1.特別支援教育の充実

(1)特別支援教育の概要

 障害のある子供については、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立や社会参加に必要な力を培うため、一人一人の教育的ニーズに応じ、多様な学びの場において適切な指導を行うとともに、必要な支援を行う必要がある。現在、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、「通級による指導」(※1)においては、特別の教育課程や少人数の学級編制の下、特別な配慮により作成された教科書、専門的な知識・経験のある教職員、障害に配慮した施設・設備等を活用して指導が行われている。特別支援教育は、発達障害も含めて、特別な支援を必要とする子供が在籍する全ての学校において実施されるものであり、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対しても、合理的配慮の提供を行いながら、必要な支援を行う必要がある。

 2019年5月1日現在、特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級の在籍者並びに小・中学校及び高等学校の通級による指導を受けている児童生徒の総数は約56万人となっており、増加傾向にある。なお、このうち義務教育段階の児童生徒については、義務教育段階の全児童生徒数の約5.0%に当たる約48万6千人である。

※1:通級による指導

小・中学校及び高等学校の通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対して、ほとんどの授業(主として各教科などの指導)を通常の学級で行いながら、一部の授業について障害に基づく種々の困難の改善・克服に必要な特別の指導を特別の場で行う指導形態。対象とする障害種は、言語障害、自閉症、情緒障害、弱視、難聴、LD、ADHD、肢体不自由及び病弱・身体虚弱。


■図表4-1 特別支援学校等の児童生徒の増加の状況

資料:文部科学省49


(2)多様な学びの場の整備

ア 特別支援教育に関する指導の充実

① 特別支援学校等における教育

 障害のある子供には、特別支援学校や小・中学校の特別支援学級、通級による指導、通常の学級における指導といった多様な学びの場が提供されている。2018年度からは高等学校段階における通級による指導が開始され、2019年度からは全都道府県において実施されている。また、障害のため通学して教育を受けることが困難な幼児児童生徒に対しては、教師を家庭、児童福祉施設や医療機関等に派遣して教育(訪問教育)を行っている。2020年5月1日現在、小学部1,187人、中学部719人、高等部784人の児童生徒が、この訪問教育を受けている。

 2017年4月に新特別支援学校小学部・中学部学習指導要領、2019年2月に新特別支援学校高等部学習指導要領を公示し、(ア)重複障害者である子供や知的障害者である子供の学びの連続性、(イ)障害の特性等に応じた指導上の配慮の充実、(ウ)キャリア教育の充実や生涯学習への意欲向上など自立と社会参加に向けた教育等を充実させた。また、新特別支援学校学習指導要領等の円滑な実施のため、学習指導要領の趣旨を踏まえた教育課程の編成や、一人一人の障害の状態等に応じた指導方法の改善・充実について、先導的な実践研究を実施した。

 幼稚園、小・中学校及び高等学校における特別支援教育については、学習指導要領等において、個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成するなど個々の児童生徒等の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を計画的・組織的に行うこととしている。また、2018年8月には、「学校教育法施行規則」(昭和22年文部省令第11号)を一部改正し、特別支援学校に在籍する幼児児童生徒、小・中学校の特別支援学級の児童生徒及び小・中学校、高等学校において通級による指導を受けている児童生徒について、個別の教育支援計画を作成することとし、当該計画の作成に当たっては、当該児童生徒等又は保護者の意向を踏まえつつ、医療・福祉・保健・労働等の関係機関等と当該児童生徒等の支援に関する必要な情報の共有を図らなければならないこととしている。

② 障害のある児童生徒の教科書・教材の充実

 特別支援学校の児童生徒にとっては、その障害の状態等によっては、一般に使用されている検定教科書が必ずしも適切ではない場合があり、特別な配慮の下に作成された教科書が必要となる。このため、文部科学省では、従来から、文部科学省著作の教科書として、視覚障害者用の点字版の教科書、聴覚障害者用の国語(小学部は言語指導、中学部は言語)、知的障害者用の国語、算数(数学)及び音楽の教科書を作成している。

