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個人用音声情報案内システム

畠山卓朗*1 伊藤啓二*2 萩原史朗*2 大久保紘彦*2 中村孝夫*3 春日正男*4

*1: 横浜市総合リハビリテーションセンター 
*2:
三菱プレシジョン(株)
*3:
(株)京王プラザホテル バリアフリープロジェクト
*4:
宇都宮大学工学部情報工学科

Personal Audible Signage System

Takuro Hatakeyama*1 Keiji Ito*2 Fumio Hagiwara*2 Hirohiko Ohkubo*2
Takao Nakamura*3 Masao Kasuga*4

*1:Yokohama Rehabilitation Center
*2:Mitsubishi Precision Co. Ltd..
*3:Keio Plaza Hotel Co.Ltd.. Baririer Free Project
*4:
Faculty of Engineering, Utsunomiya University

e-mail:takuro.hatakeyama@nifty.ne.jp
Yokohama Rehabilitation Center (YRC)
1770 Toriyama-cho, Kouhoku-ku, Yokohama 222-0035
Japan


個人用音声情報案内システム

畠山卓朗 伊藤啓二 萩原史朗 大久保紘彦 中村孝夫 春日正男

■ 目次

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abstract

1.まえがき

2.音声情報案内システムの課題

3.個人用音声情報案内システムの提案

4.システム有効性評価

5.考察

6.あとがき

謝辞

参考文献


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abstract

In the symposium held last year, the authors reported on an audible signage system to help people with visual disability to walk to their destinations safely on sidewalks and in buildings. Based on this system, we have now developed an easy-to-use electronic label and a handy portable receiver for personal use. This new device has the outstanding built-in function that announces arrival at the destination. We evaluated this device by conducting a trial in hotels and trains and will report on the results.

keyword: audible signage system; people with visual disability; universal design;



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1.まえがき

 筆者らは昨年のシンポジウムで,視覚に障害がある人が道路や建物内等で安心して目標の場所まで歩行することを支援するための施設向け音声歩行案内システムを報告した.今回,これを基礎とし,より手軽に利用可能な個人用の音声ラベルとハンディな携帯部を開発した.なお,この装置には前回懸案事項であった目標地点に到達したことが分かるための機能を内蔵させた.これを用い,ホテルや鉄道車両内での試用評価を実施したので,その結果も合わせて報告する.

2.音声情報案内システムの課題

 従来からある音声情報案内システム[1]は,周辺に対して騒音問題を引き起こしたり,情報に方向性を与えることが困難であるなど,その他,様々な問題点を抱えている[2].これに対して,著者らが昨年のシンポジウムで報告したシステム[3][4]では,環境側に音声情報を記録した電子ラベルを設置し,そこから発せられる赤外線に情報を重畳させ,それを携帯部がキャッチすることで,電子ラベルが設置してある場所の方向を検知できるようにした.評価試験結果からは,方向探知機能の有効性は確認できたものの,目標地点に到達したことが分かりにくい,携帯部の保持性がよくない,などの問題点が浮かび上がった.またその後の調査により,商業施設や公共施設だけでの利用ではなく,個人で気軽に利用できる安価なシステムが欲しいとの要望も出された.以上の課題を解決するために,個人で気軽に利用することができる音声情報案内システムを提案する.

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3.個人用音声情報案内システムの提案

3.1 システムの設計方針

 昨年報告した施設向けシステムの設計方針(以下の(1)〜(7))に加え,特に個人用に配慮し,新たに4項目を追加した.
(1) 白杖歩行に対する補助的手段
(2) 方向情報を提示可能とする
(3) 視覚障害者へパーソナルな情報提示を行う
(4) 提示情報の書き換えが容易
(5) 操作方法が容易
(6) 建物施設などへの大規模な設置工事を必要としない
(7) 高齢者なども含めたユニバーサルな利用が可能
(8) 到着したことが容易にわかる
(9) 携帯性にすぐれる
(10) 低消費電力
(11) 安価である

