はがき通信ホームページへもどる No.115 2009.2.15.
Page. 1 . 2 . 3 . 4 .

このページの先頭へもどる

 床ずれ予防セミナー 


 国際福祉機器展会場でユーザー向けセミナーを行いました。
 日時:平成20年9月25日 11:30〜12:30 C会場
 テーマ:「間違いだらけの床ずれ(褥瘡)予防−リハ工学の視点から−」 
 講師:松尾清美日本リハ工学協会理事長
 主な参加者:障害を持つ方、エンジニア、支援者、OT、PT、ヘルパー
 国際福祉機器展の会場内で、日本リハビリテーション工学協会の出展社セミナーで「床ずれ予防」をテーマにセミナーを行いました。
 セミナーの内容で注目だったのが、床ずれは表皮の下から発生すると言われているが、もう少し深部の状況をエコーで観察する「褥瘡の種」という表現があり、褥瘡の早期発見と予防の解析を行われている和歌山県立和歌山医科大学リハビリテーション医学の田島文博先生のエコーを用いた検診方法には驚きました。エコーによる検診で「褥瘡の種」を発見できれば、車いすを使用する方にとって大変有効であると感じました。
 その他、これまでの指導方法で適切ではないと考えていることは、「プッシュアップしなさい」という指導のあり方です。身体(残存)機能や生活の中で実行するのは難しいので、これからは「時々、姿勢を前や横や後ろに変化させましょう!」という助言がありました。
 「リハビリテーション工学の観点から、生活を行う上で障害を有する人々に対し、その生活を豊かに実現するための工学的支援技術を発展・普及させるという目的があり、床ずれ予防を考えた場合も同様で、床ずれは身体の機能(循環器系、動き、知覚や痛覚など)や生活(生活動作、姿勢、栄養摂取と排泄など)などのバランスがくずれたとき、あるいは偏ったときに発生し易く、油断や注意不足で悪化していくものである。」には私自身、実感するところでした。
 床ずれ予防クッションやエアーマットには多くの種類がありますが、どれが自分に合っているか? 選択にもやはり専門家の助言は不可欠です。もちろん、ユーザー自身の知識も必要です。ユーザーそれぞれの適合がありますが、事例紹介や用具の活用を通して情報を共有するためにもう一度みなおしてみる良い機会になりました。参加された方、ありがとうございました。



 なお、平成21年の「第36回国際福祉機器展 H.C.R.2009」は、平成21年9月29日(火)〜10月1日(木)にかけて、東京ビッグサイトにて開催いたします。

日本リハビリテーション工学協会 麸澤 孝(「はがき通信」広報委員)



 腰折れ俳句(7) 


 八畳の斜めに白し初明り

 初夢の押して動かぬ富士の山

 おらが春箸が転んでも笑ふ

 息白しことばが人と人結ぶ

 寒鯉のひるがへる時空動く





 子どもたちが仕合わせであれば良い社会だとノーテンキに信じていて、Hibワクチンの接種を無料で行ってほしいものです。
 そこでまず、日本国憲法を読むのがぼくらの責任だと思います。 
 牛のつぶらな瞳、わすれがたし。

熊本県:K.S.



 ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の樹立に成功
—再生医療前進へ(その5)
 