 なお、特別支援学校及び特別支援学級においては、検定教科書又は文部科学省著作の教科書以外の図書(いわゆる「一般図書」)を教科書として使用することができる。

 また、文部科学省においては、拡大教科書など、障害のある児童生徒が使用する教科用特定図書等(※2)の普及を図っている。

 具体的には、できるだけ多くの弱視の児童生徒に対応できるよう標準的な規格を定めるなど、教科書発行者による拡大教科書の発行を促しており、2020年度に使用された、小・中学校の学習指導要領に基づく検定教科書に対応した標準規格の拡大教科書は、ほぼ全点発行されている。また、教科書発行者が発行する拡大教科書では学習が困難な児童生徒のために、一人一人のニーズに応じた拡大教科書などを製作するボランティア団体などに対して、教科書デジタルデータの提供を行っている。50このほか、通常の検定教科書において一般的に使用される文字や図形等を認識することが困難な発達障害等のある児童生徒に対しては、教科書の文字を音声で読み上げるとともに、読み上げか所がハイライトで表示されるマルチメディアデイジー教材等の音声教材がボランティア団体等により製作されており、文部科学省においても必要な調査研究等を行うなど、その普及推進に努めている。

 さらには、近年の教育の情報化に伴い、2020年度から実施される新学習指導要領を踏まえた「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の支援のため、2018年に「学校教育法」(昭和22年法律第26号)等の改正等を行い、2019年度より、視覚障害や発達障害等の障害等により紙の教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の困難を低減させる必要がある場合には、教育課程の全部において、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書(※3)を使用することができることとなった。

※2:教科用特定図書等

視覚障害のある児童及び生徒の学習の用に供するため検定教科書の文字、図形等を拡大して複製した図書(いわゆる「拡大教科書」)、検定教科書を点字により複製した図書(いわゆる「点字教科書」)、その他障害のある児童生徒の学習の用に供するために作成した教材であって検定教科書に代えて使用し得るもの。

※3:学習者用デジタル教科書

紙の教科書の内容の全部(電磁的に記録することに伴って変更が必要となる内容を除く。)をそのまま記録した電磁的記録である教材。

例えば、以下のような活用方法により、教科書の内容へのアクセスが容易となることが期待される。

文字の拡大、色やフォントの変更等により画面が見やすくなることで、一人一人の状況に応じて、教科書の内容を理解しやすくなる。

音声読み上げ機能等を活用することで、教科書の内容を認識・理解しやすくなる。

漢字にルビを振ることで、漢字が読めないことによるつまずきを避け、児童生徒の学習意欲を支える。

教科書の紙面を拡大させたり、ページ番号の入力等により目的のページを容易に表示させたりすることで、教科書のどのページを見るかを児童生徒が混乱しないようにする。

文字の拡大やページ送り、書き込み等を児童生徒が自ら容易に行う。

③ 学級編制及び教職員定数

 公立の特別支援学校及び小・中学校の特別支援学級においては、障害の状態や能力・適性等が多様な児童生徒が在籍し、一人一人に応じた指導や配慮が特に必要であるため、「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(昭和33年法律第116号。以下「義務標準法」という。)及び「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」(昭和36年法律第188号)に基づき、学級編制や教職員定数について特別の配慮がなされている。

・学級編制

 1学級の児童生徒数の標準については、数次の改善を経て、現在、公立特別支援学校では、小・中学部6人、高等部8人(いわゆる重複障害学級にあってはいずれも3人)、公立小・中学校の特別支援学級では8人となっている。

・教職員定数

 公立の特別支援学校における児童生徒数が増加していることや障害が重度・重複化していることに鑑み、大規模校における教頭あるいは養護教諭等の複数配置や、教育相談担当・生徒指導担当・進路指導担当及び自立活動担当教師の配置が可能な定数措置を講じている。

 2011年4月の「義務標準法」の一部改正では、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒を対象とした通級による指導の充実など特別支援教育に関する加配事由が拡大された。

 また、2017年3月の「義務標準法」の一部改正により、2017年度から公立小・中学校における通級による指導など特別な指導への対応のため、10年間で対象児童生徒数に応じた定数措置(基礎定数化)を行うこととしている。このほか、特別支援学校のセンター的機能強化のための教員配置など、特別支援教育の充実に対応するための加配定数の措置を講じており、51高等学校における通級による指導の制度化に伴い、2018年3月に「公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律施行令」(昭和37年政令第215号)を改正し、公立高等学校における通級による指導のための加配定数措置を可能とした。

④ 教員の専門性の確保

 特別支援教育担当教員の養成は、現在、主として大学の特別支援教育関係の教職課程等において行われている。また、幼稚園、小・中学校及び高等学校の教員養成においても、2017年11月の「教育職員免許法施行規則」(昭和29年文部省令第26号)の改正により、教職課程において「特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対する理解」に関する科目を必修化したところである。2019年4月から、中央教育審議会の審査に基づき、文部科学大臣の認定を受けた大学において新しい教職課程が始まっている。