3.2 システム構成

 システム構成のブロック図を図1に示す.システムは,昨年度報告した施設用と同様に,電子ラベル部と携帯部から構成する.昨年報告した施設向け装置との相違点は,ラベル音発生機能と電子ラベル部にスリープ機能を付加したことである.ラベル音要求機能は到着確認のため,また,スリープ機能は電子ラベル動作時間を延長させるためのものである.
 電子ラベル部は,建物などの情報を提示したい場所に設置する.これにたいして,携帯部は視覚障害者が歩行時に携帯する.電子ラベル部と携帯部は赤外線によるデータ通信で結合する.電子ラベル部と携帯部の距離は,電子ラベル部の赤外線の出力に依存し,最小60cmから最大10m程度とする(施設向け装置の場合は最大30m).電子ラベル部は市販の単4型電池駆動とし,携帯部は充電化検討のため充電式電池駆動とした.なお,電子ラベル部に記憶できる音声情報は,最大60秒である.

図1 システムブロック図
Fig.1 Block diagram of System

3.3 赤外線を用いた情報伝達・方向確認・到達確認方式

3.3.1 機能

 携帯部と電子ラベル部間での信号の伝達を図2を用いて説明する.
a.電子ラベル部は,通常,スリープ状態となっている.スリープ状態を解除するため携帯部の情報取得スイッチを押すと,携帯部から赤外線が発光する.それを電子ラベル部が受光すると,電子ラベル部はスリープ状態から動作状態へ移行し赤外線を発光する.
b.この赤外線には,音声情報をFM変調した信号を含ませる.
c.携帯部の情報取得スイッチが押されている間,携帯部が受光した赤外線を音声信号に復調し,内蔵した小型スピーカから音声情報を再生する.
d.携帯部のラベル音要求スイッチが押されると,携帯部から赤外線が発光する.
e.その赤外線を電子ラベル部で受光すると,電子ラベル部に内蔵した電子ブザーから電子音を発生させる.
f.電子ラベル部は,音声信号を含む赤外線を15秒間以上発光し,その後,信号が検知されない場合は,スリープ・モードへ移行する.
 なお,電子ラベル部の発光角および受光角は60度,携帯部の発光角および受光角は40度である.

図2 受光角と発光角の関係

図2 受光角と発光角の関係
Fig.2 Receivable and emitted angle of infrared

3.3.2 方向確認の原理

 方向確認とは,視覚障害者が携帯部を用いて電子ラベル部が設置してある方向を見いだすことである.電子ラベル部からの赤外線と携帯部の受光素子の中心軸が一致したとき最も明瞭な音声を再生させる.これにたいして,中心軸の角度が外れるに従い,音声信号のノイズ成分が増すことになる.従って,視覚障害者が携帯部を左右または上下に振ることにより,水平方向または垂直方向に適宜中心軸を調整し,もっとも明瞭な音声が得られる方向が,電子ラベルのある方向として特定できる.

3.3.3 到達確認の原理

 到達確認とは,電子ラベル部が設置してある目標地点に確実に到達したかどうかを確認することであり,これに対応するために今回新たに機能を付加した.携帯部と電子ラベル部の距離が約5m内に達した時,携帯部のラベル音要求スイッチが押されると,電子ラベル部に内蔵した電子ブザーから電子音「ピー・ピー」が発生し,利用者は目標地点の間近にいることを確認することができる.

3.4 システム運用

 システム操作の概念図を図3に示す.白杖歩行を行う視覚障害者は,目標とする箇所に,電子ラベル部をセットしておく.電子ラベル部には,ドアなどのノブに掛けておくためのストラップと装置裏面には金属面に磁力で固定しておくためのマグネットシートが備えてある.
 携帯部を手に保持し,情報取得スイッチを押しながら,ゆっくりと左右に旋回させる.電子ラベル部からの赤外線が携帯部の受光角に入射した時,携帯部のスピーカから,ノイズの混じった音声が発せられる.操作者は,その音声が最も明瞭に聞くことが出来るように方向合わせを行うよう努力する.さらに,目標物に向かって徐々に移動しながら,携帯部による方向合わせを繰り返す.
 さらに,目標物に接近したとき,電子ラベル部からの電子音を使用して到達確認を行うことができる.
 図4が今回新たに開発した,個人用電子ラベル部と小型化した携帯部である.また,電子ラベル部は寸法W100mm×H68mm×D23mm,重量110gであり,携帯部は寸法W55mm×H22mm×D115mm,重量140gである.図5に各部名称を示す.