 本連載前回(その4=112号)以来、だいぶ時間が空いてしまったので、まず昨年7月以降のiPS細胞をめぐる主な動きを整理しておきたい。

 ◇その後の動き—オールジャパン体制の展開 
 前号では、iPS細胞が、特定の疾患の治療にどのように役に立つのか具体的に明らかになるまでには時間がかかるであろうことを示唆した。昨年後半にはオールジャパン体制も整い、その解明のために一つ一つのパズルを解く作業が熾烈(しれつ)な競争のなかで本格的に始まった。新聞報道に拠りながら、主要なものを時系列で記しておこう。
 《2008年》
 [7月]
 ・京大と医薬基盤研究所が協力して「iPS幹細胞創薬基盤研究プロジェクト」設置。ヒトiPS細胞の実用化に向けた共同研究を開始する。
 [8月]
 ・米国ハーバード大学、ALS患者のiPS細胞を作成し、運動ニューロンに分化させることに成功。
 ・同、筋ジストロフィー、ハンチントン病、ALS、ダウン症、パーキンソン病、糖尿病など10種類の難病患者からとった細胞でiPS細胞を作成するのに成功。疾患特異性のiPS細胞株を世界各国の研究者に実費で提供し、病気の原因究明に役立てるようにする予定。
 ・京大、ヒト親知らずの幹細胞からiPS細胞作成に成功。
 ・NEDOプロジェクト(埼玉大、京大)、改良型アデノウィルスをベクターとして用い、ヒトES細胞での遺伝子発現を自由に操作する技術を開発。この技術によりES細胞からの各細胞への分化誘導が効率よく行うことが可能になると期待された。そこから得られる知見はiPS細胞にも応用可能。
 [9月]
 ・東大、iPS細胞を利用してマウスの体内で膵臓(すいぞう)を作成することに成功。
 ・京大、DNAのメチル化維持構造解明。この成果は細胞のiPS化の仕組みや細胞分化の理解、その人為的制御に役立つと考えられている。
 [10月]
 ・京大山中グループ、ウィルスをベクターとして使わずにiPS細胞を作成することに成功。癌遺伝子のc-Mycを使わずにiPS細胞を作成することには成功していたが、ベクターとしてレトロウィルスを使うことでなお発癌のリスクがあった。そこでマウス胎仔皮膚線維芽細胞にプラスミドDNAを用いて、Sox2、Oct3/4、Klf4の3遺伝子を導入してiPS細胞を作成。ウィルスを使わずに作成に成功したのは世界で初めて。発癌を避けるという意味での安全なiPS作成の標準化に一歩近づいた。ウィルスは長期保存ができないという扱いにくさも解決。ただ、効率はウィルス使用の場合の100分の1に低下。
 ・米国ハーバード大学、ヒト胎仔皮膚線維芽細胞にSox2、Oct4の2遺伝子のみ導入でiPS細胞作成に成功。この場合、バルブロ酸を加えている。Klf4は癌遺伝子ではないが、癌遺伝子の活性化を促進する発癌因子。これを除き、Klf4なしでもiPS細胞作成が可能なことを示した。ベクターとしてはレトロウィルスを使用している。
 ・厚労省、厚生科学審議会科学技術部会に「万能細胞(iPS細胞、ES細胞)を使った再生医療のルール(ガイドライン)作りのための専門委員会」の設置を報告。同省の事前審査を前提に臨床研究を認める方針だが、ガイドライン作りには1〜2年はかかると見ている。
 ・リプロセル社、フィーダーレス培地の開発に成功しリリース。霊長類、ヒトES/iPS細胞のフィーダー細胞を使わない安全な培養への道が広がる。
 [11月]
 ・米スクリプス研究所と独マックスプランク研究所の研究者、マウス胎仔皮膚線維芽細胞にOct4、Klf4の2遺伝子のみの導入でiPS細胞作成に成功。
 ・科学技術振興機構とカリフォルニア再生医療機構は幹細胞(iPS細胞)研究協力に関する覚書を締結。今後両機関は研究者の交流や共同研究を行っていく。京大iPS研究センター長山中教授の提案で実現したもの。速やかに実用化していくためには研究者間、国際間の協力が必要との観点から。
 ・政府の「先端医療特許検討委員会」が「先端医療において今後特許対象とすべき発明に関する調査」として該当事例を募集。iPS細胞の臨床応用を視野に入れたもの。わが国では医療行為に属するものは特許対象外とされてきたことを見直す。
