20121126():学会の座長記

 学会の学術講演会の座長は担当するセッションの司会進行役だけでなく、当日行われた質疑応答の内容やコメントを後に座長記としてまとめ学会誌に報告するという仕事がある。その原稿締め切りは学会終了後1カ月半ほどあるので未だ大丈夫だと後回しにしておくと、当日の録音を聞き返しながら大変なことになるのが常である。10月に開催された日本聴覚医学会の座長記の原稿を今回も締め切り間際にようやく書き終えた。

 私が担当した「療育2」の群は聴覚障害児教育に関わりが深いので座長コメントの一部を紹介しておく。『療育2の群では、金沢方式、オーディトリー・バーバル(AVT)方式、トップダウン方式など、聴覚障害児を育てる親が初めて採用しようとする言語指導の諸法が紹介された。いずれの施設にも専門性の高い熱心な指導者と説得性のある独自なプログラムがある。我が子のために最良の療育環境を探し求める親にとっては、最初に出会った熱意ある魅力的な指導者から生涯を左右するような強い影響を受ける。いくつかの聴覚障害児の早期介入プログラムは親のタイプや条件などにより選択・適応が異なる面もあるのかもしれない。聴覚障害発見後から始まる早期療育から教育に至る「地域・プログラム連携型クリティカルパス(仮称)」の創出について実際的な検討が必要である。』



20121125():聞こえを学ぶ会

 人工内耳を装用した人やこれから手術を受けようと考えている当事者などが集まる自主的な勉強会「聞こえを学ぶ会」(代表:鈴木克美・東海大学名誉教授)に招かれ、「きこえを学ぶ-入門のための準備と心構え」の演題で2時間ほどの講演をした。耳鼻科医、言語聴覚士、聴覚障害研究者、人工内耳・補聴器メーカーなどの専門家の講演を聞き質問するという形式の勉強会は、今はどこでも多く開かれている。こうした研修会を企画し長続きさせようと尽力する主催者やスタッフの悩みは、次は誰を講師に呼べるか、何をテーマにしたら参加者が集まるか、そして経費をどうするかであろう。設立された会の本来の目的や運営仕組みがしっかりしていないと、いずれはメニューがネタ切れになり、マンネリに陥り、企画主催する側に疲労がたまり、何のために開催しているのか分からなくなってしまう。会の組織規模をむやみに大きくしないで、目的に合った会員だけが必要な内容を学習していくのが良いと思う。誰かの講演を聞きに集まるという受け身の勉強会だけでなく、演習・実習形式のプログラムを会員全員で運営していくのが良いと思う。

 新生の「聞こえを学ぶ会」が、問題を与えられてする「聴能訓練」スタイルから課題を自己選択解決していく「聴覚学習」に向かってほしいというのが私の期待である。その意味で、聴覚学習を進める上で大切な課題設定の枠組みについて、次の6つの条件設定を挙げて解説した。①良好音響条件下~実環境ノイズ下 ②多感覚併用~聴覚単感覚活用 ③既知音素材提示~未知音源素材提示 ④クローズドセット~オープンセット ⑤一斉指導・集団学習~個人指導・個別学習 ⑥課題自己選択~訓練プログラム被提示。

 会員たちが自ら聞こえを学ぶプログラムを創っていくのが良いとは言っても初めから上手くいく訳ではないので、必要であれば当分の間は私が「音の案内人」になって「音探訪」や「サウンドスケープ・ツアー」などの企画ヒントを提案してもよいと構想しているところである。



20121120():読売新聞「医療ルネサンス・難聴」

 読売新聞の「医療ルネサンス」が1116日から6回シリーズで「難聴」を掲載している。第1回はロック歌手の宇崎竜童氏が、第2回目はジャーナリストの鳥越俊太郎氏が、第3回目の今日付の紙面では私の記事が載っている。いずれも難聴を経験した当事者を取材したものである。



20121117():人工内耳シンポジウム・賀戸久先生を偲んで

 「人工内耳の効果とは?聴こえが見える化することで解ること・出来る事」を主題にしたシンポジウムが開催された(主催:人工聴覚情報学会、共催:東京医科大学病院 聴覚・人工内耳センター)。主宰者の真野守之氏からの依頼を受けてシンポジストとして「聴能評価のために脳磁場計測に期待すること」を話した。今日の私の講演を自己評価すると60点である。聴衆には多くの難聴者や人工内耳装用者がいたにもかかわらず、一般の人には難解な専門家向けの内容となってしまったからである。いつも満足な講演ができた時は上機嫌で帰宅するのが、今日ばかりは遣る瀬なくなり、電車を途中下車し上野御徒町界隈の小料理屋で一人自棄酒を飲む結果となった。