図3 システム操作概念図

図3 システム操作概念図
Fig.3 Image illustration of system utilization

図4 電子ラベル部(左)と携帯部

図4 電子ラベル部(左)と携帯部
Fig.4 Developed system
(left: Transmitter called "Electronic label", right: Receiver)

図5 各部名称

図5 各部名称
Fig.5 Name of each parts

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4.システム有効性評価

 今回提案したシステムが個人的な利用場面で有効に活用できるかどうかを検証するための評価試験を実施する.また,その中で今回改良した装置そのものにたいする意見を聞く.

4.1 評価条件

 試験は,以下の3つの場面を設定する.
(1)走行中新幹線列車内
 自分の席を離れ,通路に沿って,前後それぞれ約5メートル離れた場所から自分の席を確実に見つけることができるかどうかを確認する.電子ラベル部は,座席上に上向き,または窓際の棚に置く.
(2)ホテル・エレベータ
 目的階で確実に下りることができるかどうかを確認する.電子ラベル部は,目的階のエレベータ出入り口の鉄製外枠に磁石で貼り付ける.
(3)ホテル客室階通路
 ホテルエレベータホールから,L字型になった通路約15メートルを歩き,自分の部屋まで確実に辿り着くことができるかどうかを確認する.電子ラベル部は自室のドアノブにストラップで掛けておく.
 それぞれの場面において,1回目は試験担当者が付き添って歩行し被験者にメンタルマップを持たせ,2回目は白杖のみ使用し,3回目は白杖と開発したシステムの併用で試験を行う.試験実施直後に表1に示す各項目について被験者に口頭で質問を行い,5段階評価を行う.また,被験者に自由な感想を述べてもらい記録する.

表1 評価項目と質問事項

4.2 評価結果

 試験協力者は21名(全盲13名,弱視8名)である.男性11名,女性10名.年齢は,70才代が14%,60才代が29%,50才代が33%,40才代が14%,20才代が10%.全体の71%の人が週4日以上外出している.外出時の歩行補助手段としては,白杖のみが66%,白杖+介添え人が24%である.
 評価結果を表2,3,4に示す.表2から,「役に立ったか」の質問に対しては,新幹線列車内が100%,エレベータでは85%,客室階通路では90%と高い値を示した.「離れた位置から携帯部音声で目標位置が分かったか」については,新幹線列車内ではラベルを置く位置が座席であるため,間近まで来ないとラベルが検知出来ず,ホテル客室階通路に比べやや低い値を示した.「到着したかわかったか」「安心して歩行できた」については,いずれも高い値を示した.つぎに,表3から,「携帯部により方向を見つけるのは簡単か」については,とくにホテル客室階通路では低い値を示した.これについては,観察結果によれば,メンタルマップが形成される時に歩数を記憶し,さらに壁からの圧迫感や天井に設置された通風口の音などを頼りにかなり正確に歩けるため,歩行中に必ずしも方向確認を必要としていなかったためと考えられる.また,前回懸案事項であった,携帯部の保持性の問題は,「持ちやすさ」「重量」とも比較的高い値を示しており,改善できていると考える.
 最後に,表4から,「ラベル音は役に立ったか」の質問については,82%の人がその有効性を認めており,89%の人が「聞き取りやすい」と解答している.しかし,「ラベル音の音量は良い」とする人が79%いるものの,「他人が使用していた場合,音が気になる」とする人が55%であり,やはり音を出すことについて気兼ねすることが考えられる.
 この他,被験者からの感想には次に述べるものがあった.ラベル音については,駅の券売機や公衆電話の警告音と間違いやすい音は避けて欲しい,「ピー」音ではなく,なるべく低い音が望ましい.エレベータ内での利用については,エレベータ内で音をだすのは周りに気兼ねがある,エレベータの操作ボタンがタッチ方式でほとんど利用できない,本システムとエレベータが連携して使えるようになると便利.列車内での利用については,電子ラベルを座席の上に置いた状態では発見し難い,背もたれ部に固定する工夫が必要.案内音については,女性の声の方が聞き取りやすいようである.
 個人利用したい場面としては,旅行の際の集合場所の目安,旅先ホテル,風呂場の脱衣かご,荷物・靴探し,門柱・表札・玄関ドアなど.施設向けラベルの設置希望場所としては,公共施設,銀行,駅やバスターミナル周辺,電柱,信号機の押しボタンの場所,交差点,横断歩道など.普及策については,日常生活用具等に指定してほしい,手軽に入手できるように,デパートなどで購入できると良いなど.懸念する事項としては,人混みの中では使えないのではないか,外出先ではラベルと取付場所に問題があるのではないか,また盗難の恐れもあるなど.機器設計に関しては,電子ラベルを薄くして欲しい,電子ラベルの表裏がはっきりわかるような工夫が欲しい,滑りにくい材質にして欲しい,などがあげられた.
 図6〜9に各場面における評価試験の様子を示す.

