1.情報アクセシビリティの向上

(1)総合的な支援

 「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」に基づく地域生活支援事業においては、障害のある人の情報通信技術の利用・活用の機会の拡大を図るため、ICT関連施策の総合サービス拠点となるICTサポートセンターの運営(28都道府県、4指定都市、1中核市:2021年度末時点)や、パソコンボランティア養成・派遣等が実施されている。また、今後、IoTやAIなどの新たなICTを活用することにより、障害の特性、状態、生活実態等、個々の障害のある人の状況にきめ細かな対応を可能とする製品やサービスの開発・提供が期待されている。

 総務省では「デジタル活用共生社会実現会議」を開催し、年齢、障害の有無、性別、国籍等にかかわらず、デジタル活用の利便性を享受し、又は担い手となることで、誰もが豊かな人生を送ることができる「デジタル活用共生社会」の実現を目指すべきであるとした「デジタル活用共生社会の実現に向けて~デジタル活用共生社会実現会議 報告~」を2019年4月に公表した。この報告に基づき、各企業等が自社のICT機器・サービスについてアクセシビリティ確保を自己診断する取組や、情報アクセシビリティに配慮したICT機器・サービスの活用、これらの開発を促進するためのニーズ・シーズ関連情報の提供をそれぞれ推進していくこととしている。

(2)障害のある人に配慮した機器・システムの研究開発

 情報通信の活用によるメリットを十分に享受するためには、障害のある人を含め誰もが、自由に情報の発信やアクセスができる社会を構築していく必要がある。

 障害のある人の利用に配慮した情報通信機器・システムの研究開発の推進に当たっては、その公益性・社会的有用性が極めて高いにもかかわらず、収益性の低い分野であることから、国立研究機関等における研究開発体制の整備及び研究開発の推進を図るとともに、民間事業者等が行う研究開発に対する支援を行うことが重要である。

 また、家電メーカーや通信機器メーカーにおいては、引き続き障害のある人・高齢者に配慮した家電製品の開発・製造に努めているところである。また、国際標準化団体のISO/IEC JTC1にてスマートフォンやタブレットのアクセシビリティ向上を目的とした規格の審議が継続的に行われており、我が国製造業者も参加している。日本産業規格(JIS)においては2018年度に情報アクセシビリティに関する「高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―第4部:電気通信機器」について、スマートフォン等のアクセシビリティの確保・向上を目的として改正を行った。

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(3)情報アクセシビリティに関する標準化の推進

 情報アクセシビリティに関する日本産業規格(JIS)として「高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス」(JIS X8341シリーズ)を制定している(具体的には「共通指針」、「パーソナルコンピュータ」、「ウェブコンテンツ」、「電気通信機器」、「事務機器」、「対話ソフトウェア」、「アクセシビリティ設定」について制定)。

 また、国内の規格開発と並行し、国際的な情報アクセシビリティのガイドライン共通化を図るため、JIS X8341シリーズのうち、「共通指針」、「パーソナルコンピュータ」及び「事務機器」について国際標準化機構(ISO)へ国際標準化提案を行い、2012年までに、それぞれ国際規格が制定された。2018年においては、国際規格との整合性を高めるため「電気通信機器」のJIS規格を改正した。


