はがき通信ホームページへもどる No.110 2008.3.25.
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<特集!「頸損と合併症」>

 日頃から細心の注意を払っていても、またはちょっとの体調変化や過信や油断で、頸損歴が長くなるにしたがい、脊髄損傷にともなう疾病を併発する現状があります。健康管理の情報交換のために体験談のご投稿を104号の特集「頸損と合併症」に引き続きご紹介させていただきます。


 <特集> 初めての膀胱結石経験 


 一昨年の「初めての骨折経験」に続く“初めてシリーズ”第2弾!? タイトルが平凡だが、まっ、いいか。 
 昨年の11月、地元の泌尿器科の主治医のクリニックで年に1度の腎臓・膀胱の定期検査を受けるために受診。例年通り(?)「特に異常なし」と言われるものと検査後に診察室に入ると、「瀬出井さん、石だよ」「はぁ?」主治医の視線の先のレントゲン写真に目をやると、素人目にもわかる結石の影が……それも2個あり、けっこう大きいような……。
 「先生、けっこう大きくないですか?」「ちょっと測るから……そうだねぇ、2.4cm×1.8cm、2cm×1.3cmくらいかなぁ」そう言ってから、先生は前年のレントゲン写真を取り出して並べた。そしてカルテをめくり、「あっ、カルテに『石かな』って書いてあるよ」どうやら、小さな結石の影が充満したガスの泡のような影でよくわからなかったらしい。それが約1年後に大きく育ってしまったのだ。しかし『石かな』と思ったのなら、1年前に「石かもしれない」とひと言伝えてほしかった。そうすれば、半年に1度とか検査をしてフォローもできたのに……後の祭りだ。
 自覚症状はなし。血尿でも出ればわかるが……。受傷して約18年4ヶ月……初めての膀胱結石。尿路感染予防のためにクランベリーのサプリメントを数年前から摂取しているが、結石には効果がなかったということか?
 クリニックは個人医なので摘出の手術はできない。どこの病院にしようかと思ったが、やはり、受傷時にリハビリを受けた脊髄損傷の専門医のいるKリハビリ病院の泌尿器科への受診を決めた。最初は「すぐに取らなくても」という主治医の言葉もあり、年明けにでもと考えたのだが、とりあえず1度受診だけでもしておこうとすぐに紹介状を書いてもらった。Kリハビリ病院の泌尿器科を受診したのは11月14日。この日は数字のゴロ合わせで『いい石の日』。『いい石の日』に膀胱結石の受診だなんて、何だか思わず笑っちゃうお話。
 Kリハビリ病院の泌尿器科のドクターは持参したレントゲン写真を見ながら、「けっこう大きいね。内視鏡でいけると思うけど」どうも結石の直径が4cmというのがひとつの目安らしい。私の場合石が2個あり、その直径の合計が4cm弱ある。内視鏡で取れるギリギリくらい大きいということのようだ。内視鏡で摘出できないとどうなるか……開腹手術になってしまうというのである。そうなると、3週間は入院しなくてはならないとのこと。手術は年明けとのん気に思っていたが、今でも開腹になる可能性が10〜20%あり、このまま年明けまで待っていて大きくなってしまったら(脊髄損傷者の場合、短期間で急激に大きくなることがある)、開腹手術になってしまう確率がさらに高くなってしまう。
 ドクターが年内の手術を勧めるので急きょ、11月26日に手術となった。ベッド確保のため20日から入院。地元の泌尿器科の主治医も優秀な医師と思うが、障害的に結石のできやすい脊損患者への認識はやはり甘い。
 Kリハビリ病院泌尿器科ドクターのデータによると、脊損者は10年を超えると4割方膀胱結石ができるそうで、(カテーテルを入れていると余計でしょうね)検査は半年に一度したほうがよいとのこと。膀胱洗浄を毎日行っている場合と週1回行っている場合とでは、2割ほど毎日行っているほうが結石ができにくいというお話もされていた(ちなみに私は週2回)。
