第5章 国際的な取組

我が国の国際的地位にふさわしい国際協力に関する施策

1.障害者に関する国際的な取組

(1)障害者権利条約

障害者の権利及び尊厳を保護し及び促進すること等を目的とする「障害者の権利に関する条約」、いわゆる「障害者権利条約」は、2006年12月、第61回国連総会本会議において採択され、2008年5月に発効した。2019年3月31日現在、締約国・地域・機関数は177となっている。障害者権利条約は、障害者の人権や基本的自由を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進するため、障害者の権利の実現のための措置等を規定し、市民的・政治的権利、教育・保健・労働・雇用の権利、社会保障、余暇活動へのアクセスなど、様々な分野における取組を締約国に対して求めている。

我が国は、本条約の起草段階から積極的に参加するとともに、2007年9月28日、同条約に署名した。その後、障害者基本法の改正(2011年8月)等の各種法制度整備を行い、2014年1月20日、障害者権利条約の批准書を国連に寄託、同年2月19日に我が国について発効した。

障害者権利条約では、各締約国が、「条約に基づく義務を履行するためにとった措置及びこれらの措置によりもたらされた進歩に関する包括的な報告」を国連の「障害者の権利に関する委員会(障害者権利委員会)」に提出することを定めており(条約第35条)、特に初回の報告については、条約発効後2年以内の提出が求められている。

我が国においても、障害者政策委員会における議論やパブリックコメントを踏まえて政府報告作成準備を進め、2016年6月に障害者権利委員会に初回の政府報告を提出した。今後は、障害者権利委員会による我が国政府報告の審査が行われ、同委員会の提案及び勧告を含めた総括所見が採択され、国連文書として公表される予定である (詳細については外務省ホームページ(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html)を参照。)。

なお、障害者権利委員会は、条約の締約国から選ばれた18人の専門家から構成され、締約国による報告を検討し、報告について提案や勧告を行う等の活動を行う委員会である。2016年の第9回障害者権利条約締約国会合において、国連障害者権利委員会の委員選挙が行われ、石川准氏(内閣府障害者政策委員会委員長、静岡県立大学教授)が、我が国の候補として初めて当選し、2017年より委員として活動している。

(2)ESCAPアジア太平洋障害者の十年

アジア太平洋地域において障害のある人への認識を高め、域内障害者施策の水準向上を目指すために、「国連障害者の十年」に続くものとして、1992年に我が国と中国が「アジア太平洋障害者の十年」を主唱し、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)総会において決議された。

その最終年となる2002年にESCAP総会において、我が国の主唱により「ESCAPアジア太平洋障害者の十年」が更に10年延長されるとともに、同年10月に滋賀県大津市で開催された「ESCAPアジア太平洋障害者の十年最終年ハイレベル政府間会合」において、「ESCAP第2次アジア太平洋障害者の十年(2003-2012年)」の行動計画である「アジア太平洋障害者のための、203インクルーシブで、バリアフリーな、かつ権利に基づく社会に向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」(以下「びわこミレニアム・フレームワーク」という。)が採択された。

また、「ESCAP第2次アジア太平洋障害者の十年」の中間年に当たる2007年9月にタイのバンコクで開催された「アジア太平洋障害者の十年の中間評価に関するハイレベル政府間会合」では、「びわこミレニアム・フレームワーク」を補完し、2008年から5年間の実施を促進するための行動指針となる「びわこプラスファイブ」が採択された。

2012年5月にESCAP総会において、我が国の共同提案により「ESCAP第3次アジア太平洋障害者の十年(2013-2022年)」決議が採択され、同年11月には「第2次アジア太平洋障害者の十年最終レビュー・ハイレベル政府間会合」において、「ESCAP第3次アジア太平洋障害者の十年」の行動計画である「仁川(インチョン)戦略」が採択された。「仁川戦略」では、「貧困の削減と労働及び雇用見通しの改善」、「政治プロセス及び政策決定への参加促進」等障害者施策に関する10の目標、与えられた期間内に達成すべき27のターゲット及びその進捗状況を確認するための62の指標が設定されている。

(3)情報の提供・収集

内閣府では、我が国の障害者施策に関する情報提供のために、基本的枠組みである「障害者基本計画」や「障害者白書の概要」等の英語版を作成し、内閣府ホームページ(英語版サイトなど)にこれらを掲載している。

