はがき通信ホームページへもどる No.118 2009.8.25.
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 長女の誕生までの道のり 


 117号で「長女の誕生」というタイトルの投稿をさせてもらったものです。話が前後してしまいますが、今回は長女が生まれるまでの経緯について書かせていただきます。
 結婚が決まったとき、結婚するに際して何か望みはないかと妻に聞いた。妻はもともとあまり欲のない女性だった。たぶん、「何もない」というだろうと予想していたが、その妻が「できたら子供がほしい」と言った。
 「うん、作ろう」
 と僕は即答した。
 けれど、通常の性行為では僕たち夫婦の間に子供はできないと分かっていた。それでも僕は、妻の願いを叶えてあげたかった。頸椎損傷の夫と健常者の妻で、不妊治療の末に子供を産んだ夫婦を何組か知っていたが、実際にどのような手順が必要なのかは知らなかった。泌尿器科を受診したときにそのことを医師に話すと、障害を持つ人の不妊治療に詳しい医者を紹介してくれた。後日、受診をしてようやく大まかな手順が見えてきた。
 まずは僕の睾丸から精子を取り出す手術。日帰りでもできる手術らしいが、大事を取って1泊の入院手術となった。手術は簡単なものだった。麻酔をして約1時間。採取した精子を、すぐに妻が不妊治療をするための病院に運んで冷凍保存してもらった。僕が苦しんだのは手術後にうまく排尿できずに導尿してもらったことと、傷口の治りが悪く、近くの病院に何度か通ったことくらい。
 「あとはかあちゃん任せだな」
 と医師は言ったが、まさにその通りになった。
 妻の通う病院は家から自動車で通えるところにあったが、全国から治療に来る夫婦が集まる有名な病院だった。顕微授精というのをメインにしているのだが、文字通り顕微鏡をのぞきながら採取した精子と卵子を手技によって授精させ、子宮に戻すというものだった。院長の顕微授精の技術は卓越していて、通常よりも何倍も速く受精させるので成功率が飛躍的に高くなるということだった。数ヶ月前に全国ネットのテレビで特集が組まれてからは、さらに予約を取ることが困難になったらしい。
 妻の治療はまず、投薬で生理周期を整えることから始まった。次に注射で卵子を大量に卵巣に作らせる。その卵子を採取するときが相当きつかったようだ。卵子を採取した直後、妻は体調を崩して入院をしなければならなかったほどだった。
 それから採取した卵子と僕の精子を顕微授精させ、数個の受精卵を創るのだが、その中でも良好なものをひとつ選んでいよいよ最終段階である受精卵を戻す治療に入る。
 けれども、1回目はうまくいかなかった。まだ小さなまま僕たち夫婦の子供は亡くなった。妻はうまく育っていないことをうすうす感じていたらしかった。もうこれ以上育たないと分かったとき、妻はソファーに座ってエコー写真を見ながら泣いていた。
 「そんなところで一人で泣いてちゃだめだよ。こっちへおいで」
 と僕は言い、悲しむ妻を慰め、励ました。僕の悲しみよりも、妻の悲しみのほうが膨大だったはずだ。
 2回目は順調だった。僕たち夫婦の子供は妻のおなかの中で大きく育っていった。不妊治療をする病院から、出産するための産婦人科クリニックに通うようになった。次第に大きくなっていく妻のおなかを見て、僕は嬉しかった。つわりもあって妻は吐いたりもしていたが、よく散歩をし、仕事も途中まで続けた。夏の暑さも乗り越えて予定日も過ぎた。それでもなかなか生まれてこず、僕は心配したが、子供は順調に育っていた。3,000グラムを越え、僕たち夫婦は難産になるだろうと話し合った。
 予定よりも1週間遅れてやっと陣痛が来た。
 「陣痛が来たみたい」
 と早朝、妻は冷静に言った。病院に行き、分娩室に入った。もうすぐに生まれるのではないかとも思ったが、やはり難産だった。後から陣痛が来た人が先に産んでいく。
 丸1日半。妻は苦しんだ。
 翌日の午後、ようやく生まれた。事前に聞かされていた通り、女の子だった。
 「ごくろうさま」
 と分娩室から出て来る妻に声をかけた。妻の体力は消耗しきっていて、ベッドに寝かされたまま病室に戻り、僕に笑顔を向けることが精一杯のようだった。新生児室に来た娘を見た。ほかの新生児に比べ、はっきりした顔をしていた。隣のベッドの赤ちゃんのご家族から、「生まれたばかり?」と驚かれた。
 「はい。よく成長してるんですよ」
 と僕は心の中で応えた。
 体重3,500グラム。身長52.5センチ。大きく元気な赤ちゃんだ。誰からも愛されるように、愛される名前であるように、「あんな」と名付けた。
 出産後、妻はどれだけ大変な出産だったかを話してくれた。僕は微笑みながら話を聞き、元気な赤ちゃんを産んでくれた妻に感謝した。翌日には妻に手を添えてもらって、あんなを抱っこした。大きく生まれたとはいえ、僕の腕の中に収まる小さな命だ。僕は、妻を、そしてあんなを幸せにしようと誓った。
 ここからはもうほとんど親バカの蛇足だけれど、妻とあんなが退院して来るまで、毎日電動車椅子を走らせて病院まで行くのが僕の楽しみな日課だった。
 最後に。不妊治療をしているご夫婦はたくさんいるが、時間もかかるし、お金もかかるし、肉体的にも精神的にも大変なものだ。妻はよく頑張った。あんなを産んでくれて本当にありがとう。感謝している。
 