 よく膀胱結石というと“破砕”とか“粉砕”という話を聞くが、実際どのような手術をするのか全く知識がなかった。私が受けた手術は、「内視鏡による経尿道的膀胱結石摘出術」という。説明文には、「原則として、尿道からの内視鏡操作のみで結石を摘出します。ごく小さい結石はそのままつまみ出すこともできますが、ほとんどの結石は内視鏡装置を用いて膀胱内で細かく結石を砕き、これを洗い出すようにして摘出します。手術に要する時間は、結石の大きさ、数、硬さによって異なります。」と書いてある。また、腎・尿管結石の治療に汎用されている体外衝撃波治療装置は、結石が動きやすいため膀胱結石の治療には不向きだそうだ。
 さて、手術当日、開腹手術にならないことを祈りながら手術室に入る。麻酔は腰椎麻酔。腰椎麻酔が膀胱の動きを止めるのに一番適しているらしい。内視鏡装置が尿道から挿入されて手術開始。膀胱瘻(ぼうこうろう)からカテーテルは抜かれている。そこに何か棒状のモノが差し込まれている。
 右横にモニターがあり、目の前に膀胱内に溜められた水の中に浮くたまご大に拡大された結石が映し出される。その大きさに内心思わず、わぉ〜! 内視鏡を操作する先生が2名に、モニターを見ながら指示を出す先生が1名。「これ毛だよ」とモニターを指差す。結石の表面に太い針大の黒い毛がへばりついている。ゲッ! 
 先の丸く尖った金属の棒のようなモノが結石を叩く。「道路工事と同じだよ」と先生が言われるように、ダダダダッ、ダダダダッという音といい、まさに道路工事で使われる掘削機と同じだ。そのうちUFOキャッチャーのような鉗子(かんし)が現れて、フワフワと漂って逃げようとする結石を捕まえようとするが、これがなかなかうまくいかない。先生曰く「 UFOキャッチャーより難しいんだよ」だそうだ。砕かれてゆく石は、まるで何層にも重なりあったたまごのカラが剥がされてゆくようだ。
 ずっと最後までモニターを見つめていた。無事終了したとき、モニターに手術室の様子と先生の姿が映った。コレッて尿道の穴から見えてるってこと? 何だか笑えた。麻酔の時間を含めて1時間半くらいかかっただろうか。開腹手術にならず、とにかくホッ! 内視鏡による手術の仕方がどこの病院も同じ方法なのかはよくわからないが、Kリハビリ病院ではこの手術法でやっているとのことだ。
 先生のお話では、結石が砂状でさほど硬くなかったのがよかったそうだ。結石ができた割には膀胱内がデコボコしておらずきれいで、手術中にあまり出血しなかったことも幸いした(出血が多いと視界不良となってしまうので)。
 Kリハビリ病院泌尿器科流、膀胱洗浄の仕方を教えていただいた。個々人の膀胱の状態にもよるが50ccくらいを一気に入れ、20〜30ccくらいをカシャカシャと素早く2〜3回引いたり入れたりしてから入れた量をまた一気に引いて出す。膀胱内の浮遊物などを勢いで舞い上がらせておいてから吸引するのだ。
 手術後の出血もあまりなく、発熱もせず、無事順調に快復して手術から5日目で外泊退院となった。結石は長い間放置するとしばしば強い血尿をもたらしたり、尿路感染症を頻発する原因になるそうだ。結石を取ってから、お小水は混濁なく明らかにきれいになったと感じている。初記念に(?)、採取された石はシャーレに入れてもらって持ち帰った。私も今度から、検査は半年に1度受けようと思っている。
 膀胱内がアルカリpH(ペーハー)に傾くと結石ができやすくなると言われるが、病棟では何と飲料水としてアルカリイオン水が汲めるようになっていた。我が家ではアルカリイオン水が生成できる浄水器を取り付けたが、わざわざ私のために使わずにいたというのに! 思わず目がテンになって看護師に聞いたところ、「科学的根拠はない」との返事が……。考えてみれば、褥瘡の治療法も私が受傷した頃とは180度くらい変わった。
 結石は成分が何であったかサンプルとして調べるとのことなので、今度の検査のとき先生に結石の成分が何であったか聞いてみようと思う。


