はがき通信ホームページへもどる No.113 2008.9.25.
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 炎のカラオケ! 魂で歌う! 


 百聞は一見にしかず。本当に皆さんに一度見ていただきたい。兵庫県在住(頸損歴17年)のH.M.さん、C4レベル。タイトルは、ご本人につけていただいた。何とも心熱い関西人の彼らしい! 写真のようにMさんは、チンコトローラーを横にどけて前のめりのポーズでカラオケを絶唱する。





 まさに、それは“絶唱”と呼ぶにふさわしい。とてもC4とは思えない。これを目の当たりにした瞬間、目がテンになった。「C4レベルでどうしてあの姿勢でとまっていられるねん!(なぜか関西弁になる)」前のめりになることで腹圧がかかるので、声量が出しやすくなるのはわかる。ご本人にお聞きしてみると、車いす上での“排痰”のための前のめり姿勢がキッカケで自然とカラオケでもやるようになったポーズとのこと。肺活量は、測ったことがないので不明だそうだ。この前のめりポーズは電動車いすのシーティング、両手のクロス、つっかえ棒の役目をしている頸損腹などが複合して成り立って(?)いる。
 カラオケ3時間で20曲歌ったこともあるとかで、酸欠で死にかけそうになりながらも彼は命の炎を燃やして——ちょっと大げさか(笑)——カラオケを歌って楽しみ、それは人生を自分らしくめいっぱい楽しんで生きようとしている彼そのものの姿と重なる。その底抜けに明るいパワーとエネルギーは、きっと歌声とともに聴く者の“魂”に届くに違いない。
 オット、ひとつ聞き忘れたことが……。将来出会うであろう“大切な人”のために熱唱したい、心に秘めたとっておきの1曲があるそうだ。その曲が何なのか……今度お会いするチャンスがあったら、問い詰めるゾ〜!

 
編集委員:瀬出井 弘美


 ALS者で人工呼吸器使用の綾子さん、ギネスブック登録に挑戦 


 現在84歳の綾子さん、ALSによる呼吸筋麻痺で人工呼吸器使用の生活20数年、暮らしの発明家、国立看護大学校の特別講師、かつ卒業研究の協力者です。看護大での特別講義は、別名「文字盤教室」、綾子さんが製品化した透明の文字盤を媒体とする意思疎通の特訓教室です(国立看護大・俵真紀准教授主催の教室も今年で5年目、残念ながら今年、私は参加できませんでしたが、近く、その成果が公表されるとのことです)。
 綾子さんが来校される日、俵先生の要請で学生は最高のおしゃれで出席します。綾子さんもおしゃれな小さな帽子から薄紫の前髪がのぞく、ハイセンスな色彩の装いでの登場です。彼女の夜間介助に入っている上級生も講師控室に挨拶にやってきます。最初、20歳そこそこの学生が80歳を超える方を「綾子さん」と呼んでいるのにビックリしましたが、いつの間にか私も自然に「綾子さん」とお呼びするようになっていました。不思議なことに「綾子さん」と呼ぶことで昔からの親しい友達のような関係になっているようです。
 綾子さんは現在、都内のご自宅で24時間ケア体制の生活です。介助体制のキーパーソンは同居の長女・直子さん、それにもう一人主力となる介助者のKさんがいます。お二人は文字盤で綾子さんとの会話が非常にスムーズです。夜間と土日の介助は学生、国立看護大の学生も毎年数名が綾子さんの介助者となっています。綾子さんは当初、男子学生の介助に積極的でなかったそうですが、最近は元消防士さん含め男性介助者が5人になり、綾子さんは彼らを大当たり、イキが良いと絶賛中とのことです。
 今回いただいたメールの目的は「ギネスブックに登録を検討中だが、可能性はどうか」との問い合わせでした。綾子さんにはこれまでもたびたび度肝を抜かれるような積極性でしたが、ギネスブック登録をめざしているとは想像もできませんでした。人工呼吸器使用の最長期間での登録となると、バンクーバのジャネットさんが上手です。恐らく彼女は気管切開による人工呼吸器使用歴50年近くになっているかもしれません。ジャネットさんはハイセンスでお友達も多く、生活をとても楽しまれている方ですが、綾子さんも相撲が好きで国技館に観戦に行かれたり、歌舞伎や音楽会に行かれたり、ジャネットさんに劣らずハイセンスで生活を楽しまれています。
 昨年の夏、綾子さんは横浜のホテルで数日過ごされました。かつての介助者だった現職のナースや子育て中の専業主婦もホテルに駆け付け、綾子さんとの交流を楽しまれたそうです。私の卒研指導の学生も介助者としてホテルで過ごしていました。そこになんと、来日中のサッカー選手一行がワンフロアー貸し切りで宿泊していたそうです。ホテルの周辺はファンでいっぱいだったとか。その中にかの有名なロナウジーニョがいて、学生は彼に「83歳のALS者があなたに会いたがっている。寝たきりで移動できないので、部屋まできてほしい」と英語で直談判、お年寄りを大事にするお国出身の彼は「OK」と綾子さんの部屋まで来てくれました。その時の証拠写真、綾子さんを“だし?”に彼とほぼツーショットで撮った写真を嬉しそうに「先生にもあげる」と私の研究室に置いていきました。その写真は今年3月退職まで私の研究室に飾っておきました。研究室を訪れる人の中には目ざとくその写真をみつけ、「信じられない」と眺めていきました。中には「自分にもプリントしてほしい」と学生に無心のメールを送る教官もいました。
 ちなみに学生の卒研は「学生時代における在宅ALS者の介助経験が卒後ナースの職業経験に及ぼす影響」といった内容でした。けい損者やALS者の介助は看護学生にとってたいへん貴重な経験になると私は機会あるごとに学生に勧めていますが、きつい仕事のせいかアルバイト募集しても学生はなかなか応募してきません。とくにALS者の介助はコミュニケーションに習熟するまでがとても辛く、中には1日で音をあげてしまう学生もいます。長期間継続できた学生は卒業後、病棟ナースの仕事、とくにコミュニケーションの困難な患者さんや夜勤勤務に介助経験を活かせているとの傾向が学生の調査結果で示されました。この研究も綾子さんと直子さんが研究協力者となってくれたからこそまとめることができました。学生を通じて私も綾子さんたちと親しく交流を積み重ね、ALS者の生活についても多くのことを学ぶことができました。
 ところで綾子さんのギネスブック登録の件は、人工呼吸器使用期間では無理のようですが、最長年齢者での登録なら可能性が出てくるのではとメールで交信していたころ、新聞に米国で82歳のALS者から万能細胞の作製に成功とのニュースが報道されました。そのニュースは綾子さんもご存じで、ご自分も医学の進歩で治るつもりになっているとの返信が届きました。
 現在、私たちは障害の有無に係らず、80歳を超える人生にあまり明るい期待を持てずに漠然とした不安を感じつつ生活しがちです。とくに運動麻痺が進行するALSでは“Totally Locked-in State”(TLS 全随意筋麻痺状態)への進行に恐怖感を感じるのではないかと推察しますが、綾子さんのように80半ばになりながら、常に新たな目標と楽しみを見出す生き方は、私もたいへん勇気づけられています。
 なお、綾子さんの暮らしの発明品は http://www.fusabi.com/ayako で見ることができます。「おひざもと」、「カサブランカ」、「クスリ!クスリ!」などいかにもハイセンスの綾子さんらしい製品名がつけられています。今でもつぎつぎとアイディアが浮かんでくるとのことです。なにしろALS者となって22年間に暮らしの発明展で20の特賞を受賞されているのですから、超高齢者となってもボケている暇など綾子さんにはないようです。
 

