はがき通信ホームページへもどる No.62 2000.3.25.
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脊髄損傷治療に希望の光


脊髄の研究者チームが、これまでは不可能とされていた、中枢神経系の細胞を人為的に再生させることに成功した。
中枢神経細胞が再生不可能であることは、神経生物学においてもっとも固く信じられてきた定説の1つだった。ところが、マサチューセッツ総合病院とハーバード大学の研究チームが、ラットを使った実験で、脚部の主要な知覚神経である坐骨神経にダメージを与えると、中枢神経細胞への成長信号を活性化できることを証明したのだ。
今後、末梢神経を傷つけることなく成長信号をオンにする方法がわかれば、かつては到達不可能と思われたゴールにまでもたどり着けるかもしれない。そのゴールとは、切断された脊髄を再びつなぎ合わせることだ。
哺乳類の場合、脊髄の神経繊維はいったん切れてしまえば自力で再生することはできない。一方、末端にまでのびている末梢神経は、損傷しても自己修復できる。どちらの神経繊維(軸索と呼ばれる)も同じ種類の神経細胞の枝なのだが、なぜ場所によってこれほど異なった性質を示すのか、研究者たちは何十年も前からその理由を突き止めようとしてきた。
こうした再生の違いは、成長を促す信号を細胞が受け取らない、または成長を抑制する物質が存在することがその原因として考えらえる。あるいは、損傷部分の状態に問題があるのかもしれない。そうした箇所にはしばしば嚢胞(袋状の組織)や裂け目ができ、それが障害となって細胞の成長を妨げるからだ。
「われわれのデータは、もしも細胞を成長モードに切り替えることができれば何が起こるかを示している。通常ならまったく成長しないはずの中枢神経の枝が、脊髄内で成長しはじめたのだ」と、マサチューセッツ総合病院の知覚麻痺・重態治療科とハーバード大学医学部の合同研究チームでリーダーを務めるクリフォード・ウルフ氏は語る。
科学誌『ニューロン』の5月号に発表されたこの研究は、細胞が脊髄の中へ、それも損傷箇所を越えて成長していくことを立証した。
ラットの坐骨神経と中枢神経系を同時に傷つけた場合、細胞は成長して中枢神経系の損傷箇所の内部にまでは達するが、それを越えていくことはない。しかし、坐骨神経の損傷から1〜2週間後に中枢神経系を損傷させれば、細胞は傷ついた箇所を通り越して脊髄中をのびていくことがわかった。

「もはやこれはSF小説の中だけの話ではなくなったと私は思う。生体内の分子を特定する現在の技術を用いれば、いずれ新たな治療法を見つけられるだろう。希望としては10年以内に」とウルフ氏は語る。「それまでには、具体的な治療計画を立てるのに十分なほどに科学も発達していることだろう」
ラトガーズ大学のW・M・ケック共同神経科学センター所長であるワイズ・ヤング教授は、この研究が現在実験段階にある多くの治療法を組み合わせた治療法につながるかもしれないと期待している。
損傷でできた裂け目を埋めるのに胚細胞あるいは幹細胞を用いる細胞移植療法と、この成長促進療法を組み合わせれば、劇的な効果が得られるかもしれないとヤング教授は言う。
これに、現在臨床段階に入っている抗成長抑制薬を組み合わせれば、その効果はさらに大きなものとなりうる。
「すでにある程度の機能改善は達成できたが、すべての方法を1つに組み合わせた治療法はまだ試みていない。切断された箇所に橋を架けることができても、成長抑制物質のおかげでその向こうにまで細胞を成長させることはできないのだ」とヤング教授は語る。
俳優のクリストファー・リーブ氏が脊髄研究に力を注いでいることも研究の進展に一役買っている。慎重派の科学者たちですら、自分たちが生きている間に効果的な治療法が見つかりそうだと口にするほどだ。しかし専門家たちによれば、患者に実際こうした治療を施すには資金がまだ不足しているという。
ヤング教授の推定では、米国における脊髄研究への民間、政府双方からの出資は、年額1億ドルにも満たないという。
一方、製薬業界の試算では、たった1種の薬品を臨床試験を経て市場へ送り出すのにすら、平均3億ドルもかかるのだ。資金は限られていても、研究者たちは意気揚々としている。
「10年前、神経学者に脊髄損傷の治療法が見つかるか否かと質問したら、99%がノーと答えただろう。見つかるとしても、われわれの世代ではまず無理だと」とヤング教授は語る。「1995年にはそれが、ひょっとしたら見つかるかもしれないに変わり、1999年現在では、大半の神経学者がきっと見つかるというだけでなく、それがもう間もなくのことだと考えている」    



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「はがき通信」購読者の調査より


先般「はがき通信」の購読者のうちの177名のご協力を得て、旭化成工業(株)・材料研究所・山岸秀之氏がアンケート調査を行って参りました。
その結果が「肢不自由な人々の生活と環境制御装置に関する調査報告書」としてまとまりました。関係者のご協力、厚く御礼申し上げます。
さて、四肢不自由な方々の生活時間や楽しみについてのアンケートはみなさんの暮らしの参考にもなると思いますので、ここに報告書の抜粋を掲載させていただきます。
                    
  • 177名の障害者の病気・怪我の年数は平均すると15年である。
  • くらし方として、家族と一緒に暮らすケースが75%で、1人暮しは12%となっている。60代以上は、家族と暮らす比率は94%と高いが、40代では64%である。40代は1人暮し(18%)や施設(14%)で暮らす人が他の年代より多い。
  • 部屋の広さ(下の表1)は、6畳から13畳以上までバラつきがあるが、平均すると10畳の広さとなっている。
表 1: 自室の広さ
グラフ N=177
平均=10.2畳

  • 外出頻度は週5日以上の外出は全体で14%。30代と、病歴が最も長い層で高くなっている。週1回以上の外出をみると59%となっている。
    週1回以上でみると50代(79%)、病歴が最も長い層(86%)の比率が他の層に比べて高くなっている。
  • 1年間で旅行経験をした人は55%で、40代の61%、30代の60%が高い。国内では関東地方・中国地方・九州・中部地方に旅行した人が多く、海外旅行がそれに続く。
  • 最近の心に残るできごと。30代では旅行とパソコン関連を挙げている人が多い。40代も旅行とパソコン関連の他、介護保険に関心を持つ人が目立つ。50代では東海臨界事故と旅行を挙げている。60代以上では旅行を挙げている人が目立つ。
  • 楽しみについて(下の表2)はテレビ・ビデオが81%で圧倒的に高く、次いでパソコンの61%となっている。特に、パソコンは30代以下の若い層で高い。

    表 2 : 暮らしの中のでの楽しみ
    暮らしの中での楽しみ−グラフ
  • 過ごす時間。
    車椅子で10時間以上過ごしている人は41%、平均すると7.5時間過ごしている。就寝以外で、ベッドで10時間以上過ごしている人は44%、平均すると8.4時間過ごしている。
  • 自室で1人っきりになる時間に関してはゼロ(全くそのようなことがない)の人が23%、10時間以上1人で過ごしている人は28%で、平均6.3時間である。1人で過ごす時間が長いのは40代、病歴20年以下の層となっている。


編集委員 向坊弘道 zi5h-mkib@asahi-net.or.jpPOST
      

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