編集委員:瀬出井 弘美



 新型ロボット・アームの展示説明会 


 神奈川リハビリテーション病院にて新型ロボット・アームの展示説明会が行われました。反響が大きく見に行きたいという人はたくさんいたのですが、何しろお知らせが急だったもので外出の調整が間に合わなかったという人が多く、会を代表して(?)近場に住むAとMがなんとか見学に駆け付けました。
 このロボット・アームはオランダのイグザクトダイナミクス社製『iARM(アイ・アーム)』という製品で、海外ではすでに10年以上の実績を持ち、500人以上のユーザーがいるそうです。今回のデモ機は1月から国内販売が始まった新型モデルではなく、1代前の旧モデルだそうです。最新の現行モデルはこれよりもう少しスリムでコンパクトになっている、とのことで……それを踏まえて写真を参考にしながら、下記の価格や数値は現行販売されている最新モデルについて教えてもらったものです。
 まずは収納時……ボタン操作ひとつでニョキニョキと器用にアームが折りたたまれて、この状態に収まります。予想以上にコンパクトに片付き、移乗の際にジャマになるなんてことはなさそうです。この状態だと、電動車椅子の幅から外に出るのは10cm弱。走行実験では通常の幅の自動ドア等を通り抜けるのには支障のない幅だったそうです。重量は11kg。電動車椅子の場合、直進性に若干影響が出ることが考えられます。両腕付ければ解決する?(笑) 車椅子への固定はもちろん頑丈に。さらに本人の許可があればフレームに直接溶接する方法も“有り”だそうです。リクライニングやティルトなどの動きのある電動車椅子でも、可動機能には干渉せずベースのフレームだけでしっかり固定できるとのこと。動力となる電源も電動車椅子のバッテリーから取れるそうで、しかも消費電力は予想以上に小さな様子。
 さて、いよいよ起動……グィ〜ンと伸びて“腕”になります。“手”の部分はいわゆるマジックハンド式で、2本の“指”で両側から挟んで物を掴みます。特筆すべき点は、どんなに複雑にアームを動かしても“手首”の部分が常に水平を保つように制御されていることです。中身をこぼしたりすることもなく、また余計な微調整に気を取られることなく物を掴んだり持ち上げたりすることができます。今回のコントローラーは通常仕様の16キーのボタン式でしたが、ジョイスティックや他のコントローラーとの組み合わせも自由だそうです。電動車椅子の場合、車椅子操作のコントローラー(チン・コントローラーやヘッド・コントローラーも含む)との共用も可能で、その場合は上下左右のアーム操作だけでなく、各種モード切替もレバー操作のみで可能(つまり切替用に別途スイッチは不要)だそうです。が……実際の使用状況を想定するとコントローラーは別系統にした方が理想的でしょうか。一番初めの写真(その①)で見ての通り、アームの届かない距離の物を取ろうとする際には車椅子を寄せる(写真では手で机を引き寄せています…(^^;)ことが考えられるわけで、そのつどアームと車椅子の両者をひとつのコントローラーで切り替えながら操作するというのは手間が掛かりそうです。



●車椅子を寄せています(写真上) 収納時(下)


 先ほど「常に水平を保つように制御されている」と書きましたが、当然それだけでは手の代わりとしての役割を充分に担うことができません。別のモードに切り替えると手首を徐々に傾けながら腕を上げていくといった複雑な動作、例えばグラスの飲み物を口に運ぶような動きも可能です。挟む部分に圧力センサーはないというので、慣れるまでは力加減に注意が必要かもしれませんが、さまざまな動作の組み合わせによって目的に応じた動きをしてくれます。
 さてさて、実用度については充分に“有り”な機器であると考えられますが、問題はそのお値段……本体及び操作や取り付けに必要なパーツ等々を含めると、総額200万円前後。2年前に国際福祉機器展で参考出展されていた頃には600万円越えと言っていたので、破格値のプライスダウンではあると思いますが…(^^;) 腕一本200万円と単純に割り切って買えるものかどうか、助成金制度も何もない現状では個人差のある悩みどころとなるでしょう……。



●起動、グィ〜ンと伸びて“腕”になります(上)
 グラスの飲み物を口に運ぶような動きも可能(下)


 さらに詳しくは、取扱店であるテクノツールさんまでお問い合わせ下さい。


 補足(Blogコメントから):車椅子に取り付けるよりもやや重たいけれど、ワンタッチで取り外しができるので遠隔操作式の自走型にした方が使い勝手も良さそうだし、コストダウンにもなりそうな!? ついでに赤外線学習機能を積んで、環境制御装置としても使えるようになれば「身障者アシスト・ロボット」な〜んて!