 ・先端医療開発特区(スーパー特区)の採択先を発表。24件採択。その中に、iPS細胞関連として、京大の山中教授の「iPS細胞医療応用加速化プロジェクト−標準的ヒトiPS細胞の作成、疾患iPS細胞の作成、それを利用した創薬や細胞療法開発など」や医薬基礎研究所の「ヒトiPS細胞を用いた新規in vitro毒性評価系の構築−肝毒性、心毒性、神経毒性などの評価系を開発し毒性試験ガイドライン作成に生かす」が含まれている。また再生医療関連として、慶応大学の岡野教授の「中枢神経の再生医療のための先端医療開発プロジェクト−脊髄損傷と筋萎縮性側索硬化症に対する肝細胞増殖因子による治療の開発、脳梗塞に対する骨髄由来神経前駆細胞移植治療開発など」が採択されている。
 [12月]
 ・山中教授、首相と面会し、iPS細胞の早期実用化に向けて研究者と省庁の緊密な連携体制の必要性を訴える。
 ・京大、ES細胞を新たに2株樹立。これでわが国のES細胞は合計5株となる。
 ・京大、米ノボセル社とiPS細胞から膵臓細胞を作成する研究で協力することに合意。ノボセル社はヒトES細胞から膵臓細胞への分化誘導とカプセル化の技術を持つ。当面は基礎研究に限られる。
 ・文部科学省、iPS細胞のデータベース構築を来年度から着手することを決定。実用化の促進を図る。当面は国内で作成されたiPS細胞を対象とするが、いずれ海外の情報も盛り込んでいく。
 ・米国ウィスコンシン大学のJ.トムソン教授らが、遺伝性の重症型脊髄性筋萎縮症の男児の皮膚からiPS細胞を作成し、運動神経に分化させたあと、病気のため神経細胞が試験管内で死ぬのを再現するのに成功した。iPS細胞から症状の再現までできたのは世界初。病気の進行プロセスと原因解明に役立つと期待されている。
 《2009年》
 [1月]
 ・バイエル社が2007年6月15日付で出願していたiPS細胞特許の内容が12月25日に開示されたことが明らかになる。京大がヒトを含むすべての動物を対象としたのに対し、バイエル社はヒトに限定している。新生児の未熟な細胞を使い、京大と同じ4遺伝子の導入で作成する。癌遺伝子を除いた3遺伝子および3遺伝子と科学物質を併用する方法も申請している。使用する細胞が異なり遺伝子の組み合わせも異なる。特許が認められるかどうかは不明。
 ・慶応大学の岡野栄之教授らが、日本人の家族性パーキンソン病の60歳の患者の皮膚細胞からiPS細胞を作成することに成功。iPS細胞を神経細胞に分化させ、正常な細胞と比較しながら発症の仕組みを解明して治療法に結びつける。
 ・文科省、4月からiPS細胞研究に関連する特許取得支援を拡大することを決定。iPSを扱うすべての国内研究機関の内外での特許取得を支援し、国益を確保していくことを狙う。
 ・米国ネバダ癌研究所、マウスでiPS細胞を利用し血友病治療に成功。マウスの尾の皮膚細胞からiPS細胞を作成し、内皮細胞まで分化させて止血成分の分泌を確認、その細胞を血友病マウスの肝臓に注入して治療に成功。
 昨年初頭から国内外各大学、研究機関で、iPS細胞の作成技術や安全性評価技術の開発と並んで、iPS細胞からの赤血球、血小板、血漿(けっしょう)、血管、造血幹細胞、網膜、角膜、心筋、膵臓、肝臓、神経などの細胞への分化誘導の研究が一斉に始まった。培養液・培地の開発や創薬がらみでのベンチャーの動きに関する報道も増えた。この動きは、iPS研究が、治療法がなく、疾患動物モデルもない病気の原因と病態の進行の解明にまず照準を定めて動き出したことを示唆する。同時にすべてが始まったばかりであり、人の治療に何が可能となるかはこれからだということがわかる。多様な細胞における多様な細胞の個性を解明し、多様な細胞における個性的な遺伝子発現の仕組みを解明していくことになる。研究のプロセスで新たな発見や予想外の応用も生まれるかもしれない。しばらくは探索の星雲状態が続くであろう。ヒトiPS細胞を安全で効率的に作成し、iPS細胞からヒトの特定の細胞を標準的に作り出し、人への臨床応用に向けての結論が出るまで少なくとも数年〜10年はかかると見られている。再生医療は可能性の模索から、具体的に臨床試験を目指す段階へ一歩前進した。

