○「国連・障害者権利条約特別委員会」傍聴団報告書/T.全体を総括する報告

障害者権利条約に関する国連・特別委員会傍聴団
B班に参加して

RI副会長 松井 亮輔

 B班のコーディネーターとして特別委員会を傍聴して感じたことの概要は、次の通り。

1.ハイライトは、特別委員会報告の採択
 B班のメンバーにとってのハイライトは、今回の特別委員会を総括した報告書の採択の場面に立ち会えたことである。報告書の中核部分である「勧告案」の取りまとめは、政府代表のみによる「非公式会議」(NGO関係者が参加を認められたのは、「公式会議」のみ)において、同委員会の後半(5日間)の半分近くを使って行われたが、その間EUやメキシコなど中・南米諸国のNGO関係者は、自国の政府代表と密接に連係プレーしながら、障害者権利条約づくりにむけての流れをより確実なものとするよう、多数派工作を積極的に展開していた。アジア太平洋地域からは、中国およびフィリピンを除き、NGO関係者が参加していなかったこともあり、同様な動きがとれなかったことは残念であった。しかし、今回の特別委員会を契機に欧米のNGO関係団体を中心に、同権利条約づくりにむけ、情報の共有化と連帯行動のためのネットワークがつくられたが、わが国の関係団体としてもそうしたネットワークに積極的に参加していく必要があると思われる。

 今回の特別委員会の主たる目的を端的にいえば、同権利条約の枠組みや内容などの検討をする第2回特別委員会開催への道筋をつけることと、その開催を特別委員会報告書の勧告案に盛り込むことであった。各国政府代表は、既存の6大条約(自由権規約、社会権規約、人種差別撤廃条約、児童権利条約、女子差別撤廃条約および拷問等禁止条約)の中に障害条項を含めること、補強すること、および障害者の機会均等化に関する標準規則を補強することに加え、新たに同権利条約を検討するという方針では合意しながらも、同権利条約づくりを急ぐべきとするメキシコ政府などを中心とする積極派と、慎重に検討すべきとする米国やインドなど慎重派との間の調整に手間取り、「非公式会議」が終了したのは、特別委員会最終日の午後2時すぎ。そのあと午後4時すぎから始まった、NGO関係者も参加しての公式会議でも「非公式会議」で合意に達したはずの「勧告案」の内容について、慎重派の米国やインド代表などからつぎつぎと疑義が出された結果、「勧告案」を含む、報告書の採択は、予定の終了時刻を1時間以上もずれ込むこととなった。この報告書では、次回の特別委員会(期間は、今回と同様10作業日)は、来年の国連総会前(具体的には、来年の5月ごろ)にニューヨークでの開催が提案されている(一部の国からは、国連人権委員会の事務局があるジュネーブでの開催が提案されたが、アクセシビリティや物価などの点から、再びニューヨークが選ばれたもの)。

 次回の特別委員会では、条約提案の内容(とくに、その性格および構成、社会開発、人権および非差別分野での作業を含む、検討すべき要素、ならびに障害者権利条約と既存の条約などとの間の補完、フォローアップおよび監視など)について具体的な検討に入ることになるが、今回の特別委員会で見られたように、同権利条約提案の入口でさえ、かなり手間取ったことを考えれば、実質的な内容の検討に入る第2回以降の特別委員会での取りまとめは、容易なことではないと思われる。なかでも、「人権条約体の重複をさけるための簡素化に関する最近の活発な討論を十分考慮に入れるべきである。この観点から、いかなる措置も、人権条約体を含め、人権関連組織の簡素化に関する討議や見解と合致すべきである。」という本村芳行国連日本政府代表部次席大使の演説(8月6日/16頁参照)にも象徴されるように、障害者権利条約の検討が、既存の人権関連組織の見直しとリンクされるとなると、事柄は一層複雑化することになる。

 今回の傍聴団に参加した関係者としては、(1)次回以降の特別委員会への、政府関係省庁(内閣府、厚生労働省および外務省など)および障害当事者を中心とする障害関係団体の専門家から構成される政府代表団の派遣、(2)派遣にむけて、特別委員会での検討が予定されている障害者権利条約の内容および他の人権条約との関連などについて、関係省庁と障害関係団体間での定期協議、(3)(前述の報告書で要請されているように)同定期協議では、条約提案に関して検討されるべき提案および要素についての意見を取りまとめること、および(4)後発途上国の障害当事者を中心とする障害関係団体専門家の特別委員会への参加を支援するため設けられる任意基金へのわが国としての貢献、などが実現するよう政府に積極的に働きかけていく必要がある。

2.アジア太平洋地域各国障害関係NGOとの連携の強化
 今回の特別委員会を終始リードしたのは、メキシコを中心とする中・南米グループとデンマーク(EU議長国)を中心とするEU諸国であった。アジア太平洋地域からの参加国(13カ国)間では、NGO関係者の参加が極めて少なかったこともあり、情報交換や共同戦線をはるための非公式な会合も開かれなかった。今年の5月のESCAP総会で採択された「21世紀におけるアジア太平洋地域の障害者にとって包括的でバリアフリーの、権利に基づいた社会の促進」に関する決議(58/4)でも障害者権利条約づくりがその目標とされていることから、障害関係NGO団体としても域内で開催されるさまざまな会合や特別委員会の場などを活用しながら、密接に連携して同権利条約づくりの促進に取り組むことが求められる。

3.特別委員会に参加する障害当事者の移動手段やコミュニケーションなどの保障
 第2回以降の特別委員会の政府代表団正式メンバーあるいは傍聴団のメンバーとして障害当事者などが不自由なく、かつ意味のある参加ができるようにするためには、必要に応じて介助者の同行、リフトつきのバスのアレンジ、アクセシブルなホテル・ルーム、コミュニケーションを支援する通訳および関連器材などの確保が不可欠である。

4.傍聴団派遣前の準備の必要性
 今回の傍聴団は、特別委員会の日程決定の遅れなどで、ぎりぎりまで確定しなかったこともあり、派遣前に団員が特別委員会での議論の内容などについて勉強会や意見交換の機会がなかったが、第2回以降もこうした傍聴団派遣を計画する場合には、団員が共通認識をもって参加し、また特別委員会の内外で積極的なロビー活動などを展開しうるためにも、事前の周到な準備が必要と思われる。


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