また、「平成30年度障害者差別の解消の推進に関する国内外の取組状況の実態調査」の実施等を通じて、諸外国における合理的配慮の提供及び環境の整備に関する指針や取組モデルの状況、障害者差別の解消の推進に関する地方公共団体の取組の状況など、国内外の障害者施策の動向について情報収集を行った。

2.国際協力等の推進

(1)国際協力の基本的な方針

障害者施策は、福祉、保健・医療、教育、雇用等の広範な分野にわたっているが、我が国がこれらの分野で蓄積してきた技術・経験などを政府開発援助(ODA)などを通じて開発途上国の障害者施策に役立てることは、極めて有効であり、かつ、重要である。協力を行うに当たり、対象国の実態や要請内容を十分把握し、その国の文化を尊重しながら要請に柔軟に対応することが大切である。このため、我が国は、密接な政策対話を通じ、対象国と我が国の双方が納得いく協力を行うよう努めている。また、草の根・人間の安全保障無償資金協力、日本NGO連携無償資金協力等の活用を通じたNGOとの連携、青年海外協力隊の派遣など開発途上国の草の根レベルに直接届く協力も行っており、現地の様々なニーズにきめ細かく対応している。

(2)有償資金協力

有償資金協力では、鉄道建設、空港建設等においてバリアフリー化を図った設計を行う等、障害のある人の利用に配慮した協力を行っている。

(3)無償資金協力

無償資金協力においても、障害のある人の利用に配慮した協力を行うとともに、障害のある人のためのリハビリテーション施設や職業訓練施設の整備、移動用ミニバスの供与等、毎年度多くの協力を行っている。2018年度においては、草の根・人間の安全保障無償資金協力により39件の障害者関連援助を、204NGO・教育機関・地方公共団体等に対し実施した。また、2018年度には日本NGO連携無償資金協力により、8件の障害者支援関連事業を採択した。

(4)技術協力

技術協力の分野では、開発途上国の障害者の社会参加と権利の実現に向けて、独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて、障害者を対象とした取組に加え、開発プロセスのあらゆる分野において障害者の参加を支援するために、研修員の受入れや専門家及びJICA海外協力隊の派遣など幅広い協力を行っている。2018年度には「地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加と生計」をはじめ14の研修コースを本邦において実施し、研修員137人を受け入れたほか、専門家15人、言語聴覚士・理学療法士・作業療法士等のJICA海外協力隊92人の派遣などを行った。また、NGOや大学等を始めとする市民団体の発意に基づく事業を実施するJICA草の根技術協力事業を活用し、2018年度には18件の障害と開発関連事業を採択した。また、これら技術協力に日本及び開発途上国双方の障害者が参加し、中心的な役割を担うことを推進している。

技術協力プロジェクトでは、現在8つのプロジェクトを実施中である。2016年5月に、南アフリカにおいて「障害者のエンパワメントと障害主流化促進プロジェクト」が開始され、地域レベルでの障害についての理解の促進と障害者のエンパワメントを進めている。

2016年5月には、モンゴルにおいて「ウランバートル市における障害者の社会参加促進プロジェクト」が開始され、ウランバートル市内のアクセスの改善と障害者団体の能力強化、行政官を育成する等、開発の過程に障害者が参加できるように協力を行っている。また、2015年8月から「障害児のための教育改善プロジェクト」が実施されており、障害児に対する診断・発達支援・教育モデルを構築するための活動を行っている。

2017年1月には、ヨルダンにおいて「障害者の経済的エンパワメント及び社会参加促進プロジェクト」を開始しており、ジョブコーチ制度の確立と障害についての理解の促進を進め、障害者の就労促進に寄与している。2015年3月から実施しているコロンビアの「障害のある紛争被害者のソーシャルインクルージョンプロジェクト」においては、「障害のある紛争被害者のソーシャルインクルージョン戦略」を策定し、今後パイロットサイトで検証を行う予定である。2018年5月からは、シナノケンシ株式会社がエジプトにおいて、「読書障害者用DAISY図書製作ソフトウエア普及促進事業」(旧:民間技術普及促進事業)を実施しており、印刷物の読みに困難のある人々が利用しやすい、アラビア語対応のDAISY(Digital Accessible Information System=アクセシブルな情報システム)図書製作ソフトウェアの開発を行っている。2019年3月には、エジプトにおいて「情報アクセシビリティ改善による障害者の社会参画促進プロジェクト」を開始し、印刷物の読みに困難のある人々が利用しやすいDAISY図書をアラビア語で製作するための人材の育成と、読みの困難やDAISYに関する啓発を行うことにより、教育、防災、観光などの分野での情報提供が普及し、障害者の社会参加が促進されることを目指している。

