はがき通信ホームページへもどる No.161 2016.10.25.
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 『臥龍窟日乗』 -43- アグレッシブ・リハ10年の決算(2) 


 若いころからスポーツは何でもこなすほうだったから、自分の身体を痛めるのは苦にならない。年に2、3回、裁判に出頭したり、資料蒐集(しゅうしゅう)の旅に出る以外は、盆も正月も返上でリハビリに励んだ。
 午前は10時から11時まで。天気が良ければその後一時間、自宅の周りを車椅子で周回する。夕方は6時から7時まで。夕食を挟んで8時から9時半までふたたびリハ。これを毎日やる。
 いちばん困ったのはマンパワーだが、学生さんやママさんバレーのメンバーが応じてくれた。ボランティアでお願いしているが、最も長い方で10年になる。
 体調の悪いときなど「もう堪忍してよ」と口に出そうになるが、雨の日も風の日も来てくれる人たちに弱音を吐くわけにはいかない。逆にいろんなアイデアを出してくれて、どんなに助かったかしれない。
 だが成果は上がらない。学生さんの助言で、筋肉量測定のできる病院にも行った。身体中に電極をつなぎ電流を測る。体脂肪測定の原理だ。年に2回、3年ほど通ったが数値は毎年落ちる一方だった。
 医師の話だと「何にもしないと人間の筋肉は1日1%ずつ減っていく」らしい。3ヵ月ちょっとでゼロになる計算だ。測定のたびに落胆する私に「でもまあ四肢麻痺の人が、これだけ筋肉を維持できていれば、立派なもんですよ」と妙な慰め方をした。
 今回、この原稿を書くにあたっては、少なからぬ躊躇(ためら)いがあった。幸いにして自分は良き協力者に恵まれ、10年もリハビリを続けられたが、リハビリを受けたくとも叶わなかった人々、より正確に言えば人工呼吸器を一時も離せない重篤な方々がおおぜいおられるという現実。
 私より若い30代、40代、50代の方々がつぎつぎに先立っていかれた。痰が詰まったとか、感染症に罹(かか)って肺炎を併発したとか、あっけなく亡くなった方々の無念を思うと、遣り切れなくなる。
 なかでも自殺としか思えないBさんの死は、いまでも私の心に重いシコリとなって巣食っている。C1とかC2の損傷は、呼吸中枢を司る部位だけに、即死か、良くても寝たきりとなる方が多いが、寝たきりの方を見舞っても掛ける言葉がない。誰がどんな慰めを言おうが、自分の置かれた救いがたい状況は、本人が一番分かっているものだ。何もできない自分の無力感を噛(か)み締めるのみとなる。
 Bさんは私の身内が入院している病院に入ってこられた。はじめは見舞いの度にBさんの病室を訪れていたのだが、掛ける言葉がない。Bさんは、目だけで何かを訴えようとするが、何を言いたいのか分からない。
 そのうちBさんは生きる意欲を失っていった。人伝(ひとづて)にBさんが亡くなったと聞いたのは1年も経ってからだった。最期の状況を看護師に尋ねても、複雑な笑みを浮かべただけだった。
 同じ脊髄を損傷したと言っても、病院のリハで回復し、松葉杖をついて退院した人もいれば、Bさんのようにじっと死を待つ人もおられる。医師は前者を不全麻痺と呼び、後者を完全麻痺と呼ぶ。そして私は完全麻痺と言われた。
 この完全麻痺、不全麻痺という言葉こそ魔物なのだ。不全麻痺なら治るが、完全麻痺は治らない。ならばボーダーラインはどこだと訊(き)いても、明快な答えはない。医学の発達した現代でさえ、神経のどの部分がどこに繋(つな)がっているかは、神のみが知る。だから神経という。
 別の担当医は「あなたの場合は限りなく完全麻痺に近い不全麻痺だ」と説明したが、私を落胆させないようにという配慮だったのだろう。
 裁判の過程で必要とされたレントゲン(仰臥位になって横から撮影したものなので多少の誤差はある)では、私の頸髄は19ミリ中11ミリが損傷していた。狭窄率(きょうさくりつ)は58%だ。これは絶望的な数字だった。
 切れた神経は繋がらないが、リハビリによって迂回路(うかいろ)ができる、という話を病院で聞いた。否も応もない。もうアグレッシブ・リハしか道はないのだ。暗澹(あんたん)たる気持ちでリハに臨んだ。(つづく)
   

千葉県:出口 臥龍


 ストマ造設(人工肛門)の決意 

C4、頸損歴30年

 私が、ストマ造設(人工肛門)を決めた理由は次の6項目です。

 1.ガス溜り
 年齢のせいなのか? 腸の動きが悪くなり、ガスでお腹がパンパンになります。その影響で、血圧が上がります。また、呼吸が浅くなり、酸素を取り込もうと呼吸に意識をむけると、自立神経が活発になり肛門が閉まり、ガスが出ないという悪循環を繰り返すようです。

 2.排便の負担
 ベッド上において浣腸・摘便により排便をするのですが、排便後に血圧やSPO2(血中酸素飽和度)の値が下がり、辛いときが多々あります。

 3.便失禁
 3〜4年前から便がゆるくなり、失禁が多くなりました。薬(コロネル)や腸内細菌サプリ、ヨーグルト、食事の工夫などいろいろ試したけどなかなか良い結果が得られません。

 4.前例
 ここ数年のうちにストマの造設をされた方が多くなり、私と同レベルのC4の方も多数されています。「ガスが抜けて、体が楽になった」「生活時間に余裕がもてるようになった」などの声を聴きました。

 5.将来
 今後、おしりに褥瘡ができたとき、清潔が保ちやすくなるし、痔が大きくなったときにおきる痙性もなくなることが期待されます。

 6.年齢的なもの
 現在60歳で還暦の節目を迎えました。このまま年齢を重ねていくと、体力も落ちてきます。手術をするならまだ元気な「今でしょ!」と思いました。

 以上のことをかんがみ、ストマ造設を決意しました。もちろんいいことばかりではなく、リスクも当然考えられますが、工夫と経験で克服するとしましょう。
 この記事を書いている現在はまだ手術はしていませんが、「はがき通信」が発行される頃には手術は終わり、自宅での生活を送っていることでしょう。



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