2.第5次基本計画の位置付け及び構成

(1)第5次基本計画の位置付け

 第5次基本計画は、障害者基本法第11条第1項の規定に基づき、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の総合的かつ計画的な推進を図るために策定されるものであり、政府が講ずる障害者のための施策の最も基本的な計画として位置付けられている。

 また、2022年5月には、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に推進することを目的として、「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」(令和4年法律第50号。以下本章では「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」という。)が制定され、同法第9条第1項の規定に基づき、障害者基本計画の策定や変更に当たっては同法の規定の趣旨を踏まえることとされている。

(2)第5次基本計画の対象期間

 第5次基本計画は、2023年度からの5年間を対象としている。

(3)第5次基本計画の構成

 第5次基本計画は、「Ⅰ 障害者基本計画(第5次)について」、「Ⅱ 基本的な考え方」及び「Ⅲ 各分野における障害者施策の基本的な方向」で構成されている。

 「Ⅱ 基本的な考え方」では、計画全体の基本理念及び基本原則を示すとともに、各分野に共通する横断的視点や、計画を実施するに当たり留意すべき社会情勢の変化、施策の円滑な推進に向けた考え方を示している。

 「Ⅲ 各分野における障害者施策の基本的な方向」では、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を11の分野に整理し、それぞれの分野について、第5次基本計画の対象期間に政府が講ずる施策の基本的な方向を示すとともに、関連する施策を記載している。

 第5次基本計画の概要については、図表1-9のとおりである。

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■図表1-9 第5次障害者基本計画 概要


Ⅰ 第5次障害者基本計画とは

【位置付け】政府が講ずる障害者施策の最も基本的な計画(障害者基本法第11条に基づき策定。また障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法第9条第1項の規定に基づき、同法の規定の趣旨を踏まえ策定。)
【計画期間】令和5(2023)年度から令和9(2027)年度までの5年間
【検討経緯】障害者政策委員会(障害当事者等で構成される内閣府の法定番議会)での1年以上にわたる審議を経て、令和4年12月に取りまとめられた障害者政策委員会の意見に即して、政府で基本計画案を作成

Ⅱ 総論の主な内容

1.基本理念
〇共生社会の実現に向け、障害者が、自らの決定に基づき社会のあらゆる活動に参加し、その能力を最大限発揮して自己実現できるよう支援するとともに、障害者の社会参加を制約する社会的障壁を除去するため、施策の基本的な方向を定める。
2.基本原則
〇地域社会における共生等、差別の禁止、国際的協調
3.社会情勢の変化
〇2020年東京オリンピック・パラリンピックのレガシー継承
〇新型コロナウイルス感染症拡大とその対応
〇持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現(SDGsの視点)
4.各分野に共通する横断的視点
〇条約の理念の尊重及び整合性の確保
〇共生社会の実現に資する取組の推進
〇当事者本位の総合的かつ分野横断的な支援
〇障害特性等に配慮したきめ細かい支援
〇障害のある女性、こども及び高齢者に配慮した取組の推進
○PDCAサイクル等を通じた実効性のある取組の推進
5.施策の円滑な推進
〇連携・協力の確保、理解促進・広報啓発に係る取組等の推進

Ⅲ 各論の主な内容(11の分野)

1.差別の解消、権利擁護の推進及び虐待の防止
2.安全・安心な生活環境の整備
3.情報アクセシビリティの向上及び意思疎通支援の充実
4.防災、防犯等の推進
5.行政等における配慮の充実
6.保健・医療の推進
7.自立した生活の支援・意思決定支援の推進
8.教育の振興
9.雇用・就業、経済的自立の支援
10.文化芸術活動・スポーツ等の振興
11.国際社会での協力・連携の推進

Ⅳ おわりに(~今後に向けて~)

・本基本計画は、障害者を必要な支援を受けながら自らの決定に基づき社会のあらゆる活動に参加する主体として捉えた上で、施策を総合的・計画的に推進することで、条約が目指す社会の実現につなげる。加えて、障害者への偏見や差別の払拭、「障害の社会モデル」等障害者の人権の確保の上で基本となる考え方等への理解促進に取り組み、多様性と包摂性のある社会の実現を目指すことが重要であり、政府において各分野の施策を実施する。
・令和4年9月に、障害者権利委員会の見解及び勧告を含めた総括所見が採択・公表され多岐にわたる事項に関し見解等が示されたことを受け、各府省において、本基本計画に盛り込まれていない事項も含め、勧告等を踏まえた適切な検討や対応が求められる。
・世界に誇れる共生社会の実現を目指して、政府全体で不断に取組を進めていく。