 もちろん私以外のシンポジスト(東京医大の河野淳教授、神戸市民病院副院長の内藤泰先生)の話は分かりやすく有意義な内容であった。基調講演は「人工内耳と脳磁計~白昼に星を見つける」の演題で、樋口正法先生(金沢工業大学先端電子技術応用研究所教授)が行った。講師の樋口先生とは20数年振りの奇遇な再会である。先生の恩師は超電導の研究で有名な賀戸久先生である。残念ながら2年前に急逝された。賀戸先生と私はセントルイスにあるCID(ワシントン大学医学部附属中央聾研究所)の留学仲間である。私が留学を終えた翌年の1982年に賀戸先生はCIDに留学し、聴性誘発反応の発見者であり現在の脳波による聴力検査法の基礎を築かれた高名なH.Davis博士に師事した。帰国後、当時の耳鼻科医やオーディオロジストの必読書であった名著”Hearing and Deafness”(第4版)を、賀戸先生と共に翻訳し「聴覚障害学」として出版した(1984年、協同医書出版、訳者は賀戸先生と私の他に、江口実美先生、大西信冶郎先生、星名信昭先生)。賀戸先生が電総研に勤めたあと超伝導センサ研究所の所長時代には、私も筑波技術短期大学の教授として近くに居り、当時世界で初めて試みられた人工内耳装用者の脳磁場計測の準備にかかわった。実験の被験者は人工内耳友の会[ACITA]の初代会長を務めた小木保雄さん(今年2月ご逝去)であった。そしてその時の賀戸先生の有能な助手を務めたのが樋口先生だったのである。しかしこの研究は思うように進まず奇抜なアイディアは実現に至らぬまま20年が経過した。最近になってオーストラリアのマッコリー大学が人工内耳装用小児の言語獲得の評価に脳磁計を活用する研究を始めている。賀戸先生が遺された研究が再び脚光を浴び、人工内耳脳磁場計測の研究を引き継いだ樋口正法先生がマッコリー大学との共同研究を再開しているという次第である。今日の私の講演は失敗であったが、人との縁を感じたシンポジウムであった。



20121113():鳴子中学校・古稀を祝う同級会

 55年振りに中学(宮城県大崎市鳴子温泉)の同級生たちに再会した。鳴子中学校第10回卒業生の私たちは昨年「古稀」を迎えていたが、東日本大震災に被災した友人も多いことから古稀を祝う同級会の企画が延期されていた。東京ガーデンパレスの会場に40名が参集した。これまで毎年欠席を重ね今回初めて参加することになった私が乾杯の発声を仰せつかった。「ナオキ、多少長めの挨拶をしてもいいぞ」と幹事に言われたことをいいことに、「70歳を過ぎた皆は立派な高齢難聴者だ。耳の聞こえの悪さを自覚するために私の作成した聞こえの自己チェックリストを使ってみよう」と、ここでもつい商売根性が出てしまった。



2012112():手掌の補聴効果

 私が補聴器を装着するのは会議の場、レストランや居酒屋などでの会話の場、空港ロビーでアナウンスを聴くとき、そしてテレビ視聴のときなどである。予定された場面に臨む少し前に両耳の補聴器をケースから取り出し装用の準備をする。しかし、前もって補聴器を手元に用意していないときに、急に音の増幅を必要とする場面に遭遇することもある。そのような時は「手掌の補聴効果」をとっさに利用する。手のひらを耳にかざすとこんなに良く音が聞こえるものだと実感できるようになったのは補聴器を経験するようになってからである。掌(たなごころ)の補聴効果について、これまで私の講義では次のように理屈で説明してきた。『手のひらを片耳に当てると1000Hz2000Hzの周波数帯辺りで平均約12dBアップする。この12dBというのは、10m先にある音源が2m半 に近づいたときの音が強くなる分に等しい音響増幅である。さらに両手で両耳に手のひらをかざしたとしたら両耳効果の3dBが加わるので、結局は15dBアップとなる。』

 実際に最近いろいろ試してみて気が付いたことがある。ただ手のひらを耳にかざせばいいというものではない。掌の向きや湾曲のさせ方によって聞こえ方が様々に変化する。一番効果的なお気に入りのポーズを体験的に見出した。自宅のオーディオ装置(スピーカ:TNNOY-Arden)でワグナーの楽劇を聴くとき、両手の掌の効果は歴然とする。当事者研究の一つとして科学的に検証してみたいと思っている。私の研究室には簡単な音場聴力検査装置しかなく精密な音響特性の測定ができない。実際に私の耳を使った実耳利得のデータと標準人体模型(KEMAR)による測定値との比較などもしてみたいものだ。



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