったパソボラは、大きく広がり「普通名詞」と なりました。パソボラ・メーリングリストなど日々のネットワーク上での情報と意見の交換、97年 3月にスタートした直接の交流の場=パソコンボランティア・カンファレンス(PSVC)の開催 はそれを推進しまし、全国のパソボラをつなぐ役割を大切にしてきました。
 この10年の間にITはハード的に進化し、普及され社会に定着しました。障害者の要求も、「私 もやってみたいがどうしたらいいか?」「IT講習会に参加したがよくわからない」などより具体 的なものになっています。
 しかし、パソボラの変わらない確信は、「パソコンの向こうには人がいる」ということです。 ネットワークでつながっているのは一人一人の人間です。障害者のパソコン利用への熱意にふれ、 「できた!」という喜びを共有できる嬉しさ。支えているはずの自分が、じつは支えられ、日常で は考えられないような、新しい人たちとの出会いの喜びがあります。人間どおしの相互の連帯がパ ソボラのとりくみの源泉です。
 また、「助けて!から助け手へ」の可能性です。最初は「助け」を求めていた人も、サポートで ITが利用できるようになれば、今度はその人が新しいパソボラとして「助け手」になれるので す。だれもが主人公になれるのです。

PSVC2003の様子

(2)制度、施策は前進したのか

 IT基本法をめぐって、2000年11月の国会で、参考人9名中パソボラに関わる2名が障害者問題 の視点から意見を述べ、すべての人のためのIT社会実現のためには、障害者を含めた情報格差是 正がクローズアップされました。JDは緊急提言を発表し、「e-Japan重点計画」が、デジタルデ バイド(情報格差)の是正を位置づけたことは重要でした。
 こうした中で国は、パソコンを日常生活用具にようやく認め(上肢障害者に限って)、「パソコ ンボランティア養成・派遣事業」(2002年度)、「障害者ITサポートセンター運営事業」(2003 年度)などを予算化しました。しかし、国はゼネコンや大銀行救済は熱心ですが、福祉予算全体は 大幅に削減しています。そういう中での中途半端なメニューでは、実態がともないません。
 また、ホームページのアクセシビリティの向上めざす実験、情報処理機器のアクセシビリティ指 針のJIS化などもとりくまれています。さまざまな分野のアクセシビリティ指針がつくられて も、アメリカのリハビリテーション法508条のような法的拘束力は持たず、企業努力にまかせきり の状況は続いています。
 一方、アジア太平洋障害者の十年最終年で「情報バリアフリーとIT環境の整備」がキャンペー ンされました。国際的にも「アクセス」は障害者運動のキーワードです。また、全国各自治体で 550万人を対象にとりくまれたIT講習会では、不十分ながらも障害者を対象にした講習事業の芽 生えもありました。JDが実験的にとりくんだ「リサイクルパソコン」のとりくみは、その後、障 害者作業所と高齢者NPOとの共同事業として発展しようとしています。

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(3)二つのベクトルを統一的に発展させよう

 この10年のパソボラの実践的とりくみから、つぎの二つの意味と方向性が見えてきています。
 一つは、「助けて!」という緊急要請に応える活動です。自宅の訪問含めて、いままでの事業に はない先駆性と革新性をもつボランティア活動であることです。
 もう一つは、障害によるさまざまな困難は、突発的なSOSに応えるだけでなく、継続的な支援 と専門性が求められます。たとえばALSの患者さんなど重度の障害者の場合、個人や企業レベル では責任をもった支援が困難な場合があります。こうしたことに本格的に応えるためには日常的で 専門性と公共性を兼ね備えた支援機関がそれぞれの地域に必要です。
 また、いくつかのパソボラ団体がこの間NPO化に努力していますが、専門性と継続性を強化す るためのたいへんな努力です。
このように、先駆的なボランティア的要素と継続性と専門性を備えた方向との二つの大きなベク トルの位置づけによって、それぞれのパソボラ活動も多様となります。
 私たちは、ひきつづきパソボラ活動の多様さを尊重し、それぞれが独立しながら連帯することを 大切にしていきたいと思います。

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(4)障害者を対象にしたIT講習の実態と課題

 2001年度は、各自治体でIT講習が実施されました。しかし、ITの関心を持ちながらも、障害 などさまざまな理由から、その機会が十分に得られなかった人たちも少なくありませんでした。こ のIT講習の状況を把握するため、2001年12月、関東地域に限定してアンケート調査を行いまし た。この調査からは、時間枠や財政上の問題など多くの課題が明らかになるとともに、独自の工夫 や努力によって積極的なとりくみがなされたところも見受けられました
( http://www.jdnet.gr.jp/Proposal/it_kantou.htm)
そこで今回は、調査範囲を全国すべての市区町村に広げて、アンケート調査を実施しました(「中間報告」(http://www.jdnet.gr.jp/it/)参照)。
 その結果からつぎの実態と課題が見えてきました。
○IT講習はそれなりに意味があった。継続の努力も
 2002年度は交付金がないため、講習は減っているものの、その大事さや大変さは、担当者レベル では理解されている。
○障害への配慮すすむ
 視覚障害用のソフトや専用のテキストの必要性。知的障害や精神障害者への対応も少しずつ出て きている。優れたノウハウは普及したい。重度障害への配慮は専門家が不可欠。
○講師委託は企業から安上がりなNPOに
 予算のあるときは企業委託。予算が無くなったら地域のNPOに頼る傾向。講師のみでなく実施 に際して総合的なアドバイスのできる機関が必要。
○財源確保にはさまざま努力がある。
 広域的なサポートと身近エリアのサポートとの役割分担の思いの芽生え。 
○障害者には特殊な支援、進め方が必要。しかし、本当に必要なのは講習の成果を社会生活の中で 具体的に使えること。そのための支援を。

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(5)だれもがITを活用できるためにたくさんのパソボラがつなぎあおう!

 この間、私たちは企業人やリハエンジニアなどの専門家とも連携しながら、必要な意見を国に述 べてきました。しかし、正直、いまもんもんとしています。
 障害はじつに多様で個別的なものです。そこにはボランティアでできるサポートもあれば、でき ないこともたくさんあります。それは企業人も同様で、ビジネスとしてできることもあれば、でき ないこともあるのです。そこには公的な支援がどうしても必要な場面が見えてきます。しかし、少 人数のボランティア養成事業はメニュー化しても、地域のリハセンターの設置や専門家の育成は一 向に具体化されません。
 北欧のデンマークは、今回の開催地の埼玉県よりやや小さな人口の福祉国家です。巨大な企業は ありませんが、それぞれの小さな町には高齢者と障害者のための補助器具センターが設置され、そ こには専門家が複数で配置されています。難題が生まれたときには、県や国の機関の支援を受けま す。パソコンなどの補助器具はリハセンターの公的な責任のもとに、地域の小さな企業が作成し、 サポートしています。
 だれもが生きがいをもって、安心して暮らせるために、その一つの分野であるITを通して、私 たちは今後ともさまざまな人や機関と連携しながら、パソコンボランティアとして努力していきた いと思います。

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<国や自治体への要望>

1)公的な責任による専門家育成と地域の専門機関の設置
2)パソコンや周辺機器など「もの」の研究開発と企画段階からの当事者参加
3)障害を配慮した講習の場の確保、IT講習体制の継続
4)重度の障害者へのサポート体制づくり

2003年2月23日  日本障害者協議会情報通信ネットワークプロジェクト

PSVC2003スタッフ


Last Modified 2003-2-27
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