No.174 2018.12.25
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 『臥龍窟日乗』 -56- iPS、いよいよ脊損対応か 

 岡野栄之・慶大教授の研究チームが、脊損患者へのiPS細胞移植を開始することになりそうだ。
 慶大審査委員会が承認したと、11月13日全国いっせいに報道された。
 厚生労働省の承認を得られれば、来年から臨床治験が開始される見通しだが、もちろん世界で最初の試みとなる。
 iPS細胞=人工多能性幹細胞は京大の山中伸弥教授によって開発され、同教授は2012年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
 だがiPS細胞の脊髄への移植は、ガンを誘発する危険がともない、臨床への応用はできないとの見方が主流となっていた。
 そのため当初、脊髄損傷、頸髄損傷を対象に開発されたiPS細胞も、網膜やパーキンソン病の治療が優先された。それはそれで喜ばしいことなのだが、脊損、頸損患者にとっては〈お預け〉というきびしい状況になっていた。
 今年10月13日、「せきずい基金」が東京秋葉原で『再生医療最前線~基礎から臨床まで』と題した講演会を催した。岡野・慶大教授の講演がメインであった。
 iPS細胞の臨床応用について、「いまの段階ではいつとは言えないが、近い将来」と話しておられた。今回の報道に接して、このことを指していたのだなと思った。

 私自身のことをすこし話してみたい。
 2003年の暮れ、国内の仕事を片付け上海に飛んだ。天津を経て、年明けに香港経由で台湾に入った。年末に海外支社をまわるのが、何年もつづく私の習慣だった。
 そして仕事始めの2004年1月8日、台北に向かう高速バスで私は受傷した。何がなにやらさっぱり分からなかった。頸髄損傷なんて言葉も知らなかった。C-3、4。首から下がまったく動かない。
 いったいオレが何をした。神も仏もあるのかと思った。索漠とした日々がつづいた。
 岡野教授の講演会に行ってみないかと、理学療法士に勧められた。目黒区の柿の木坂だった。脊損、頸損を治す再生細胞の研究が進んでいるというお話だった。目頭が熱くなった。あれから12、3年が経った。
 いろんなことがあった。卵細胞を移植して脊髄を再生できると聞いて、大枚300万円も払って北京で手術を受けたが、だれ一人として治らなかった事件もあった。
 その後、彗星のように山中教授が注目され万能性幹細胞を発表。ノーベル賞受賞にいたる。
 STAP細胞事件というのもあった。細胞の培養というのは、研究員と細胞の〈相性〉みたいなものがあるらしく、器用な研究員はじつに上手に細胞を培養するそうだ。
 小保方さんはSTAP細胞の培養に成功していたと、私は信じている。単なる不倫騒動のように差し替えられたのは、なんとも痛ましいことであった。
 われわれ下々の世界に生きる人間とおなじく、学者さんの世界にも妬(ねた)み嫉(そね)み、中傷、足の引っ張り合いはあるようだ。
 iPS細胞やSTAP細胞のような事例では、製薬会社の思惑も絡んでくるに違いない。おそらく何兆円の利権である。
 有象無象の妨害のなかで、研究に心血を注いでおられる研究者の熱意がひしひしと伝わってくる。
 今回、岡野・慶大チームが使用するiPS細胞は京大から提供される。
 これ以降は私の憶測だが、再生細胞研究では先行していた岡野教授が、iPS細胞の使用を申し出て、山中教授が快くこれに応じたのでなかろうか。
 脊損患者へのiPS細胞の移植は、この細胞の最終目標であっただろう。ノーベル賞学者としては、脊損対応を「だれよりも早く」実現したかったに相違ない。
 ガン回避法を開発し、京大にiPS細胞の提供を求める岡野教授の率直さは立派だが、二つ返事でこれに応じた山中教授も立派と言わざるを得ない。
 移植は受傷2~4週間の急性期の患者におこなわれる。10数年を経たわれわれ慢性期の患者に回ってくるのはいつのことやら。私は自分の余生を10年と見ているが、せめて臨終に至るまでには、鼻の頭にとまったハエを自らの手で払いたいと願っている。

千葉県:出口 臥龍


(画像提供:iPS細胞 脊損移植申請へ 慶大、審査経て国に 世界初 平成30年11月14日 毎日新聞)

 マスコミから 

 厚労省 脊髄損傷治療に幹細胞 製造販売承認へ 

 厚生労働省の専門部会は21日、脊髄(せきずい)損傷患者の運動や知覚の機能回復を狙う再生医療製品について、条件付きで製造販売を承認するよう厚労相に答申することを決めた。製品は患者の骨髄液から採取した幹細胞を培養し点滴で戻すもので、年内にも正式承認される。厚労省によると、脊髄損傷への再生医療製品の販売承認は世界初とみられる。
 製品はニプロが6月に申請した「ステミラック注」で、脊髄損傷から約2週間までの、運動や知覚の機能が全くないか一部残る患者が対象。最大50ミリリットルの骨髄液や血液を採取し、骨髄液に含まれる幹細胞「間葉系幹細胞」を約2~3週間で5000万~2億個に培養した後、静脈に点滴で戻す。
 脊髄には脳からの指令を手足に伝える神経が束で集まる。戻された幹細胞が神経の周辺に集まり、炎症を抑えて神経細胞の再生を促す成分を放出し、患者の機能が改善することを狙う。
 今回の製品は、培養細胞だけでなく骨髄液の採取キットなども含めた一式を指し、札幌医科大と共同開発。臨床試験(治験)では患者13人に投与し、12人で5段階ある機能障害が1段階以上、改善した。しかし安全性は確認されたが効果は「推定される」段階のため、承認後7年間で患者90人に投与してリハビリを同時に実施し、効果が確認できれば販売を継続できる。
 脊髄損傷の患者は毎年5000人発生しているとされる。今回とは別に、慶応大のチームがiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った臨床研究の計画を、米ベンチャーがES細胞(胚性幹細胞)を使った治験をそれぞれ進めている。
 正式承認後に公的医療保険適用を目指す場合は、薬の公定価格「薬価」を決める必要がある。通常は企業の算出価格を基に厚労省が原案を作成し、企業の申請から数カ月以内に厚労相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)が了承する手順となる。【荒木涼子】