 ◇iPS細胞と脊髄損傷の再生医療 
 山中教授が、iPS細胞樹立に関するプレスリリースの際、難病治療への応用例として脊髄損傷に触れたことから、神経再生による根本的な治療への道は近いと期待に胸を膨らませた脊髄損傷者も多かったと思う。
 現状を整理してみたい。
 iPS細胞を用いる脊髄損傷治療の研究は、京大山中チームの協力のもと慶応大学によって進められている。対象は急性期の患者である。損傷部位の細胞壊死によってグリア瘢痕(はんこん)と空隙(くうげき)が形成され固定すると、ニューロンの軸索がグリア瘢痕を超えて伸張して、全体的にシナプスを再構築することが困難になるからである。治療効果を確実にするためには、治療の時期は受傷後早期に限定されると考えられている。
 慶応大学の岡野栄之研究室は、脊髄損傷の治療法研究の実績を持ち、すでにES細胞を用いての脊髄損傷治療実験を行っていた。ES細胞から、ニューロンとグリア細胞(アストロサイトとオリゴデントロサイト)を作成し、マウスとサルの急性期脊髄損傷モデルに移植して有効性を確認している。この経験をベースに、マウスiPS細胞を用いてマウスでの同様の実験を行い、これも有効性と安全性を確認している。いずれの場合も受傷後9日以内の患者が対象である。
 慶応大学は、引き続いて、ヒトの脊髄損傷にES細胞を用いる臨床試験を企画していたが、結論は、恐らく、厚労省の2年後を目処にした「万能細胞の臨床研究ガイドライン」の策定を待つと思われる。また、米国では本年、ベンチャーによるES細胞を用いたヒトでの脊髄損傷治療臨床試験が始まる予定である。ヒトES細胞が樹立されてから20年、やっと1件目の脊髄損傷臨床試験である。遅れたのは「倫理的問題の社会的解決の困難」にばかりよるものではない。ES細胞の標準化、安全性の担保、ES細胞の培養から神経細胞への分化、移植後の免疫拒絶や癌化の管理までトータルなプロセスでのリスク管理とベネフィットの評価が困難な点もある。それを見極めつつiPS細胞研究の進捗(しんちょく)と調整を図る必要もあろう。
 慶応大学は「万能細胞」の実用化の道筋のほかに、脊髄損傷治療薬として軸索再生を促すセマフォリン3A阻害剤の開発を行う一方、肝細胞増殖因子(HGF)を損傷直後の脊髄損傷患者へ注入する臨床試験を行う計画も持つ。HGFは肝細胞から発見された細胞増殖因子で発生過程における器官の形成や器官・組織傷害後のその再生に重要な役割を果たす。炎症を押さえ内在的細胞修復力を促進する。近年、打つ手のない劇症肝炎、末梢性血管疾患、心筋疾患、腎炎などへの臨床応用が検討されてきた。大阪大学発の医薬品開発ベンチャーのクリングルファーマやアンジェスMGが手がける。昨年3月、アンジェスMG社がHGFの末梢性血管疾患への適用で認可申請(第一三共製薬から販売)を行っている。岡野研究室は、このHGFに注目し、損傷直後に注入することにより、損傷髄節での神経保護作用と神経の自己修復を促進して麻痺を回避ないし大幅に抑制できると期待した。クリングルファーマと組み、サルで実験して期待通り運動麻痺を治療し得たと報告している。「スーパー特区」に採択されたのはこのHGFの臨床応用を目指すプロジェクトである。また、セマフォリン3A阻害剤も販売元の大日本住友製薬の案件として採択されている。
 iPS細胞は、今のところ将来の治療法の選択肢の可能性に過ぎない。ただ、難病治療法の臨床試験の条件を緩和し実用化を推進するインパクトになったことは間違いない。
 恐らく、これを契機に急性期の脊髄損傷への臨床試験は取り組みやすくなり、件数も増えるかもしれない。
ただ、受傷直後、急性期の臨床試験であることの問題点もある。
 ⅰ.残存機能が確定していない急性期に治療した場合の機能回復の判定基準は検討されつくされてはいない。治療の有効性を判定する尺度が確立していないともいえる。リハビリによっては、治療しなかった場合と同等の機能回復を達成する場合もあるからだ。