匿名希望



 『臥龍窟日乗』 —永代使用権— 


 受傷する1年ほど前から休日のたびに墓を見て歩いていた。親父が長男ではないからして、本家の墓にはいるわけにはいかず、わが一族としては初めて関東に墓を建てることになる。当節の墓地はなかなかモダンで、公園を散策するような気分で、おにぎりなど頬張りながらまわるのである。
 お寺さんを直接尋ねたり、公園墓地を訪れて営業マン氏の話を聞くにつけ、だんだん耳年増(みみどしま)になってきて、いろんな約束事が分かってきた。面白いのは、こんな時世だから墓もそうポンポンとは売れないらしく、「ちょっとこの規模では予算オーバーでして」と渋ると「それじゃ10%下げましょう」と二つ返事である。まさか坊さん相手に墓を値切ろうとは思ってもいなかったので、面食らってしまうのだ。
 流行りの公園墓地は石材屋が山を買いたたき、開墾して造成することが多いそうで、どう見てもひと昔前の建売り住宅の営業マンみたいな油ぎったオッサンが墓を売っていることもある。こういう手合いの場合はこちとらもやりやすく、手練手管の応酬である。家人には「あんた、はしたないことやめなさいヨ」と窘(たしな)められるのだが、家だろうと墓だろうと安いにこしたことはない。ただ自分が墓に入った時には、お隣ご近所に対して肩身の狭い思いをするだろうなァ。
 墓地分譲のチラシでどうもよく理解できなかったのが永代使用権とういう言葉である。不動産の売買だから所有権で良さそうなものなのに、何故、永代使用権なのか、何かウラがあるんじゃないか、こりゃ騙されちゃなんねぇぞと常々思っていた。
 今回その疑問が氷解したのだが、墓地が不動産でないのは、転売できないからである。そりゃそうだ。先祖のお骨が入っている墓を、他人に売るなんてことはできはしない。 
 かつて大阪のさる高名なお寺さんで、「代が途切れてしまって世話をする人もなく荒れ放題になって困っている」という話を聞いたことがある。その場合、どうするかというと、墓石を1ヶ所に集めて供養し、空いた墓地はまた別の人に永代使用権として売るそうだ。永代使用権とはいうが、実際には何百年も続く家系というのはほとんどないのだとか。
 よく老舗のお菓子屋だとか、名門といわれる工芸家などで10代目とか20代目というのを看板にしているが、まぁ大概の場合ウソっぱちである。徳川家15代でさえ嫡子(ちゃくし)ができず傍系から引っ張ってきて、なんとかかんとか取り繕(つくろ)っているだけである。お世継ぎを絶やさないことが幕府にとっては大問題で、だからこそ50人も60人も側室をおき将軍のケツをたたくのだが、種馬じゃあるまいし、たたかれる方もたまったもんじゃない。
 先の坊さんの話では、通常5〜6代も続いた家系など恵まれた方である。古い墓をとりつぶすために先祖をたどらねばならないが、戸籍の確立した明治以降ならともかくも江戸時代となると杳(よう)として分からないそうである。
 核家族化が進んだり跡継ぎが遠隔地に転勤したりで、あまりに不便だからと近くに建て直す人も多い。墓はいっぱいになるとお骨を土に戻すが、その場合、土をひと握りほど新しい墓に移す。いったん土に戻ったのだから、お骨を移すわけではない。
 墓が空き家になったんだからカネを返せという人もいるらしいが、所有権ではなく永代使用権だから、敷金みたいなもので返せないというのが、この世界のシキタリだ。
 

千葉県:臥龍



 車いすのタイヤの空気圧によるトラブルについて 


 私は、頸髄損傷の方のガイドヘルパーをしています。介助者として車いすのタイヤの空気圧によるトラブルについて、日頃から感じていることを書いてみたいと思います。
 皆さんの使用している車いすは、靴と同じと思いますがいかがですか? 日常の使用で車いすの癖は把握していると思いますが、健常者が靴のかかとの磨り減りを気にしないことがあるように、車いすのタイヤの空気圧を気にしていない方が多いように感じています。
 ご自身の車いすのタイヤの空気圧をご存じですか? 手動でも自転車と同じくらいの約2気圧から7気圧まで、それぞれのメーカーにより空気圧が異なっています。電動車いすについては車体に表示ラベルが張ってありますが、まれに空気圧表示のラベルが(はがれてしまった?)張ってない車いすも見受けます。
 以前はタイヤの接地面が丸く、目視で空気圧の減少を確認できましたが、近頃のタイヤは扁平タイヤになり接地面が多く、目視では確認できにくくなっています。また空気と窒素を注入している車いすもあります。
 空気圧が少ないときは、段差の角、地面とタイヤリム(金具の部分)により損傷要因が大きくなり、電動のバッテリーに負荷が大きくなります。
 空気圧が高すぎると気温が高くなると空気は膨張し、小さな段差でもバウンドして転倒、パンクの要因になっています。
 キャスターについても段差越えのとき、角度が大きく側面を損傷した事故に出合ったことがありました。段差にできる限り直角に向かい、車軸より低い位置の段差越えにより、損傷なく安全に走行できることを見てきました。
 外出した先で車いすのタイヤのトラブルなく楽しい一日を過ごすためにも、最低月に一度は空気圧の点検・保持が必要でしょう。
 [参考]
 ・自転車と同じ注入口の空気圧…2気圧前後(虫ゴム式と中弁式があり。虫ゴム式は普通の空気入れで可能だが、中弁式は圧力の高い場合もあるので規定圧力の確認を要す)
 ・自動車と同じ注入口の空気圧…2.5気圧〜7気圧(圧力計が付いたポンプを使用。またはガソリンスダンド、バイクを扱っている店等に依頼する。窒素入りは専門店に依頼が無難)


神奈川県:Y.I.

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