2.国際協力等の推進

(1)国際協力の基本的な方針

 障害者施策は、福祉、保健・医療、教育、雇用等の広範な分野にわたっているが、我が国がこれらの分野で蓄積してきた技術・経験などを政府開発援助(ODA)などを通じて開発途上国の障害者施策に役立てることは、極めて有効であり、かつ、重要である。協力を行うに当たり、対象国の実態や要請内容を十分把握し、その国の文化を尊重しながら要請に柔軟に対応することが大切である。このため、我が国は「障害者権利条約」第32条「国際協力」に基づき、密接な政策対話を通じ、対象国と我が国の双方が納得いく協力を行うよう努めている。また、「草の根・人間の安全保障無償資金協力」、「日本NGO連携無償資金協力」等の活用を通じたNGOとの連携、JICA海外協力隊の派遣など開発途上国の草の根レベルに直接届く協力も行っており、現地の様々なニーズにきめ細かく対応している。

(2)有償資金協力

 有償資金協力では、鉄道建設、空港建設等においてバリアフリー化を図った設計を行う等、障害のある人の利用に配慮した協力を行っている。

(3)無償資金協力

 無償資金協力においても、障害のある人の利用に配慮した協力を行うとともに、障害のある人のためのリハビリテーション施設や職業訓練施設の整備、移動用ミニバスの供与等、毎年度多くの協力を行っている。

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2021年度においては、「草の根・人間の安全保障無償資金協力」により39件の障害者関連援助をNGO・教育機関・地方公共団体等に対し実施した。また、2021年度には「日本NGO連携無償資金協力」により7件の障害者支援関連事業を採択した。

(4)技術協力

 技術協力の分野では、開発途上国の障害のある人の社会参加と権利の実現に向けて、独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて、障害のある人を対象とした取組に加え、開発プロセスのあらゆる分野において障害のある人の参加を支援するために、研修員の受入れや専門家及びJICA海外協力隊の派遣など幅広い協力を行っている。2021年度には「地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加と生計」を始め9つの本邦研修コースをオンラインで実施し、研修員約120名を受け入れたほか、専門家4名、コンサルタント12名、言語聴覚士・理学療法士等のJICA海外協力隊21名の派遣などを行った。また、NGOや大学等を始めとする市民団体の発意に基づく事業を実施する「JICA草の根技術協力事業」を活用し、2021年度には、これまでに採択された案件計9件を継続して実施した。また、これら技術協力に日本及び開発途上国双方の障害のある人が参加し、中心的な役割を担うことを推進している。

 技術協力プロジェクトでは、以下を含む6つのプロジェクトを2021年度に実施した。2019年3月から2021年12月に、エジプトにおいて「情報アクセシビリティ改善による障害者の社会参画促進プロジェクト」を実施し、印刷物を読むことに困難のある人々が利用しやすいDAISY図書をアラビア語で製作するための人材育成や啓発を行った。DAISY(Digital Accessible Information System)は「障害のある人にとって利用しやすい情報システム」とも言われ、単に音声を録音するだけではなく、目次から読みたい章や節、注釈など任意のページや場所に自在に飛ぶ機能が備わっている。また、音声と文字を同期させたマルチメディアDAISYは、読み上げている文字がハイライトされることに加え、文字の大きさや色、行間、背景色などの表示を読者の見え方に合わせて選択することができ、学習障害者にも有用とされている。プロジェクトを通じて、約40名のDAISY製作者が育成され、教育、防災、観光、新型コロナウイルス感染症関連の書籍など、約100冊のDAISY図書が作成された。


アラビア語版DAISY図書の一例。黄色くハイライトされた箇所が読み上げられる形式となっている。

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また、スリランカでは、「インクルーシブ教育アプローチを通じた特別なニーズのある子どもの教育強化プロジェクト」を2019年3月から実施し、障害により就学が困難な子供等のためのインクルーシブ教育アプローチの開発を行っている。さらに、同じくスリランカにおいて、2021年11月より「スリランカにおける障害者の就労支援促進プロジェクト」を開始し、障害のある人を対象とした就労支援事業計画の立案とその実施に必要な人材育成、官民連携体制の構築などを通じて、障害のある人の一般就労の促進を図っている。

(5)国際機関等を通じた協力

 援助対象国に対する直接的援助のほか、我が国では国連等国際機関を通じた協力も行っている。1988年度から2015年度まで国連障害者基金に対して継続的な拠出を行った。さらに、アジア太平洋地域への協力としては、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)に対し、日本エスカップ協力基金(JECF)を通じた活動支援を実施しており、2017年には、障害のある人を包摂する津波防災のためのe-ラーニングツールの開発について5万ドルの支援、2018年には開発したツールの域内普及に向けて3万ドルの支援、2021年には開発したツールを活用し、ジェンダーの平等も考慮した障害のある人を包摂する津波防災に係る政策形成及び実施に向けて23万ドルの支援を行った。