 また、教員の資質向上を図るため、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所においては、特別支援教育関係の教員等に対する研修や講義配信を行っているほか、独立行政法人教職員支援機構においても、各地域の中心的な役割を担う教員を育成する学校経営研修において、特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。さらに、都道府県等教育委員会においては、小学校等の教師等の初任者研修や中堅教諭等資質向上研修においても、特別支援教育に関する内容を盛り込んでいる。このほか、放送大学において、現職教師を主な対象とした特別支援学校教諭免許状取得のための科目が開講されている。

 また、教員免許更新制における免許状更新講習においても、必修領域の事項の一つである「子どもの発達に関する脳科学、心理学等における最新の知見(特別支援教育に関するものを含む。)」の中で特別支援教育に関する内容を扱うことが規定されている。

⑤ 特別支援学校教諭免許状

 2007年度より、従来、盲学校・聾学校・養護学校ごとに分けられていた教諭の免許状が、特別支援学校の教諭の免許状に一本化されている。同時に、特別支援学校教諭免許状の取得のためには、様々な障害についての基礎的な知識・理解と同時に、特定の障害についての専門性を確保することとなっている。また、大学などにおける特別支援教育に関する科目の修得状況などに応じ、教授可能な障害の種別(例えば「視覚障害者に関する教育」の領域など)を定めて授与することとしている。

 なお、特別支援学校教諭免許状については、「教育職員免許法」(昭和24年法律第147号)上、当分の間、幼稚園、小・中学校及び高等学校の免許状のみで特別支援学校の教師となることが可能とされているが、専門性確保の観点から保有率を向上させることが必要である。

 特別支援学校の教師の特別支援学校教諭等免許状の保有率は、全体で84.9%(2020年5月1日現在)であり、全体として前年度と比べ1.9ポイント増加しているが、特別支援教育に関する教師の専門性の向上が一層求められている中で、専門の免許状等の保有率の向上は喫緊の課題となっている。このため、各都道府県教育委員会等において教師の採用、配置、現職教師の特別支援学校教諭等免許状取得等の措置を総合的に講じていくことが必要であることから、文部科学省において、特別支援学校教諭等免許状の取得に資する取組を実施した。52

イ 学校施設のバリアフリー化

 文部科学省では、学校施設の整備について、障害のある幼児児童生徒が支障なく学校生活を送るために障害の種類や程度に応じたきめ細かな配慮を行うよう、学校種ごとの学校施設整備指針を作成し、施設の計画・設計上の留意点を示している。このほか、2020年5月の「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(平成18年法律第91号)の改正等を踏まえ、学校施設のバリアフリー化に関する基本的な考え方や計画・設計上の留意点を示した「学校施設バリアフリー化推進指針」を改訂するとともに、公立小中学校等において2025年度末までの5年間に緊急かつ集中的に整備を行うための整備目標を定め、地方公共団体等に対し学校施設のバリアフリー化を一層推進するよう依頼した。また、報告書「災害に強い学校施設の在り方について~津波対策及び避難所としての防災機能の強化~」では、災害時に避難所となる学校施設におけるバリアフリー化の必要性について示している。これらの指針や報告書等は、地方公共団体等に配布するとともに、研修会等を通じて普及啓発に努めている。

 さらに、学校施設におけるバリアフリー化の取組に対する支援の一つとして、エレベーターやスロープ、多機能トイレなどのバリアフリー化に関する施設整備について国庫補助を行っている。

 また、私立の特別支援学校並びに小・中学校の特別支援学級において、障害に適応した教育を実施する上で必要とする設備の整備を学校法人が行う場合に、国がその一部を補助している。補助対象となる設備には、立体コピー設備、FM等補聴設備、音声表出コミュニケーション支援装置(VOCA)、携帯用防犯ベル、スクールバスなどがある。


学校施設のバリアフリー化の事例(スロープ・多機能トイレの設置)