 補足情報:本体部分はワンタッチで取り外して、セットで付いているキャリングケースに収納し持ち運びが可能です。どのぐらいの重さまで掴めるかというと1.5kgまでだそうです。
 現在は福祉項目がなく、申請中だそうで3年ぐらいすれば補装具(or日常生活用具)の項目としておりるだろうということです。あくまで「だろう」です。

日本の窓口:テクノツール(株) 東京都稲城市東長沼2106-5マスヤビル4F
 電話:042-370-6377、FAX:042-370-6378
 HP:http://www.ttools.co.jp/
 HP:http://www.exactdynamics.com/ ※メーカーのHPでは動画が見られます。
(神奈川頸髄損傷者連絡会HPより転載) http://www.k-sonet.jp/top.html



<連載特集!「介護する側、される側」>


 手も足も使えないとはどういう心理状況なのか、人を介助するとはどういうことなのか、たいへんな介助を続けていられるのはなぜか、などなど、皆さんに共通するテーマである「介護する側、される側」の体験談を連載特集として引き続きご紹介いたします。


 <連載特集> 『小倉遊亀 天地の恵みに生きる』を読みました 


 副題は「百四歳の介護日誌」となっております。著者は日本画家の小倉遊亀さんの孫娘小倉寛子さんです。
 これは小倉遊亀さんて、どんな人? という読者の興味、関心の全てを満たすに充分とは言い難い本です。では小倉遊亀さんの何を描いている本なのでしょうか?
 97歳で子息の死という逆縁にあったことをきっかけにトン卜ントンと老いのいくつかの症状を現し、周囲の人々にショックを与えた小倉さん。それまでもお嫁さん(寛子さんの母)に「おかあちゃん」と呼びかけ、家事万端をまかせて小倉さんは画業にのみ専念する生活スタイルをとっておられたそうです。
 それが足腰の衰え、食欲減退、おムツの使用、画業への意欲減退等々の症状があらわれ、他人の介護者の眼からは、“ボケ老人”とよばれてしまう状態になっていきました。
 その時、小倉さん周辺の家族は、本物のボケ老人にしたくない一心で介護をスタートさせました。
 つまりこの本は小倉さんをボケ老人にさせないための介護本なのです。多くの介護事業所とヘルパーの方々に、ぜひとも一読をすすめたい本です。
 小倉さんの老後はずいぶん幸せです。高齢者は介護と看護の二本柱で支えてゆかなくてはならない、というのが孫娘の寛子さんの考えです。看護は聖路加国際病院の日野原重明先生がホームドクターです。築地の聖路加病院から訪問看護のために佐藤さんというナースが終始継続して小倉さんの健康管理の全般にかかわっておられます。小倉さん一家の看護グループへの信頼は信仰のようです。
 ところで小倉さんを支えるもう一方の足である介護の質については散々なのです。介護の一番の大きな問題はクルクル、クルクルとヘルパーが代わり定着しないことです。小倉寛子さんは介護日誌の始めから終わりまでヘルパーについての不満を述べています。
 ヘルパーに対しては小倉寛子さんから、このような介護をしてほしいという要望が伝えられます。しかし、数日して、数ヶ月して、ヘルパーはどんどん辞めていきます。ヘルパーはいろいろな個人的なやめる事情を述べて辞めていきます。一人か二人は続いた人もいたようですが短期間で数多くのヘルパーか辞めていきます。寛子さんは火山が噴火するような勢いでヘルパーたちの交代に怒っておられます。