(5)国際機関等を通じた協力

援助対象国に対する直接的援助のほか、我が国では国連等国際機関を通じた協力も行っている。1988年度から国連障害者基金に対して継続的な拠出を行っており、2015年度には7,300ドルを拠出した。さらに、アジア太平洋地域への協力としては、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)に対し、日本エスカップ協力基金(JECF)を通じた活動支援を実施しており、2017年には、障害者インクルーシブな津波防災のためのe-ラーニングツールの開発について5万ドルの支援を行った。

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図表5-1 技術協力の状況(2018年度)
(1) 本邦研修
2018年度実施研修員受入れコース 137
スポーツを通じた障害者の社会参加の促進 8
インクルーシブ教育実践強化 15
アフリカ地域障害者のエンパワメントを通じた自立生活促進 7
地域活動としての知的・発達障害者支援 14
障害者権利条約の実践のための障害者リーダー能力強化 8
地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加と生計(A) 7
地域に根ざしたインクルーシブアプローチによる障害者の社会参加と生計(B) 11
共生社会実現のためのアクセシビリティの改善―バリアフリー化の推進― 10
障がいのある子どもへの教育制度~特別支援教育を活かしたインクルーシブ教育システムの構築~ 11
地域社会に根差したリハビリテーション(CBR)及び地域社会に根差したインクルーシブな開発(CBID)の導入研修 5
国別研修モンゴル障害のある子どもの発達支援・インクルーシブな環境での学び 10
国別研修モンゴル障害者リーダーシップ育成 10
国別研修南アフリカ障害者のエンパワメントとインクルーシブ社会構築 10
青年研修パキスタン 障がい者支援制度コース 11
注:課題別研修/国別研修/青年研修の受入人数
資料:外務省
(2) ボランティア
2018年度青年海外協力隊 77
内訳 障害児・者支援 40
理学療法士 19
作業療法士 13
ソーシャルワーカー 3
言語聴覚士 2
シニア海外ボランティア 12
内訳 障害児・者支援 8
理学療法士 1
作業療法士 2
言語聴覚士 1
日系社会青年ボランティア 2
内訳 理学療法士 1
作業療法士 1
日系社会シニア・ボランティア 1
内訳 作業療法士 1
注:障害児・者支援、理学療法士、作業療法士、鍼灸マッサージ師、ソーシャルワーカー、福祉用具、言語聴覚士の7職種を障害者支援関連職種とし、新規派遣人数を計上。短期ボランティアを含む。
資料:外務省
(3)技術協力プロジェクト事業
技術協力プロジェクト 専門家派遣(人) 研修員受入(人) 機材供与(百万円)
事業名
コロンビア
障害のある紛争被害者のソーシャルインクルージョンプロジェクト
4 0 0
モンゴル
障害児のための教育改善プロジェクト
0 10 0
モンゴル
ウランバートル市における障害者の社会参加促進プロジェクト
5 10 0
南アフリカ
障害者のエンパワメントと障害主流化促進プロジェクト
2 10 0
ヨルダン
障害者の経済的エンパワメント及び社会参加促進プロジェクト
3 0 0
パラグアイ(個別長期専門家)
障害者の社会参加促進アドバイザー
1 0 0
エジプト
情報アクセシビリティ改善による障害者の社会参画促進プロジェクト
0 0 0
スリランカ
インクルーシブ教育アプローチを通じた特別なニーズのある子どもの教育強化プロジェクト
2 0 0
注:前年度からの継続による専門家派遣・研修員受入人数を含む。専門家派遣については第三国人材の派遣及びコンサルタント契約による専門家人数を除く。また、研修員受け入れについては協力相手国内もしくは第三国で実施された研修コース分を除く。
資料:外務省
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(4)草の根技術協力事業(2018年度障害者支援関連事業)
対象国 案件名
フィリピン 障がい児(者)のエンパワーメント獲得のための支援技術者育成プログラム
ネパール 障害当事者による震災被災障害者のエンパワメントと主流化
モンゴル モンゴル障害児療育支援事業
イラン イランのバリアフリー支援事業
インドネシア 車いす整備・修理技術の移転 in Bali
インドネシア インドネシア中部ジャワ州の幼児教育におけるインクルーシブ教育実践モデル形成事業
ベトナム 心理リハビリテーションを通した発達障害児等支援指導者育成事業
ベトナム ベトナムの喉摘失声者に対する食道発声教室開設と発声訓練体制の確立
ベトナム ホーチミンの枯葉剤被害障害者のための職業訓練モデル開発プロジェクト
スリランカ スリランカにおける視覚障がい者の就業支援
セルビア セルビアベオグラード市コミュニティレベルにおける知的障害者の自立を支援する事業
ラオス ラオス障害者スポーツ普及促進プロジェクト
ミャンマー 障がい者の就労支援体制強化事業
南アフリカ共和国 アクセシブルなまちづくりを通した障害者自立生活センターの能力構築
南アフリカ共和国 障害者自立生活センターの拡大と持続的発展
カンボジア カンボジア地雷埋設地域の脆弱な障害者家族への生計向上支援事業
コスタリカ 障害者の社会支援システム構築プロジェクト
タイ タイにおける知的障がい児支援人材育成プロジェクト
資料:外務省
図表5-2 日本NGO連携無償資金協力(2018年度障害者支援関連事業)
(単位:円)
実施国/地域 契約額 事業名
ミャンマー 34,661,238 カレン州チャインセチ地区およびラインブエ地区における地域に根差したリハビリテーション推進事業(第2年次)
タジキスタン 49,788,480 ヒッサール市における障がい児のためのインクルーシブ教育(IE)促進事業(第2期)
ラオス 32,725,840 ラオスにおける女性を主とする障がい者の小規模起業支援事業(第1年次)
ラオス 24,405,696 ラオスにおける知的障害者社会自立のための生活・就労支援プログラム(第3年次)
ラオス 30,739,408 フアパン県障害者就労支援センター支援事業(第1年次)
アフガニスタン 76,441,261 カブール県およびパルワーン県における包括的地雷対策事業(第2期)
ベトナム 12,527,312 ビントゥアン省、アンザン省の小学校のインクルーシブ教育研修システムの構築事業(第3年次)
モンゴル 57,703,072 誰一人取り残さないインクルーシブ教育推進事業(第2年次)
資料:外務省
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第5章 2.国際協力等の推進
/外務省
TOPICS
障害のある紛争被害者のソーシャルインクルージョンプロジェクト