ウ 専門機関の機能の充実と多様化

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所

 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所は、我が国における唯一の特別支援教育のナショナルセンターとして、国の政策課題や教育現場等の喫緊の課題等に対応した研究活動を核として、各都道府県等において指導的立場に立つ教職員等を対象に、「特別支援教育専門研修」や高等学校における通級による指導などに関する「指導者研究協議会」を実施しているほか、インターネットを通じて、通常の学級の教師を含め障害のある児童生徒等の教育に携わる幅広い教師の資質向上の取組を支援するための研修講義の配信や特別支援学校の教師の免許状保有率の向上に資する免許法認定通信教育を実施している。また、全ての学校を始めとする関係者に必要かつ有益な情報を提供するため、インターネットを活用し、発達障害に関する情報提供等を行う「発達障害教育推進センター」、53合理的配慮の実践事例の掲載等を行う「インクルーシブ教育システム構築支援データベース」及び支援機器等教材活用に関する様々な情報を集約した「特別支援教育教材ポータルサイト」などにより情報発信を行っている。さらに、研究成果の普及等を行う「研究所セミナー」(オンライン配信)を開催しているほか、「教材・支援機器等展示会」(オンライン配信)を実施するなど理解啓発活動も行っている。

 このほか、2016年度に「インクルーシブ教育システム推進センター」を設置し、地域や学校が直面する課題を研究テーマとし、その解決を目指す「地域実践研究」や諸外国の最新情報の発信を行うとともに、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に十分に教育を受けられるよう、一人一人の教育的ニーズに応じた多様で柔軟な仕組みの構築に関する相談支援等を通して、地域や学校における取組を強力にバックアップしている(参照:https://www.nise.go.jp/nc)。

特別支援教育センター

 都道府県の特別支援教育センターにおいて、当該都道府県における特別支援教育関係職員の研修、障害のある子供に係る教育相談、特別支援教育に係る研究・調査等が行われている。

(3)充実した支援体制の整備

ア 切れ目ない支援体制整備

 2012年7月に中央教育審議会初等中等教育分科会が取りまとめた「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」において、インクルーシブ教育システムを構築する上で、教育委員会や学校等は、医療、保健、福祉、労働等の関係機関等との適切な連携が重要であり、関係行政機関等の相互連携の下で、広域的な地域支援のための有機的なネットワークを形成することが有効であることなどが示された。

 文部科学省では、特別な支援が必要な子供が、就学前から卒業後にわたる切れ目ない支援を受けられる体制の整備に必要な経費(①連携体制の整備、②個別の教育支援計画等の活用、③連携支援コーディネーターの配置、④普及啓発などに係る経費)の一部を補助する事業を実施するなどして、教育委員会や学校等における取組を推進している。54


■図表4-2 教育支援体制整備事業費補助金(切れ目ない支援体制整備充実事業)

切れ目ない支援体制整備充実事業

2021年度予算額 24億円 (2020年度予算額19億円) 文部科学省

Ⅰ 特別な支援を必要とする子供への就学前から学齢期、社会参加までの切れ目ない支援体制整備

特別な支援が必要な子供が就学前から社会参加まで切れ目なく支援を受けられる体制の整備を行う
自治体等のスタートアップ※1を支援

1.連携体制を整備 
教育委員会・学校と福祉部局や関係機関の連携体制を整備
⇒組織検討委員会(仮称)を設置したり、先進地を視察するなど
2.個別の教育支援計画等の活用 
就学・進級・進学・就労に、個別の教育支援計画等が有効に活用される仕組づくり
⇒個別の教育支援計画等を引き継がれるネットワークシステムの構築
3.連携支援コーディネーターの配置 
教育委員会・学校と福祉部局や関係機関の連携を促進
⇒早期支援、発達障害支援、学校・病院連携、合理的配慮、就労支援
4.普及啓発 市民や他の自治体への普及啓発
※1交付初年度から3年を限りとする。

【参考】共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)
平成24年7月23日中央教育審議会初等中等教育分科会

〇インクルーシブ教育システムを構築する上では、医療、保健、福祉、労働等の関係機関等との適切な連携が重要である。このためには、関係行政機関等の相互連携の下で、広域的な地域支援のための有機的なネットワークが形成されることが有効であり、既に各都道府県レベルでは、県全域を見通した「広域 特別支援連携協議会」が設けられるとともに、「障害保健福祉圏域」や教育事務所単位での支援地域の設定などが行われている。それら支援地域内の有機的なネットワークを十分機能させるためには、保護者支援を行うこと、連絡協議会を設置すること、個別の教育支援計画を相互に連携して作成・活用することが重要である。

〇インクルーシブ教育システムの構築に当たり、障書のある子どもの地域における生活を支援する観点から、地域における社会福祉施策や障害者雇用施策と特別支援教育との一層の連携強化に取り組む必要がある。また、卒業後の就労・自立・社会参加も含めた共生社会の構築を考える必要がある。