 ⅱ.有害事象や合併症のリスクについての情報開示は十分とはいいがたい。
 ⅲ.患者個人の立場からすると、急性期には脊髄損傷に関する情報をほとんど持たず、インフォームド・コンセントのための判断基準を持ち得ない。急性期の臨床試験のインフォームド・コンセントの実質をどのように担保するか、倫理的規範が必要ではないか?
 治療の有効性の根拠と安全性を科学的に担保する臨床試験体制が整えられねばならない。
 急性期の治療法は将来受傷するであろう人のための治療法である。一方、再生医療に強く関心を抱くのは慢性期の患者である。自らの複合的な麻痺症状のどれか一つでもなくなるか軽減されればと常に願っている。
 だが事は単純ではない。再生医療の慢性期適用には急性期とは異なった戦略が必要となる。
 ⅰ.グリア瘢痕を解消する治療に伴う新たなリスクも考慮されねばならない。
 ⅱ.麻痺の期間が長期にわたっていることからくる身体のさまざまな面での廃用性症候群の進行を前提にした精緻(せいち)なリハビリプログラムが必須である。リハビリの効果と区別される治療法の有効性の判断基準も含む。
 ⅲ.長期にわたる麻痺は、多かれ少なかれ、廃用性症候群としての筋萎縮、骨粗鬆(こつそしょう)、関節の拘縮(こうしゅく)や固縮、過用に伴う筋筋膜炎、自律神経末梢受容器のトラブル等々を引き起こしているはずである。もし、特定の髄節での神経再生が生じたとき、新たな運動ニューロン軸索がこれらの組織と連結した場合、予期せぬ痙性(けいせい)や痙攣(けいれん)がおきないだろうか? また新たな感覚ニューロンの軸索がこれらの組織を掠(かす)めた場合、予期せぬ炎症性急性期痛、筋筋膜痛、新たな神経因性疼痛、アロディニア、カウザルギーなどの嵐が襲わないだろうか?
   再生髄節内でのニューロン、グリア細胞、自律神経ニューロンのバランスは取れているだろうか。仮に側角における自律神経が再生しても、交感神経幹が壊れているはずであり、末梢自律神経受け皿も不具合になっているはずである。自律神経のシナプス連絡はうまくいくだろうか。これらをめぐるトラブルは、おそらくかなりの程度必然である。望む機能のみ過不足なく再生させるのは無理であろう。
   現在の再生医療は運動機能にのみ焦点が当てられている。確かに、運動機能が少し改善するだけでも多くのことが耐えられるようになるかもしれない。すべて起きて見なければわからない。何に耐え、何を受容するかは、新たな課題となる。生命現象を欲望のままに完全に再現できることはない。
   この問題は、恐らく脊髄再生医療の根本的な問題を示唆している。
   慢性期の脊髄損傷者にとって、今をよりよく生き抜くことが先にあり、医学にどこまで期待するかを冷静に考えねばならない時もある。
 iPS細胞の樹立は、オーダーメードの細胞や組織を得ることによって、難病を個々人レベルで解決できればという古くて新しい夢に火を付けた。そして専門家でない者にも遺伝子レベル、細胞レベルで命を考える契機となった。恐らく再生医療は、まず、大きく命には係わらないところ、生命現象の全身的な連関には係わらないところ、単純な部品交換のアナロジーで語れるところから実用化が試されるであろう。例えば、命には係わらないが、高額な金額を平然と請求できる美容形成などである。あるいは命に係わるが核のない細胞の赤血球や血小板も考えられる「部品」であろう。研究が進むプロセスで新たな発見や予期せぬ応用も生まれるかもしれない。次第にiPS細胞医療の具体的な姿が絞られてくるであろう。完璧なオーダーメードは、基礎的な個別の知見の限りないほどの積み上げがあって可能となる。それが脊髄損傷治療に可能かどうか、答えはまだない。(了)