◇なぜヘルパーは辞めていったのか
 わたしはヘルパーを5年以上やっています。ヘルパー派遣の事業所も持っています。そのヘルパーの立場から見て、この小倉家とヘルパーの対立問題はとても興味深いのです。ヘルパーは、なぜ小倉家に定着しなかったのでしょうか。そして、看護の側のナースは、なぜ一人の人が長期安定したのでしょうか。一つには、居宅介護と居宅看護の人件費の大きな差によるものと私は考えます。
 まず聖路加病院から鎌倉まで月1回訪間するナースの費用は交通費は全額出ると思います。1日の日当は?万円(制度に関わる料金改定が何度かありますので特定していいにくいのです)の単位でしょう。なによりも、このナースはパートやアルバイトではなく、日野原先生のメガネにかなった天下の聖路加病院のナースでしょう。とすれは月給も40万から50万円? 彼女はユッタリ気分で10年だって訪問看護にかよえる身の上です。
 一方、訪問介護の2級ヘルパーは、どのような状況で働いているのでしょうか。身体介護と生活支援の2種の料金体系があります。これも、制度に関わる料金改定が何度かあり、ヘルパーの収入はどんどん切り下げられています。
 職員だの、社員だのという安定した身分のヘルパーはほとんどいません。登録ヘルパーという名前のパートタイマーのヘルパーが大部分です。時給は1200円から1400円ぐらいでしょうか。交通費を出さない会社がほとんどです。1日8時間の仕事などはありません。30分から2時間の仕事が1日に1件か2件です。
 2007年6月に私があるヘルパー会社の依頼でどのような働き方をし、いくらの収入になったかを具体的に話しましょう。
 月曜日をぬき、1週間に6日の仕事でした。
 午前8時30分から9時(30分間で800円)
 午前10時30分から12時(1時間30分で2100円)
 午後5峙から6時30分(1時間30分で2100円)
 1日5000円。交通費なし、実働3時間半。ずいぶん割りがよいと思われるでしょうか。
 ちょっとまってください。お客様は私の隣家の人ではありません。私は8時半に先方ヘ着くために7時に家を出ます。帰宅は夜の8時ごろです。しかし、昼の12時から夕方の5時までの5時間が自由時間ではないかと思われるでしょうが、お客様から依頼される(毎日、依頼はあります)買い物をこの時間帯に行います。すると自由時間は自由時間でなくなります。つまり、朝の7時から夜の8時までの約13時間は拘束時間となるわけです。拘束13時間に対し1日の日当5000円は果たして効率のよい割りのよい仕事と言えるでしょうか。
 1日の仕事が終わる6時半から私はヘルパーとしての仕事をしましたという書類をノートを含めて5枚書き、ハンコを押し、お客様からハンコをもらいます。きらに買い物の明細をノートに書き、釣銭を計算し……等々です。
 また、わずかなクレームでも先方からあれぱ会社はきびしくヘルパーの責任を間います。その申し言いの高圧的なことといったら!
 ヘルパーは、お客様から専門職とは見られていません。下女、女中、お手伝いさんと見なされています。会社はヘルパーを、言葉を話す使い捨て雑巾ぐらいにしか認識していません。何年も2級ヘルパーとして働き、いま私は1級ヘルパーとなりましたが、労働の実態は2級ヘルパーのままです。いくつもの会社で登録ヘルパーをしてきた私は骨身にしみて、ヘルパーの実態をそのように受け止めています。
 1ヶ月に4万円以上の収入がほしければ他の会社ヘ行って下さいとも言われました。

◇致命的欠陥を抱えた介護保険制度
 ヘルパーの仕事はとても不安定です。
 居宅の高齢者相手の仕事は死亡、入院等により、いとも簡単に終了します。ひとつの仕事が終わっても次の仕事はすぐ回ってこないものです。仕事がなくなれば登録ヘルパーは食べてゆけないので、次の仕事を回して下さいと、何度も何度も会社へお願いの電話をかけます。「今、仕事はありません」「仕事が出たら連絡します」と言われて1ヶ月過ぎても仕事が来ないこともあります。
 こんなにみじめなヘルパーは気持ちも安定しません。仕事に関する技術研究心も、向上心もなくなってしまうのです。
 小倉家が大切な祖母の介護をになってほしいと期待したヘルパーたちの実情は、看護の担い手のナースに比較するとじつにビックリするほど哀れなボロボロ状態だったと思います。
 じっくり腰をすえて、小倉寛子さんの出してくる神経質な細かい介護条件を力一杯やりとげることはできなかったのです、
 また、ヘルパーが小倉さんの仕事を続けさせて下さいと会社に頼んだとしてもヘルパーの要求は通りません。会社はどんな意図があるかは分かりませんがとにかくヘルパーを短期間でクルクル移動させることが多いのです。
 この小倉寛子さんの介護日誌ではヘルパーに対しての不満、苦情が山積みしております。私は介護を依頼する方々の事情を身近にみておりますので分かります。が、ヘルパーの人間として職業人として低く抑えられつづけている実態も分かっておりますので、この本を読みつつ切なくなりました。
 個々のヘルパーの人間像が描かれていない、ということは、小倉家の人々にとってあわただしく通り過ぎて行った多くのヘルパーたちは、一人の人間として何も印象に残らなかったということです。ナースの佐藤さんは、とてもくっきりと人間像が本の中に描き出されているというのに。本書の著者の小倉寛子さんはよもやヘルパーか劣悪にして不安定、低賃金、長時間拘束労働の中でアップアップしているとは想像もできなかったのでしょう。
 結論としては、日本の介護保険制度が、介護される側も介護する側も両方とも幸福にしないシステムであるということです。
 この制度には致命的な欠陥があります。
 
※「本を愉しむ人々」(荻窪さかえだ書店発行)30号から転載。

東京都:明日風(1級ヘルパー)

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