Ⅱ 医療的ケアのための看護師、外部専門家の配置
学校における医療的ケアの環境整備の充実を図るため、自治体等による看護師配置※2を支援
2,100人⇒2,400人【拡充】

【参考】学校における医療的ケアの今後の対応について(初等中等教育局長通知)
 学校で医療的ケアを行う場合には、教育委員会において、看護師等を十分確保し、継統して安定的に勤務できる体制を整備するとともに、各学校に医療的ケア児の状態に応じた看護師等の適切な配置を行うこと。
※2校外学習や登下校時の送迎車両に同乗する看護師の配置を含む。

個別の指導計画の作成や実際の指導に当たって、障害の状態等に応じて必要となる、
専門の医師や理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの専門家配置を支援 348人

【参考】特別支援学校幼稚部教育要領、小学部・中学部・高等部学習指導要領
第7章 自立活動 第3 個別の指導計画の作成と内容の取扱い
 児童又は生徒の障害の状態等により、必要に応じて、専門の医師及びその他の専門家の指導・助言を求めるなどして、適切な指導ができるようにするものとする。

対象校種 幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校
実施主体 都道府県、市区町村、特別支援学校等を設置する学校法人
補助対象経費 人件費、会議費など
補助割合 国 1/3 都道府県・市区町村・学校法人 2/3

資料:文部科学省


イ 教育と福祉等の連携

 発達障害を始め障害のある子供への支援における教育と福祉の連携については、学校と障害福祉サービス事業者との相互理解の促進や、保護者も含めた情報共有の必要性が指摘されている。文部科学省と厚生労働省では、両省連携による、家庭と教育と福祉の連携「トライアングル」プロジェクトを2017年12月に発足させ、翌年3月に、教育と福祉の連携を推進するための方策及び保護者支援を推進するための方策について報告書を取りまとめた。両省は同年5月に報告書の趣旨を広く周知するため、自治体向けに通知を発出し、各自治体における、教育委員会と福祉部局の連携の促進や、地域における支援の情報や相談窓口について記載されたハンドブックを作成するなどの保護者支援の取組の充実を促した。

 文部科学省では、同年8月に、「学校教育法施行規則」(昭和22年文部省令第11号)の改正を行い、「個別の教育支援計画」の作成に当たっては、児童生徒等又はその保護者の意向を踏まえつつ、医療、福祉、保健、労働等の関係機関等と当該児童生徒等の支援に関する必要な情報の共有を図らなければならないこととした。また、2019年度に引き続き、2020年度も学校と放課後等デイサービス事業所などの障害児通所支援事業所の連携促進に資するため、連携に際してのマニュアルを作成するモデル事業に取り組んだ。

ウ 発達障害のある子供に対する支援

 「学校教育法の一部を改正する法律」(平成18年法律第80号)により、幼稚園、小・中学校及び高等学校等のいずれの学校においても、発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する特別支援教育を推進することが法律上明確に規定された。

 2016年6月には「発達障害者支援法の一部を改正する法律」(平成28年法律第64号)が公布され(同年8月施行)、発達障害児がその年齢・能力に応じ、かつその特性を踏まえた十分な教育を受けられるよう、55可能な限り発達障害児が発達障害児でない児童と共に教育を受けられるよう配慮することや、支援体制の整備として個別の教育支援計画・個別の指導計画の作成推進、いじめの防止等のための対策の推進等が規定された。文部科学省では、小・中学校、高等学校等における発達障害の可能性のある児童生徒等に対する支援の充実につなげるため、学習上のつまずきなどに対する教科指導の方向性の在り方、通級による指導の担当教師等に対する研修体制の在り方や必要な指導方法、学校における児童生徒の多様な特性に応じた合理的配慮の在り方に関する研究を引き続き実施したほか、2020年度より、発達障害の可能性のある児童生徒等に対する指導経験の浅い教師の専門性向上を図るため、研修等の機会の充実や指導・助言などのサポート体制の整備など、関係機関とも連携した支援体制の構築に取り組む事業を開始した。

 また、文部科学省と厚生労働省の両省共催で例年2月に開催している「発達障害支援の地域連携に係る全国合同会議」について、2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、発達障害支援の地域連携に係る取組等を紹介する動画を作成し、両省のホームページより配信した。