■図表5-11 アクセシビリティに関する規格体系

①基本規格(ガイド71)
すべての製品・サービスにかかわる基本となるもの
例:規格におけるアクセシビリティ配慮のための指針 (JIS Z8071(ISO/IECガイド71:2017))
②分野別共通規格(セクターガイド)
分野内で共通とするもの(考え方や個別機能)
例:高齢者・障害者配慮設計指針 ―消費生活製品の報知音 (JIS S0013)
高齢者・障害者等配慮設計指針 ―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―
第1部:共通指針 (JIS X8341-1)
包装―アクセシブルデザイン― 一般要求事項 (JIS S0021-1)
③個別規格(製品規格・ガイドライン)
個々の製品やサービスごとに規定するもの
例:高齢者・障害者等配慮設計指針 ―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―
第2部:パーソナルコンピュータ (JIS X8341-2)
高齢者・障害者等配慮設計指針 ―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―
第3部:ウェブコンテンツ (JIS X8341-3)
高齢者・障害者等配慮設計指針 ―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―
第4部:電気通信機器 (JIS X8341-4)
高齢者・障害者等配慮設計指針 ―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―
第5部:事務機器 (JIS X8341-5)
高齢者・障害者等配慮設計指針 ―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―
第6部:対話ソフトウェア (JIS X8341-6)
高齢者・障害者等配慮設計指針 ―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―
第7部:アクセシビリティ設定 (JIS X8341-7)
高齢者配慮設計指針 ―衣料品 (JIS S0023)

資料:経済産業省


(4)ホームページ等のバリアフリー化の推進

 各府省は、障害のある人や高齢者を含めた全ての人々が利用しやすいものとするため、ウェブコンテンツ(掲載情報)に関する日本産業規格(JIS X8341-3)を踏まえ、ホームページにおける行政情報の電子的提供の充実に努めている。

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 総務省では、公的機関がウェブアクセシビリティ(障害のある人や高齢者を含め、誰もがホームページ等で提供される情報や機能を支障なく利用できること)の向上に取り組む際の手順書となる「みんなの公共サイト運用ガイドライン」(2016年)を策定し、ウェブアクセシビリティの確保・向上に取り組んでいる。2021年度は、公的機関を対象とした取組状況に関するアンケート調査及び国、地方公共団体等の公式ホームページのJIS対応状況調査を実施した。2022年度も引き続きウェブアクセシビリティの普及啓発活動に取り組んでいく。

(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/b_free/guideline.html)

■東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会に向けたアクセシビリティの実現
 障害の有無にかかわらず、全ての人々にとってアクセシブルでインクルーシブな東京2020大会を実現するため、公益社団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)、国の関係行政機関、東京都、関係地方公共団体、障害者団体及び障害者スポーツに関わる団体等で構成するアクセシビリティ協議会において、「Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン(※1)」をとりまとめ、国際パラリンピック委員会(以下「IPC」という。)から承認を得て、組織委員会により公表されている(※2)。
 当ガイドラインを踏まえ、東京2020大会に向けた施設整備を行った。
※1:IPCが定める『IPCアクセシビリティガイド』と国内関係法令等に基づき、東京2020大会の各会場のアクセシビリティに配慮が必要なエリアと、そこへの動線となるアクセス経路、輸送手段、組織委員会による情報発信・表示サイン等の基準、及び関係者の接遇トレーニング等に活用する指針として、組織委員会が作成するもの。
※2:「Tokyo2020 アクセシビリティ・ガイドライン」基準の具体例
項目内容
エレベーターの
かごの大きさ
推奨幅2,100mm×奥行1,500mm(IPCの推奨)、又は同等水準のサイズ
※鉄道駅等は、複数台設置により全体容量で推奨基準を達成する場合、当該基準を満たした ものとみなす。
標準幅1,700mm×奥行1,500mm(IPCの遵守基準)、又は同等水準のサイズ
※構造上の理由等によって標準を満たせない場合
 幅1,400mm×奥行1,350mm(国の遵守基準)
出入口のドア幅推奨950mm(IPCの推奨)
標準大会会場では850mm(IPCの遵守基準)
公共交通機関では900mm(国の推奨))
※構造上の理由等によって標準を満たせない場合
 800mm(国の遵守基準)
傾斜路の踊り場推奨高低差500mm以内ごとに設置(IPCの推奨)
標準高低差750mm以内ごとに設置(国の遵守基準)
※公共交通機関の屋外部分は高低差600mm以内ごとに設置(国の推奨基準)を標準とし、構造上の理由等でそれを満たせない場合にのみ、上記規定を適用

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