■図表6‐1 技術協力の状況(2021年度)

(1)本邦研修(単位:人)

2021年度実施研修員受入れコース121
課題別研修「地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加(A)」(使用言語:スペイン語)24
課題別研修「地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加(B(アジア))(C(中東・アフリカ))」(使用言語:英語)11
課題別研修「スポーツを通じた障害者の社会参加の促進(A)」(使用言語:英語)8
課題別研修「スポーツを通じた障害者の社会参加の促進(B)」(使用言語:ロシア語)7
課題別研修「障害者権利条約の実践のための障害者リーダー能力強化」(使用言語:英語)4
課題別研修「地域活動としての知的・発達障害者支援」11
課題別研修「インクルーシブ教育制度強化~障害のある子どもと共に学び共に生きる~」17
青年研修「ブータン/障がい者支援制度」コース10
青年研修「ミャンマー/障がい者支援制度」コース10
国別研修「エクアドル/地域における障害者に焦点を当てたインクルーシブ防災の実施能力強化10
国別研修「パレスチナ/ユニバーサルツーリズムの促進」9

注:課題別研修/国別研修/青年研修の受入人数。課題別研修への国別上乗せ研修は除く。2021年度における研修員受入れ実績には、オンライン実施による実績も含む。

資料:外務省

(2)ボランティア(単位:人)

青年海外協力隊/海外協力隊27
内訳長期派遣:1~2年24
 障害児・者支援(14)
 理学療法士(7)
 言語聴覚士(1)
鍼灸マッサージ師(1)
 作業療法士(1)
短期派遣:1ヵ月~1年未満3
 障害児・者支援(2)
 作業療法士(1)
シニア海外協力隊1
内訳短期派遣:1ヵ月~1年未満1
 障害児・者支援1
日系社会青年海外協力隊/日系社会海外協力隊1
内訳長期派遣:1~2年1
 作業療法士1

注:障害児・者支援、理学療法士、言語聴覚士、鍼灸マッサージ師、作業療法士、ソーシャルワーカー、福祉用具、の7職種を障害者支援関連職種とし、2021年度(2021/4/1~2022/3/31時点)の新規派遣人数を計上。(短期ボランティアを含む。)上記の表に記載されていない職種については、2021年度0名。

資料:外務省

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(3)技術協力プロジェクト

技術協力プロジェクト専門家派遣
(直営)
(人)
専門家派遣
(コンサルタント)
(人)
研修員受入
(人)
機材供与
(百万円)
事業名
モンゴル
障害児のための教育改善プロジェクト
0400
モンゴル
障害者就労支援制度構築プロジェクト
0456(遠隔)0
ウズベキスタン
就学前教育におけるインクルーシブ教育実践強化プロジェクト
0200
スリランカ
インクルーシブ教育アプローチを通じた特別なニーズのある子どもの教育強化プロジェクト
0200
スリランカ
スリランカにおける障害者の就労支援促進プロジェクト
2000
エジプト
情報アクセシビリティ改善による
障害者の社会参画促進プロジェクト
009(遠隔)12.3
パラグアイ(個別専門家)
障害者の社会参加促進アドバイザー(フェーズ2)
100
南アフリカ(個別専門家)
障害児及び家族支援アドバイザー
100
パレスチナ(個別専門家)
リハビリテーション関連技術
029(遠隔)0

注:専門家派遣(直営)及び専門家派遣(コンサルタント)の人数については、2020年度からの継続による専門家派遣(コンサルタント)及び2021年度の新規派遣(コンサルタント)の合計(実人数)。いずれも第三国人材の派遣は除く。「研修員受入」の人数は当該年度。また、「研修員受入」については日本との遠隔研修を含めるが、協力相手国内もしくは第三国で実施された研修コースは除く。コロナ禍の影響で物理的な移動を伴う専門家派遣や研修員受入れは限定的となったが、各プロジェクトでTV会議等を通じた遠隔での協力を実施した。

資料:外務省


(4)草の根技術協力事業(2021年度障害者支援関連事業)