エ 医療的ケアが必要な子供に対する支援

 2019年11月に文部科学省が実施した調査結果によると、公立の特別支援学校や小・中学校に在籍する医療的ケアが必要な幼児児童生徒の数は増加傾向にある。このような状況を踏まえ、文部科学省では、学校への医療的ケアのための看護師配置に係る予算を拡充するなどして、教育委員会や学校等における取組を支援している。


■図表4-3 特別支援学校や幼稚園、小・中・高等学校に在籍する医療的ケア児等の推移

出典:令和元年度学校における医療的ケアに関する実態調査(文部科学省)56

出典:令和元年度学校における医療的ケアに関する実態調査(文部科学省)

 また、近年、医療技術の進歩等を背景として、気管切開をしたり、人工呼吸器を使用する子供が増加傾向にあり、学校においてはこれらの幼児児童生徒の受入れ体制の構築が喫緊の課題となっている。このことから、文部科学省では、酸素療法や人工呼吸器の管理などの医療的ケアに学校が対応する際の体制の在り方等に関する調査研究を実施した。

 さらに、医療機関ではない学校においては、教職員と看護師の「共働」もしくは「協働」によって医療的ケアが行われることが望ましいことから、教職員のみならず、看護師に対する研修も重要である。文部科学省では、教育委員会等による看護師に対する研修をより充実させるため、医療的ケアのための看護師に対する研修に関する調査研究を実施している。

 加えて、厚生労働省が、2020年4月の診療報酬改定において、医療的ケア児が通う学校の学校医又は医療的ケアに知見のある医師に対して、医療的ケア児が学校生活を送るに当たって必要な情報を主治医が提供した場合の評価を新設するとともに、医療的ケア児が普段利用している訪問看護ステーションから学校が必要な情報提供を受けられる機会を拡充したことを受けて、文部科学省では、主治医から学校医等への診療情報提供に基づく医療的ケアの流れやその際の留意事項等を整理し、教育委員会等に通知した。その際、医療的ケア児の教育機会や医療安全を確保する観点から、例えば、各学校が、関係者で構成する「学校医療ケアチーム」を編成するなどし、一丸となって医療的ケアに対応できる体制の構築を求めた。57


■図表4-4 学校医療ケアチームのイメージ図

文部科学省【令和2年度関連予算】
(1)切れ目ない支援体制整備充実事業
医療的ケアのための看護師配置に係る経費を一部補助(19億円の内数)
※看護師配置に必要な経費を地方財政措置(38億円の内数)
(2)学校における医療的ケアに関する研修機会の提供(29百万円の内数)
標準的な研修プログラムの開発、教育委員会による研修会の企画研修
(3)学校における医療的ケア実施体制構築(29百万円の内数)
地域において医療的ケア児に関わる看看連携モデルの創出

出典:医療的ケア児に関わる主治医と学校医等との連携等について(令和2年3月16日元文科初第1708号文部科学省初等中等教育局長通知)

オ 私学助成

 私立の小学校から大学(特別支援学校を含む。)における障害のある児童・生徒・学生等の就学への配慮や、特別支援学校、特別支援学級を置く小・中学校及び障害のある幼児が就園している幼稚園等の果たす役割の重要性から、これらの学校の教育環境の維持向上及び保護者の経済的負担の軽減を図るため、「私立学校振興助成法」(昭和50年法律第61号)に基づき、国は経常的経費の一部の補助等を行っている。

カ 家庭への支援等

 教育の機会均等の趣旨及び特別支援学校等への就学の特殊事情に鑑み、保護者の経済的負担を軽減し、その就学を奨励するため、就学のために必要な諸経費のうち、教科用図書購入費、交通費、寄宿舎居住に伴う経費、修学旅行費等について、保護者の経済的負担能力に応じて、その全部又は一部を助成する特別支援教育就学奨励費が保護者に支給されている。2020年度からは、新たにオンライン学習に必要な通信費についても補助対象とした。58


第4章第1節 1.特別支援教育の充実/文部科学省

TOPICS

GIGAスクール構想における障害のある児童生徒のための入出力支援装置の整備

 新型コロナウイルス感染症を契機に、感染拡大のような事態が生じても学びの継続を確保できる教育のICT 化等を一層推進し、Society5.0(※)時代を生きる子供たちに相応しい教育環境を整備することが急務となっている。

