20111231():補聴器を着けた指揮者

NHK交響楽団が演奏するベートーベンの第9番をTVで聴きながら大晦日を過ごした。名匠スタニスラフ・スクロヴァチェフスキの指揮である。スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ氏は現在88歳、よく見ると補聴器を装用し指揮していることに気が付いた。私は音楽を聴くときに補聴器を使うことは殆どなかい。自宅の大型スピーカ(TANNOY)で鳴らすオペラも裸耳で聴くほうがいい。先々月のニューヨーク出張の際にカーネギーホールの比較的いい席でニューヨークフィルを聴いた時も、せっかくのオーケストラの生音を補聴器を通して聴くのは勿体ないと裸耳で聴いた。テレビでインタヴューを受けるスタニスラフ・スクロヴァチェフスキ氏はカナル型の補聴器を耳穴の奥に装着していた。指揮をするときは外すのかと思っていたらそうではなかった。私もそれに倣って大晦日の第9を補聴器を着けて聴いてみると、結構いけるものだ。今度は、きかず嫌いだったコンサート会場での補聴音楽もライブで聴いてみようと考えている。



20111223():私の「インプラント」治療

日本教育オーディオロジー研究会の総会が福岡で開催されていた。本会の会長である私が出席できなくなったことについては、何とも申し訳がたたないのだが、欠席の理由はインプラント治療の予約日との日程調整ができなかったからである。私が「インプラントをするので」と言うと皆さん「え!?」という顔をされる。しばらく最新のデジタル補聴器を試したと思ったら今度は人工内耳ですかと。私の難聴の程度は、低音域から1000Hzまではほぼ正常聴力で、それ以上の高い周波数域に向かって2000Hz35dB(HL)4000Hz45dB(HL)8000Hz60dB(HL)と落ちる典型的な加齢難聴のタイプである。当然いくら人工内耳手術を希望しても適応にはなり得ない。私のインプラントとは「デンタル・インプラント」(dental-implant、人工歯根、口腔インプラント、歯科インプラント)のことである。聴覚障害やオーディオロジーの関係者ではインプラントといえばコクレア・インプラント(cochlear-implant、人工内耳)を指すが、一般の人には歯科のインプラントしか思い浮かばない。まさに今が人工歯根手術に失敗した症例などがメディアに取り上げられている最中であるから、私の場合は上顎奥歯の1本だけの手術であるが、決心するに際しては最新の医療情報収集と多少の覚悟が必要であった。

インプラント(implant)とは、体内埋込み器具の総称である。人工歯のほかに、電力供給を必要とする人工内耳や心臓ペースメーカーもインプラントである。骨折等の治療で埋め込まれるボルトや豊胸などもインプラントの一つといえる。美容ファッション目的に皮下に装飾具を埋め込む人体改造インプラントといわれる領域やもっと激しいことを望む怪しげな世界もあるらしい。人工内耳の手術や装用に対して強い否定感を示す人々が今でも存在するが、コクレア・インプラント(cochlear-implant)を人工内耳と訳してよかったのか、他に適切な訳語がなかったのだろうかとも思う。30年以上前に初めて蝸牛移植手術の話をアメリカの研究者たちから聞かされたときには”bionic ear“ と言っていたが、これでは人間改造のイメージがともなってもっと反発を受けたであろう。



2011127():東大教養学部の授業「人工内耳により聴覚障害はなくなるのか?」

システム科学特別講義VIIIのバリアフリー総論の授業を分担し、東大教養学部34年を対象に「人工内耳により聴覚障害はなくなるのか?」の授業を行った。現在、先端研のバリアフリーシステム研究プロジェクトでは「バリアフリー・コンフリクト」について考察している。参考までに今回の授業シラバスの一部をご紹介する。

『歩道にひいてある黄色い点字ブロックのデコボコが不便だと感じたことはありませんか? 満員の通勤電車に電動車いす利用者が乗って来たら少し迷惑だと感じますか?近年、わたしたちの周りでは、「バリアフリー化」と呼ばれる環境整備が様々な場面で進められており、多くの場合、それは障害者にとって「やさしい」ことだと肯定的に受け止められています。ところが、ある障害者にとって「やさしい」環境を整備しようとしたところ、それが別の障害者や障害をもたない人たちにとって「やさしくない」環境を生み出してしまう、という事態も起きています。このように考えると、バリアフリーとは、一方で問題を解決しつつも、他方で別の問題を新たに生み出してしまうという二重性を内在した営みだと言うことができます。本講義では、バリアフリー化によって生み出される新たな問題と、その問題をめぐって人びとの間に引き起こされる衝突・対立を「バリアフリー・コンフリクト」というキーワードで捉えます。本講義を通じて、多様化、複雑化が進む現代社会において生じている様々なコンフリクトと向き合い、解決していくための技法について一緒に考えていきましょう。』



2011124():聴覚障害者教育福祉協会創立80周年記念式典(紀子様のお言葉)

公益財団法人聴覚障害者教育福祉協会(山東昭子会長)の創立80周年記念式典と第34回「聴覚障害児を育てたお母さんをたたえる会」が一ツ橋の協立講堂で開催された。秋篠宮妃殿下紀子様がお言葉を述べられた。原稿をほとんど見ずに聴覚障害児教育の歴史も含め手話で長時間お話をされた。中川正春・文部科学大臣や津田弥太郎・厚生労働大臣政務官の立派な祝辞もあったが、失礼ながら紀子様の自ら書かれた原稿と流暢な手話表現に敵う内容ではなかった。川崎市立聾学校中学部2年の菅原一樹君が全国聾学校作文コンクール最優秀賞を受けた。作文「家族からの自立」の発表は感動的で素晴らしい出来栄えだった。



2011121():「あなたの耳は大丈夫?」

昨夜のNHK BSプレミアム「たけしのアート☆ビート」で、先端科学技術研究センターが紹介されていた。出演者のロボットクリエーター高橋智隆特任准教授も、福島智教授、中邑賢龍教授や私と同じ先端研のバリアフリー分野の研究者の一人である。御厨貴(政治家のオーラルヒストリー)、児玉龍彦(放射性物質被害除去の訴え、システム生物医学)、西成活裕(交通渋滞学)といったマスコミを賑わしている有名人も先端研の教授である。

先端科学技術研究センターは「駒場リサーチキャンパス」にあって、このキャンパスにはもう一つの大きな研究所がある。生産技術研究所(生産研)である。今年の東大駒場公開(201164日)で私が講演した「あなたの耳は大丈夫?-グラハム・ベルの電話機から最新の補聴器まで」の内容が生産研の紀要「生産研究 635(2011)」に掲載されている。一般向けに難聴を解説するときのご参考に。

http://www.jstage.jst.go.jp/article/seisankenkyu/63/5/687/_pdf/-char/ja/





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