対象国案件名
ラオスラオス障害者スポーツ普及促進プロジェクト
コスタリカ障害者の社会支援システム構築プロジェクト
イランイランのバリアフリー支援事業
セルビアセルビアベオグラード市コミュニティレベルにおける知的障害者の自立を支援する事業
スリランカあんまマッサージ指圧訓練コースの設立・運営による視覚障害者の雇用促進事業
インドネシア中部ジャワ州スラカルタ市「自閉症教育」の人材育成事業
ラオス知的・発達障害を持つ子供の社会的自立を目指したインクルーシブ教育・就労支援の実践
ネパールカトマンズの病院における難聴患者の意思疎通支援パイロットプロジェクト
ペルーペルーにおける障害児スポーツ指導力強化および普及促進プロジェクト

資料:外務省

209

■図表6‐2 日本NGO連携無償資金協力(2021年度障害者支援関連事業)

(単位:円)

実施国/地域契約額事業名
カンボジア28,774,224モデル地域での実践強化および評価制度の確立を通した、障がい児のためのインクルーシブ教育普及事業(第3年次)
トーゴ80,759,514モー県およびバサール県におけるインクルーシブ教育推進事業(第1年次)
ベトナム13,715,136キンザン省、チャビン省の小学校、幼稚園のインクルーシブ教育研修システムの構築事業(第2年次)
タジキスタン46,272,600インクルーシブ教育推進のための教職課程構築事業
パキスタン59,012,280ハリプール郡における、障がい児の教育支援体制構築事業(第3年次)
モンゴル74,662,884モンゴルにおける義務教育期間を通した切れ目のないインクルーシブ教育推進事業(第2年次)

資料:外務省

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第6章 2.国際協力等の推進/外務省

TOPICS

日本のインクルーシブ防災の取組を世界に

 JICA(独立行政法人国際協力機構)によるエクアドルに対する技術協力「地域における障害者に焦点を当てたインクルーシブ防災の実施能力強化」を紹介する。

 南米の赤道直下に位置するエクアドルは、環太平洋地域帯に位置し、日本と同様、地震、津波、火山噴火などの自然災害へのリスクにさらされている。同国政府は、「国家開発計画 2013~2017」及び「国民福祉計画2017~2021」において、障害のある人や高齢者を含む社会的弱者に配慮した包摂的な防災対策を進めることを定めている。しかしながら、地方自治体、あるいは社会的弱者が生活する地域や勤務する事業所等の単位で、障害者福祉に関連する部局と防災に関連する部局が連携し、当事者を交えた形で、災害時の避難計画や避難所の運営計画を策定するための具体的な取組は進んでいない。

 施設やコミュニティにおいて、合理的配慮のなされた災害時の対応が可能となるよう、避難計画を準備し、当事者や周辺住民を啓発することが課題となっており、多様な事例を有する日本のインクルーシブ防災の取組への関心が高い。

 「地域における障害者に焦点を当てたインクルーシブ防災の実施能力強化」は、エクアドルにおいて、障害のある人の生活支援や福祉事業、又は防災事業に取り組む中央及び地方の行政官を対象に、研修を行うものである。同志社大学の立木茂雄教授を研修講師に迎え、日本のインクルーシブ防災の実践例を共有し、計画策定や合意形成に至るステップを学ぶことで、エクアドルにおけるインクルーシブ防災のモデルの検討や、研修後のアクションプランの作成を支援することを目指している。

 2021年9月から12月にかけて実施された1年目の研修はコロナ禍の影響で遠隔での対応となったが、エクアドルの参加者から「エクアドルにおけるインクルーシブ防災の現状と課題」が紹介された後、立木教授から「日本の防災・減災の歴史」や「東日本大震災における高齢者・障害者の被害の特徴とその理由」、「災害時のケアプランの作成方法」等について講義が行われた。また、日本でのインクルーシブ防災の実践例として、大分県別府市の取組が紹介された。別府市は、防災に関連する部局と障害福祉に関連する部局が連携し、当事者を交えた形で、障害のある人の災害時における個別避難計画を作成している。今回の研修では、別府市のオンライン視察や、別府市の当事者団体や別府市役所等の関係者との質疑応答の機会も設けられた。

 研修を通じて、エクアドルの障害者福祉分野と防災分野を担う、異なる部局の行政官が協働してインクルーシブ防災の計画を策定する姿勢が見られたほか、日本におけるインクルーシブ防災の取組や経験を実際にエクアドルでどのように活かすかについて活発な意見交換がなされた。今後は、研修で得た知識を活かして具体的なアクションプランを形成するとともに、アクションプランを実施するための制度、財源、人材育成、啓発活動等についての計画を詳細に検討していく。


現地でのグループワークの様子。所属先や担当業務の垣根を越えて活発な意見交換がなされた。

研修で用いられた教材の一例。脆弱性を可視化するための地図ツールや、スペイン語ブックレットが用意された。

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