2015年3月28日(土):研究室の引っ越し
昨日から本格的に研究室の引っ越し作業に取り掛かった。忙しいときは用事が重なるもので、東京都情報文化センターの評議員会、厚労省の障害者総合福祉法に係る委員会、日本聴覚医学会・補聴研究会の世話人会と続いた。それぞれの都内の会議場を電車で移動する合間に研究室に戻っては、オージオメータ、測定器、冷蔵庫や什器類、書籍や資料などを片付けた。つくばから運転してきたミニバンの車内は満杯である。疲れた手を休める度に、窓の下に咲き始めた三分咲きの桜を眺める。名残が尽きない。これまで6年間、レンガ建ての14号館のクラッシックな窓枠に縁どられた絵のような景色にどんなに癒されてきたことか。
2015年3月18日(水):「退職予告通知」
東大の事務局から「退職予告通知」という文書を受け取った。「第2の定年」まであと2週間もないのだと実感させられる。6年間暮らし慣れた駒場の研究室の片付けに追われている。いよいよ「隠居」の身となる訳だが、まだ少し元気が残っているので、人のお役に立つことを続けてみたいと考えている。何か自分を励ます看板がないと挫けそうなので「大沼直紀きこえの教育相談クリニック」を標榜することにした。
ホームページの立ち上げを試みている。https://www.facebook.com/ohnumanaoki
説明欄には「聴覚障害児教育から高齢者の補聴器まで、きこえの相談と訪問カウンセリング・ガイダンスをします。聴覚特別支援教育、難聴、補聴器、人工内耳、聞こえのバリアフリー等のテーマによる出張講演をします。」と書き込んでみた。
2015年3月11日(水):「きこえを学ぶ会(3月15日):第1回フィールドワーク」を企画
「きこえを学ぶ会:第1回フィールドワーク」を企画している。初めての「きこえのツアー」「音探し遠足」のような試行プログラムなので、自信はないが実践しながら参加者と共に新たな「聴覚学習」の形を構築していきたいと考えている。
●企画趣旨:『難聴者自身が、補聴器装用・人工内耳装用、難聴歴、に関わらず、きこえの差を越えて共通の体験を行い、きこえのバリア(生活するうえで障害となっていること)を見出し、お互いの工夫について情報を共有しあうことで自らのきこえについて学ぶことを目的に、下記の要領で第1回フィールドワークを開催します。
自身のきこえについて学びたい方、人工内耳を検討している方、人工内耳をして間もない方などは、同じ経験をされた方が多数参加されますので、どうぞ奮ってご参加ください。』
●日時:3月15日 (日曜日)
12:00集合:メドエルジャパン株式会社会議室
13:10オリエンテーション
13:15御茶ノ水駅より移動(新宿乗り換え)
14:00初台オペラシティ着
スイスデザイン展鑑賞 http://www.operacity.jp/ag/exh172/
15:00オペラシティ出発
15:00情報交換会会場着:(会場未定)参加費2000円
18:00情報交換会終了
●指導(音の案内人):大沼直紀先生 国立大学法人筑波技術大学名誉教授(元学長)
身体障害者手帳をお持ちの方は、当日必ず持参してください。
情報交換会ご参加の方は参加費として2,000円頂戴いたします。
集合―展覧会の間は情報保障はありません。情報交換会の際の情報保障として磁気ループと要約筆記を用意します。
●参加申し込み:お名前、ご住所、連絡先(FAX, TEL, e-mail)参加人数をFAXもしくはe-mailにて下記までご連絡ください。
メドエルジャパン株式会社 担当 干潟
TEL:03-5283-7713
FAX:03-5283-7265
e-mail:office-japan@medel.com
第17回「ヘルスケアcafeオープン・ブレスト」(3月10日火曜夜)での講演を依頼されたので、これまで聴覚障害のことにあまり関心・知識がなかった健康医療の研究開発に意欲のある方々向けてより広い発信をしたいと考えている。以下は、主催者のホームページに載っている案内である。
テーマ:「聴覚補償と情報保障」
【講師】 大沼 直紀(おおぬま なおき)東京大学 先端科学技術研究センター 聴覚補償学・きこえのバリアフリー研究室
参考URL http://www.jeaa.info/president.html
http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/research/people/staff-ohnuma_naoki_ja.html