Ⅴ 各論の主な内容

1.差別の解消、権利擁護の推進及び虐待の防止
社会のあらゆる場面における障害者差別の解消
・家族に対する相談支援や障害福祉サービス事業所等における虐待防止委員会の設置等、虐待の早期発見や防止に向けた取組
・障害福祉サービスの提供に当たり、利用者の意思に反した異性介助が行われることがないよう、取組を推進
・改正障害者差別解消法の円滑な施行に向けた取組等の推進
2.安全・安心な生活環境の整備
移動しやすい環境の整備、まちづくりの総合的な推進
・公共交通機関や多数の者が利用する建築物のバリアフリー化
・接遇ガイドライン等の普及・啓発等の「心のバリアフリー」の推進
・歩道が設置されていない道路や踏切道の在り方について検討、信号機等の整備
・国立公園等の主要な利用施設のバリアフリー化や情報提供等の推進
3.情報アクセシビリティの向上及び意思疎通支援の充実
障害者に配慮した情報通信・放送・出版の普及、意思疎通支援の人材育成やサービスの利用促進
・情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法に基づく施策の充実
・公共インフラとしての電話リレーサービス提供の充実
・手話通訳者や点訳者等の育成、確保、派遣
4.防災、防犯等の推進
災害発生時における障害特性に配慮した支援
・福祉避難所、車いす利用者も使える仮設住宅の確保
・福祉・防災の関係者が連携した個別避離計画等の策定、実効性の確保
・障害特性に配慮した事故や災害時の情報伝達体制の整備
5.行政等における配慮の充実
司法手続や選挙における合理的配慮の提供等
・司法手続(民事・刑事)における意思疎通手段の確保
・障害特性に応じた選挙等に関する情報提供の充実、投票機会の確保
・国家資格試験の実施等に当たり障害特性に応じた合理的配慮の提供
6.保健・医療の推進
精神障害者の早期退院と地域移行、社会的入院の解消
・切れ目のない退院後の精神障害者への支援
・精神科病院に入院中の患者の権利擁護等のため、病院を訪問して行う相談支援の仕組みの構築
・精神科病院における非自発的入院のあり方及び身体拘束等に関する課題の整理を進め、必要な見直しについて検討
7.自立した生活の支援・意思決定支援の推進
意思決定支援の推進、相談支援体制の構築、地域移行支援・在宅サービス等の充実
・ヤングケアラーを含む家族支援、サーピス提供体制の確保
・障害のあるこどもに対する支援の充実
8.教育の振興
インクルーシブ教育システムの推進・教育環境の整備
・自校通級、巡回通級の充実をはじめとする通級による指導の一層の普及
・教職員の障害に対する理解や特別支援教育に係る専門性を深める取組の推進
・病気療養児へのICTを活用した学習機会の確保の促進
9.雇用・就業、経済的自立の支援
総合的な就労支援
・地域の関係機関が連携した雇用前・後の一貫した支援、就業・生活両面の一体的支援
・雇用・就業施策と福祉施策の組合せの下、年金や諸手当の支給、税制優遇措置、各種支援制度の運用
・農業分野での障害者の就労支援(農福連携)の推進
10.文化芸術活動・スポーツ等の振興
障害者の芸術文化活動への参加、スポーツに親しめる環境の整備
・障害者の地域における文化芸術活動の環境づくり
・日本国際博覧会(大阪・関西万博)の施設整備、文化芸術の発信などの環境づくり
・障害の有無に関わらずスポーツを行うことのできる環境づくり
11.国際社会での協力・連携の推進
文化芸術・スポーツを含む障害者の国際交流の推進
・障害者分野における国際協力への積極的な取組
・障害者の文化芸術など日本の多様な魅力を発信

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第5次障害者基本計画 主な成果目標

差別の解消、権利擁護の推進及び虐待の防止

指標現状値(直近値)目標値
障害者差別解消法の地域協議会の組織率55.9%(一般市町村)
(2021年4月)
80%以上(同左)
(2027年度)

安全・安心な生活環境の整備

指標現状値(直近値)目標値
一定の旅客施設のバリアフリー化率(注1)94.5%(段差解消)
(2020年度)
原則100%(同左)
(2025年度)
ノンステップバスの導入率(注2)63.8%
(2020年度)
約80%
(2025年度)
福祉タクシーの導入台数41,464台
(2020年度)
約90,000台
(2025年度)
音響信号機及びエスコートゾーンの設置率(注3)50.8%
(2021年度)
原則100%
(2025年度)

(注1)鉄軌道駅及びバスターミナルについては、平均利用者数が3,000人/日以上の施設及び2,000人/日以上3,000人/日未満で重点整備地区内の生活関連施設に位置付けられた施設、旅客船ターミナル及び航空旅客ターミナルについては、平均利用者数が2,000人/日以上の施設を対象。なお、鉄軌道駅の現状値については、平成30年3月に改正された公共交通移動等円滑化基準の改正前の基準をもって適合率を算定

(注2)公共交通移動等円滑化基準の適用除外の認定を受けた車両は母数から除外

(注3)視覚障害者の移動上の安全性を確保することが特に必要と認められる部分が対象


情報アクセシビリティの向上及び意思疎通支援の充実

指標現状値(直近値)目標値
ICTサポートセンターを設置している都道府県数31都道府県
(2022年度)
全都道府県
(2024年度)
電話リレーサービスの普及状況(利用登録者数)1万1,275人
(2022年末)
前年度比増
(2027年度)

保健・医療の推進

指標現状値(直近値)目標値
精神病床での1年以上の長期入院患者数約17.1万人
(2020年度)
13.8万人
(2026年度)
都道府県の難病診療連携拠点病院の設置率93%
(2021年度)
100%
(2027年度)

教育の振興

指標現状値(直近値)目標値
個別の指導計画等の作成を必要とする児童等のうち、実際に個別の指導計画等が作成されている児童等の割合90.9%(指導計画)
84.8%(教育支援計画)
(2018年度)
おおむね100%
(2027年度)
公立小中学校等施設におけるスロープ等による段差解消の割合78.5%(門から建物まで)
57.3%(昇降口・玄関等から教室等まで)
(2020年度)
全ての学校に整備
(2025年度)

雇用・就業・経済的自立の支援

指標現状値(直近値)目標値
障害者の雇用率達成企業の割合47%
(2021年6月)
56%
(2027年度)
障害者就労施設等の物品等優先購入実績199億円
(2020年度)
前年度比増
(2027年度)

文化芸術活動・スポーツ等の振興

指標現状値(直近値)目標値
障害者の週1回以上のスポーツ実施率31%(成人)
41.8%(若年層※7~19歳)
(2021年度)
40%程度(成人)
50%程度(若年層)
(2026年度)

資料:内閣府