2012831():「バリアフリー・コンフリクト」(東大出版会)発刊

「バリアフリー・コンフリクト」(中邑賢龍、福島智 編)が東京大学出版会から刊行された。私は第3章『人工内耳によって「ろう文化」はなくなるか?』を執筆した。編集グループからいただいたタイトルはかなり刺激的なものだったので、オーディオロジーの視点から、副題に『ろう者の言語権・分化権と「音を聞く権利」を両立させる』と付けてある。本日から書店店頭発売が開始される(本体価格:2900円+税、著者割引20%あり)。



2012825()新しい要約筆記者の専門性-聴覚補償と情報保障の観点から

新潟要約筆記サークルの20周年を記念する会に参加した。要約筆記は私の専門ではないが、これまでの「要約筆記奉仕員」から新しい「要約筆記者」へと厚労省が制度改革を進めた際に座長・委員長を務めたことで、今回の講演をお引き受けした。各地で要約筆記にかかわってきた方々の中には、“奉仕員”から“者”に代わった経緯について知りたいという要望が未だ少なくない。「要約筆記者養成等事業委員会」の報告書(平成233月)」に書いた私の原稿を引用し、文字情報保障に関わる専門家が聴覚の補償(教育オーディオロジー)にも理解を深めていただけるチャンスと考え、「新しい要約筆記者の専門性-聴覚補償と情報保障の観点から」の演題で話した。やや長文だが、以下に「要約筆記者養成等事業委員会を終えて」の一部を改めて紹介する。

『平成21年度「要約筆記者養成等調査検討委員会」座長、平成22年度「要約筆記者養成等事業委員会」委員長、として・・・・・。早期に指導者養成を開始したいという思いと同時に、10年先まで見越したカリキュラムのモデルを提示したいという強い気構えで取り組みました。手法の違い(手書きとパソコン)、実践方法の違い(一人書きと連携型)といった専門家間の「バリアフリー・コンフリクト(葛藤)」をどのように調整できるかなど、細部にわたり様々な論議を経て作り上げたという自負はあります。しかし、このまま頑なに守り通すべきだとも考えていません。「通訳」とは何か、「要約」とは何かなど、カリキュラム作成の工程に迫られ妥協せざるを得なかった議論の余地や重要な課題の積み残しがあったのも事実です。その意味で将来次の見直しの際に役立ててほしいと、全ての「議事録要旨」を後世に残すことにしてあります。・・・・要約筆記者の存在と情報保障の大事さが広く世に伝わるために、「聴覚補償」を専門とする私の立場から今後の「情報保障」について想うことをいくつか連ねてみます。

●一般の社会にあっても情報保障には文字提示が不可欠だという認識が更に高まり、音声認識などの科学技術の応用が当たり前になってくるでしょう。そのような動向は従来の丁寧な手づくりの要約筆記者の仕事に対してブレーキをかけ領域を脅かすものではなく、むしろ最新の技術を取り込むことにより相まって効果を上げ、要約筆記手法のグレードアップが期待されるものです。

●文字による情報保障には、手話や関連画像等も一緒に提示される感覚併用の環境が進んできますが、更に最新型の補聴器・人工内耳・FM補聴システムによる“聴覚補償の併用”がこれまで以上に容易になってきます。視覚・聴覚・触振動覚の併用効果を加味した要約筆記のあり方についても検討が迫られるでしょう。

●人はだれでも「サウンドスケープ(音の風景)」の中で生活していることを再認識する必要があります。ことば(音声言語)を文字で提示するだけの要約筆記ではなく、「環境音」(周囲の物音、機器類の信号音、雨や風など自然音、咳やくしゃみ等)も含めての情報保障のニーズが高まるでしょう。

●要約筆記の恩恵を受けてきた聴覚障害者も高齢になり、“耳の障害に目の障害が加わる”ことも覚悟しておかなければなりません。残存聴力の管理と併せて視覚管理にも意を用いることが大事です。見えにくくなった聴覚障害者に対する“見えやすい文字提示”の工夫改善策をも検討しておく必要があります。