編集顧問:松井 和子



 住み慣れたふるさとで自立して生きる 


 111号で“たんこぶ”だらけの「自立生活」奮闘記を投稿してくださった、福島のT.S.さん。
 最初は、頸損仲間の有志で「Sさんのところに遊びに行こう、激励に行こう」という程度の気軽な(?)計画から始まった。それが全国から90人(シンポジウム参加者:新聞記事発表)もの参加者となる(ボランティア・スタッフを含めるとそれ以上の人数)、「福島頸損友の会」の発足・お披露目も兼ねたイベントへと発展した。
 全国頸髄損傷者連絡会には東北に支部がない。「はがき通信」の購読者の方もなぜか東北地方は少ない。福島県内初、もしかしたら東北地方初となる頸損者の全国的な“交流のつどい”が去る7月19・20日と行われた。私も参加させていただいた。このような感動的な場に立ち会えたことに感謝申し上げたい。
 まずは、2ヶ月後に“交流のつどい”を控えた今年5月、大阪で開催された全国頸髄損傷者連絡会の総会時の「報告」を、Sさんのご了解を得て掲載させていただいた。
 ただの報告ではなく、Sさんの福島県南の現状を知ってもらいたい、交流会を開きたいという切なる思い、情熱がしっかりこもっていたからこそ、「孤独に闘う彼女を応援しなくては」と多くの仲間と協力してくださった人たちの心を動かしたのだろう。
 「今だからあかせる面白い(?)泣き笑い裏話、いーっぱいあります。涙なくして語れない、皆さんには顎がはずれるくらい笑われそうです。」があるそうだ。また追い追い、その“泣き笑い裏話”を「はがき通信」にも是非書いていただきたいと思う。