 これまで文部科学省では、Society5.0時代を生きる子供たちに相応しい、全ての子供たちの可能性を引き出す個別最適な学びと協働的な学びを目指す「GIGAスクール構想」を実現するため、「1人1台端末」と「学校における高速通信ネットワーク」を整備するとともに、学校の臨時休業等の緊急時においてもICTの活用により全ての子供たちの学びを保障できる環境を早急に実現するため、緊急時における家庭でのオンライン学習環境の整備などの取組を進めてきた。

 特に、障害のある児童生徒において、情報機器端末を活用するために、より個別性の高い特別な入出力支援装置が必要な場合があることから、障害のある児童生徒が1人1台端末を効果的に活用できるよう、一人一人に応じた入出力支援装置の整備をあわせて支援している。

 令和2年度1次及び3次補正予算においては約15億円計上し、視覚情報を点字化する点字ディスプレイや、音声を文字化する音声文字変換システム、視線の動きによりパソコン上の文字等の入力を可能にする視線入力装置などの整備を支援している。

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)のことをいう。

障害のある児童生徒のための入出力支援装置の整備

令和2年度1次補正予算額11億円 令和2年度3次補正予算額4億円 文部科学省

背景

障害のある児童生徒においては、情報機器端末を活用するために、児童生徒の利便性向上の観点から、より個別性の高い特別な入出力支援装置が必要な場合がある。障害のある児童生徒が1人1台端末を効果的に活用できるよう、一人一人に応じた入出力支援装置の整備をあわせて支援する。

➣視覚情報を点字化<点字ディスプレイ>
パソコン上の文字を点字で出力する装置。授業において、あらかじめ点字化された教材だけなく、パソコン上の情報も教材として活用することができる。

➣音声を文字化<音声文字変換システム>
音声を文字化し、手元のパソコン等に表示するシステム。授業中の教師の説明を文字として受けとることにより、理解が容易になる。

➣表現方法の広がり<視線入力装置>
視線の動きにより、パソコン上の文字等の入力を可能にする装置。パソコンを通じて、絵等の様々な表現も可能となる。

(支援装置の例)

・音声読み上げソフト、・点字ディスプレイ、・音声文字変換システム、・視線入力装置、
・視線入力装置ソフト、・ボタンマウス、・ブレススイッチ 等

59


第4章第1節 1.特別支援教育の充実/文部科学省

TOPICS

新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議報告について

 文部科学省では、2019年9月に「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」を開催し、2021年1月に会議の報告を公表した。

 報告は、5つの柱立てにより構成されており、「Ⅰ.特別支援教育を巡る現状と基本的な考え方」において、インクルーシブ教育システムの理念の実現のために、引き続き、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に教育を受けられる学びの場の整備と連続性のある多様な学びの場の一層の充実・整備を進めていく方向性を示した。これを踏まえ、「Ⅱ.障害のある子供の学びの場の整備・連携強化」では、就学前における早期からの相談・支援の充実や、小・中・高等学校、特別支援学校における障害のある子供の学びの充実等について、「Ⅲ.特別支援教育を担う教師の専門性の向上」では、全ての教師、特別支援学級・通級による指導の担当教師、特別支援学校の担当教師のそれぞれの専門性の向上について、今後の取組が示されている。続く「Ⅳ.ICT利活用等による特別支援教育の質の向上」では、ICT利活用による指導の充実と教師の情報活用能力の向上、ICT環境の整備と校務のICT化について、「Ⅴ.関係機関の連携強化による切れ目ない支援の充実」では、就学前から、在学中、卒業後の関係機関・関係者の連携について、今後の取組が示されている。

 文部科学省では、本報告を踏まえ、障害の有無に関わらず誰もがその能力を発揮し、共生社会の一員として共に認め合い、支え合い、誇りを持って生きられる社会の構築を目指していく。