表2 有効性に対する評価結果

表3 機能・性能に対する評価結果

表4 ラベル音に対する評価結果

図6 新幹線車両内での評価試験風景

図6 新幹線車両内での評価試験風景
Fig.6 Scene of evaluation of system in the train of the Shinkansen

図7 ホテル・エレベータ内での評価試験風景

図7 ホテル・エレベータ内での評価試験風景
Fig.7 Scene of evaluation of system in hotel's elevator

図8 エレベータドア付近に設置した電子ラベル

図8 エレベータドア付近に設置した電子ラベル
Fig.8 Electronic label installed near the door of elvetor

図9 ホテルの部屋のドアノブに吊した電子ラベル

図9 ホテルの部屋のドアノブに吊した電子ラベル
Fig.9 Electronic label hanged on knob of hotel's room

5.考察

 評価結果から,ラベル音の音質に対する改善の必要性はあるものの,本システムに対する評価は概ね良好であった.特に,前回,懸案事項であった,携帯部の保持性は大幅に改善され,また目標地点に到達したかどうかわかるための機能を実現することができた.
 今後の方向性としては,施設向け電子ラベル部および個人用電子ラベル部に共通利用可能な携帯部の製品化をすすめる.一方で,視覚障害者の利用のみならず,聴覚障害者や高齢者さらには多言語に対応可能な多機能型システム[3][4]の検討を進めていく.

6.あとがき

 ある評価試験協力者は「高齢で目が見えなくても外に出たい気持は人一倍ある」と心情を語った.また,別の協力者は「弱視は他人には理解され難いため,道を尋ねる場合などでも気兼ねがある」と語った.
 誰に気兼ねをすることなく,散歩やショッピングを楽しんだり,旅行に出かけたりすることを支援するための機器開発を今後も進めていきたい.なお,本研究開発にたいしては,三菱プレシジョン株式会社が財団法人テクノエイド協会から福祉用具研究開発事業助成金の交付を受けていることをここに付記する.

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謝辞

 本研究を進めるにあたり,以下に掲げる方々から貴重な助言や多大なご協力をいただいた.この場を借りて,深く感謝の意を表します.元筑波大学付属盲学校 長谷川貞夫氏,東京電機大学 斉藤正男氏,東京都心身障害者福祉センター 御旅屋肇氏,横浜市総合リハビリテーションセンター 大場純一氏,横浜市身体障害者団体連合会 三浦辰男氏,国際プロダクティブ・エージング研究所 白石正明氏,米国トーキングサインズ社 C.Ward Bond氏,米国スミス・ケトルウェル研究所William Crandall氏,評価試験に協力いただいた方々,(株)京王プラザホテル・バリアフリープロジェクトのメンバーの方々

参考文献    

[1]御旅屋肇:視覚障害者用歩行補助システムの検討,第11回リハ工学カンファレンス講演論文集,pp.241-246,1996
[2]青野雅人,畠山卓朗,田中理:視覚障害者用音声案内装置の調査,第13回リハ工学カンファレンス講演論文集,pp.441-446,1998
[3]畠山卓朗,伊藤啓二,白鳥哲夫,城口光也,久良知國雄,春日正男:音声歩行案内システムの開発,第13回リハ工学カンファレンス講演論文集,pp.349-354,1998
[4]畠山卓朗,伊藤啓二,白鳥哲夫,城口光也,久良知國雄,春日正男:音声歩行案内システム,第14回ヒューマン・インタフェース・シンポジウム前刷集,pp.577-582 ,1998

2章「音声案内情報システムの課題」へ

5章「考察」へ

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ヒューマンインタフェースシンポジウム1999にて発表

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