 ◇科学的検証が必要
 日本脊髄障害医学会常任理事の加藤真介・徳島大教授(リハビリテーション医学)の話 臨床研究で示された効果は驚くものだが、重度のまひでも自然回復が良好な場合があり、機能回復はリハビリテーションの良否にも大きく影響される。治療効果については市販後も第三者を加えた慎重な科学的検証が必要だ。今回は損傷から時間がたった慢性期の患者は対象外だが、こちらの研究の進展も期待したい。

(情報提供:平成30年11月21日 毎日新聞)


 慢性期の脊髄損傷、iPSで効果 慶応大がマウスで成功 

 負傷から時間がたった慢性期の脊髄(せきずい)損傷のマウスに、ヒトのiPS細胞から作った神経のもとになる細胞に特殊な前処理をして移植すると、運動機能が回復したとする研究成果を、慶応大のグループが発表した。細胞を移植しても効果がないとされてきた慢性期でも、回復の可能性を示している。論文は30日、米科学誌ステムセルリポーツに掲載される。
 同大の岡野栄之教授(生理学)と中村雅也教授(整形外科学)らのグループは、iPS細胞から作った神経のもとになる細胞50万個を、慢性期(損傷後42日目)のマウスの脊髄の損傷部近くに移植した。
 移植する細胞にはあらかじめ「GSI」というアルツハイマー病の薬として開発された物質を加えた。神経細胞への分化が促されたり、神経細胞の「軸索」という突起が従来よりも伸びて刺激を伝えやすくなったりしたという。
 GSIを加えた細胞を移植した複数のマウスと、加えなかった細胞を移植したマウスを比べると、GSIを加えた細胞を移植した方は、移植の約2カ月後から後ろ足が動くようになった。
 岡野さんと中村さんらは、iPS細胞を使った脊髄損傷の人間への臨床研究でも、今後、慢性期も対象にする方針だ。(戸田政考)

(情報提供:平成30年11月30日 朝日新聞)



 iPS創薬でALS治験 慶応大、症状改善に期待 

 慶応大の研究チームは、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の治療薬候補を人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って発見し、患者に投与する臨床試験(治験)を3日から開始すると発表した。同日に患者の募集を始める。
 ALSは脳や脊髄の神経細胞に異常なタンパク質が蓄積するなどして発症する。国内患者数は約1万人で根本的な治療法はない。
 チームは患者の細胞から作製したiPS細胞を使って、病気を起こす神経細胞を体外で再現。約1200種の既存薬を投与し効果を調べ、脳神経系の難病であるパーキンソン病の治療楽として広く使用されている「ロピニロール塩酸塩」が有効なことを突き止めた。



 従来の治療薬と比べ2~3倍の症状改善効果があったという。治験では、発症から5年以内の20~80歳の患者20人に最大50週間にわたって投与し、安全性と有効性を確認する。
 岡野栄之(ひでゆき)教授は「従来と全く違う発想で発見した治療薬候補で病気の進行を抑え、ALS克服に貢献したい」と話した。
 治療薬候補は、遺伝が関係するとみられる家族性ALSの患者の細胞を使って見つけた。原因が不明で、国内患者の約9割を占める孤発性ALSの細胞でも約7割に効果があった。
 iPS細胞を使った創薬研究の治験は、京都大の筋肉の難病、慶応大の遺伝性難聴に続き国内3例目。治験を監督する医薬品医療機器総合機構(PMDA)が先月、届け出を受理した。

(情報提供:平成30年12月3日 産経新聞)



【編集後記】

 146号(2014年4月)の特集「四肢マヒ者の創作活動」の第2弾を、次々号の4月号・176号にて予定しています。前回に続いて創作品の色彩豊かな魅力を誌面にてお伝えするため、カラー印刷にさせていただきます。
 描画、文芸(俳句・短歌・ポエム・小説・随筆・その他)、写真撮影、書道、作詞作曲、ダンス、料理など、広い意味で何かを創作されておられる方は、ご投稿の検討のほどよろしくお願いいたします。次の2月号であらためて募集いたします。
 次号の編集担当は、 さんです。

編集担当:藤田 忠


………………《編集担当》………………

◇ 瀬出井 弘美 神奈川県 E-mail:
◇ 藤田 忠   福岡県  E-mail:
◇ 戸羽 吉則  北海道  E-mail:
  

………………《広報担当》………………

◇ 土田 浩敬  兵庫県  E-mail:

メールアドレスが適切に表示されない場合は、こちらへ

(2017年2月時点での連絡先です)

発行:九州障害者定期刊行物協会
〒812-0024 福岡市博多区綱場町1-17 福岡パーキングビル4階
TEL:092-753-9722 FAX:092-753-9723
E-mail:qsk@plum.ocn.ne.jp

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