東京都:A.Y.



 一五一会(いちごいちえ)「オンリーワンズ」 


 一五一会とはまずはじめに、指一本で弾き語りができる楽器(ギター)です。その秘密は、指一本で簡単にコードが押さえられるようになっていること。複雑なコードの押さえ方を憶える必要はありません。そのため、お年寄りや楽器に触ったことのない人にも気軽に挑戦できる楽器です。
 一五一会には、ベーシック、音来(ニライ)、奏生(カナイ)の3種類があります。私たち、オンリーワンズは、音来(ニライ)を使っています。
 私がこの一五一会の「オンリーワンズ」のメンバーに入れて貰ったのは、皆から大分後でした。一五一会の出会いは、皆が演奏している姿をみたのが始まりでした。
 仕事では、一五一会という楽器があるのは知っていたものの、身体の不自由な身体になった私が楽器を触ることは諦めていたので、知っていたものの無関心でしたが、ふとしたきっかけで、このオンリーワンズに参加させて貰いました。
 この一五一会という楽器に触れたとき、ほとんど指の握力がない私がただ、触れただけで、綺麗な音が奏でられたことに感動しました。このメンバーに入ったとき、私が一番障害のレベルが重く戸惑いもありました。足手まといにならないかとか。しかし、皆、快く受け入れてくれました。障害的には、頸椎損傷、脊髄損傷、脳性麻痺というメンバーです。
 私は手の動きがあまりないので、1つのパートだけの担当です。練習は週1回のペースで行われます。普段あまり同じ障害を持つ人とは会わないので、練習で皆と会い、練習の後の皆との雑談&軽い食事会は、練習の疲れも忘れるくらい楽しい時間なんです。笑いが絶えない場です。
 また、このオンリーワンズで、何度か演奏会もしています。アクティブGという施設や、ふれあい会館という施設などで演奏しました。昨年の9月には、可児創造文化センターで演奏させていただきました。






 演奏会といえば、私がこオンリーワンズに入る前、皆が演奏していた姿に感動したことが思い出されます。会場で演奏を聴いている人たちも、演奏している姿に感動されていて。会場の皆の心が1つになって、演奏する姿に皆が聴き入っていたことが頭の脳裏から離れません。
 一五一会という楽器は、私の障害があるものばかりで演奏するとなると、皆でそれぞれ各1つのパートを担当して演奏する形で、1人が欠けても演奏は成立しません。なので、皆で演奏をし終えた後の達成感は格別です。
 怪我をして、障害を負い、もう楽器を触ることがないと思っていた私にこの一五一会という楽器は、私に楽器を演奏することの楽しさを思い出させてくれました。
 今は、今年5月に開催される全国頸髄損傷者連絡会総会・岐阜大会でオンリーワンズの演奏をするので、それに向けて頑張っています。皆様のご参加とお会いできますことを楽しみに、全国頸髄損傷者連絡会総会・岐阜大会でお待ちしています。



一五一会は、沖縄県出身のバンドBEGINが考案、ギターメーカーであるヤイリギターと共同開発をした4弦ギター。ギターと三線の長所を併せ持ち、ギターの音色を三線の手軽さで指一本でコードを押さえられる。名前の由来は、弦の調弦が1度と5度で構成されていることから「一期一会」と掛けたもの。
 幅広い年齢層に対応し、価格を抑えた音来(ニライ)と奏生(カナイ)も発表された。音来と奏生の名前は、昔から沖縄に伝わる“ニライカナイ”という言葉に由来している。



 

オンリーワンズ



 私らしく生きたい! 穏やかに生きたい! 


