2011425():筑波技術大の卒業生への祝辞

 先月3月18日に予定されていた筑波技術大学の卒業式は中止となった。私は来賓として祝辞を依頼され、情報保障の準備もあるので前もって原稿を大学事務局に提出してあった。結局、卒業生には私からの贈る言葉が届かないままになってしまった。このまま一人ひとりに伝える機会がなくなりそうなので、本誌欄をお借りして紹介する。


『祝辞 ご卒業、おめでとうございます。

●皆さんが入学されたときのことを想い返しております。4年制になったばかりの新しい大学に入学した皆さんを、特別に華やかにお迎えしようと、当時、学長だった私は入学式の会場をつくば市の中心にあるつくば国際会議場に準備しました。

入学式の会場の周りは桜並木がきれいな時でしたね。本学に初めてつくられた「名誉卒業生」第1号の称号を授与された井口深雪氏さん。冬季パラリンピック・トリノ大会、バイアスロン競技の金メダリストです。視覚障害者の井口さんにも、祝辞をいただいことを皆さんは覚えていますか。

●私は筑波技術大学を2年前に退きました。その後、東京大学の先端科学技術研究センターに「聞こえのバリアフリー研究室」を用意していただき、客員教授として勤めております。先端研と呼ばれるこの研究所には、目も耳も不自由な盲聾者の福島智(さとし)さんが教授として活躍されています。東大のバリアフリー研究分野での私の同僚でもあります。福島先生は現在1年間の在外研究のためニューヨーク郊外にある国立ヘレン・ケラー・センターに長期出張中です。指点字の情報保障支援者を伴っての初めてのアメリカ留学です。

●実は、今年から福島智教授はニューヨーク州ロチェスターにあるNTID(ロチェスター工科大学・アメリカ国立聾工科大学)の客員研究員に就任しました。ご存じの通りNTIDは筑波技術大学と連携協定を締結しています。本学の多くの教職員や学生が交流を重ねてきた姉妹大学です。私自身もNTIDの4代にわたる4人の学長さんたちと長くお付き合いをしてまいりました。そのような関係もあって、盲聾の福島先生をNTIDの客員研究員に推薦した次第です。視覚や聴覚だけでなく、その両方の感覚に障害を持った人たちの高等教育という、新しいテーマへの挑戦が期待できます。

●さて、人は、だれでも年をとっていくものだということは知っています。しかし、年をとるとともに聴覚や視覚も衰えていくことについては、なかなか自覚が乏しいものです。特に若い人は、いずれ聞こえにくくなる、見えにくくなると覚悟することはあまりありません。若い頃から難聴の研究に携わってきた聴覚障害学が専門の私でさえも、65歳を過ぎて初めて自分の聴力の低下を認め、補聴器を自分で処方し装用するに至ったという次第です。見え方に、あるいは聞こえ方に障害のある皆さんは、聴覚あるいは視覚の大事さを早くから経験してきた人です。それでも、今の視覚障害にさらに聴覚の障害が、年をとるとともに加わってくること、今の聴覚障害にさらに視覚の障害が加齢とともに加わってくることを、覚悟しそれに備えておく必要があります。

●皆さんをお迎えした4年前の入学式の学長式辞で、私は産業技術学部と保健科学部の学生交流の大事さについて理解を求めました。今日の卒業式にあたり想い返しもう一度その一部をお話してみます。

『このように多くの聴覚障害者と視覚障害者が入学式の会場に集まり一堂に会することを、皆さんは初めて経験したのではないでしょうか。本学で学んだ先輩たちも、今ここにいる諸君と同じように入学式の式場で初めて席を一緒にしました。しかし、その後の在学中は残念ながら聴覚障害学生と視覚障害学生が一度も集うことなく、一緒に話し合うこともないまま、やがて卒業式を迎え、別れていくというのが実情でした。

これから皆さんは、産業技術学部のある天久保キャンパスと、保健科学部のある春日キャンパスとに分かれて生活することになりますが、ぜひ相互の学生交流も進めてください。視覚障害者と聴覚障害者とのコミュニケーションが最も困難なことであることを、自ら体験してください。そして、自分と異なった障害を持つ友人を沢山つくってください。 皆さんは「見ること」あるいは「聞くこと」の情報バリアを、これまで何度も克服してきたに違いありません。今度は、視覚障害者と聴覚障害者の間にあるコミュニケーションのバリアを取り除くことにも挑戦してみてください。そうすることにより、自分だけの障害にとらわれないで、本物の「障害補償」とは何か、本物の「情報保障」とは何かが分かってくるはずです。』

●これが4年前皆さんにお伝えした入学式での話でした。

聞こえない世界を知ることで見えない世界がよりよく理解できます。見えない世界を知ることで聞こえない世界がよりよく理解できます。「よりよく視ようとする心が、よりよく聴く心を育てる。よりよく聴こうとする心が、よりよく観ようとする心を育てる。」ということを、あらためて確認してみてください。どうぞご自身の優れた感覚を大事にしながら、さらに広い世界へと向かっていってください。

皆さんの新しい出発を心からお祝い申し上げます。ご卒業、おめでとうございます。

平成23318

筑波技術大学前学長 大沼直紀』



2011422()NHK緊急地震速報のチャイム音(伊福部達先生)

 伊福部達教授が東大・先端研を去られることになり、先月末の教授会総会で退任のご挨拶があった。99カ月、先端研の人間情報工学分野の研究者として聴覚障害者のバリアフリーにも大きな貢献をされた。新年度からは東大の高齢社会総合研究機構に移られ、バリアフリーとジェロントロジー(高齢社会総合研究)が一体となった研究を続けられる。退任挨拶の最後に、NHKの緊急地震速報で鳴るチャイム音の制作にまつわるお話があったので紹介したい。

