2011226日(土):補聴研究会のテーマ

聴覚医学会補聴研究会の世話人会(代表:細井裕司・奈良県立医科大学教授)が山の上ホテルで開かれた。今年の10月に福岡で開催される補聴研究会の研究会テーマは「補聴器の装用様式」である。既に本研究会からは富澤晃文先生(目白大学)の演題「広帯域補聴器の聴覚障害児への適用」が登録されている。立入哉先生(愛媛大学)が座長を務める。本日の世話人会では次回以降のテーマについて審議された。来年(京都)は「補聴器の装着に関する問題と対策(仮題)」となる予定だ。例えば、「骨導補聴器の装着の問題点と改善の工夫」なども含まれる。骨導補聴器は、骨導端子の当たり方の不具合や、カチューシャ型のヘッドバンドで工夫しても見栄えや装着性が悪いなど、外耳道閉鎖の子どもなど実際に困っている例が多いにもかかわらず、昔から改善されていない。そして、再来年(信州)のテーマは「両耳装用(仮題)」となる予定だ。次回、次々回とも、教育オーディオロジーの現場に実践成果があるテーマなので、本研究会の会員諸氏には今から発表に備えて事例を整理しておいてほしい。



2011217日(木):聴覚過敏の人への聴覚検査

私たちオーディオロジー関係者にとって、音が聞こえ難くい人、難聴の聴力検査は当り前の仕事であるが、聞こえ過ぎる人、聴覚過敏の聴力検査については、ほとんど関心がもたれなかった。東大先端研教授会セミナーhttp://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/meeting/2010/index.html
で「Audiology:補聴器と聞こえのバリアフリー」の話をした後、中邑賢龍教授(人間支援工学・先端研副所長)が私の声をかけて来られた。世の中には聴覚過敏で困っている人が沢山いて、心理カウンセリングのほか、耳栓やノイズキャンセリングヘッドホン、耳鳴り用のマスカーなどで応急に対応しているが、誰も満足していないらしい。最新の補聴技術で何とかならないものかという相談である。中邑研究室のスタッフと共同でこの課題に取り組むことになった。聴覚過敏に対するオーディオロジーからのアプローチである。

聴覚過敏の人は正常聴力よりもずっと良い聞こえを持っているはずだからと、これまで誰も彼らの聴覚検査をしたことがなかったと言う。伊福部研究室の防音室を借りて、先ずは「大きな音に弱く日常生活で困難を感じている」4名の精密聴力検査から始めることにした。純音聴力検査の最小可聴閾値だけでなく、快適レベルや不快レベルの検査を様々な音源と検査法を工夫して行っている。SISI検査を実施する必要があるかもしれない。本研究会会員諸氏からも聴覚過敏で現在困っている方をご紹介いただければ、検査とカウンセリングをするつもりである。



2011213日(日):力丸裕教授による公開講座

名古屋駅近くのウインクあいちホールで日本教育オーディオロジー研究会3日目の公開講座が開催された。講師には同志社大学の力丸裕教授(生命医科学部生命医科学研究科 知覚・認知脳神経機構研究室)をお招きした。「音を認識する脳のシステム」の講演は、聴覚補償の実践に関わっている参加者全員にとって聞き応え・見応えのある内容だった。

力丸先生はシカゴのノースウエスタン大学でオーディオロジー研究をされた後、セントルイスにあるワシントン大学でコウモリ生物ソナーの神経機構解明の研究に従事された。私が30年前に留学生活を送った同じワシントン大学である。当時のセントルイス市に日本人は少なく、帰国後に東北大学耳鼻咽喉科の教授となる小林俊光先生(日本聴覚医学会理事)のご家族、後に東大医学部長(朝日賞受賞者、日本学士院会員)となる廣川信隆先生のご家族と良くお付き合いした。その頃私たちの話題にのぼる有名な日本人科学者の一人がセントルイスでコウモリの超音波の研究に取り組まれていた菅博士(Dr.Nobuo Suga)である。その菅先生の研究を継いで発展させたのが他ならぬ力丸先生なのである。30年前の当時、私がワシントン大学医学部附属中央聾研究所(CID)で勉強しながら描いた「将来、日本にも教育オーディオロジーを」という夢と、菅博士のコウモリ研究の話とは結びつけて考えられなかった。今日の力丸先生の講演には教育オーディオロジーを実践するうえでの多くのヒントが含まれている。