 人生泣き笑いの50年、気がつけば、世の中はすっかり変わっていた。でも、人の心は変わる訳がない。昔ながらの自分でいたい。私らしく生きたい!
 「諦めることに慣れて、我慢することが楽になり、そして、人間の尊厳を堅持する戦いが始まる。」先輩の言葉である。私自身でもある。たぶん、障害のある無しにかかわらず、誰でもが同じなのかも知れない。私は周囲のなにものとも、戦って、争って生きる生き方はできない。戦うのは自分、自分との戦いである。
 私らしく生きる。この“私らしく”を貫きたい。人の心を大切にしたい。「ありがとう」と言える自分であり続けたい。誠実な自分でありたい。“結い”の中で生まれ育った田舎者の私はこんな人間である。ちょうど自立決行3年後、制度変わりの激流の中で私が送った「リヤカーサンタ達への応援メッセージ」、私はこの時のまま、変わらない。(※リヤカーサンタ=クリスマスイブにリヤカーを引きながら一晩かけて募金活動をする心温かなサンタさん達。ラジオ福島のチャリティミュージックソンの主役?)
 『リヤカーサンタ達への応援メッセージ』2006.12.24 
 私は頸損四肢麻痺の重度障害者です。ちょうどこの「チャリティミュージックソン」スタートから5年後の昭和57年5月に受傷、以来、知らず知らずにラジオもテレビも全く無縁のものになりました。生きるに特別必要なものではなかったからだと思います。全てにゆとりがなかったからかも知れません。気がつけば、静寂の中に埋もれていることが一番心地良い自分になっておりました。
 そんな私とリヤカーサンタとの出会いは4年前の12月、私が命がけで踏み出した自立への第一歩、この地元での新たな礎づくりに必死にもがいていた時でした。振り返れば、その時すでに私は幸運の糸をつかんでいたように思います。
 その糸に導かれて、ふと目をあけてみたら……
 「頑張れ頑張れ、一人じゃないぞ!」
 「頑張れ頑張れ、仲間じゃないか!」
 「頑張れ頑張れ、応援するぞ!」
 そこにはそんな温かい目を向けてくれる人達が、嬉しくて嬉しくて周囲を見回してみたら、
 「泣きたい時は一緒に泣くよ!」
 「苦しい時は一緒に苦しむよ! みんなで分ければほんのちょっと……」
 「楽しい時にもみーんな一緒! 楽しみがどんどん増えるから、笑顔がどんどん広がるから……」
 そんなやさしい心が、やさしさの輪が、「こんなに温かい人達がこんなにたくさん、福島県てなんていい故郷なんだろう。無理かと思いながらの自立決行だけど、私は生きられる、ここで生きられるような気がする。」
 無我夢中の張り詰めた思いの中で私はそう確信しました。理由も理屈もなにもなく。1年間がんばろう、自分で選んだ人生だから、私自身の人生だから、精一杯がんばってみよう……それからもう3年目、あっちにぶつかりこっちにぶつかりたんこぶだらけ、もう疲れた、終わりにしたい。そんな弱虫の私にリヤカーサンタ仲間はいつも勇気をくれる。寒さに震えながらも元気をくれる。私の“命がけ”はまだまだ中途半端だと気付く。
 現実はきれいごとだけでは生きられない。でも、きれいごとを口にしたい。現実は絵に描いたぼた餅のよう。でも、それでも嬉しい。ただ、絵に描いたぼた餅では遠からず飢え死にしてしまう。それを美味しく食べられるようにしたい。みんなで美味しく食べたい。がんばろう。
 仲間がいるから頑張れる。みんなの笑顔で生きられる。自分らしく生きられる。リヤカーサンタはいつも私にそんな力をくださいます。やさしい気持ちにしてくれます。一人の人間として、自分らしく生きていいんだよと。今はただ、ありがとうの気持ちだけを伝えたい。一人ひとりに伝えたい。それだけです。
 今思えば、これは自分への応援メッセージだったのだろう。私らしく生きたい! 穏やかに生きたい! 自分に誇れる自分の人生を、自分らしい人生を、一歩一歩、築き続けたい。私の心の片隅にいつもあるこの詩が、私の応援メッセージなのかも知れない。

 『道程』
 僕の前に道はない
 僕の後ろに道は出来る
 ああ自然よ父よ
 僕を一人立ちさせた広大な父よ
 僕から目を離さないで守る事をせよ
 常に父の気魄を僕に充たせよ
 この遠い道程のため
 この遠い道程のため
 ( 高村光太郎)


 追記:
 障害者自立支援法施行後3年目の新たな年の幕開けを機に、変わらない自分と変わりゆこうとする自分に新たな喝を入れ、新たに気合いを入れて、またまた介助体制づくりからスタート。
 最後に、これまでもこれからも、私の第一歩を築いてきてくれた私の相棒、老化・退化・痛み・痺れ日々増進にも負けずに頑張ってくれている私の愛しい手、かろうじて肘(ひじ)を曲げることができる腕をご紹介します。

 『私の手①』
 かろうじて腕を曲げることができますが、伸ばすことができず“くの字”に固まりつつあります。
 とてもごっつくて大きい手で、親指は突っ張ってますが、その他の指はどんどん丸まって固まりつつあります。
 



 『私の手②③』
 新しくなった補装具。できるだけ軽い素材で、中指のみ固定するためのアルミ棒をしっかりと2箇所止めてもらいました。
 中指とアルミ棒は百円ショップのゴムサックで合体します。かなり指が痛いけど、この2本指はとても優秀です。我が手に「頑張ってくれよ!」





 

福島県:T.S.

このページの先頭へもどる  次ページへ進む



HOME ホームページ MAIL ご意見ご要望