コロンビアでは半世紀以上に亘り続いた国内武力紛争の結果、800万人を超える紛争被害者が生み出され、紛争が原因で障害者となった多くの人々が存在している。紛争被害と障害という二重の困難に直面する人々の社会復帰を目指し、JICAは2015年3月から5年間に渡る「障害のある紛争被害者のソーシャルインクルージョンプロジェクト」を開始した。

具体的には、労働、保健、教育、心のケアなど公的サービスへのアクセシビリティ向上、非障害者の障害理解の促進、障害のある紛争被害者/障害者の能力強化の分野で協力を行っている。心のケアについては、JICAが過去に育成したコスタリカ人障害当事者専門家をコロンビアへ招聘し、同じ言語(スペイン語)の人材が「ピア・カウンセリング」の技術を導入した後、内容を修正・検証し、コロンビア向けの障害のある紛争被害者に対するピア・カウンセリングの実施と普及の支援を行っている。

これらの取組は、特に被害者が多い2県(アンティオキア県、サンタンデール県)で実施されており、プロジェクト終了後、現地の各関係省庁が継続して各地で適用できるよう、実施要領の作成も支援している。

コーヒー豆の収穫を行う精神障害者
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カカオ豆の木の栽培を学ぶ身体障害者
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ピア・カウンセリングによる心のケア(集中講座の様子①)
ピア・カウンセリングによる心のケア(集中講座の様子 ①)
ピア・カウンセリングによる心のケア(集中講座の様子②)
ピア・カウンセリングによる心のケア(集中講座の様子 ②)
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