文部科学省HP「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議報告」

URL:https://www.mext.go.jp/content/20210208-mxt_tokubetu02-000012615_2.pdf

新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 報告 令和3年1月
Ⅰ.特別支援教育を巡る状況と基本的な考え方
・障害者権利条約批准に基づく障害者基本法、障害者差別解消法等の関連法の整傭も進み、
インクルーシブ教育システムの構築に向けた特別支援教育の取組が進展。
・特別な支援を受ける子供の数が増加する中で、特別支援教育をさらに進展させていくため、
障害のある子供と障害のない子供が可能な限り共に教育を受けられる条件整備
障害のある子供の自立と社会参加を見据え、一人一人の教育的ニーズに
最も的確に応える指導を提供できるよう、通常の学級、通級による指導、
特別支援学級、特別支援学校といった、連続牲のある多様な学びの場の一層の充実•整備
を着実に進める。これらを更に推進するため、それぞれの学びの場における
各教科等の学習の充実を図るとともに、
・障害のある子供と障害のない子供が、年間を通じて計画的・継続的に共に学ぶ活動の更なる拡充
・障害のある子供の教育的ニーズの変化に応じ、学びの場を変えられるよう、
多様な学びの場の間で教育課程が円滑に接続することによる学びの連続性の実現
・これにより、障害の有無に関わらず誰もがその能力を発揮し、
共生社会の一員として共に認め合い、支え合い、誇りを持って生きられる社会の構築を目指す。
Ⅱ.障害のある子供の学ぴの場の整備•連携強化
1.就学前における早期からの相談・支援の充実
・乳幼児健診や5歳児健診の活用など早期からの相談・支援
・就学相談における保護者への情報提供の充実
・就学相談や学びの場の検討等を支援する教育支援資料の内容を充実
2.小中学校における障害のある子供の学びの充実
・特別支援学級と通常の学級の子供が共に学ぶ活動の充実
・自校で専門性の高い通級による指導を受けるための環境整備
・通級による指導等の多様で柔軟な学びの場の在り方の更なる検討
3.特別支援学校における教育環境の整備
・学習指導要領の着実な実施のための文部科学省著作教科書(知的障害者用)の作成
・ICTを活用した在宅就労など新たな職域に係る人材育成の強化
・副次的な籍やICTを活用した児童生徒の居住する地域の学校との交流促進
・集中的な施設設備、特別支援学校に備えるべき施設等を定める設置基準の策定
・特別支援学校のセンター的機能(他の学校への支援)の強化
4.高等学校における学びの場の充実
・通級による指導の充実等に向けた指導体制の確立
・個別の教育支援計画等を活用した義務教育段階との丁寧な引継ぎによる、合理的配慮の提供など
特別支援教育の充実
・特別支援学校や就労関係機関と連携した発達障害等のある生徒の就労支援等の充実
Ⅲ.特別支援教育を担う教師の専門性の向上
1.全ての教師
・全ての教師が発達障害等の特性等を踏まえた学級経営•授業づくりを研鑽、校内人材を活用した
OJTによる支援体制の充実
・特別支援教育に係る資質を教員育成指標に位置付け
・小・中・高等学校と特別支援学校間の人事交流の推奨
2.特別支援学級、通級による指導の担当教師
・ OJTやオンラインなど参加しやすい研修の充実
・小学校等教職課程において、特別支援学校教職課程の一部単位の修得を推奨
・特別支援学校教諭免許状取得に向けた免許法認定講習等を活用した担当教師の専門性向上
3.特別支援学校の教師
・重複障害や発達障害等への対応を含む特別支援学校教職課程の見直し、コアカリキュラムの策定
・特別支援学校教諭免許状取得に向けた優良事例の収集・周知、
免許法認定通信教育の実施主体の拡大の検討
Ⅳ.ICT利活用等による特別支援教有の質の向上
1.ICT利活用の意義と基本的な考え方
・指導内容の充実、障害者の社会参画促進、QOLの増進、教師の負担軽減
・校務改善等の幅広い観点を踏まえて着実に対応
2.指導の充実と教師の情報活用能力
・オンラインを活用した自立活動の実践的研究・文部科学省著作教科書のデジタル化等の推進
・教師のICT活用スキルの向上
3.ICT環境の整備と校務のICT化
・学校におけるICTの利活用体制の整備
・特別支援教育の校務のICT化(項目の標準化に向けた参考となる資料の提示)
4.関係機関の連携と情報の共有
・セキュリティ等に配慮しICTを活用した情報連携
Ⅴ.関係機関の連携強化による切れ目ない支援の充実
1.就学前からの連携
・地域で切れ目ない支援を受けられる連携体制の整備
2.在学中の連携
・就労関係機関と連携した早期からのキャリア教育の実施、小中学校等と関係機関との連携促進
3.卒業後の連携
・教育、福祉、労働等の個別支援計画を活用した一体的な情報共有
4.医療的ケアが必要な子供への対応
・医療的ケアを担う看護師の配置拡充と法令上の位置付けの検討
・中学校区に医療的ケア実施拠点校を設置
5.障害のある外国人児童生徒への対応
・「外国人児童生徒等の教育の充実について(令和2年3月)」を踏まえた取組の推進

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