編集委員:瀬出井 弘美



 福島のSです。支援費制度スタートを機に地元で自立を決意し、その体制づくりの途中、四苦八苦のあげくに生きる糧となる何かを求めて、すがるように参加させていただいた5年前の「頸損連全国総会・大阪大会」、私にとっては、頸損連との初めての出会いになります。
 その年の11月に家族の元から離れ、一人世帯となりました。その時が新たな人生の日の出だったのでしょうか、ふり返れば、延々と孤軍奮闘中だったように思います。
 私の地元、福島県南で「重度障害者の自立」を決行したのは未だに私一人、地域で重度障害者に出会うことはありません。車椅子の人を見かけることもほとんどありません。重度障害者が意志を持ち、もの言うなどもってのほか、高飛車にはね除けられます。
 「障害当事者の自己選択・自己決定・自己責任」「私たち抜きに私たちのことを決めないで!」という言葉の意味を理解してはもらえません。障害者は施設か家族の庇護(ひご)のもとに生きるのが当たり前、そんな意識がまだまだ根強く、障害者が主体性を持ち得ない、存在し得ない、悲しい、苦しい地域性、意識のバリアがあります。昔から、村のはずれ、山際に、大きな施設があるからなのかも知れません。
 地域移行でその施設を飛び出し、自立の第一歩を踏み出した頸損の方々はおりますが、この地から離れていきます。決して、この県南の地、地元で生きることは考えません。県北・県中いわき方面、「自立生活センター」のある、遠くに去って行きます。でも、どの地へでも、施設からどんどん飛び出して、自分の人生を自分らしく生きて欲しいと心から思います。その一人ひとりが、間違いなく、共に地域で生きる同志ですから。
 福島県には、現時点で「地域活動支援センター」はありません。6つの「自立生活センター」が、それぞれの地域で、その役割を果たしているそうです。私の住む県南にはその「自立生活センター」もありません。ただ、「プロジェクトピア白河」という「自立生活センター」が1年間だけ存在したという実績があります。この私も、名ばかりですが、少しだけかかわっていたものです。どこでも同じなのでしょうが、広い福島県の中にも、さまざまな地域性があり、大きな地域格差があるということを、今回、改めて実感いたしました。
 県南でたった一人の "地域で自立" の障害当事者として制度変わりの激動期を迎え、その渦中に事業所の突然の障害サービス撤退、突然ヘルパーが消えるという大異変が……コムスン撤退の話題が全国で飛び交っていた最中、ちょうど昨年9月のことです。コムスン撤退との違いは、行政も事業所もたった一言の断言だけで完全無視、地域の誰もがわからない、気付かない、それだけです。
 それからは同じ村に住む家族に支えられながら、共倒れ寸前の中をなんとか生き延びてきた、生きられる一日一日をつくってきた、同時に、必死に介助体制づくりをと藻掻きながら、自薦登録ヘルパーを募集、少しずつ少しずつ生きる希望が見えてきた、そんな現状におります。それでもまだまだ、家族、主に老母の支えをメインに、1民間事業所と自薦登録ヘルパー(自薦登録ヘルパー:自分で確保した介助者を自分専用に制度上のヘルパーとして登録して利用できるシステム)のサポートにて、今もなお、「生きる道」を模索中です。
 「自分の人生を自分らしく生きたい!」その思いは5年前の自分と全く変わらぬ今の私ですが、井の中のかわずが少しだけ気付いたこと、救いばかり求めてきたわが身の弱さ、愚かさと共に、私がこの故郷で必死に生きようと藻掻き続けてきたこれまでの道は、ここにいらっしゃる誰もが、過去にくぐり抜けてきた道、私よりもどれほど苦しい茨の道であったことか、私にはその指針が、指標がある、道しるべがある、一人じゃない、仲間がいる、孤立奮闘ではなく、まさに孤軍奮闘である、そんな感動と感謝で胸いっぱいにして、今、この場におります。



 <シンポジウムの様子:「福島頸損友の会」ホームページより>


 実は、2ヶ月後の7月19日土曜日、ここにいらっしゃる頼もしき援軍の力を借りて、孤軍奮闘中の私の生きる福島県南で交流会を企画、進めております。実行委員は福島県内の数人の頸損仲間、そして協力団体。地域性にぴったりのテーマを考えました。たぶん、誰もが目を惹かれる、少なからず地域の意識も変わるであろうイベントになると思います。
 すでに、協力者、賛同者、協賛も増えつつあり、ポスターだけではなく、パンフレットも作って大々的に、というところまで盛り上がっております。当初予定していた "集会" という小さなものではなく "シンポジウム" のような形で、お話しくださる一人ひとりの自己紹介も含めて具体的な内容を入れたパンフレットを早急に作ろうというところまで進んでおります。動き出しております。
 今回、そのご報告も兼ねて、「私の生きる今」、現状報告とさせていただきました。初めて務める実行委員長として、「福島頸損友の会」の確たる成長を期して、明日につながる、生きたイベントにしたいと思っております。

 (2008年度全国頸髄損傷者連絡会総会・大阪大会 特別報告『地域で自立して暮らしたい〜高位頸髄損傷者の生きる道』より)

 「福島頸損友の会」ホームページ
    http://keitomo.eeejp.com/

福島県:T.S.

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