●情報保障支援に尽力してきた要約筆記者や手話通訳者も、ご自身が高齢化を迎える時代に入っています。特にノイズや反響の多い会場では話者の音声が聞き取りにくくなり通訳や要約の仕事に支障をきたすことが多くなります。聴覚障害者向けに考えられてきたFM補聴システムなどが効果を発揮します。情報保障支援者の側に対する聴覚情報保障が必要で有効なことも認識されてくるでしょう。

●大震災などの混乱状況では誰もが障害を持つ弱者の身となります。このようなときこそ、暗闇の中でも不自由なく歩ける盲者、騒音の中でもサインで通じあえる聾者などの例のように、支援される側から転じて支援する能動者になり得えます。要約筆記や独自の聴覚障害者情報ネットワークなどから多くの情報を得た聴覚障害当時者が、その強みを持って“一般の人々に向けても情報提供を果たす”。そのような気概を持ってほしいと考えています。

●聴覚障害とは、周囲の人々や環境の在りようにより「聞こえの痛み」が更に増したりも和らげられたりもするという社会的な問題です。要約筆記奉仕員がより専門性の高い要約筆記者となって増えていくことは喜ばしいことですが、一方で、世の中の人々が聴覚障害者への情報保障の専門家がたくさん養成されているからと決め込んで、全てを要約筆記者に任せてしまうようになっては社会の後退です。一般の人々への聴覚障害者とのコミュニケーションスキル向上の機会も保障されなければなりません。・・・・』



2012816()2013年版「よくわかる補聴器選び」の推薦文

昨年、「よくわかる補聴器選び」の2012年版は、フォナック・ジャパン社のご協力により全国の聾学校に寄贈されている。今年も八重洲出版が「よくわかる補聴器選び2013年版」(監修・著:関谷芳正・関谷耳鼻咽喉科院長)を刊行した。新刊の表紙に付けるオビの推薦文を依頼された。100字ほどの字数制限のなかでキャッチコピーを短くまとめあげるのは予想以上に難しいものである。以下にご紹介する。カッコの文は、削除に削除を重ね最終段階で編集者と相談しカットした個所である。

『(自慢の)補聴器をユーザーが自ら選べる時代です。補聴器相談医による(補聴器フィッティングの)処方箋をもとに、認定補聴器技能者が(聴力に合った)候補器種を選んでくれたあと、お気に入りの一つを選ぶのはユーザーのあなた。最新の補聴器の(隠れた)性能をひき出し進化させるのもあなたです。本書は、安心な音の世界・自信のもてるコミュニケーション・アクティブな生活へとあなたをつなげるガイドブックです。』

実は八重洲出版は補聴器には全くの素人である。自動車、バイク、自転車を中心とした趣味の雑誌が中心だ。それがなぜ畑違いの補聴器の本を発行することになったか。その話を編集人の岡本健一氏から伺い納得したので推薦文をお引き受けした次第である。4年前、八重洲出版社には当時50歳の難聴の社員いた。会議の多い広告営業部長の職にあったその方が補聴器を購入しようと思い立ったのは、会話が聞こえないことが多くなったのがきっかだった。自動車の購入ガイド本があるように当然補聴器のガイド本もあると考え、書店に赴き探したが適切な本がなかなか見当たらない。自分と同じ立場の人がたくさんいて同じように悩んでいるはず。ならば、自社でガイド本を作ろうと企画会議にかけ会社のトップが決意し発行することになったそうである。障害当事者の想いから生まれた事例がここにもあった。