2011212日(土):教育オーディオロジー選択講座

2日目の日本教育オーディオロジー研究会の上級講座は、テーマ別に分かれ少人数で専門的な研修をする。25の選択コースが用意された。これらの講義を担当する殆どの講師は聾学校の教員(あるいは聾学校教員を経験した後に大学の教育研究者となった先生)である。そして多くの講師がこの教育オーディオロジー研究会のかつての受講生であった。それぞれの講義室を一通り回ってみて、興味ある題目のコースには私自身も受講生の一人として参加してみた。相当にレベルの高い内容がそれぞれに工夫されたプレゼン資料で実に分かりやすく進められていることに感心させられた。自分の職場でもきっと素晴らしい授業と信頼される仕事を果たしているのであろう。日本中の教育現場に本物の教育オーディオロジストとそのリーダーが存在していることを誇りに思う。



2011211日(金):教育オーディオロジー上級講座

日本教育オーディオロジー研究会が「上級講座」の年次ごとの開催を始めて、今年は7回目となる。東海教育オーディオロジー研究協議会(会長:本田峰雄・千種聾学校長)と愛知淑徳大学(医療福祉学部・井脇貴子教授)には大変お世話になった。全国9ブロックの教育オーディオロジー研究協議会から選ばれ参加した70名の先生が愛知淑徳大学星ヶ丘キャンパスに参集し聴覚補償の専門性を高める研修を行った。

第1日目、今日の名古屋は雪景色である。全体講座「聴覚を活用する意味」を担当した愛媛大学の立入哉教授が風邪をこじらせ高熱を押して講演された。憔悴しきった先生からは口角泡を飛ばすいつもの立入節が出ることはなかったが、感染を案じて参加者にはマスクが配られた。夕食懇談会に事務局長の立入先生が欠席するという事態は初めてのことである。



201126():シンポジウム「人工内耳装用者による体験的聴能論」

東大先端研バリアフリープロジェクト主催によるシンポジウム「人工内耳装用者による体験的聴能論」を開催した。メールで直接私宛に参加申し込みをしていただくというややクローズドな形をとったにもかかわらず、事前に120名の申し込みをいただいた。私からは一つ一つのメール全てに「参加をお待ち申し上げます」と返事をさしあげた。大変な作業ではあったが私には120名のメル友ができたわけである。

実際は当日の飛び込み参加が約60名も加わり、全体では180名の参加者となった。100名定員の講堂に急遽椅子を運び込んだ。聴覚障害者のプロマジシャン「マジック・トシマ」の十島典弘氏の陣頭指揮のもと、福島研、中邑研、巖淵研、伊福部研の若い先生方に尽力いただいた。「大沼研究室」と言っても私一人でスタートしたばかりの「聞こえのバリアフリー研究室」である。私自身が関わっている3つの団体にも共催をお願いいたした。日本教育オーディオロジー研究会と関東教育オーディオロジー研究協議会、そして聴覚障害者と共に歩む会トライアングルである。関東教育オーディオロジーの会長である葛飾聾学校の根本校長先生も参加された。トライアングルの児玉眞美先生は昨年秋に東大先端研で博士号を取得し、その後暫く入院され療養中であったが、元気なお顔を見せられた。開会の挨拶で企画の趣旨について私は次のような話をした。少々長いがご紹介する。