『大地震を告げるチャイム音はNHKの依頼で3-4年ほど前に私(伊福部)が編曲した音です。私の叔父は映画ゴジラの音楽で有名になった作曲家ですが、叔父の純音楽の中でも代表作の一つである「シンホニアタプカーラ」という北海道アイヌの踊りの音楽をモチーフとした曲があります。その中の第三楽章の出だしの和音をアルペジオ風にアレンジしたもので、一種のアイヌ旋律といえるかも知れません。多くのアレンジ音を作って、難聴者、子供でも気が付き、雑音があっても遠くまで伝わり、今までに無い音という条件で半年以上もかかって絞りこんだ音です。暫く鳴っていなかったので寂しい思いをしていましたが、3.11以来、盛んになりだし始めて今は非常に複雑な気持ちになっています。もう二度と聞きたくないでしょうが、4月で先端研を離れた後、この地震のチャイム音が鳴った時にでも私が先端研にいたことを一寸でも思い出して下されば幸いと思っています。』



2011415():震災の補聴器支援

 本研究会も東日本大震災による聴覚障害者への様々な支援を継続しているが、補聴器メーカーや販売店なども積極的な活動を展開している。日本補聴器工業会の会員及び賛助会員は日本補聴器販売店協会や日本補聴器技能者協会の協力を得て補聴器(代替え補聴器)提供、補聴器用空気電池の提供、補聴器の修理および点検・調整・フィッティングを無償で行っている。日本補聴器工業会事務局の中間のまとめによると300台近い補聴器が既に無償提供されている。ところが、これらの実際のサービス対応にあたる被災地に所在する販売店そのものが被災しているから大変だ。岩手、宮城、福島で60店舗以上が全壊・半壊・一部半壊の被害に遭っている。原発避難も含め70店舗以上が営業できない状態にあるらしい(413日現在)。

【問い合わせ会社】

・リオン㈱: 電話 042-359-7121 FAX 042-359-7441 http://www.rion.co.jp/

・パナソニック補聴器相談センター: 電話 0120-045285 http://panasonic.co.jp/phi/

・オーティコン㈱: 電話 0120-113320 FAX 044-543-0616 http://www.oticon.co.jp/

・ジーエヌリサウウンドジャパン㈱: 電話 0120-921-310 FAX 0120-636-392 http://www.gnresound.jp/

・コルチトーン補聴器㈱: 電話 03-3813-9911 FAX 03-3814-9200 http://www.cortiton.com/

・シーメンス ヒヤリング インスツルメンツ㈱: 電話0800-888-0303 http://www.siemens.co.jp/hearing

・ワイデックス㈱: 電話 0120-332-604 FAX 03-5631-3023 http://www.widexjp.co.jp/

・スターキージャパン㈱:電話 0120-045-019 FAX 045-942-7158 http://www.starkey-japan.co.jp/

・ニュージャパンヒヤリングエイド㈱:電話 03-3269-4133 FAX 03-3269-4633 http://www.njha.co.jp/

・バーナフォン㈱: 電話 044-520-6101 FAX 044-520-6107 http://www.bernafon.jp/

・フォナック・ジャパン㈱:電話 0120-06-4079 FAX 0120-23-4080 http://www.phonak.jp/

・理研産業㈱:電話 052-261-3512 FAX 052-261-3523 http://www.rikensangyo.co.jp/

・キコエ製作㈱: 電話 03-3277-2522 FAX 03-3277-3675 http://www.kikoe.co.jp/

・アルトテクス㈱:電話 03-5787-6092 FAX 03-3795-6525 http://www.altotechs.co.jp/



2011414():全国難聴児を持つ親の会・機関紙「べる」

「難聴児を持つ親と私と補聴器の話」の原稿は、昨年125日の宮城県難聴児を持つ親の会での講演内容に加筆したものである。全国難聴児を持つ親の会の会誌「べる」(No.152)に掲載された。「聞こえる必要はないと訴え始めた親」、「手話も人工内耳も融通無碍に」、「聴覚活用の展望」などの見出しを付けた。最近の聴覚障害補償の科学技術の進歩により、重度な聴覚障害児にも音を聞くことの可能性が広がってきたので、聴覚補償を諦めないでというのが主旨である。

奇しくも私の記事のすぐ次のページからは「私は聞こえないほうがよい、、、、の意味は!?」のタイトルの記事が載っている。聴覚障害者として60年以上生きてきた野澤克哉氏の寄稿である。『「私は聞こえないほうがよい」と言える聴覚障害者は障害に打ち勝った方だと考えます』、『「私は聞こえないほうがよい」という聴覚障害者が増えることは障害者が生きやすい、活動しやすい社会になってきているからだと言えます』と野澤氏は訴える。今回の大震災に遭って、聴覚障害者の安全・安心はまだまだ保障され得ない現状を突き付けられた。



201147日(木):小中学校入学式

桜がまだ二分咲きのつくば市である。小中学校の入学式が行われた。私はつくば市教育委員会委員長職務代理者という役にあり、毎年いくつかの学校の入学式で祝辞を述べることになっている。午前中はつくば市立栄小学校を、午後はつくば市立竹園東中学校を訪れた。

つくば市でも東日本大震災で被災した家族を多数受け入れている。難聴学級のある竹園東中学校には福島から避難してきている一家族の聴覚障害生徒が転入し入学式に臨んだ。式場の大きなスクリーンにはパソコン要約筆記による字幕が提示されていた。筑波大学のボランティア学生によるものだという。前原稿なしの私の挨拶がスムーズに文字表示される様子に、新任のPTA会長さんが感心して見入っていた。新入生には福島智・東大教授の「生きるって、人とつながることだ」を引用し励ましの言葉を贈った。






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