201284():関東教育オーディオロジー研究協議会10周年記念シンポジウム

 日本教育オーディオロジー研究会との共催で横浜市立ろう特別支援学校で開催された関東教育オーディオロジー研究協議会(会長:和田喜久男・東京都葛飾ろう学校長)の夏季講習会には約100名の先生方が参加した。富澤先生(目白大学)のレクチャー「聴覚活用の基礎」は新任の先生に限らず経験の長い先生にとっても役立つ内容だった。シンポジウム「通常学級で学ぶ子どもたちと教育オーディオロジー」に登壇した5名のシンポジストの話は時宜を得たトピックスであった。以下に話題提供のタイトルをご紹介する。

1)通常学級における難聴児の実態:加藤哲則氏(上越教育大学)

2)通常学級で学ぶ聞こえに苦戦する子どもたち:小川征利氏(岐阜聾学校)

3)手帳のない子どもへの補聴器購入費補助の動向:吉田基氏(群馬県立聾学校)

4)FM導入プログラムと評価:富澤晃文氏(目白大学)

5)最新のFMテクノロジー:鈴木考氏(フォナック・ジャパン)

 プログラムの企画に携わった富澤先生から私に与えられたのは、斎藤佐和先生(目白大学リハビリテーション学研究科長)との「対談シンポジウム」である。テーマは「教育オーディオロジーと言語教育」である。司会を林茂和先生(元都立葛飾ろう学校長)が務めた。日本各地区の教育オーディオロジー研究協議会が夏季に開催する研修会のプログラム内容が非常に高いレベルで展開されていることを誇りに思う。先日のシンガポールで行われたAPCD2012の私の講演でも各国に紹介したところである。

 思い返せば、耳鼻科医中心のclinical audiologyとは別に教育中心のeducational audiologyを組織化してみようと活動を始めたのは、私が50歳になる頃だった。当時の耳鼻科学会の偉い先生たちからは「あまり変なことするなよ」と注意と助言を受けながら恐る恐るとりかかった。聴覚医学で使われていた「オージオロジー」を「オーディオロジー」の表記に変えて特異性を打ち出す小細工もした。あれから20年余り経ち、教育オーディオロジーがすっかり認知され、関東をはじめ各地区の教育オーディオロジー研究協議会が質の高い研修活動を展開するようになっている。このような進展は、当時の私の想いを支えてくれた後輩の先生方の尽力のおかげである。この頃の私は、無我夢中でやってきた自分の仕事を振り返り整理したことを後進に言い残したいと考えている。今回、依頼受けた対談シンポジウムは、そのような意味でも有り難かった。かつて日本の聴覚障害教育の在り方について共闘して働いた戦友とも言うべき尊敬する斎藤佐和先生と同席登壇できるという、私にとって貴重な場をつくってくれた後継ぎの先生たちに感謝したい。



201282():産経新聞に取材記事掲載。

 昨日の産経新聞に「TV音小さい…補聴器相談医へ、聴力も備え早めに」の見出しで、私への取材記事が掲載された。



201281():いじめ問題に係る教育委員長緊急会議

 シンガポールのホテルをチェックアウトする直前に、茨城県教育委員会からのメールを受け取った。「いじめ問題に係る市町村教育委員会委員長緊急会議」を開催するので必ず出席するようにとのお達しである。31日の帰国後の予定をキャンセルして水戸市の会場に向かった。

 茨城県教育長から県としてのいじめ問題への取り組みの経緯が説明された後、意見交換が行われた。つくば市を代表して私からは2つ意見を述べた。一つ。親への支援にも目を向けるべきであること。いじめの未然防止、早期発見、早期対応には教育現場と教育委員会が機動的に働くことが肝心なことは言うまでもないが、全ての保護者への、子どもの育ち方・学び方・生き方に関する教育にもっと目を向ける必要がある。二つ。特別支援教育にある知見を今こそ活用すべきこと。障害児を育てた親や教師は、親子の愛着や共感によるコミュニケーションの大切さをよく知っている。人間の尊厳や自尊心を奪ってしまうという意味でいじめの本質に迫る必要がある。そのためには障害児の育ちに直接関わって人の痛みを知っている当事者の経験を聴くのがよい。






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