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ロールプレイを用いたコミュニケーション支援機器関連ケースワーク技術トレーニング

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Training of Casework Skills in Communication Assistive Technology Using Role Playing Method

  早稲田大学人間科学学術院       畠山 卓朗
  日本福祉大学福祉テクノロジーセンター 渡辺 崇史

 キーワード:生活支援機器、ケースワーク技術、ロールプレイ


1. はじめに
 生活支援機器(以下,支援機器)を活用し,障がいのある当事者が自分にあった生活のしかたを見いだせるようになるには,支援者の個別援助(以下,ケースワーク)技術が果たす役割が大きいと考える.しかし現状では,ソーシャル・ワーカなど相談業務にあたる人が必ずしも支援機器に精通している訳ではない.一方で,支援機器に精通しているリハエンジニアはケースワークを学問として学んだ経験はなく,支援現場で試行錯誤しながら行っている現状がある.このような状況において,ニーズの取り違えから不適切な支援方法や機器が紹介されたり,生活拡大の可能性が狭められたりすることにもつながりかねない.
 筆者らは過去数回にわたり,支援技術関連セミナーなどの場において,ロールプレイを用いたケースワーク技術トレーニングを実施した.本報告では,実施内容,方法,考察などについて述べる.

2. 取り組みの背景
 ケースワーク技術とは,例えば障害がある個々人(以下,対象者)が抱える日常生活上の解決・改善すべき事項に対して,相談員が対象者と信頼関係をとりながら,具体的な解決方法を探っていくための技術である.支援機器領域ではリハエンジニアが実質的にはケースワーカ的な立場に立たされることはしばしばあるものの,ケースワークの基本を学問として学ぶ経験は無く,現場での試行錯誤を通して身につける以外方法は無い.
 一方, ロールプレイ(role-playing)とは,例えばセミナー参加者を相談依頼者と相談員役の二手に分け,それぞれの役になりきって演技を行い,その過程を通して傾聴することや共感することの大切さを学ぶ手法であり,臨床心理を学ぶ学習の場などにおいて行われている.支援機器領域でこのロールプレイを導入しようとする取り組みはあまり見られない.

3. 実施したケースワーク技術トレーニング
3.1 参加者
 参加者人数は50名,職種は養護学校教員,病院等に勤務するOT,ソーシャル・ワーカ,支援機器関連企業社員,技術ボランティアなど多岐にわたった.参加者を4グループに無作為に分けた.

3.2 ロールプレイの流れ
 架空のITサポートセンターで相談員が相談依頼者の相談にあたる.相談員役は各グループから1名選び,計4名(相談員1,2,3,4)である.一方,相談依頼者役には現場で長年にわたる支援経験があるリハエンジニア2名(相談依頼者A,B)である.なお,2名の相談依頼者は,ロールプレイのファシリテータ(促進)役も兼ねる.トレーニングに要する時間は2時間である.

 (1)ファシリテータによる説明 10分間
 (2)ロールプレイ1(相談依頼者A)
  相談員1によるカウンセリング 10分間
  グループ討議 5分間
  相談員2によるカウンセリング 10分間
  グループ討議 5分間
  参加者,ファシリテータの感想 15分間
  (この後10分間休憩を入れる)
 (3)ロールプレイ2(相談者依頼者B)
  相談員3によるカウンセリング 10分間
  グループ討議 5分間
  相談員4によるカウンセリング 10分間
  グループ討議 5分間
  参加者,ファシリテータの感想 15分間
 (4)ファシリテータによる講評  10分間

3.3 相談内容
 ここでは二つの種類の異なる相談内容を紹介する.
1) 相談依頼者A
 息子が事故に遭い,現在病院に入院中.受傷後1年になり,高位頚髄損傷による四肢マヒがある.病院でのリハ訓練にもあまり積極的ではなく,この状況を打破するために,パソコンを買い与えて何かできるようにさせたい.息子にも使えるパソコンを教えてほしい.
2) 相談依頼者B
 脳性まひによる肢体不自由がある.独歩可能,頸椎カラーを装着している.現在,職場でパソコンを用いた作業に就いている.最近,頸の調子が思わしくなく,30分間程作業していると腕と肩に痛みや痺れが出る.もっと楽にパソコン操作ができるようになる入力装置はないか.
 なお,いずれの相談者においても,本人・家族および社会資源などに関するより詳しい情報(シナリオ)をあらかじめ用意したが,相談員からの質問があった場合のみ,個々の質問に答える.

3.4 カウンセリングの実施結果
 相談依頼者Aの相談に対して,相談員1は頭の動きでパソコンのマウスと同等の操作をするための入力装置があることを紹介しその導入を勧めた.その後行われた各グループ討議では相談員1が行った相談内容では不十分ではないかとの指摘が出された.その話し合いをもとに,相談員2によるカウンセリングでは,「事故に遭う以前からの趣味は何か」という疑問や,「本人の受け入れがあるならば出来る限り早い時期に訪問して面接しよう」という提案が出された.
ファシリテータからは「病院でのナースコール操作はどのようにおこなっているのか」,「退院のメドはいつ頃なのか」,「福祉事務所とは連絡がとれているのか」などの追加質問が出された.
 相談依頼者Bの相談に対しては,相談員3は腕をなるべく動かさなくて済むように小型キーボードとマウスに代わる入力装置としてトラックボールの利用が提案された.その後の各グループでのディスカッションをもとに行われた相談員4によるカウンセリングでは,入力装置以前の問題として現在の身体状況を正確に把握する必要があるのではないか.腕を支えるアームサポートを利用してみてはどうかなどの提案がなされた.ファシリテータからは,週に何回職場へ通うのか,職場で普段使用している椅子はどんな椅子なのか,職場の人々の応援は得られているのかなどの追加質問とともに,医療やリハビリとの連携の必要性の指摘がなされた.

4. 考察
 グループ討議の間中,ファシリテータは各グループを巡回した.質問や疑問がいくつか投げかけられたが,それに対しては解答を与えず,あくまでもグループで話し合って解答を導き出すように促した.これにより,最終的には参加者同士の間での新たな気づきやアイデアが生まれることにつながった.このことは,参加者自らが体験を通して「チームで解決することの重要性」を学んだと言える.
 ファシリテータからの感想や最後の講評では,「常に5W1Hを念頭に置いて支援すること」,「相談内容のみならずその周辺にある事項をも考慮に入れること」,「目前にある不安や疑問を解消するだけではなく,中長期の見通しを持つこと」,「問題を抱え込まず社会資源へ繋げることの重要性」を伝えた.

5. おわりに
 今後,ロールプレイを取り入れたケースワーク技術トレーニングを充実させるためには,相談に関する成功事例だけでなく失敗事例をも含めてデータベース化,すなわち支援における経験情報の知識化1)と連動させることが重要と考えている.

参考文献
1) 畠山卓朗,渡辺崇史:支援技術情報の知識化,第21回リハ工学カンファレンス講演論文集, 75-762006

※リハ工学カンファレンス 2007 in 名古屋で発表
畠山卓朗,渡辺崇史:ロールプレイを用いたコミュニケーション支援機器関連ケースワーク技術トレーニング,第22回リハ工学カンファレンス講演論文集,pp.191-192(2007.8) 

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