『この一年間、私は「聞こえのバリアフリー」というタイトルを付けたいろいろな企画をしてまいりました。昨年の日本特殊教育学会では「聞こえのバリアフリー:人工内耳・補聴器の選択と非選択」というシンポジウムを開催しました。昨年末の先端研の教授会セミナーでは「オーディオロジー:補聴器と聞こえのバリアフリー」という演題で話をいたしました。そして本日は、「人工内耳をめぐる聞こえのバリアフリー」をテーマに取り上げた次第です。

特に今回は「人工内耳装用者による体験的聴能論」と題し、大人の人工内耳を扱うことになります。わざわざ「体験的聴能論」とした理由には、私自身も高齢者の仲間入りし加齢による難聴を経験し始めたこともあります。補聴器を実際に装用してみて初めて分かる当事者体験は聴覚の専門家と自負していた私にとって貴重なものです。そこで、長いあいだ私とお付き合いいただき敬愛申し上げて来た4名の、体験的聴能論についての私の先輩諸氏のお話を、ぜひ関係の皆様と共有したいと願った次第です。

本日の4人のシンポジストは皆、人工内耳によるご自身の補聴効果を自己評価できる能力をお持ちの方々です。そして、医療の専門家から与えられた聴能訓練プログラムを受け身的にこなしていくというよりも、日々の社会生活の中で自ら「聴覚学習」を継続されている方々です。そして、4人の話題提供者は聴覚障害問題を解決するために各々の専門職を通して活躍されてきたリーダーでもあります。ご紹介いたします。

1)鈴木克美先生(東海大学・名誉教授)です。

2)高岡正先生(全日本難聴者中途失聴者団体連合会・理事長)です。

3)佐藤紀代子先生(関東労災病院・言語聴覚士)です。

4)神田幸彦先生(長崎ベルヒアリングセンター・神田ENT医院院長)です。

  今日ご参加の皆さんの多くは言語獲得前の重度な難聴の子どもに対する教育、療育、リハビリテーションなどについて関心が深く、その実践をされており、専門性が高い方々です。子どもの人工内耳の困難さに比べたら成人の人工内耳は大した問題はないとお考えの方も多いでしょう。成人の人工内耳の選択からリハビリテーションに至る課題と成果は、子どものそれとは差異があって余り参考にならないとお考えの方も多いでしょう。決してそうではありません。4人の先生方の話題提供とパネルディスカッションをお聞きになられれば、大人の人工内耳装用当事者の体験的聴能論が、子どもの人工内耳選択や課題解決に大変役立つことがお分かりいただけると思います。

その意味で、本日のシンポジウムの総括講演として加我君孝先生(東京医療センター・臨床研究 (感覚器)センター・名誉センター長)をお招きいたしました。加我先生は東京大学耳鼻咽喉科の教授を務められ、東大全体の障害学生のバリアフリーを進めるバリアフリー支援室の創設にも尽力されました。加我先生には本シンポジウムを締めくくる講演として「人工内耳の効果を左右するものは何か-成人と幼児の違い-」のお話をお願いしました。

本日は、会の運営スタッフとして沢山の方に働いていただいております。先端研バリアフリープロジェクトの先生方、関東教育オーディオロジーの先生方、トライアングルの役員の方々、会場設営の準備を細かく計画して進めていただいた十島さん、私の研究室の雑用も手伝っていただいている平田直彦さん。そして、手話通訳の方々、文字情報保障の方々。磁気ループシステムはソナール社にお願いしました。さらに、早稲田大学のボランティアの方々には別の部屋で小さなお子様たちのお世話をしていただいております。』



201121():東大先端研・教授会セミナーの公開

 先日、東大先端研の教授会セミナーで私が講演した「Audiology:補聴器と聞こえのバリアフリー」の内容が先端研ホームページで公開されている。サイトで約20分のストリーミング配信が見られるので参考にされたい。
http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/ja/research/meeting/2010/index.html






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