『聴覚にはヒトとしての感性を支える本源的な意義があります。聴覚障害はヒトとヒトを繋がりにくくします。誰にでも起こる老化に伴う加齢難聴は、音としては聞こえるのに言葉が聞き取れない感音性難聴がほとんどです。
“聞こえのバリアフリー”を必要とする二つの世代ピークがあります。一つは加齢による聞こえの不自由さに悩み周囲とのコミュニケーションに困難を感じる高齢難聴者。もう一つは、新生児聴覚スクリーニングの体制が整備されるにともない超早期に難聴が発見されるようになった聴覚障害幼児とその家族です。また、聞こえにくい聴覚の問題だけでなく、聞こえすぎる聴覚(聴覚過敏)にも対応が求められています。聴覚障害者の聴覚補償と情報保障の環境は、社会の変化と科学技術の進歩に合わせて着実に進展しています。補聴器と人工内耳も、生涯を通じて長期にわたって装用され始めています。』
1. 開催日時:2015年3月10日(火)18:15開場18:30開始 20:00終了予定、その後交流会
2.場所: 東京都千代田区外神田4-14-1 秋葉原UDX 4F UDXオープンカレッジ
3.参加費: 無料
4.交流会: 会費1000円、酒肴の持ち込みも可。持ち込み者は会費免除。
5.募集人数 30名
6.主催:ICIC(株式会社新産業文化創出研究所) UDXオープンカレッジ
http://www.town-college.com/udx/about/index.php
共催:HTOP(一般社団法人ヘルスケア技術オープン・プラットホーム)
http://htop.jimdo.com/
7.申し込み:下記URLからお申込みお願いします。
http://www.town-college.com/udx/search/001380.php
2015年3月6日(金):障害者自立支援機器「ニーズ・シーズマッチング」
障害者自立支援機器開発促進事業「ニーズ・シーズマッチング交流会」(主催:テクノエイド協会)が国際展示場駅の近くにあるTOC有明コンベンションホールで大々的に開催された。厚労省の「障害者自立支援機器開発促進事業」に私も委員として関わっているので終日参加した。
機器開発助成の申請状況を見ていて感ずるのは、聴覚障害の特徴や多様さ、聴覚障害者の生活の実態を知らないままにテーマや開発計画を作成・申請し、結局は試作品止まりで実用化に至らないでしまう事例が少なくないことである。聴覚障害当事者や聴覚障害に詳しい人の話をもっと直接聞いておく必要があるのにと残念に思う。聴覚の障害と聴覚障害者の生活を相当に理解して取り組む必要がある。一方、聴覚障害当事者の側にも問題があろう。本当に自分たちにとって必要な支援機器は何なのか、既に存在しているのに知らないだけなのか、自らのニーズが説得力をもって表現できているかなど自問しなければならない。そのような当事者の実情を変えるための支援も大事である。
聴覚障害者のための支援機器は大きく分けて、①聴覚そのものを「補償」する機器(例えば、補聴器や人工内耳)、②音・音声を聞きやすい環境にする「音声情報保障」機器(例えば、磁気誘導ループシステム、FM補聴システム、音場拡声スピーカーシステム)、③音声を文字に変換する「文字情報保障」機器(例えば、パソコン要約筆記システム、音声認識文字提示システム)、④音声や文字を手話で表示する「手話情報保障」機器(例えば、手話自動提示システム)がある。その中でも①と②の補聴器・人工内耳、磁気誘導ループ・FM補聴器などは最先端の科学技術を取り入れた機器を既に大きな企業が開発を進めており小さなベンチャー企業が太刀打ちできるものではない。しかし人工内耳や補聴器をより有効に快適に使用するための周辺付属機器にはこれからの開発の余地がる。そして上記の③と④の領域においては、聾・難聴者の日常生活でパーソナルな使用に供される機器が期待される。このような現状をよく理解したうえで開発テーマを考案し申請に至るようなオリエンテーションや勉強会が設定される必要があろう。
聴覚障害者のニーズに沿った日常生活支援機器の参考事例をいくつか挙げてみる。
①モバイル型の遠隔情報保障機器
②家庭内での報知音等を情報保障する機器(赤ちゃんの泣き声なども含め)
③環境音を光や文字・手話に視覚化する機器(緊急自動車等の接近を含め)
④健康診断受診に際しての情報保障機器(胸部X線撮影、胃バリウム検査等の検査室内における指示を含め)
⑤音声認識し文字表示する眼鏡タイプ等の携帯可能な支援機器
⑥携帯型の補聴援助機器(音楽を聞きやすくする補聴システム、人工内耳の周辺機器を含め)
⑦補聴器がハウリングしていることを知らせる支援機器
⑧難聴の聞こえやコミュニケーションを擬似体験できて支援につながる機器